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第1話 密航者


「黙って入って怒られないかな?」

「大丈夫だよ。もう戦争は終わったって言っていたし、見張りの人もいなかったから入っても怒られないよ。でも見つかると、伯父さんのところに連れ戻されちゃうから見つからないようにしないと」

「うん」


ふたりは基地のドックに忍び込むと、目の前の大型商船を見つめていた。

コンテナ部分が横に飛び出しており、見るからにして不格好な船だった。

こんなのが飛ぶの?

と思っているに違いない。

ふたりとも不安な表情を浮かべ眺めていた。


「お兄ちゃん、本当にこの船に乗るの?」


長い髪をポニーテールでまとめた少女が、心配した顔で兄の顔を見つめていた。


「大型船だとこの船しかなかったんだ。小型船だと隠れていてもすぐに見つかっちゃうから。それに時間がない。伯父さんが明日俺たちを連れて行くようなことを話していたから、逃げるとしたら、明日出航するこの船しかないんだ。でも、ちょっとだけの辛抱だ。他の星に着いたらすぐに下りるからな」


髪を短く刈り上げた少年は、少女の顔を見ながら優しく微笑んだ。


「うん……でも、あの優しい伯父さんがそんなことをするのかな? 信じられないよ」

「しかし聞いたんだ。商人が家に来て、俺たちを他国に連れて行くと。この国は奴隷は禁止されているから、連れ出さないと売れないと」


少年は家であったことを思い出していた。


家に帰ると見知らぬおじさんと伯父さんが部屋で立ち話をしていた。

たまたま二人の会話が耳に入り、奴隷として売る商談をしていた。幼い子供は他国で人気があるから高く売れると。

それを聞いた伯父さんはニヤニヤしていた。そして最後に、邪魔だから早く引き取れと。投げ捨てるような口調で相手のおじさんに言っていた。

俺はショックだった。

あの優しかった伯父さんから、そのような言葉を聞くとは思わなかった。しかも、ずっと邪魔だと思っていたなんて。

俺も自分の耳を疑った。だから、おじさんの後を付けていって正体を探ったら、ペニトスア国の商人だった。ペニトスア国は奴隷を認めている国。そんなところに連れて行かれたら売られてしまう。

だからその前に逃げることにした。伯父さんたちの目が届かないところに。


「それじゃ、この間話していた旅行の話は噓ってこと?」

「そうだ。この星から連れ出すための口実だ。星を出るとき騒がれたら捕まるからな」

「そうなんだ……」


少女は下を向いて涙を流していた。

旅行を楽しみにしていただけにショックが大きかったのだ。それに信頼していた伯父さんにも裏切られた。

幼い少女には耐えられない話だった。


「……お兄ちゃん、私たちのお家に帰りたい」

「ミュー、もう俺たちのは家はないんだ。燃えちまって何もかもなくなった。この星に俺たちの居場所ないんだ」

「グス……お父さんに会いたいよ」

「父ちゃんは死んだんだ。俺たち二人で生きていくしかない」

「でも、そんなことできるの?」

「そのために父ちゃんから仕事を習ったんだ。俺が働けば何とかなる。でも、この星では駄目だ。見つかったら伯父さんのところに連れ戻されるからな」

「……わかった。お兄ちゃんについて行くよ」

「大丈夫だ。俺は父さんと母さんからミューを守ってくれと頼まれた。何があっても絶対に守れと。だから心配するな。困ったことがあった兄ちゃんに相談しろ。兄ちゃんはいつでもミューの味方だからな」

「うん!」


少女は、涙を流しながら笑顔で力強く頷いた。


「ねえ、お母さんってどんな人だったの?」

「……綺麗な人だった。いつも笑顔で、俺が服を汚して帰ってきても怒ることはなかった。物静か上品ですごく優しかった」

「そうなんだ……わたし、全然憶えていなくって」

「ミューが1才の時に亡くなったからな。憶えていないのは仕方がないよ」

「でも、どうして写真がないの?」

「お母さんは写真に撮られるのを嫌っていた。だから殆どないんだ。でも、今思えば、何枚か撮っておけばよかったな。もしかすると父さんが持っていたかもしれないが、火事で焼失したかもしれない。でも、顔はミューに似ているから、大きくなればお母さんみたいな美人になれるぞ。それは兄ちゃんが保証する」


美人になれると言われた少女は、恥ずかしそうに頰を赤く染めていた。


「そういえばご飯はどうするの? わたし、何も持ってきていないよ」

「父ちゃんが言ってた。商船には自動調理器が付いているから、夜中に食堂へ忍び込めば好きなだけ食べられるって。父ちゃんはそうやって人の倍も食べていたって自慢していたよ。でも美味しくなかったとも言っていたけどね」

「お父さんが……」

「それに商船は隠れるところが多いから、よく密航者が多いって。だから探すのに苦労してたと話していた。だから商船を選んだんだ」

「そうなんだ……」


少年の話を聞いて父親のことを思い出したのか、少女の目には涙が溜まっていた。それに気がついた少年は少女を優しく抱き込んだ。


「大丈夫だ。何とかなるって。ミューは兄ちゃんに付いてくるだけで良いからな」

「……うん」


少女は少年の胸に顔を埋め小さく頷いた。


ふたりはハッチの近くまで移動すると、あまりの静けさに不安になっていた。

出航前は大勢の人で賑やかのはず。しかしそれが感じられない。船が幽霊船のように見えた。


「……誰もいないね」

「ああ、明日出航のはずだから、もっと人が大勢いると思ったんだけど……」

「荷物も積んでいないようだし……大丈夫?」

「ここのドックを管理しているおっちゃんから聞いたんだ。明日急に出港することになったって。だから食料を大量に積んだと話していた。だから大丈夫なはず」

「でも、もし明日出なかったどうするの?」

「その時はまた考える。でも、誰もいないのであれば船には誰も乗っていないかも。今ならご飯が食べられるかもしれないぞ」

「本当! わたし、お腹がペコペコなんだ」

「俺もだ。人が来る前に乗っちゃおう」

「うん!」


ふたりは誰もいない船に乗り込んだ。その様子を、船の監視カメラが一部始終見ていることも気づかずに。




ご覧いただきありがとうございます。

第2章 スタートです。


過去の話も修正しながらの更新なので、時間が掛かっていますが、ぼちぼちと書いています。

お暇でしたら付き合ってくださると嬉しいです。

ついでに評価もしてくれるともっと嬉しいです。

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