第27話 エリューム博士の実験
「ところでシューイチ殿」
「シューイチで結構だ」
「では、シューイチ。ここで例の魔法は使えないだろうか? 実験したい物があるのだが」
エリューム博士が物騒なことを言い出した。
例の魔法というとファイアストームのことだろ?
使えないことは無いが、この施設が壊れても良いなら可能だと伝えた。そしたら準備があるからと言って部屋を出て行った。
壊れても代わりの施設はあるので構わないらしい。とはいっても結構な金をかけて作ってあるんだから壊したら駄目だろ。
でも、博士が良いというんであれば遠慮はしないことにした。責任は博士が取るということなので。
博士が準備をしている間、俺はエミリーの訓練を見ていた。
難しい顔をして首を傾げている。
魔力を動かす事ができず悩んでいるようだ。
「うまくできたか?」
「はぁ、駄目ね。魔力は感じられるんだけど動かないわ。まるで鉛のように微動だにしない。どういうこと? 何かコツでもあるのかしら」
「コツと言っても何もないね。意識して動かすしかない。俺の魔力を感じることができたのだから動かせるはずだ。諦めずに頑張れ」
エールを送ってやると渋い顔を作っていた。
手助けできることは何もないので応援するしかなかった。
そんなことを話している間に博士の準備が整ったようだ。
部屋の中央に人形が置かれ、背中にランドセルを背負っている。そのランドセルにはアンテナが付いており、助手たちがタブレットを使って何かをやっていた。
そういえば個人用の小型シールドを開発をしているとか言っていたな。そのテストなのかも知れない。
「あの実験君5号に向かって魔法を使ってくれないか。壊れないようにシールドを張るから遠慮はいらないですよ」
実験君5号て……。
もう少しまともなネーミングはできないのか。
突っ込みそうになったが、人間が考えることはみな同じようで苦笑いを浮かべて聞き流した。
博士が手を上げるとランドセルが光り、包み込むように膜ができた。
俺が最初に相手した軍のシールドに似ているが、輝き方が少し違う。こっちのは方が大きいというか、強さを感じる。俺の戦闘を見て実験して欲しいと言うぐらいだから、それなりに自信はあるのだろう。
遠慮なしに打つことにした。
「ファイアストーム!」
辺り一面が火の海になり、竜巻が火を巻き上げる。
その竜巻を制御し、実験君5号に向かわせた。
「おお、凄い!、凄いぞ!」
博士が横で興奮している。エミリーはポカンと口を開いて見ていた。
映像で見るのと実際で見るのとでは迫力が違う。それに高熱が辺りを包み、室内の気温が急上昇した。
こんな魔法、密閉された空間で使う物ではない。一気に酸欠状態になり意識が飛んでしまう。
だが、そんなことは分かっていたのか、部屋の空調が唸り、大量の空気が送り出されていた。
「こ、これは凄い実験結果になるぞ!」
1分程竜巻を維持させ、その後は魔法を解除した。
中央の実験君は健在で、シールドが彼を守ったようだ。
実験は成功したと言ってもよい。
「よく耐えたね。壊れるかと思ったが」
「このシールドバックは従来の簡易式シールドよりも30パーセント程、出力を上げてある。星系軍が装備しているレーザー銃も耐えられるように設計したのだ。これが実用化できれば地上戦での戦況は大きく傾くだろう。基地の制圧も可能になる。我々の勝利が一歩近づくと言うことだ」
嬉しそうにして笑っているが、実は本来の威力が出ていない。
この施設は地下の密閉した空間だったので、炎を維持する空気が足りなかったのだ。
空調で送っていたがそれでも足りず、規模が小さくなってしまった。というよりは、やり過ぎて施設が崩壊しても困る。生き埋めになってしまうからね。
でも、その事は言わなかった。喜んでいる博士を見ていると言いづらくて。
「実験はこれで終わりかな。何もなければ帰りたいのだが」
ここに居てもやることはない。エミリーの魔法はまだ発動するまでには至らないのでここでする必要はない。自室や食堂などでも十分なのだ。
「何を言っているんだい。テストはこれからが本番だ。シューイチにはまだまだ手伝って貰うよ」
嬉しそうに言うと、今度は白衣を着た人達が大型のレーザー銃を持ってきた。大きな台車に乗せて押してくる。それを中央に置くと、ケーブルなどを繫いで調整を始めた。
「物騒な物が出てきたな」
銃身は2メートル近くはあり、どう見ても人が持って使うような武器には見えない。
対戦車ライフルみたいに設置して使う武器なのかもしれない。
「今度は何をしようとしているのだ?」
「例の土壁を作ってくれ。アレを一瞬で貫通できるテストをしたいのだ」
「一瞬で貫通?」
それは土を一瞬で蒸発させるということだ。
果たしてそんなことが可能なのか?
魔法対科学。
俄然、興味が涌いてきた。
「わかった。どのぐらいの厚さがよい?」
「なんだ、厚さを自由に変えられるのか?」
「俺の魔力しだいでね」
1メートルの厚さにして土壁を作った。
「では、実験を始める」
そう言って博士は、俺とエミリーに黒いサングラス、レーザーゴーグルを渡した。
レーザーの光りに目がやられないように、という配慮だろう。
室内にいる全員がゴーグルを掛けていた。
「レーザー発射!」
博士の合図と共に銃身が光り、一瞬で土壁に赤い光点を作り出した。
派手な魔法を見た後だから地味に見える。しかし、これがこの世界では普通なのだろう。火薬を使う銃器と違い、音もないし迫力もない。
「……駄目か。土とレーザーは相性が悪いのか? 一点集中せず熱が逃げていくのかもしれない」
博士が独り言のように呟く。
白い煙と異臭がしたが、レーザーは土壁を貫通することはなかった。
結果は失敗。
ただ、基準が土壁だけであって、普通に使うには問題ない気がする。そもそも1メートルもある土壁を貫通させること自体が無理な話だと思うが。
しかし、それでは納得しないようだ。
「あれじゃ駄目なのか? 見るとかなり削っていたように見えるが」
レーザーが開けた穴をみると、かなり奥まで削れていた。
貫通はしなくても、十分な威力があるように思える。
「我々が開発しているのは、戦艦のシールドを破る小型レーザー砲だ。あの程度の壁を貫通できなければ破ることなど到底不可能だろう」
戦艦のシールドは大型のレーザー砲まで弾くことができる。それを破るとなると、どう見ても威力が足りない、というか無茶な気がする。大型レーザー砲以上の威力が必要ということだから。
「いや、無理だろ。いくらなんでも出力が足りないように思える。もっとレーザー砲を大きくしたらどうだ?」
「戦闘機に搭載できるサイズは決まっている。あれ以上の大きさは無理なんだ。だから改造して少しでも出力が上がるように調整したんだけどね。砲身も別な材質に変えないと駄目かもしれない」
あれ以上の出力を出せば砲身が熱で溶けてしまうそうだ。
そうなると熱に強い材質に変えないといけないのだが、高価な上に材料が少ない。
量産には向かないと話していた。
「それなら戦闘機の方を改造した方が早いんじゃないのか? 」
「戦闘機は重くなるとスピードが落ちて小回りが利かなくなる。そうなると単なる的にしかならないんだ。戦闘機から機動性を奪うわけにはいかない」
「となると、今のレーザー砲を改良するほかないのか……」
「色々とやっているが上手くいかなくってね。今のレーザー砲も従来より25パーセントも出力が上げたんだ。しかし、あれを貫通しなければ意味がない。もっと出力を上げないことには」
しかし、これ以上に上げれば砲身がもたない。それで今は量産ができ、安い材料で作れないか研究中だということだ。
「博士たちも大変だな」
「だからこそ研究のやり甲斐があるのさ。簡単にできてしまっては面白くないだろ」
そう言い、博士は楽しそうに話している。
根っからの研究好きなんだろうね。
その後も砲身を変えて、いくつか実験に付き合わされたがあまり良い結果は得られなかったようだ。
博士の顔を見ると、難しい顔をしてタブレットを見つめている。
実験結果がそのタブレットに表示されているようだが、素人の俺が見ても分からないので、後は任せてエミリーと一緒に社員寮へ戻ることにした。
ここでやることはもうない。
しばらくは寮での訓練で十分だ。
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もうちょっとストックがあるので、小まめにアップしたいと思います。




