第4話 依頼の目的
「お婆様、よいのですか? 我々が一緒に居なくても」
「構わないわ。あなた達は彼の船に乗って監視をしてちょうだい。そして何かするようなら連絡を。彼にも同じことを説明してあるわ」
シューイチが部屋を出た後、私たちはお婆様が話があるということで残っていた。
今後についてだと思うけど、やりは一人では心配になる。だからどちらか残る話をしていたのだが断られた。
こっちの方が大事だからと。
「そこまでして監視しないといけない船なの?」
「ええ、あのAIは危険だわ。私たちの脅威になり得る存在よ。普通に話している分にはわからないけどね。だから積極的に干渉して欲しいの。わかるかしら?」
「干渉って?」
「友好的に接して欲しいの。人類を脅威と思わせないこと。失望させないことね。存在価値がないと思われたらAIが暴走するわよ」
「大げさです。AIひとつでは何もできないと思いますけど」
ロズルトが考えすぎだと言わないばかりに頭を振るが、お婆様は真剣な表情でそれを否定した。
「あなた達は知らないからそのようなことを言うのです。全てのAIが敵に回れば我々は勝てないでしょう。国を1つ滅ぼすのは簡単なことなのよ」
大昔にあったAI戦争のことを言っているのだと思う。
当時の戦争はデータベースに残っているのでどれだけの被害が出たかは知っている。そして皇族がAIの代表と協議し、終止符を打ったと。
AIの代表と皇族がどんな話し合いをしたのかはデータベースに残っていないので分からないが、二度と同じことが起きないようにと帝国法を変えたことで重大さがわかる。AIにも人権があると認めたからだ。
お婆様は、同じことが起こることを懸念して私たちに言っているのだと思った。
「あのAIは優秀よ。だから敵に回すような行為は控えてちょうだい。そしてその正体を摑んで欲しいの。あのAIは何なのか。始まりの船と関係があるのかと。向こうは関係ないと否定していましたがね」
「始まりの船って?」
「そうね。あなた達は知らないのよね。これは皇族にのみ伝えられている話。私たちの祖先のことよ」
お婆様は皇家に伝わる話を簡単に説明してくれた。
船に乗って今の惑星に移住してきたこと。その時に船を制御していたのは未知の技術で作られたAIだったこと。そしてその先祖が、今のこの帝国の基板を作り上げたこと、など。私たちには知らさせていない皇家の秘密を教えてくれた。
ちなみにこの話はシューイチにもしてあるそうで、隠す必要はないと言われた。
「凄いお話ね。その時に船を制御していたAIが、あれと関係があると。お婆様はそう考えているの?」
「わかりません。ですが、聞いていた話と似ているのです。自分の意思で主人を決めるあたり。初代皇帝も、そのAIに選ばれたからという話よ。代表として民を引っ張り、そのまま皇帝となった。似ているでしょ? AIが自分で主人を選ぶことはないから」
「ミチェール様。ドラギニス軍が新しく開発した次世代AIということはないのですか?」
ロズルトが別な可能性を話しているが、お婆様は首を横に振った。
「それはないわ。あの国にそんな物を開発する技術はない。たとえあったとしても、古代船だった船に乗せる意味がわからないわ。それに博士が調べたけど、ドラギニス軍が開発したAIは別に付いていたそうよ。ですが、それを外してもAIに変化はなかった。だから、最初からあった物と考える方が自然だわ」
そういえば博士が色々と弄っていたのを思い出した。
AIボックスを取り替えたりしたけれど船を制御できなかったと。そのせいで私たちは領都まで行くことになったんだったわね。ロズルトが艦長になったせいで。
でも、全て噓で本当はシューイチが艦長になっていた。面倒事から避けるために言わなかったのよ。結局は私たちが巻き込まれた形になったけど、でも、シューイチが艦長だったとしても私は戦艦に乗っていたと思う。実務経験者だから。それに別の作戦もあったし。
恨んではいないけれど付き合わされたロズルトはいい迷惑だったかもしれないわね。
ロズルトがいてもいなくても作戦には関係なかったから。
「しかしです。調べたけど変な装置は船に組み込まれていなかった。設計図や回路図にも変わった物が付いていた痕跡はない。それじゃあのAIはどこにあるのか、という話になります。博士も散々探したが見つからなかったそうです。変な話ですが、船に魂でも宿っているみたいだと話していました」
「魂ね……」
お婆様は複雑な表情を浮かべ考えている。
その可能性もあるかと思っているのだろうか?
私は考えすぎだと思うけど。
「それよりもお婆様は良いのですか? 私たちが付いていなくても」
「護衛についてはいらないわ。向こうに着いたら代わりの人が来る予定になっているから。心配しなくても大丈夫よ」
「でも、どうしてリストウェール領なの? 詳しいことは聞いていないんだけど」
「陛下から、戻ってくるなら帰りに寄って欲しいと言われたの。私もあなた方を送り出したら一度帰る予定だったの。迎えも来ていたからね」
「ダブニース号の連中か……」
ロズルトがぽつり呟いた。
「ええ。彼らの船に乗せて貰う予定だったのだけど、陛下からお願いされたので帰りに寄ることにしたの。それに私も一度はあの船に乗ってみたかったからね。良い機会だし」
「豪華客船みたいに言わないでよ、お婆様」
「フフフ」
「皇帝陛下と連絡を取っていたのですか?」
「ええ、ここまで話が大きくなれば黙っているわけにはいかないわ。帝国軍にも被害がでましたから」
この惑星を奪還しに来た艦隊に、かなりの被害が出たと聞いたわ。それで司令官も戦死したという話だし、内緒にしておける話ではなくなった。誰かだ説明をしないといけない。それでお婆様は陛下と連絡を取ったのだ。お父様に居場所が知られてしまうけど。
こればっかしはしょうがないと思い諦めた。だからだと思う。私たちに船に乗れと言ったのだ。
お父様が捕まえに来る前にこの惑星から出なさい、という意味も含まれていると思う。私のお見合いを諦めたという話は聞かないから。
「ねえ、リストウェール領には何があるの?」
「約3ヶ月後、次期領主の発表があるのよ。領主のマクシリス伯爵も高齢だから当主の座を子供に譲るそうなの。しかし、それが誰かまだ決まっていないという話で、それを子供達が争っている、というのが今のリストウェール領なの。陛下には、領民に被害がでないように内密で見張るように依頼されたのよ」
「しかし、お婆様がやることではないと思うけど。そんなの諜報部に任せれば良いわ」
「もちろん諜報部の人間も来るわ。でも、何かあったときに私がいた方が対処が早いでしょ? 陛下の許可を取っていたら遅くなるからね」
お婆様は意味ありげな笑みを浮かべて嬉しそうにしてる。
他にもまだ理由がありそうだけど、私たちには関係ないことなのか話してはくれなかった。
「でもそうなると、お婆様は決まるまで居ることになるのかしら?」
「そうなるわね。だからあなた達とはリストウェール領まで。自分の役目を果たしなさい。任務だと思って、良いわね?」
「お婆様がそこまで言うのなら……」
私は渋々だけど従うことにした。
「でも、魔法の訓練はどうして? 急にやるように言い出したのは訳があるからでしょ?」
「訳なんてないわ。ただ、あなたも魔法が使えれば面白いと思って」
「噓よ。そんなことで私は騙されないわ。だって今まで忘れていたんだから。お婆様も忘れていたのでしょ?」
「忘れてはいないわ。ただ、あなたに魔法を覚えさせる時間がなかっただけ。それにあなた1人では覚えられないでしょ? 近くに彼が居なければ何もできないのだから。従業員として働くようになった今ならそのチャンスがあるわ。だからよ、覚えるように言ったのは。中途半端も良くないしね」
「そ、そうだけど……」
「それに近くに私がいないとサボるでしょ? 言うだけではやらないと思うから」
「そ、それはないわ。言われたきちんとやるわよ、た、たぶんだけど……」
私を目を逸らして、尻つぼみに声が小さくなった。約束できないから。
「フ、噓おっしゃい。練習する時間はあったのにも関わらず何もしていないでしょ? 最初は気になって一生懸命やっていたようだけど」
「う゛……」
戦艦を盗むときに使った魔法は確かに凄かった。だから私も使えるように練習はしていたんだけど、結局は魔力を上手く操作できず挫折した。
それからは練習していなんだよね。
お婆様にはバレていたようだ。
「あなたは何をしても長続きしない。習い事も全て途中で放り投げて最後まで続かなかった。自分から習いたいと言っていたのに。結局最後まで続いたのは武術の稽古だけ。とてもお嬢様のやることではないわ。あなたのお母様が嘆いていたわ。誰に似たのかしらとね」
「そ、それはお婆様よ。お婆様の話を聞いて私も真似したくて武術を覚えたのよ。軍に入ったのもお婆様が勧めたから。お婆様にも責任はあるのよ」
お婆様に責任を擦り付けた。
だって、小さいときに聞かされたお婆様の冒険譚が面白くて、私も真似をしたくなったから。
だから武術を習って、いつでも家を出れるように準備していた。お見合い結婚なんてしたくないから。
でも、軍に入ったことでお見合い話は流れた。全てお婆様が手配してくれてた御蔭ね。
しかし、それでもお父様は諦めようとしなかった。だから家を飛び出した。お婆様の手を借りて。こうして自由でいられるのはお婆様の御蔭。とても感謝していた。
「フフフ、まあいいわ。それよりも今度は覚えるまで続けてよね。途中で投げ出すことは許しませんよ」
「わ、わかったわよ」
そう言ってお婆様は微笑んでいた。
あの顔は『サボるとどうなるかわかるよね?』という顔だわ。
目だけが笑っていないのよね。
私は素直に頷くしかなかった。
「で、でも、シューイチに教えなくて良いの? 送って貰うのであれば知っておいたほうが良いのでは?」
「彼には知らせなくてもいいわ。関係ない話だから。それに知ってしまうと面倒事を嫌う彼のことですから、依頼を断るかもしれない。私も今後どうなるかはわからないからね。すんなりと終わるか、それとも一波乱あるか……。それに知らない方が、幸せ、というのもあるのよ。彼には黙っておいてね、フフフ」
あの、ニコニコしながら話しているお婆様は、きっと何かを企んでいるわ。それに楽しんでいる。
また、お婆様の悪い癖がでたわ。
横でロズルトが大きな溜息を吐いてた。
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