第194話 商船②
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「関係ない話で長くなったが、俺の船の方はどうなったのだ? 今日はその話をしに呼んだのだろ?」
「ええ、そうよ。8割方、改装は終わっているわ」
そう言って楽しそうに笑う。
俺は改装と聞いて首を傾げた。
「改装? 8割方? ……何のことだ?」
「武装を外して大きなコンテナを付けたの。だから大丈夫よ」
「大丈夫? 何が??」
情報端末のモニターをこちらに向け、船の外観を見せられた。
「……あれに似ているように見えるが?」
「あら、気がついた。そうよ。戦艦ウリウスを改装したのよ。大型の武装を外したから戦艦ではなくなったわ」
「……」
嬉しそうに話しているが、何なんだ?
確かに戦艦はいらないと言った。
だからといってこんな物をよこされても困るのだが。
「船の中央付近に巨大なコンテナを付けたのよ。そこに荷物を積めるようにしたの。これで立派な商船になったわ。後は商会を立ち上げて、保有船舶として登録すれば商売はできるようになるわ」
モニターに指差して、この部分が「コンテナよ」と自慢げに話している。
外観は主砲を外したことで戦艦ではなくなった。
船首は変わらず尖端であるが、嵌め込んだ感じで付けた長方形の巨大なコンテナが、前の面影をなくしていた。前は四角錐タイプだったのが、今は十字タイプに変わっている。横に飛び出た分が全てコンテナだ。空を飛ぶには不格好だが、空気抵抗がない宇宙なら何の支障もない。
確かに船で商売をしたいと言っていたが、こんな大型を期待していたわけではない。最初はこぢんまりとした船で、細細と商売が出来れば良いと思っていたのだが、こんな物をよこすとは。
初心者が乗るような船ではない。
武装は大型のレーザー砲が外され中型のレーザー砲に変わっていた。そして取り付けた巨大なコンテナの上にも小型のレーザー砲が付いており、一応、自衛もできるようにはなっていた。最低限の武装は搭載されていた。海賊対策だと思うが、頼り無いというか心細いというか、ちょっと心配になるような貧弱な武装だった。
まあ、無いよりは増しだろうレベル。
荷物を積めば重くなるので、スラスターを1ランク上の物と交換したそうだ。
そして今日呼ばれたのは内装についてだ。
外観はこれ以上のことはできないので、内装でどうするか相談したいそうだ。
「いやいや、その前に、こんな大きな船を貰っても管理できないが。それにどうやって運用するのだ? 一人では操船できないぞ」
「でも、あのAIがあれば全てやってくれるでしょ? あなたは座っているだけ大丈夫よ。後は私たちに任せて貰えれば全て上手くいくわ」
「私たちって……まさか!」
「従業員は必要でしょ? エミリーとロズルトをつけるわ。あの二人が乗っていれば何とかなるでしょう。本当は私も乗りたかったのですが、後始末が忙しくて今回は遠慮したのよ」
「今回はって……」
勘弁してくれよ。
あんたまで乗ってきたら俺の船ではないだろ。
やばい、頭が痛くなってきた。
知らない間に話が進んでいる。どういうことだ?
「いやいやいや、エミリーはわかるとしてもロズルトは操船できないだろ? 乗っけても役に立たなければいらないが」
「そんなことはないわ。操船はできなくても荷の積み下ろしはできるわ。操船だけが仕事ではないでしょ? それにあなたたち二人だけで船に乗せることはできないわ。何か間違いがあったら困るからね」
「ねうよ! そんなこと。間違ってもしないから」
「あら、それはエミリーに魅力がないということかしら?」
「おいおい、人の揚げ足を取るな。そういう意味じゃね」
「フフフ。冗談はさておき、商会を立ち上げてもすぐに人が集まるとは限らないわ。それに信頼できるかというと別問題でしょ? 人が集まるまでは二人に手伝って貰うと良いわ。あなたのために言っているのよ」
「む……」
そう言われると断る理由がない。
はあ、どっと疲れてきた。
「それで内装だけど、戦艦と違い人手は必要ないのよ。だから船員室の数を減らすけど、そうなると空きスペースができるの。それでどうしようか、というお話。何か付けて貰いたい物はある?」
「本来は何人で操船するのだ?」
「大型商船は大体15人ぐらいで操船しているわ。操舵士に通信士に機関士にと、最低限の人は必要だけど、殆どがボタン一つで操作できるので人手は必要としないのよ。それだけの人が寝泊まりできる部屋があれば良いだけ。他は空きになるわね」
船員室は50以上あったはず。殆どが空きになるということだ。その空いている部屋をそのままにしておいても勿体ないので、何とかしようという話だ。
本来であれば、商船として作られていれば、そんなスペースは出来ないのだが、後から改装したのでそうなってしまったそうだ。
「そうだな、大きな食堂も必要ないし、住居区のレイアウトを見直そうか。そして部屋は、この後のことを考えて15部屋残し全て個室で。少し大きめにしてくれないか。部屋が狭いので」
「わかったわ。それ以外は?」
「会議室とトレーニングルーム。船員が休める休憩室をつけて、後は大きな風呂が欲しい。日本人は風呂がないとな」
「風呂? シャワーじゃ駄目なの?」
「ゆっくり浸かりたいのでね。部屋のシャワーじゃ物足りない」
「そう。そうなると水を大量に使うわね。今の倍は必要になるかしら。そうなると貯水タンクを大きくするか2つ付けるか。でも、大きくすると今の所に収まらないわね。もう1つ別の所に付ける方か楽かしら? お風呂用として。そうね、その方が良さそうね。空きもあるし」
ミチェイエルがブツブツ言いながらメモを取っていた。
「他は何が必要?」
「飯はどうなるのだ?」
「自動調理器になるわね。人件費が掛からないから」
「それでは高級なやつな頼む。業務用ってやつを。あれは美味しいからね」
外食で食べた料理は美味しかった。家庭用の奴はメニューは多いが味は今一。どうせなら業務用を要求した。
「それは予算オーバーね。後で付けられる物は自分で稼いで付けて。今は外装を外しているので、ついでで無いとできないことをやっているのよ。後から出来ることは自分でするようにね」
そう言ってニコッとした。
何でも要求が通るというものではないようだ。
「それぐらいのサービスは無いのか?」
「何事にも予算というのがあるのよ。改装だって相当なお金がかかっていて只ではないのよ。後で出来ることは自分でするようにね。それに使ってみないとわからないこともあるわ。その時に、まとめてやればいいのよ」
そう言われてしまうと何も言い返せない。
それでも最低限な物は付けてくれるようなので、文句は言えなかった。
「以上でよいかしら?」
「武装はそれ以上は増やせないのか?」
中型レーザー砲が4門に小型レーザー砲が12門。
コンテナ部分に小型レーザー砲が上下に2門づつ付いており、左右合わせて計8門。本体側にも4門だ。
中型レーザー砲が上部甲板に2門、側面に1門づつ、計4門。
急に心細くなっていた。
戦艦だったときと比べると頼り無い。ミサイルも積んでいなかった。
「無理ね。武装を増やすと荷の積載量が減るの。そうなると商船して登録ができないのよ。商船にするには決まった量以上の積載量ないと駄目なの。コンテナを付ければ良いというものではないのよ」
商船は大・中・小とあり、積載量で決まるそうだ。
積載量を減らすと、中型商船になり、決まった量以上の荷物が積めなくなる。今度は空きスペースが増えるということだ。それに停泊料は船の大きさで決まるので、大型船で請求される。税金もだ。だから損をするので、これ以上の武装は付けられないと言う。
大型にしては小さい部類に入るので、これが限界なんだそうだ。
「せめてミサイルぐらいは付けて欲しかった」
「ミサイルは場所を取るから付けないのよ。それに誘爆の危険もあるし。船内で爆発したら積荷に被害がでるでしょ? そういうわけで、危険物は乗せないようにしているのよ」
何かの弾みで爆発し、積荷に被害がでれば俺が賠償しないといけない。
だからそういった物は積まないそうだ。
「それでも海賊船を相手にするには十分よ。でも、数で来られたら駄目だけどね」
基本、大型商船は護衛を雇うので武装はいらないという話だ。
だから必要最低限の物が付いていれば良いと。
「それだと利益が減るのでは?」
「積荷を奪われるよりはましよ。賠償金を払わないといけないのだから、その額と比べたら安い物よ」
「まあ、確かにそうなんだが……」
地上だったら賊など自分で始末できるのだが、宇宙だとそうはいかない。
こうやって考えると、勇者といっても全然役に立たないな。宇宙船相手では手も足もでない。
「小型戦闘機を乗せることはできないか?」
「自分で乗るの? お勧めはできないわ。船に乗っている方が安全よ」
「少しでも自衛できる手段があった方が良いと思ってね」
「そう。乗せることは可能よ。元々は戦艦だったし、ハンガーは空いているわ」
「なら、そこに戦闘機を積めるか?」
「積めるわね。でも、整備する人はいないわよ。商船なんですから」
「ああ……それは後でなんとかする。どの道、船を整備する整備士とか必要だし、探してみるわ」
「わかったわ。ハンガーに関しては手を付けないで置いておくわ。後で自分で用意してね」
船は上げると言ったが戦闘機までは契約外のようだ。
まあ、船ほど高くはないのですぐに手に入るだろう。
「以上かしら?」
「そうだな……今の所は特に思い付かないな。後は乗ってみないことにはわからないし」
「そうね。後自分で揃えてね。空き部屋は壁を取り外し、船内用のフリースペースにするわ。大した量は積めないけど、使い方によっては便利になると思うわよ。ベッドを用意すれば部屋にもなるし、人を乗せることも可能になるわ。そのための水回りも用意しておく。設置するだけで使えるようにね」
「そこまでしてくれたら文句の付けようがないな。しかしあれだな、この案はミチェイエル殿の案か? 俺にはそう思えないが」
「どういうことかしら?」
「ウリウスのAIが関わっていないか?」
「あら、私がAIに言われてやっているということかしら? それはないわ。私が勝手にやっているだけ。それに、あの船をそのまましておけないでしょ? あなたが乗っていなければ使い道がないのですから。後はスクラップにするしかないけど、それも勿体ないからあなたに上げるのよ」
「それは違うだろ。自分たちで何とかできないから、俺に押しつけただけ。あの二人も監視だろ?」
「フフフ、半分当りで半分外れ。でも、人手の話は本当よ。あなたひとりでは操船できないわ。それに何も知らないでしょ? この世界のこと。知っている人が居た方が良いから付けたのよ。『異世界人』とは人前で言えないでしょうからね」
よく頭が回るご婦人だ。
一般人ではないだろ。ここの領主のことも知っていたし、しかも伯爵を呼び捨てにしていた。それだけで察しが付く。やはり、高貴な人物か皇族だと。
……なるほど。それで帝国軍がすぐ動いたのだな。この人のために。
普通に考えれば、嶺軍が負けてから奪還作戦になると思うがその前から帝国軍は動いていた。辺境の惑星を取り戻すだけにしては動きが早すぎる。それに英雄まで派遣していた。失敗は許されないからだ。
不可解な行動に全ての説明がついた。それにそれだけの身分があれば、俺の指名手配も簡単に消せるだろう。
そうなるとあの二人は何なんだ?
この人が推薦するということは、こっちも一般人でない可能性が高い。
やれやれ、貴族と関わりにはなりたくなかったのだが。
「監視を付けられようが何をされても今の俺には選択肢はない。全部そちらからの貰い物だからね。要らないとは言えないだろ? 宇宙船だって安い物ではないだろうし、働いてすぐに買えるようなものではない。しかし、俺を監視する目的はなんだ? そちらの気に障るようなことをした覚えは無いのだが」
「目的はあなたではないわ。あの古代船よ。いいえ、AIの方と言った方が良いかしら。あれを野放しにはできないでしょ。私の知らないところで色々とやっているようだし。監視が必要と思ったのよ」
「それならいっそのこと壊してしまえば良いのでは。そんな面倒なことをしなくても楽になるぞ」
「フフフ、それができれば良いのだけど、できないからこうして監視を付けているのよ」
「なぜ?」
「ここからは他言無用よ。このことは皇族や王家の者しか知らないの」
そんなことを言ったら、自分は皇族だと言っているようなものだぞ。
そしてその年齢だと皇太后様、ということか。もしくはそれに近い人。
やれやれ、大物ではないか。それなら国軍が動くのも頷ける。とんだ爆弾を抱えていたものだ。レジスタンスも。
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