第26話 魔法の訓練②
地下の実験場は旧都市間鉄道のトンネルから入るようで、昨日来た道を戻ることになった。
近くの駐車場からグラビティカー、もう面倒臭いから車でいいや、車に乗り込むと、エミリーが目的地を入力して走らせた。
「そういえば今日はロズルトは? 一緒に来なかったのか?」
「用事があるとかで朝早くから出掛けたわよ。私たちはホテルに泊まっているから」
あの後二人は俺を寮に案内した後、近くのビジネスホテルに泊まったそうだ。
俺は顔が知られているので、人目があるところに泊まることはできないが、この二人は関係ないので好きなところに泊まれる。羨ましい限りだ。
「何の用事か聞かなかったのか?」
「特には。プライベートまで干渉しないわよ」
例のカードでも返しに行ったのかな?
知り合いの物だったし、その遺族に会いに行ったのかも知れない。
車を走らせ15分ほど。昨日とは違う地下駐車場に止まった。そこからは徒歩で地下道を歩き、トンネル内に出ると、そこから更に5分ほど歩いた。
このトンネルは昨日走ってきたトンネルで、実験場は更にその先にあると言う。
「実験場は研究施設の隣にあるの。兵器の開発をしているところだから、誰も知られたくはないので今日見た物は内緒でお願いね」
実験場というぐらいだから、そうだろうとは思っていたので頷いた。
しかし、兵器の開発までしているとは。
革命軍はかなり規模が大きい集団なのかもしれない。
薄暗いトンネルを歩くと、昨日とは別の無人駅へ到着した。
ホームから構内に入り、さらにいくつかの扉を開けて奥に進む。
迷路みたいで、どこを歩いているのかわからなくなっていた。エミリーが居ないと帰れそうにもない。まあ、それが目的で複雑にしているのだと思うが。
所々、監視カメラもあったので、警備はかなり厳重のようだ。
ようやく施設の入り口に到着した。
ドアの脇にあるパネルにパスワードを入力し、指紋を読み取らせるとドアが自働で開く。昔ながらの方法で、ここは近代的ではないんだな、と思い見ていた。
「地下からの入り口はここだけ。地上からも入れるけど、場所を知られると後が面倒だから。あなたを信用していないというわけではないのよ。初めての人はここから入ることになっているの。セキュリティーの都合でね」
ここの地下から入るルートは監視カメラも無数あり、罠も設置してあるそうだ。
だから知られてもここまでたどり着けない。それにいざとなったら通路を破壊して入れないようする。生き埋めにすることも可能という話だ。
「生き埋めか、物騒だな」
「知られたくない技術もあるからね。それに、研究施設は武器の製造と保管庫にも使っているの。失うわけにはいかないのよ」
そう言って見せて貰ったの体育館位の広さがある保管庫だ。
その半分以上は木箱で埋まっており、コレ全部武器が入っているそうだ。これだけの武器が使われたらどれだけの血が流れるか。想像しただけでもゾッとする。
それに、これだの量を確保するにはかなりのお金が必要だろう。
昨日会ったリーダーのミチェイエルを思い浮かべていた。
「資金はどこから出るのだ? これだけの量を集めるには金が掛かると思うが」
「うーん、色々な人ね。商会の会長さんや食料生産関連の社長さん。個人で出資している人もいわるわね。詳しい事は言えないけど、それだけ今の代官の統治に不満を抱いている人が多いの。増税で苦しんでいるのは市民だけではないと言うことだわ」
代官が打ち出した政策には『低所得者の保護を取りやめる』以外にも、法人税の引き上げや、消費税の引き上げ、おまけに人頭税というのも導入して、市民から金を巻き上げようとしていたとか。
それが施行されれば、惑星に住む全員が増税に苦しむことになり、値上げとコストカットにより多くの人が失業することになるだろう。とてもまともな考えとは思えなかった。
「ここの代官はなぜそんなに金を集めているのだ。市民の反発を受けて内戦までして。集める理由があるのか?」
「軍備強化と言っていたわ。惑星を守るのにお金が必要だと」
「戦争でも始まるのか?」
「そんな情報はないわ。だから噓だと思うけど、でも、税金を使い、戦艦を建造しているのは本当のことよ。シューイチが昨日見た戦艦は新しく作られた新造戦艦。完成するとやっかいなので、その前に破壊できればと思って基地に奇襲を仕掛けたのだけど全滅したわ。ほぼ完成していたということ。情報では7割方しか完成していないと聞いていたんだけどね……」
歯を噛みしめて悔しそうな表情を浮かべている。
まさか全滅するとは思っていなかったのだろう。
俺もあの戦闘を見ていたから分かるが、あれで7割だとすれば完成したら一方的な戦いになるに違いない。革命軍が焦るのも分かる気がする。
「戦争でもないのに戦艦を作るって……謀反でも起こすつもりか?」
「わからないわ。ただ、どうもドラギニス公国と繋がっているという噂もあるのよね。あの戦艦には向こうの技術が使われているという話もあるし、ここの領地を手土産に、ドラギニス公国に寝返るかも知れないわ。そうなると我々はどうなることやら。ドラギニス公国は、侵略した惑星の住民には優しくないと聞くし、今以上に重課税を課せられるかも。だから尚更、我々は負けるわけにはいかないの。犠牲になった人々のためにもね」
その覚悟がこの武器の山というわけか。
当事者ではない俺には分からない話だが、その気持ちは分からないでもない。
増税で苦しむのは、何も異世界だけの話ではないのでね。
更に奥へ進んでいくと、鉄製の大きなドアが待ち構えていた。
セキュリティーが厳しく、ここからは内側から開け貰うしかないようだ。ドアの脇にあるマイクで誰かと話している。
それから直ぐにドアが開き、中から白衣を着た中年男性が現れた。
「エミリー、久しぶりだな! 簡易式シールドの実験以来か。元気そうで何よりだ」
「エリューム博士こそ元気そうね。それで例の装置は完成したのかしら」
簡単に挨拶し、お互い近況報告をしている。
この人がエミリーが言っていた博士なんだろう。邪魔をするのも悪いので、俺はその間、辺りを見渡し室内を観察していた。
どうやらここは、駅構内にあるプロムナードみたいで、天井が高く通路も広い。そして部屋はというと、テナントが入っていた部屋を改築して使っているようだ。
廃駅をそのまま利用したという感じだ。いや、廃駅そのものがアジトになっているのかもしれない。
その中の一室で、白衣を着た人たちがレーザー銃らしき物を弄っている。そして大きなモニターに回路図らしきものが映っているが、何なのかはさっぱり。素人の俺が見てわかる物ではなかった。
ただし、機械弄りが好きな人にはたまらないだろうな。そこら中に解体されたレーザー銃が転がっている。
時間があればゆっくりと見て回りたいものだ。
「初めまして。エリューム・エジソンといいます。革命軍で兵器開発をしております。よろしく」
話が終わったのか、博士と呼ばれた男性は俺の方を見て、微笑みながら握手を求め来た。
中肉中背で40代ぐらい。白髪交じりで眼鏡を掛けており、いかにも学者、という風貌をしている。人懐こそうな笑みを浮かべていることから、本来であれば兵器開発などはしない人なんだろう。そんな印象を受けた。
「初めまして。俺は橘秀一郎。タチバナとでもシュウイチロウとでも好きなように呼んでくれ」
「それではシューイチロー殿。君は魔法を使うそうだね。私もその訓練に立ち会わせて貰えないだろうか? どんな訓練をするのか見てみたくてね」
握手で握った手をがっちりと離さず、立会の許可を求めてきた。許可するまで離さないぞ、と言わんばかりに力強く握る。楽しそうな笑顔で俺に見せていた。
俺はエミリーの方を見るが、特に何も言わないので許可を出した。そうしないと手を離してくれそうにないのでね。それに、別に見られたからといって直ぐに使えるような物ではないし、困ることはない。
科学者なら、非科学的な魔法に興味を持つことは自然なことだと思う。
博士を連れられて更に奥へ進むと、赤く、一際目立つ重厚そうな大きなドアとぶつかった。
ロックとか掛かってなく、横にあるボタンを押すと横にスライドしてゆっくりと開いた。
ここだけが他の部屋と違うのは一目瞭然。空気もひんやりとしていた。
「ここが実験場か?」
中は体育館よりも一回り小さい空間が広がっており、360度、コンクリートで被われていた。まさに実験場という雰囲気。
天井には無数のカメラが設置されており、壁は熱で焦げたのか、黒い染みが多数付いていた。
「そうだ。ここなら壁全体に特殊なシールドが張り巡らせてあるので、ちょっとやそっとで崩れる心配はない。気兼ねなく魔法を使ってくれ」
エリューム博士が自信満々に言う。
そのシールドを開発したのは博士なんだそうで、どんな衝撃も吸収するとか。
その技術を使って今は個人用の小型シールドを開発中で、試作機もできあがっていると言う。
「ついでなんで、私たちも実験をしてもよいか? 魔法の威力を確かめたくてね」
そう言うと博士は携帯端末で、誰かと連絡を取り始めた。
そしてすぐに白衣を着た人たちが測定器らしき物を持って入ってきたので、最初からそのつもりだったのだろう。
まぁ、気にしても仕方がないので、こっちはこっちで早速訓練を始めることにした。
「まずは、エミリーさんの使える属性を調べる」
「属性?」
「魔法には火属性に水属性、それに土や風属性があるのは知っているかい?」
「フッ、その程度なら知っているわ。漫画とかで書いてあったし、アニメでも魔法使いものが普通にやっていたわね。基本中の基本よ。誰でも知っているわ」
馬鹿にしないでね、と言わんばかりに鼻で笑う。
この世界では常識なのか。
しかし、文明が発達した異世界とはいえ、地球と同じような漫画やアニメが存在してることが気になる。これは偶然なんだろうか?
もしかしたら、というのもあるが、それを調べるのは後だな。
今は話を進めよう。
「なら話は早い。人には得意な属性があるのでそれを調べる。得意とする魔法なら魔力を抑えられるし、威力も断然違う。それに、相性が良い魔法を使う方が発動が早い。良いことだらけだ。だから最初にそれを探す」
他にも光や闇もあるが、適性がある人は滅多にいないので考慮する必要はないだろう。
4属性で駄目だった試す。
「それはどうやって?」
「エミリーさんの体を通して魔法を使う。相性が良い魔法は減衰しないので普通に発動するが、それ以外だと減衰し威力が落ちる。それが手っ取り早い方法かな」
相性を調べるのであれば魔道具の魔法石を使うのが一般的なんだが、持っていないので別の方法で試す。ちょっと面倒になるが、これしか方法が思い付かなかった。
「後ろから肩に手を置くが良いか?」
エミリーは頷いたので、背後に回り両肩を手に乗せた。そして魔力を流す。
「右手を真っ直ぐに伸ばしてくれ、手の平を正面に……ファイアボール!」
手の平から火の玉が飛び出した。だが、ショボい。俺はバスケットボールサイズの玉を出すつもりだったが、野球ボールサイズになってしまった。そして壁まで届かず、煙のように消えた。かなり減衰した。
火の相性は悪いようだ。
「な、何、今のは……」
エミリーが驚いた顔で自分の右手を見つめていた。魔力が腕を伝わって流れていくのを感じ取ったのだろう。横で見ていた博士も両目を開いて驚いていた。
「ふー、駄目だな。火の相性は悪いようだ。予定ではもう少し大きいはずだったのだが」
次は水属性を試す。
同じように両肩に手を置き魔法を唱えた。
「ウォーターバレット!」
水の弾がエミリーの右手から飛び出した。威力といいスピードといい、俺の想像した物が出てきた。水との相性は良さそうだ。
後は、同じような事を土と風で試したが、水以上に威力がある物は出なかった。
結果、エミリーの相性が良い魔法は水となった。
「エミリーさんの相性が良いのは水だな。今後は水魔法をメインに進めていく」
「水ね……」
自分の右手を見つめながら呟いていた。
まさか本当に魔法が撃てるとは思っていなかったようだ。
唖然というか、驚きを通り越して呆然としていた。
「す、凄いですね。初めて魔法を目の当たりにしましたが、中々の物でした。魔法は私でも使えますか?」
こっちは方は目をキラキラさせて俺を見つめいる。アイドルでも見ているかのように。
「さあ? 魔力があれば使えるが、でもそれは契約外なので教えないぞ。俺が頼まれたのはエミリーさんだけ何でね」
レジスタンスのリーダー、ミチェイエルから頼まれたのはエミリーだけで、博士は契約外なので教えないことにした。
まぁ、覚えたかった後でエミリーから習えば良いだけの話だし、俺が教えることではない。
「どうだ、魔法を使う感触は掴めたか?」
「ええ、何となくだけど。体の中を何かが流れて、それが手の平から出ていった。あれが魔力ということかしら」
「そうだ。俺の魔力だ。ここから先はエミリーさん自身の魔力を使って魔法を飛ばす訓練になる。簡単にはできないが、才能が無いわけではないので地道にやればいつか飛ばせるようになるだろう。後はエミリーさんの努力次第だ」
魔法を覚えるには地道な努力が必要だ。
体の中の魔力を感じ、それをお腹に溜めて外に飛ばしていく。
俺が教えられるのは魔力を感じさせることなので、ある程度分かるようになれば自己修練で何とかなる。イメージは漫画やアニメを見たことがあるならできるはずだ。
しばらくは様子を見守ることにした。
ご覧いただきありがとうございます。
ストックがある間は、小まめにアップしたいと思います。




