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第8話 兄妹③

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ブリッジの端に移動した俺たちは、今後について相談した。

ふたりが残るにしろ乗るにしろ、このままというわけにはいかないからだ。


「はぁ、困ったな。どうすればのよいのだ?」


少年に泣き付かれてグッとくる。

あれが中年のおっさんだったら、知るか、で終わるのだが、さすがに子供には言えない。


「シューイチはどうしたいの? 乗せてもいいの?」

「俺にも責任があるからあの子らの判断に任せるつもりだ。乗りたいというのであれば乗せるし、孤児院に行くというのであればそこまで送っていく。できるのはそこまでだな。しかし、後のことは知らないぞ。手続とか必要なんだろ?」

「前に話したけど、惑星から出るだけなら特に必要ないわ。何かすると言うわけでもないし。ただ、他領の惑星に住むというのであれば転出届が必要になる。そうなると保護者の同意が必要で、あの子たちだけでは許可がおりないわ。父親がまだ生きていることになっているから。だから死亡届を出して、それから審査をして、という順になる。でも、時間が掛かると思うわよ。保護者がいない子供が他の惑星に移住など、前例がないと思うから。許可が下りるかどうかは不透明ね」


エミリーが肩を竦めて言うが、普通に考えれば、保護者がいなければ孤児院に入ればよいだけで移住する必要はない。

どうしても移住したければ保護者に頼むしかない。他領民が子供を引き取り時は、保護者になってそうしているわけだし、それが一般的ということだ。

今回みたいなケースは(まれ)だと言う。


「そうなると、移住しないのであれば手続きは必要ない、てことだよな?」

「戸籍がここに残るだけで法律上は問題ないわ。ただ、その伯父さんという人が捜索願を出されるとちょっと面倒になるかも。黙って連れて行けば、私たちは誘拐犯と同じになるから」

「しかし、自分の意思で乗っているのであれば誘拐にはならないだろ?」

「それは私たちから見ればそうだけど、その伯父さんは何も知らないのだから、黙って連れて行けば誘拐されたと思うでしょ? たとえ違っていても、子供たちが逃げたと思えば捜索願を出して捕まえに来る。一応伯父さんも親族だから、捜索願を出せば受理されるわ。そうなると軍が追いかけてくるわよ。船に乗っているとわかったらね」

「ぐえ、それは面倒だな」

「そうでしょ。だから連れて行く前に手を打たないといけないの」

「とはいっても、どうすれば良いのだ?」

「そうね、うーん……役所に連れて行って船に乗ることを伝えることかな? そうすれば捜索願を出されても受理しないと思うの。行き先を知っているからね。でも、どうして保護者が同伴ではないのか、それも同時に説明しないといけないわ。子供たちだけでは怪しまれるでしょうから」


子供たちだけで行けば、その理由も説明しないといけない。

そうなると、死亡したことも伝えないといけないわけだが、今度は保護者がいない、ということで、船に乗れないかもしれない。

身寄りの居ない子供は、孤児院が引き取る決まりがあるからだ。そして引き取れば、孤児院が乗船許可を出すはずがない。危険だとわかっているからだ。


「黙って行けば軍が追いかけてくるし、死亡届を出せば船に乗れなくなる。どっちに転んでも面倒だな」

「そういうことね。保護者なしで船に乗れるか行政に聞いて見ても良いけど、たぶん時間が掛かると思うわよ。これも前例がないと思うから」

「子供の意思を尊重して、というのはないのだな」

「悪い大人に騙されている可能性もあるからね。現に騙されて連れて行かれた子供もいたようだし。子供に重大な決断はさせないわ」

「そうなると時間が掛かるな。どうする? ミチェイエル殿。急いでいるのであれば、あの子らを乗せることができないが」


俺としてはどっちでも良いのが、急いでいたようなのでミチェイエルに尋ねたのだ。


「そうね、向こうの情勢がわからないから早く向かいたいんだけど、どうしましょうか……」


ミチェイエルも悩んでいる。

ここで皇族の権利でも行使すれば簡単に終わりそうだが、やはり法を曲げることになるので躊躇っているようだ。

キチンとした手続きで終わらせたいのかもしれない。


「ねえ、ミチェイエル様。その商人を捕まえることはできないのかしら? 売るところがなくなれば諦めるかと思うけど」

「違法取引の証拠があれば捕まえられるけど、子供たちの証言だけでは無理ね。他に違法なことでもしていればそっちで捕まえられると思うけど、でも、そういう商人は慎重だから、尻尾を摑ませるようなことはしないでしょうねえ。出航前に、港湾警備局に睨まれたら連れ出すことは難しいでしょうから」


ペニトスア国籍の商船が子供を乗せていたら怪しまれる。

厳重に調べられると言うことだ。だから見つからないように連れ出さなければならない。眠らせて箱に詰めておくとか。

船内を調べられたらそういう手も使えなくなるので、大人しくしているはずだと。


「もし、このまま残ると言ったらどうするのだ?」

「孤児院に入るので父親の死亡届の提出が必要ね。それは私でも用意できるわ。後は伯父さんに知られないようにしないといけないけど……難しいわね。24時間、見張るわけにもいかないし、私たちで出きるのは孤児院の人にお願いして、気をつけて貰うことぐらいかしら。施設にいると護衛をつけることもできないから」

「無理矢理でも連れ出すか?」

「可能性はあるわ。誘拐して商人に渡しても、訴える人がいなければ捕まえられないわ。それで逃げられたら終わりね」

「でも、出航するとき調べたらわかるだろ?」

「誘拐されと報告があれば船内を調べたりするでしょうが、そういう届がなければ、全ての中身を確認しないでしょう。そのままスルーね。孤児院でやってくれたら良いけど、届けを直ぐに出さないところもあるから。居なくなったとわかってからでは遅い場合もあるわ」


普通に外泊を認めている孤児院もあるとかで、一晩や二晩、帰ってこなくても気にしないところが多いそうだ。

なので居なくなっても直ぐに対応せず、しばらく様子を見てから捜索願を出す感じなる。それだと間に合わない。気がついたときには宇宙に逃げているのだから。

孤児院に入ったからといって安心はできないそうだ。


「とりあえずグランバーに来て貰いましょう。船に乗るにしろここに残るにしろ、市役所に行く必要があるわ。彼が一緒に居れば、見つかっても対処できるでしょうから」


襲い掛かってきてもグランバーの実力があれば追い払える。それにたとえ揉めたとしても、皇太后様と連絡が取れる彼なら何とでもなる。グランバーならミチェイエルの正体も知っていると思うしね。

安心して任せられるということだな。


「いっその事、全てグランバーに任せるか? 彼に保護者になって貰えば丸く収まると思うが」

「それは無責任というものよ。それに彼にも生活があるので強制はできないわ。でも、残るというのであれば彼に頼むことになるかしら。伯父さんを見張って貰うかもしれないわね。それと商人も調べて貰うかしら? 他にも同じような子供を攫う計画があるかもしれないし。こういう話を聞いて野放しにはできないでしょうから」


攫うのはこの子たちだけではないかもしれない。

同じような境遇の子がいれば目を付けていてもおかしくはない。

ここまで来たのであれば、1人でも多くの子供を買うか攫うだろう。

言い方が悪いが稼ぎ時だからな。


「ロズルト。グランバーと連絡を取って来てもらえるように頼んで貰えるかしら。至急ということで」


ロズルトは頷くと携帯端末を取りだした。


「問題は船に乗ると言ったときかしら。黙って乗せるわけにはいかないから、エミリーの言ったとおり行政の方に手を回して伝えないといけないでしょう。それと臨検を受けたときが面倒になるかしら。子供たちだけを乗せていたら商品と間違われる。そうなったとき子供たちだけの説明だけでは厳しいわね。それに何かあったときも対処できないし。旅客船ならそういう子も多いので怪しまれないでしょうが」


子供が保護者なしで商船に乗ることなどほとんど無いそうだ。

もし乗っていれば攫われた可能性が高く、取り調べを受けるということだ。子供たちが違うと言ってもどこまで信用してもらえるか。

そうなった時は子供を一時保護とかになって面倒なことにしかならない。仕事どころではなくなる。

それ以外にも、保護者の同意が必要という場面もあるかもしれない。

孤児院に引き取られていれば職員が代わりにやることができるが、我々ではその資格がない。

やはり保護者は必要だろう、ということだ。


「シューイチさん、あなたが保護者になってください。この国の身分も手に入ったことだし、あなたが保護者になれば全て丸く収まるわ。私たちでは無理ですから」

「え? いや、無理だろう。俺はこの世界に来たばかりで何も知らないのだぞ。子供の面倒なんか見れるわけがない。俺がならなくても他の誰かがなれば良いのでは?」


そう思いエミリーを見るが「むりむり」と言って両手を前に出して断った。


「ほ、ほら、私たちが保護者になると色々と面倒だから。それに比べシューイチはこの世界に身寄りはいないでしょ? 保護者になっても問題が一番少ないの、だから」


必死になって言い訳をしているが、しかし、それとこれとは話が別。

結婚もしていないのに、子供の親にはなりたくはない。

ロズルトを見るが視線を合わせない。こっちもなりたくはないようだ。


「そもそも保護者になるということは、養子にする、ということなのか?」

「保護者と養子は違うわ。保護者はあくまでも保護者。養子と違い戸籍に載るわけではないわ。でも、成人するまで面倒を見ないといけないのでやることは養子と一緒。だから自分の子供と同じように扱わないといけないの。ただ、戸籍に載らないというだけの話。心配しなくても戸籍は真っ白ということよ」


そう言ってミチェイエルは「フフフ」と笑っているがそういう話ではない。

子供が居ては何もできないだろ、と言いたいのだ。

どこに行くにしても連れて歩かないといけないし、自由に遊ぶこともできない。

この世界では自由に過ごそうと思ったのに。コブつきじゃ、女性も寄ってこない。


「養子になるのでなけれな、エミリーたちでも良いのでは?」

「それでも成人するまで面倒を見ないといけないのよ。家に連れて行くことはできないわ。だからと言って、誰かに面倒を見させるのもそれじゃ意味がないでしょ。私たちでなくても良いのですから」

「まあ、確かにそうだが……」

「それに私たちの周りも安全とは言えないわ。悪い大人がいっぱい居るから。そういう世界を見せたくはないの。わかるかしら?」


あー、確かに皇太后様たちが保護者になれば、政治の道具に利用される危険がある。

それに誘拐なんてことも考えられる。安全とは言えないな。


「それじゃ博士に……」

「ん? わしは無理じゃよ、歳が歳だし。それにこの国の国民じゃないのじゃよ。だから無理じゃ」


博士は、かなり離れた小国家連合の出身らしい。

詳しいことは話さなかったが、古代文明の技術を求めて様々な国を放浪していたそうだ。

そして古代船を手に入れたと聞いて、この辺境まで来たということだ。


「そもそもじゃ、お主の責任なんじゃからお主がなるのが筋というものではないのかな? 責任があるというのであれば最後まで面倒を見ることじゃ」

「ぐ……」


どや顔で正論を言われたのでムッとする。

悔しいが反論できない。

天を仰いで溜息を吐いた。


「はぁ、何でこんなことに……」


気ままなスローライフを目指していたのだが、今日から子持ちなるのか?

赤の他人の子供を育てるなど、どんな罰ゲームなんだよ。

泣きたくなってきた。


「しかしだ、その前に子供たちが納得するのか? 俺は親の(かたき)みたいなものだぞ」

「それは納得させるしかないでしょう。それに今やっておけば後で来る必要がなくなるわ。面倒な手続も一緒にすれば1回で済むし」

「まあ、子供たちにどうするか聞いて見るか。残るというのであれば保護者になる必要はないし」


中世時代の異世界なら、戸籍などないので気にせず連れて行けるのだが、この世界は戸籍がある。

移住するにも行政に届けなければならない。本当に面倒だ。頭を悩ませる。

そう考えると前の異世界はどれだけ楽だったか。

法に縛られない分、人の移動は楽だった。その変わり行方不明者は多かったけどね。



話がまとまったので、淡い期待を寄せて子供たちに聞いて見たが「乗る」という返答で帰ってきた。

兄妹で話し合った結果、この惑星に居ても伯父さんがいるのであれば安心はできないからという理由で。

俺はガッカリした。顔には出さないが、マジか……、という心境で項垂れてしまった。


「……まあ、乗るというのであれば好きにすればいい。しかし、船に乗るには条件があるぞ」

「何だ?」


少年が警戒する目で見つめる。


「保護者が居ないお前たちを乗せることはできない。一歩間違えれば奴隷商人と間違えられるからだ。身寄りもいない子供が商船に乗っていれば疑われる。そういうことで俺が保護者になる必要がある。それを受け入れるのが嫌であれば、この惑星に残ることだ。一応、監視は付けてくれるみたいだから悪いようにはしない予定だ。どうする? それが条件になるが。それとタダでは乗せてやらん。働いて貰うからな。こっちは人手不足なんでな」


俺が憎たらしい顔でニヤッとすると少年は俺を睨み付けた。

これで残ってくれるのであれば嬉しいのだが。


「チューイチ。それは可哀想だと思うよ。子供を働かせるなんて」


エミリーが抗議をしてくるが知らん。嫌だったら他の船に乗せて貰えば良いだけの話だ。

責任はあるかもしれないが、全て俺が悪いわけではない。


「何もタダで働けとは言っていない。働けば給料は出す。そのお金を持って他の惑星で生活すれば良い。未成年だからといって働いては駄目だということはないのだろ?」

「それは問題ないけど」


未成年だと相続したお金は使えない。しかし、自分で働いて稼いだお金なら問題ないはずだ。船を降りた後のことを考えれば悪い話ではない。


「お兄ちゃん、どうするの?」


少女が少年の腕を引っ張って聞いているが、少年は迷っているようで少女の顔をジッと見つめていた。


「ミューはどうしたい? 船に乗ると、()()()()が父親代わりになるのだぞ」


こんな奴?

口が悪い餓鬼だな。俺だって乗せたくはないね。

しかし、負い目がある俺には反論できない。

だから言わせたいことを言わせておいた。その代わり乗ったらこき使ってやるからな。


「ねえちゃんじゃ駄目なのか? 他の人は?」


少年がエミリーを見て悲しそうな顔をしているが、エミリーは目を閉じて小さく首を横に振っていた。


「ごめんなさいね。私たちは事情があって駄目なの。あなたたちの保護者にはなれないわ」


子供たちがシュンとしてしまった。

裏切られたみたいに。

そして俺と向き合うと、覚悟を決めたようでキッと睨む付けた。


「わかったよ! でも、他の惑星に行ったら船を降りるからな。それまでは従うよ!」


少年が俺の方を見て力強く言うが、少女の方は不安そうな顔をしている。

まあ、知らない人の船に乗るのだから、それが普通の反応だな。

しかしだ、一度保護者になると成年になるまでは俺が保護者だ。だから、簡単には船を降りることはできない。というか、安心して任せられる人が見つからないことには無理だな。降りて野垂れ死されても困る。

今は言わないが、その時になったら教えてやろう。今言うと揉めそうだしな。


「わかった。それじゃ今からロマーン、いや、ロンと呼ぶか。そっちの女の子はシューだったな。俺のことはシューイチか船長で呼べ。おじさん呼びは禁止だ。それと保護者になるからといって無理に家族になる必要はない。しかし命令には従って貰うぞ」

「そんなのわかっているよ! 誰が家族になるものか!」


生意気な餓鬼だが、これぐらい元気な方がいい。

問題はミューの方だが、こっちは黙ったまま俯いている。船での生活を考えて不安になっているのだろう。自分にできる仕事はあるのかと。

まあ、後はエミリーに任せればよいか。同じ女性だし、俺が相談に乗るよりはエミリーの方が話しやすいはずだ。

こういうときに女性が居て助かったよ。


「そういうことだ、ミチェイエル殿。しばらくは一緒に生活することになるが」

「わかったわ。それじゃ手続きが必要だから、グランバーが来たら子供たちと一緒に市役所へ向かって頂戴。身分証も忘れずに持って行ってね。必要になるから。向こうに行っても直ぐに手続ができるように手配しておくわ。エミリーは悪いけど、この子たちの日用品を揃えてくれるかしら。家には帰せないから」

「わかったわ」

「俺は何をすれば?」

「ロズルトはこの子たちの寝所を用意して。部屋は沢山空いてるから、ベッドの用意を。一緒に連れて行くとよいわ。手伝うことぐらいはできるでしょうから」

「了解した。ほら、行くぞ、坊主たち。自分の寝床ぐらい自分で用意しないとな」


楽しそうな笑顔でロズルトは子供たちを連れて行った。

子供は苦手のようだが面倒見は良さそうだ。


「わしは何をすれば良いのじゃ?」

「博士はそうね……何もしなくて結構よ。ただ、人が増えたことで食料が足りるか計算だけしておいてくれるかしら。余裕を持って積んでいるから大丈夫だと思うけど、足りないようならどこかの宇宙ステーションで買うから」

「わかったじゃ」


さすがミチェイエル。次々と指示を飛ばす。

これでは誰が船長かわからないな。


「ねえ、ミチェイエル様。あのミューという子、気になりますよね」


エミリーが、子供たちがブリッジから出たの確認すると、ミチェイエルと小声で話し出した。


「あら? エミリーも気がついていたの?」

「ええ、ピンクの髪で目立ちますから」


俺は2人の会話を聞いて首を傾げた。


「どういうことだ?」

「シューイチは知らないと思うけど、ピンクという髪は珍しいのよ。100万人に1人と言われているわ。だから遺伝なのか、偶々そういう髪で生まれたのか気になって」

「遺伝なら兄の方もピンクになるのではないのか?」

「ロンは父親の方の遺伝かもしれないわ。親が両方ともピンクでもないかぎり、必ずピンクで生まれるということはないから」

「そうかもしれないが、しかし、ピンクだと問題があるのか? 珍しいだけの話だろ?」


あれ?

ふたりとも眉間に皺を寄せて渋い顔をしているが、まさか、例のごとくどこかの王族とかないよな?

ピンクは王族を象徴しているとか。


「おい。もしかして知っていて俺に保護者になれと言ったのではないよな? 想像した通りなら特大級の厄物だぞ、あれは。勘弁しろよ……」


額に手を当て思わず天を仰いでしまった。


「いや、でも、そうと決まったわけではないわ。偶々だと思うよ。ね、ミチェイエル様」

「そうね、でも、似ているのよね、あの()に。勘違いなら良いけど」

「あの()って?」

「8年ほど前に小国家連合内で戦争があったの。帝国とは直接の繫がりがない国だから傍観していたのだけど、その時に滅んだ国がいくつかあって、そのひとつに、女王の国があったの。その女王様がピンクだったわ。昔、国際会議で何回か見かけたことがあってね、その時の女王様に似ているな、と思って」

「……」

「じゃ、ロンの方も王族なの?」

「それはないわ。だって父親は整備士なんでしょ? 王族とは関係ないと思うわ」

「おい、そんな話を聞いて保護者になって大丈夫なのか? 後で揉めたりしないだろうな?」

「それはないわ。だって滅んでいるのですもの。王子も王女もないわ。国がないのですから」

「そ、それは確かにそうだが」

「それよりも、どうしてこの辺境に居たのか。そっちの方が気になるわ。王族だと隠して結婚したのかしら? 気になるわね」


楽しそうにニヤニヤしている。

人ごとだと思って。


「でも、そうと決まったわけではないわ。エミリーの言うとおり偶々生まれただけかもしれないし、気にする必要はないわ。何かあってから考えればよいことよ。今から気にしても仕方がないわ。もし巻き込まれるのが嫌なら、ミューちゃんにカツラでも被せれば良いわ。それなら誰も気がつかないと思うから」


確かにあのピンクの髪が問題なわけであって、最悪はそれを何とかするしかない。

また爆弾をひとつ抱えることになった。

もうお前たちだけでお腹がいっぱいだというのに。



このあとはグランバーが来てミチェイルと少し話してから市役所に向かった。

もう会うことはないと思っていたのにまさか最後の最後に会うとはね。

事情を聞いたグランバーは呆れた顔をして俺に文句を言った。


「最後まで迷惑を掛けるのだな」

「あれは俺が悪いわけではない。星系軍が追いかけて来たのがいけないのだ。俺は何も悪いことはしていないのにな」


人の話を聞かず発砲してきた軍が悪い。

俺だって好きでこうなったわけではない。

そもそもの原因は神様が悪い。俺を軍事施設内に転送したからこうなったのだ。もっと平和な惑星があったはずなのになぜあそこなのか。

文句のひとつでも言いたいね。



グランバーに付き添われて市役所に来たが、待たされることなくあっと言う間に終わった。というか、偉い人が出てきて、グランバーにペコペコ頭を下げていた。

市長さんかな?

前もって話しておくと言っていたから、俺たちを皇太后様の従者と勘違いしているのだろう。まったく関係ないんだけどね。

しかし、そのおかげか複雑な書類審査や面接などもなく、タブレットにサインをし、身分所を更新してそれで終わり。子供たちにもいくつか質問していたが、形式だけのようで問題なく終わった。

ただ、子供たちにも気持ちが悪いほどの丁寧な対応だったので、皇太后様の血縁者か何かと勘違いしているのかも。そして政治的な理由で俺が引き取ったと思われたのかもしれない。貴族が訳あって子供を誰かに預けることは珍しいことではないのでね。

父親の死亡届も出せたようだし(とは言っても殆どがグランバーがやっていたが)これで正式に俺が保護者になった。しかし、こんなことのために戸籍を作って貰ったのではないのだが。


最後にグランバーが「もう戻ってくな」と言ってたが俺は無視した。

まあ、なんか戻って来そうな感じがするんだよね。約束はできないのでね。

なんだかんだあったが、ようやく出航準備が整った。

はぁ、疲れる一日だったよ。




ご覧いただきありがとうございます。

そして、遅くなって申し訳ありません。

加筆修正などしていたら、思っていた以上に話が長くなってしまいました。

でも、これで少しは話が進むかと。

このあとは他領に向かうわけですが……。


もう少し早く書けるよう頑張りますので、気長に付き合って下さると嬉しいです。

ついでに評価もしてくれると嬉しいです。

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