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第6話 兄妹①

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「これは……密航者だね。この船に乗って他の惑星へ向かうのだろう。はぁ、面倒だな。しかも子供とか。只事ではないな」


危険がないとわかって安堵の溜息を吐いていた。

ここに来てまさかの密航者とか。出鼻をくじかれた感じだな。

俺も溜息を吐きたかった。


『このまま宇宙に上がった場合は死にます。保護が必要です』

「ん? どういうことだ?」

「シューイチは知らないのね。ギルドから説明を受けなかった? コンテナ部分は荷物を積むと封印され、特別なことが起きない限り中へ入れないの。そして密閉されるのよ。巨大な金庫と同じね。だから長時間、中にいると窒息するの。危ないということよ」


エミリーの説明によると、荷物を積み込む際、税関管理局員の立ち会いのもと検閲があるそうだ。密輸品や禁制品など積み込ませないためで、積み込みが終わると局員によって封印され、中に誰も入れなくなる。

だから中に空気を送る必要がなく、換気口などもつけていない。

今回は積荷がないので検閲の必要はないが、それでもコンテナ内は送風できないので、長時間いれば窒息してしまう。人が住むような設計にはなっていないということだ。


「それじゃ危険じゃないか。直ぐにでも連れ出さないと」

「それはそうだが……」


ロズルトが言いづらそうにして口を濁した。

どうやら連れ出した後のこと考えて頭を悩ましているようだ。

連れ出して終わり、ということではないらしい。


「密航者を発見した場合はどうするのだ?」

「港湾警備局の人間を呼んで捕まえて貰うのだけど、ここは宇宙ステーションや空港ではないし、捕まえる人はいないわ。それによく見ると子供だし、乱暴なことはできないわよ。……どうします、ミチェイエル様」

「そうね……幼い子供が密航者になるには理由があるはずよ。先ずは話を聞きましょうか。それからどうするか考えればよいわ」


2人で話して決めていく。

相談するなら船長の俺にしろよ、と言いたいが、俺に聞かれても何もわからない。

ミチェイエルに聞くのは自然だな。この中で一番身分が高いからね。

自分で言うのも何だが、頼りにならない船長だな。


「それじゃ私が捕まえに行って来る。あなた達だと怖くて逃げるかもしれないからね」


エミリーがそれだけ言ってブリッジを出て行った。

俺とロズルトは顔を見合って苦笑した。そんなに怖くはないと思うけどね。


10分ほど待ってエミリーが子供たちを連れてきた。何の抵抗もなくすんなりと付いてきたようで、ふたりとも下を向いたまま黙っている。

1人は少年で茶髪、活発そうな顔をしている。もう一人は少女でピンクの髪にショート、ふっくらした可愛らしい顔をしていた。服装も子供らしく、半袖で半ズボンと白のワンピース。高級そうな服ではないので、貴族とかではなさそうだ。

少女は不安なのか、少年の腕をギュッと摑んで離さないでいる。恐らくだが、兄妹なんだと思う。


「さて、どうすればよいか……」


俺は子供の相手は苦手なんだよね。

こういうのは女性に任せることにし、エミリーを見て顎で指した。向こうも察してくれたようで、「しょうがないわね」という呆れた感じで頷くと、子供たちの前で少ししゃがみ、目線を同じ高さに合わせてから質問を始めた。


「ねえ、まずはお名前から教えくれるかしら」


エミリーが優しく声を掛けると、少年が顔を上げて答えた。


「俺はロマーン・ビッシュ。横にいるのは妹のミューだ」


名前を呼ばれた少女はビクッとして、男の子の腕を抱え込むようにして強く握った。

やはり兄妹か。

妹の方はずっと俯いていてエミリーの方を見ようとしない。怖いのか、もしくは人見知りなのかもしれない。


「年はいくつ?」

「俺は9才、ミューは7才だ」


まだ、小学生の年齢じゃいないか。

それが2人揃って密航者とは。

家出、という雰囲気でもないし。


「なんで船に乗っていたのか教えてくれる?」

「……」


あらら、黙っちゃったよ。

どうすればよいのだ?

俺はミチェイエルの方を見た。


「あなたたち、何も答えないで黙っていると街の治安維持部隊に引き渡すことになるわ。それでもよいのかしら?」


ミチェイエルが、脅す感じでちょっときつめに言うと、恐怖を感じたのか、少女が少年の後ろに隠れた。


「そ、それは駄目だ! ミューが売られてしまう!」

「ん?」


全員がキョトンとする。

おいおい、売られてしまうとは穏やかではないな。

話が重くなってきたぞ。


「どういうことかしら? 妹が売られるというのは?」


エミリーが質問すると兄の方が状況を説明した。

そして要約するとこうだ。


話によると2人は戦災孤児らしい。

何でも住んでいた家が戦火でなくなり、父親の弟の家に一時世話になっていたそうだが、今度は戦争で父親が亡くなり、それで身元を引き受けてくれたのがその弟さん、伯父さんなんだそうだ。

優しく良い伯父さんだと思っていたが、実はそれは間違いで、自分たちのことを邪魔だと思っていた。そして、商人に自分たちを売る話をしていた。

実は今日、旅行で船に乗る予定だったそうだ。

そこで自分たちを売り渡す計画ではないかと疑った。だから逃げてきたと。

売る話に船に乗ると聞けば、そう思うよな。

そして捕まると伯父さんのところに連れ戻されるかもしれないので、他の惑星に逃げることにした。たまたま忍び込んだのがこの船というわけだ。

ヘビーだね。どうするのこれ?

この国の法律がわからないので、どう対処すればよいかわからない。日本じゃ人身売買は違法なんだが。


「それはおかしいわね。帝国は奴隷制度を廃止しているわ。売ることはできないはずよ」

「この国じゃない! ペニトスア国だ! 俺たちをその国に連れて行って売ると言っていた。そう商人が話していたぞ!」

「……」


それを聞いてみんな黙っている。

俺はペニトスア国がよくわからないのロズルトに質問した。


「ペニトスア国とは?」

「奴隷を認めている国だ。上級市民の殆どが違法奴隷を所有している。倫理的にも、かなり問題の多い国だ。きっと戦争があったと知って、戦災孤児を買いに来たのだろう。戦争があればこいう子供は必ず出る。面倒を見たくない親類などが売るのだ。高額でな」


帝国では売れないから認められている国に売るということか。それで旅行という話で騙して船に乗せる。

その伯父さんとかいう奴、えげつないなあ。やることが鬼だよ。


「国で保護とかできないのか?」

「その伯父さんという人物が保護者として認められているのであれば、法律上は無理だ。虐待とかであれば可能だが、子供だけの話だけでは保護できない。証拠がないと」

「証拠か……」


そんなもの残しているとは思えない。捕まる危険があるからな。


「このままだとどうなるのだ?」

「治安部隊に引き渡し、行政の方で父親と連絡を取り、聞き取り調査。問題がなければ、その伯父さんに引き渡しとなる」


俺たちの会話が聞こえたのか、少年が青い顔をしていた。


「戻ったら俺たちは売られ、ミューとは離れ離れになる。俺たちは戻らないぞ!」

「父親の名前は何て言うのかしら?」

「え?……ルドアール・ビッシュ」


ミチェイエルが少年の方に問い掛けると、小さな声で答えた。

それを聞いてエミリーが首を捻って考えていた。


「ルドアール・ビッシュ? 仲間にそんな人はいたかしら?」

「父ちゃんは整備士なんだ。だから知らないと思うぞ」

「整備士? それじゃ私は知らないわ。直接話すようなことはないから」


クルーが整備士と話すときは故障などでトラブルになったときだけ。しかも船に乗っているときだけだ。

普段、船に乗らないエミリーたちとは接点がない。


「こんな小さな子供がいるのに戦闘艦に乗艦したのか?」

「父ちゃんは家を新しく建てるのにお金が必要ということで、危険な戦艦に乗ったんだ。そのほうが給料が良いからって。そして星系軍との戦闘で船が沈んだと聞いた。戦死したって」


航海中に故障したら困るので、戦闘艦にも整備士や整備員は乗る。

それで巻き込まれたということか。

無茶せず、少しづつ金を貯めればよかったのに。


「何て名前の船か覚えているかしら?」


ミチェイエルが問い掛けると、少年は「知らない」と言い首を横に振った。


「ただ、巡洋艦だと聞いた。宇宙に上がって直ぐに戻ってくるような話をしていた。それだけだ」

「いつの話?」

「4ヶ月ほど前の話。他の巡洋艦と一緒だから安全だと言っていたんだけど……」


それを聞いたミチェイエルの表情が曇っていた。

何か思い当たる節でもあるようだ。


「知っているか?」

「いや、俺は知らないが」


ロズルトは知らないらしい。

4ヶ月ほど前といえば俺もこの世界に来ていたはず。丁度、領都に向かうタイミングか。俺たちがいない間の話なら知らないのは当然だ。


「そう、あなたのお父さんはあの船に乗っていたのですね。それは申し訳ないことをしたわ」

「ミチェイエルさんは知っているのか?」

「ええ、あなた達が領都に向かうときに、囮として出航したのがその巡洋艦ですね。星系軍に見つかった時点で逃げる予定だったのですが、敵艦の動きが速く、捕捉されて全滅したとのことです。あなたたちは領都に向かっていたので知らないはずです」


そういえば思い出した。

領都に向かうときに、囮を出して、その間に宇宙に上がる作戦だった。しかし、星系軍に見つかって戦闘になった。惑星を出て直ぐの話だ。


「あの時の囮艦に乗っていたのか……」


ちょっと責任を感じるが、しかし戦争なんだし、戦死した人のことを考えても仕方がない。

亡くなったのは彼だけではないんだから。

それに俺の責任でもないしね。


「しかし、どうするのだ? このままでは出航できないぞ」

「どうしようかしらね……法を破るわけにはいかないし」


このまま黙って連れて行けば誘拐になる。とはいえ、子供たちの話を話を信じ、証拠を集めていたらいつになったら出航できるのだ、ということになる。

気持ちよく出航しようとしたのに、こんなところで躓くとは。

呪われているとしか思えなかった。


『マスター、ひとつ情報が』

「何だ?」


今まで黙って話を聞いていたミーリアが話し掛けてくる。

士官服から制服に替わり容姿も変わったことでちょっと違和感があるが、黒髪になったことで日本人と話している感じがする。

前の容姿よりはこちらの方が落ち着くので、変えさせて正解だったかもしれない。


『ルドアール・ビッシュで検索したところ、まだ、死亡届が出ていないようです』

「え?」


エミリーが驚いていた。


「どういうことだ?」

『わかりませんが、記録上は生存していることになっています』


それを聞いた子供たちも驚いている。

生きているはずはないとわかっているからだ。


「本当に生きているということはないよな?」

『それはあり得ません。撃沈されたことを確認しました。生存者はいません』


やっぱり、という顔で子供たちは落胆していた。

淡い期待を抱かせてしまったようだ。


「私の方でも生存者がいないことは確認したわ。だから生きていることはないはずよ。乗艦名簿を見て、親族宛に死亡通知も送っているはずだから」

「それじゃ、どうして死亡届が出ていないのだ?」

「戦時中ということで事務手続きが滞っているか、もしくはわざと出していないか。どちらかだと思うわ」


戦死した時点で親族宛に死亡通知が届く。

それを持って役所で手続をして死亡認定となるが、それを出さなければ記録上、死亡したことにはならない。だから出していないということだ。


「でも出さないなんて、見舞金はいらないのかしら? いくらか貰えるはずでしょ?」


エミリーが不思議そうにして首を傾げていた。


「正規の軍とは違うので多くのお金は出せないけど、それでも1~2年は生活できるぐらいのお金は出しているわ。これでも国庫と掛け合って出させた方なのよ。本来はびた一文もでないのですから」


戦死すれば国や領主から見舞金というかたちで金が支払われる。

配偶者がいれば遺族年金も貰えるみたいだが、それは正規の軍に所属していればの話。

革命軍は正規の軍ではないので、戦死しても何も出ない。普通なら。

それをミチェイエルは出させたようだ。

さすが皇太后様ということだな。


「見舞金を貰うよりも子供たちを売った方が儲かると判断したのかしら?」

「そうね、子供は人気があり需要が高いから。特に女の子は高額で取引されるわ。見た目が可愛ければ尚更ね」


その話を聞いた女の子はビクッと反応した。自分のことだと。


「軽く1000万ニルは越えるわ。見舞金を貰うよりは大金が手に入る。……ああ、そういうことね」


そう言ってミチェイエルはひとり納得して頷いた。


「何かわかったの? ミチェイエル様」

「多分だけどね。最初からあなたたちを売るつもりだったのでしょう。高く売れることがわかっていたから、だから死亡届も出さず、あなた達の面倒を見ていた。そういうことなんじゃないかしら」

「え? それじゃ、保護者になったというのは噓なの?」

「そう言っておけば恩を感じるし疑わないでしょうからね。恐らくだけど、お父さんが亡くなったと聞いて計画を立てたのでしょう」

「しかし、死亡届も出して売った方が、二重にお金が入って得すると思うが。保護者になればお金は貰えるのだろ?」


俺が疑問に思ったことを質問すると、「そうでもないのよ」と言って首を横に振って否定した。


「確かに保護者になればお金は貰えるわ。でも、保護者になると保護義務が生じるのよ。定期的に行政の確認が入って、きちんとした生活を送れているのか、子供の聞き取り調査があるの。中にはお金だけを貰って育児放棄する人もいるから」

「それは……面倒だな」

「その時になって『子供はいなくなった』とは言えないわ。育児放棄と同じだから。だからお金が貰えたとしても保護者にはならないの。捕まりたくはないでしょうから」

「なるほどね、そういうことか」

「見舞金や遺産は残された遺族のためにあるからね。正しく使われているか、行政の確認が入るわ。お金欲しさに保護者になる人が後を絶たなかったから」


お金だけを貰い、子供には食事さえ与えなかった保護者もいて、かなり問題になったそうだ。だから保護者になる人は、行政の確認を受けなければならない。これは法令で定められていると言う。


「ちなみにだが、死亡届を出して保護者になることを拒否した場合はどうなるのだ?」

「身寄りがいなければ孤児院に入ることになるわ。見舞金も含めて相続したお金は成人になってから渡されると思う。未成年に大金を渡すと悪い大人が近寄ってくるからね。細かいところは領主によって違うからわからないけど、行政でお金を管理すると思うわ。孤児院を出て行ったときの支度金として渡されるはずよ」

「保護者になれば保護義務があるし、拒否すれば孤児院に引き取られる。だから出さないでいたということか……それって最初から考えていたことか?」

「さあ? もしかすると商人の入れ知恵かもしれないわね。奴隷を扱う商人は、そういう抜け道を知っているから」


なるほど。そうやって違法に子供をさらっているのか。

国を出てしまえば捕まえられないし、戦争孤児なら探す人もいない。

そう考えると、以外と簡単な商売なのかもしれない。

おっと、少女が泣き出した。

子供たちの前で話す内容ではなかったな。


「でも、話が本当ならね。……ねえ、調べられるかしら?」



ご覧いただきありがとうございます。

続けてアップしますので、お暇なら読んでくださると嬉しいです。


毎日ぽつぽつと書いています。

ついでに評価もしてくれると嬉しいです。

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