第2話 異世界へ①
俺は何もない真っ白な世界に立っていた。
先程まで居酒屋で飲んでいたはず。
そして酔っぱらいのおっさん達に絡まれていたOLさん達を助けたのは覚えている。
それから店を出て、路地裏を歩いていたらさっきのおっさん達が何か文句を言ってきたので、言い争いになって殴られて……あれ? そこからの記憶がない。
この後どうなったのだ?
まったく思い出せないでいた。
「死んだのじゃよ」
振り返ると白い顎髭を生やした爺さんが立っていた。
よぼよぼの白い着物を着て手には変な形の杖を持っている。
「ん? なんか見覚えある顔だが……」
クルッと回って辺りを見渡すと、この風景にも見覚えがあった。
ああ、そうだ。思い出した。自称、神様の部屋だ。
ここの空間で会うのは五度目になるのか?
今までの過去の出来事が、フラッシュバックのように思い出す。
そして全てを思い出した。俺は勇者だったこと。魔王を倒し世界を救ったこと。そしてその後、この世界に送還され、異世界の記憶も何もかも封印されて生き返ったことも。
「ああ、また、あんたか」
「ん? 初対面のはずだが……」
神様が俺の顔を見て不思議そうに首を捻る。
歳のせいでぼけたのか。
俺は嫌っていうほど思い出したのに。
「あんたにこの空間に連れて来られたのはこれで5度目だ。行く時と魔王を倒して帰ってきた時。前回は俺が大学生の時で、その前は高校生の時だったな。二回とも魔王を倒してくれ、という話だったが」
「ふーむ……」
唸りだし首を傾げる。
本当に忘れているのか?
二回も世界を救ってやったのに。これだから神という奴は。
「おお!」
そう言うと「ポンッ」と一つ手を叩いてニカッと嬉しそうに笑った。
やっと思い出したようだ。
「思い出したぞ。その顔は橘秀一郎じゃな。久しぶりだのう。ん? 少し老けたか?」
「当たり前だろ。前回は俺が大学生の時だ。今の俺は31歳。サラリーマンだ。あれから10年近くは経っているんだ。歳を取るのは当然だろ」
気が付けば俺もアラサーと呼ばれる年齢になった。
最初に異世界に呼ばれたのは16歳の時。そして初めて魔王を倒した時は今ぐらいの年齢だったはず。かなりの時間が掛かったことを思い出した。
そして、この世界に戻ってきたときは、行ったときの年齢に戻されていた。
あの時は驚いたな。おっさんだった俺が一瞬で16歳のガキに戻ったのだ。神様スゲーと思った瞬間でもあった。
「それで今度は何だ? また魔王を倒して世界を救ってくれ、という話か?」
2回目の召喚は、前回の経験と魔法がそのまま使えたので、サクッと倒して帰ってきたのだ。だから魔王を倒すなど俺にとっては朝飯前。赤子の手を捻るようなものだ。
「ふむ、確かにそうなんだが、して、どうしてお主がここに? わしは違う人間を召喚したはずだが」
「俺に聞かれても知らないよ。気が付けばここにいたんだから」
「おかしい。一度行った者は呼べないシステムなんじゃが……」
顎髭を撫でながらブツブツ呟いている。
しかし、俺の場合一度では無く三度目なんだが。
どうなっているのか俺の方が知りたいよ。
「まあ、考えても仕方がない。来てしまったんだから異世界に行って貰おう。そして決まり文句を一つ」
そう言って手に持っていた杖を掲げ、キリッと真面目な表情になった。
「さあ、選ばれし勇者よ、魔王を倒すのだ! 無事に倒せれば、お主の願いを一つ叶えよう!」
なんじゃそりゃ!
同じようなセリフを前にも聞いたぞ!
なんだ? それは言わないといけないルールでもあるのか?
そんな簡単に決めて良いのか、神様。
呼ばれた俺としては堪ったものではないぞ。
「拒否する! そう何度も行ってられるか。他の奴にしろ。俺はもう行かない!」
まぁ、行っても良いのだが、向こうの生活が肌に合わなくてな。
飯は不味いし不衛生だし、何ていってもコンビニがないのは困る。異世界では娯楽も少ないのだ。週刊物の漫画が読めないのも困る。それにジャンクフードなどもない。
俺にとってコンビニがないのは死活問題なのだ。
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