第5話 出航前の確認
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3日後。
この惑星での用事を全て終わらせた俺は、基地内あるドックへと向かった。
停泊している船を外から見ると「はぁ……」と溜息を吐いた。不格好だなあと。
荷物を積むコンテナを無理矢理付けたことで、横に大きく飛び出している。人によっては格好いいと思うかも知れないが、スマートでないのは頂けない。とはいっても横幅を全体に広げたら、昔の面影などなくなり別の船になってしまう。
俺としてはそれでも良かったのだが、予算の都合上、これ以上の改装はできなかったそうだ。それに重量を増やすと、スラスターなどの装備も見直さないといけない。
タダでやって貰っているからね、文句は言えなかった。
補給が全て終わっているのか人の気配がない。
不用心だな、と思うが、基地に忍び込もう、という奴はいないだろう。
戦争も終わったことだし、宇宙港が復旧すれば自由に移動もできる。わざわざ戦艦でもない船を盗んで追われるようなことはしないはずだ。それに帝国軍が惑星周辺を巡回しているし、見つかれば即撃沈だな。
それに盗んだ船ではギルドにも登録できない。海賊船になるだけだ。
命をかけて盗むメリットはない。
「そういえば船の戸締まりってどうするのだ? 鍵でもあるのか? 小型船舶は鍵が付いているが、大型船舶の場合はドアに鍵でも付いてるのか?」
くだらない疑問を覚えつつ、船に乗り込むとブリッジには博士がいた。
他のメンバーの姿はないが、集合時間にはまだ早いのでもう少ししたら来るはずだ。
ただ、荷物を積みに何度かエミリーが来ていたようで、積み終えるとまた直ぐに出掛けていったそうだ。
きっと、知り合いと別れの挨拶でもしているのだろう。彼らはここの領民ではないので用事でもなければ戻って来ることはない。
「博士の方は良いのか?」
「何がじゃ?」
「別れの挨拶とか」
「わしはすでに終えておるぞ。というか、挨拶をするような奴はおらん。いつも1人なのでのう。フォフォフォ」
胸を張って自慢するかのように笑っている。
そういえば博士はいつも1人で行動していたな。領都に行くときも。誰かと一緒に行動するのが苦手なのかもしれない。
俺もどちらかというと団体行動が苦手なので、博士の気持ちもわからないでもない。
「おお、そういえばもうひと部屋借りたぞ。資料が多くて収まりきれんかったのでのう」
「そんなに資料があるのか?」
「もちろんじゃ。なんせ今まで見て来た古代船の資料もあるのでのう。かなりの量じゃぞ」
「ほう、それは面白い。暇なときでも良いので他の古代船の資料を見せて貰えないか? どういうのがあるのが知りたいのだが」
「もちろん構わんぞ。興味を持ってくれる若者が増えたら、わしも研究の遣り甲斐があるというものよ。でも、そうなると後で書棚を作らんといかんなのう。わししか見ないのであれば山積みでもよいが、人に見せるのであれば整理した方が良いだろう。資材は積んであるので飛んでいるときにでも作るか。やれやれ、やることが多くて手が足りん。フォフォフォ」
嬉しい悲鳴のようで楽しそうに笑っている。
船の整備もあるし、やることが多くて研究する時間がないとぼやいている。整備ができる助手が欲しいとね。
それは後で何とかするという話で我慢して貰った。すぐに集まるものでもないのでね。
集合時間までまだ時間があるようなので船内を見て回った。
食堂は戦艦だった時と比べ半分のスペースになっていた。人が少ないので広く取る必要はない。それでもまだ広いぐらいだった。
自動調理器はそのままで、前に使っていた物をそのまま流用。使える物はそのままのようだ。
「しまったな。キッチンを付けて貰えばよかったか。自動調理器の食事だけでは味気ないよな」
この世界の殆どの人は自分で調理をしないので気にしていないようだが、独身生活が長かった俺からしてみれば、自炊ぐらいはできるので調理がしたい。
材料を買ってきて自分の分だけでも調理するのも有りだったか。
航行中は良い時間潰しになるのになあ。
ま、金が貯まったら後で付けても良いかもしれない。
そして楽しみしていた浴場。エミリーも乗っているということで男女別にしてある。1つを時間を決めて使う、という話もあったのだが自由に入りたかったので却下した。お風呂場でエミリーとばったり、なんてラッキースケベは要らないのでね。後が気まずくていかん。
それに人が増えれば入浴時間もまちまちになると思うので、分けておいた方が良いだろう。誰にも気兼ねなく自由に入れ方が良いに決まっている。
浴槽を覗くとあまり広くはない。銭湯ぐらいはあるかと思ったが、その半分もなかった。
それでも湯船は、6~7人はゆっくり浸かる広さはあるので、1人で浸かるには十分だ。それにマックス20人も乗らないだろうし、全員が同時に入ることはない。同じ物が女子風呂にもあるので、入りきれない時はそちらを借りれば良いだろう。まあ、エミリーが許可してくれたらだけど。
浴場にはシャワー室も併設してあるので、簡単に済ませたい人はそちらを利用すれば良い。これだけあれば不満はない。普通はシャワー室だけなのでね。
トレーニングルームを覗くと食堂ぐらいの広さしかない。フィットネスマシンも少なく、10台ほどしか置いてなかった。乗船人数を考えればこんなものか。
走るやつに筋力を鍛えるやつ。よく見かける物が並んでいる。しかし、その中にひとつ変なのが混じっていた。ウェットスーツで所所に黒い鉄の塊が付いているやつ、何だ?
試しに着てみて腕輪のスイッチを入れたら全身が重くなった。まるでそこだけ重力が強くなったみたいに。
「な、なるほど。重力を掛けて全身を鍛えるやつだ。漫画とかで見たことがあるが、まさか実用化しているとは思わなかった。腕輪のスイッチで強弱を調整できるようだな」
一番弱にしてみてもかなりキツかった。これを着て動けば常に全身運動になる。一部分ではなく全身を無理矢理に鍛える器具だな。仕事中に着たままでも鍛えられるので、筋肉ムキムキになりたい人向けだ。俺はそこまでなりたくはないので、早早に脱いで壁に掛けておいた。
一通り船内を見終えてブリッジに戻ると、エミリーの他にロズルトやミチェイエルも乗船していて、博士を交えて雑談していた。
集合時間にちょっと早いが、これで全員が揃ったことになる。ミチェイエルを除けば総勢4名。
……初仕事には少ないな。
「もう良いのか?」
全員に問い掛ける。
一度出航すればもう戻ることはできないので、遣り残したことがあれば終わらせて欲しい。友人がいない俺とは違うだろうから。
「私の方は昨日、お別れを済ませてきたから大丈夫。ロズルトは?」
「俺も終わらせてある。いつでも良いぞ」
ミチェイエルを見ると微笑んでいた。
こっちは……聞く必要はないか。立場上、友人なんていないだろうし、皇太后様と知っていれば会おうとするやつはいないだろう。逆に付き合いたくはないと思うやつが多いはずだ。気にする必要はないな。
「それじゃ出航準備を始めるか。でだ、俺は何をすればよいのだ、博士?」
「船長なんだから何もせんでよいぞ。みんなに指示を出せばよいのじゃ。それとAIにもじゃ」
「AIか……」
改装中は会いに行かなかったんだよね。
人目があるから避けていた。それに何かをやっているようで、ブリッジから呼びかけたが反応がなかった。まるで眠っているか故障しているかのように。
それで俺も気には掛けてはいたのだが、機械と違って壊れるようなことはないので心配はしていない。ただ、博士に見つかって解体されていなければの話だが。
そのような話は聞かないので大丈夫だと思うが、ただ、呼び出して答えるかはわからない。
動かなかったどうするのだろうか? マニュアルで動かせるのか?
ちょっと不安を覚えていた。
「ミーリア、出航準備だ」
メインモニターに呼びかけると、黒髪の美人が映った。
服装はどこかの制服みたいで、前と違い、軍の士官服ではなかった。
「その恰好は?」
『企業の受付嬢を参考に、新たに作りました。前の姿は使えないということなので』
淡い青のスカーフを首に巻き、紺のジェケットを羽織っている。
受付嬢よりはCAに近いな。短い髪を綺麗に纏め上げ、黒い瞳をしている。日本人をモデルにしている感じする。俺を気遣ってのことかな?
容姿に注文は付けなかったので、俺の容姿を参考に作ったのかもしれない。
「綺麗ね。こんなAIのオペレーター、見たことがないわ」
「黒髪は珍しいな。大抵は金髪や茶髪が多いのだが」
2人がモニターを見て感心している。見たことがないタイプだったようで、興味津々という感じだ。
「これは面白い。コレを自分で考えのか? そのデータはどこから持って来たのじゃ?」
博士は別で、研究者の視点で見ている。
面倒臭いことにならなければよいが。
『放送局に保管されている映像保管用のサーバーから、使えそうな物を組み合わせて作りました。オリジナルです』
放送局に侵入したのか。
完全に犯罪だろ。捕まっても知らんぞ。
「お主にセキュリティーなど関係ないのじゃな」
『人が作った物に完璧という物はないのです』
「それはどういう意味じゃ? お主は人が作った物ではないのか?」
『……』
おいおい、余計なことをしゃべるなよ。ボロが出るだろ。
『禁則事項です。これ以上はお答えできません』
「なるほど。これは面白いぞ。お主に聞きたいことが山ほど増えたわい」
そう言って嬉しそうに博士は笑っている。
こんな奴と話して何が面白いのやら。
長くなりそうなので話を元に戻した。
「ミーリア。出航準備を頼む。何か手伝うことはあるか?」
『何もありませんが、ですが確認です。乗船している方々はこれだけですか?』
「そうだが」
『おかしいです。コンテナより人の反応があります。あの方々はお客様でしょうか?』
「どういうことだ?」
「ちょっと確認するわ」
エミリーがそう言うと、近くのシートに座りシステムを立ち上げた。
機械に強い人がいると助かるね。俺はロズルトと同じで何もできないから。
「……コンテナ内に生命反応があるわ。誰か乗っているわよ!」
積荷もない船に泥棒が入るわけがない。
考えられるとしたら暗殺か?
皇族が乗っているので、命を狙われていたとしても不思議ではない。
慌ててロズルトが武器の確認をする。俺は魔法があるので武器は必要ない。
「監視カメラの映像をメインモニターに出すわ」
切り替わってそこに写し出されたのは幼い子供たちだった。
2人いるみたいで隅の方にうずくまって隠れている。
……どういうことだ?
状況が飲み込めず、俺はロズルトの顔を見ていた。
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