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第192話 超高熱反応弾②

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「やはりきたか。戦闘準備、第1戦闘配置!」


船内が慌ただしくなった。

クルー達は船内放送が入ると、すぐに持ち場に付いてこちらの指示を待っていた。

正規の兵士ではないのに、よく訓練されている。次々とシステムチェックが入り、正常である旨が報告されていた。


「グランバーさん。通信です。本艦はこの場で待機とのことです」

「素人の我々が前に出ると邪魔ということか」


軍人でもない素人の集まりなのだらか命令されたら従うしかない。

それならと思いモニターで帝国軍の動きを見ていると、脇のサブモニターに女性士官が映った。

船に乗ってから一度も姿を見せなかったのに、今になってなぜ?

タイミング的にいって嫌な予感がした。


『マスター、この宙域は危険です。もっと後方に下がることを推奨します』

「なぜだ?」


俺の問いに全員の視線が女性士官に集まる。始めて見る人もいて、興味津々の目で眺めている者もいた。


『敵戦艦から未確認の兵器を確認しました。あれを使われると、この辺りの宙域が消滅する可能性があります』

「どういことだ?」

『シールド展開。反転し、後方に移動開始します』


船が勝手に動き出した。


「グランバーさん、コントロール不能です」

「こちらも操縦できません」

「ジェネレータの出力が上がっています」


クルー達は慌てもせず逐次報告していた。

前のクルーから聞いていたのかもしれないな。こういうことがあり得ると。色々とやらかしているからね、この船は。

冷静に対処していた。


「あれって何だ? 何を警戒している?」

『詳細はわかりません。しかし、この艦を目標に発射準備がされているようです』

「だから何がだ?」

『超高熱反応弾です。あれが発射されたらこの辺りは消滅します』


ブリッジ内が静まり返った。名前だけでも物騒だな。

なに、その超高熱反応弾?

聞いたこともないが。


「おい、グランバー。超高熱反応弾って何だ?」

「いや、知らない。星系軍の新兵器か? まあ、超高熱反応弾という名前だし、どういう物か想像は付くが、しかし、そのよう物を開発していたという情報はなかったはず。どういうことだ?」


軍人上がりのグランバーが知らなければ誰も知っているはずがない。

話を聞いていたクルー達も困惑していた。


「グランバーさん。星系軍が移動を開始しました。星系軍の艦数37隻、突撃陣形です」

「帝国軍が戦闘準備に入りました。シールドの展開を確認。主砲、チャージ中」

「帝国軍、旗艦を中心に密集陣形に移行中」

「たった37隻で突撃だと。自殺行為だ」


突撃陣形とはシールドを張った船を前面に出し、その後ろに多くの船が着いていく戦法だ。

矢印のように細長く伸びていることから、包み込まれるように囲まれると、あっという間に壊滅する。確か、鋒矢ほうしの陣に似ている。中国の兵法にそんな陣形があったな。

一点突破し、逃げようという腹か。しかし、124隻対37隻。3倍近くの戦力差で、突破できるとは思えなかった。


「それで新兵器ということか……」


考えられるとしたらそれしかない。

新兵器で戦うつもりだ。


「どうする? 帝国軍に知らせるのか?」

「いや、俺たちが言ったところで信用されないだろう。それに、その超高熱反応弾という物もどういう物かわからなし。もっと情報はないのか?」


グランバーが女性士官に聞いているが、情報不足だとしか答えなかった。


「一応、警戒するように連絡でもするか。回線を開け。ベルンハルド・ベイロン少将と連絡を取る」

「敵艦からミサイル発射を確認。しかし、射程範囲外です。こちらには届きません」

「長距離からのミサイルなど全て撃ち落とされてしまう。どうことだ?」


グランバーが険しい表情を浮かべてメインモニターを凝視していた。


「敵艦との距離4万。帝国軍が攻撃を開始しました」

「敵艦のミサイルの中に大型のミサイルを確認。こちらに来ます!」

「大型のミサイル……超高熱反応弾か!」

『リミッターを解除します。シールドに全てのエネルギーを回します。最大出力。外装緊急冷却開始。隔壁閉鎖。緊急回避』

「ジェネレータの出力が150パーセント超えました!」

「スラスターが最大出力! レッドゾーン突破! 危険です!」

「お、おい……」


俺が言い掛けた瞬間、視界が一瞬で真っ白に染まった。

何が起きたかわからなかった。

時間的に数秒ほどと思うが、視力が回復するまで長い時間を感じていた。


「目、目が!」


辺りを見ると全員が目を押さえてうずくまっている。

網膜を焼かれたのか「見えない」と言って騒いでいる者までいた。ブリッジ内はそんな感じでパニックになっている。

ちなみに俺は回復魔法を使って一瞬で治していた。


「これが超高熱反応弾か……」


外を見ると帝国軍の艦隊の真ん中が、すっぽりと穴ができるている。そこを中心で炸裂したのだろう。残骸も何も残っていなかった。


「星系軍は!」


目が見えるようになったのか、グランバーがメインモニターを見ながら大声で訪ねていた。

どうやらモニターを見ていた人たちは大丈夫だったようで、窓から外を見ていた人たちだけが、網膜をやられたようだ。


「レーダー停止! 位置が確認できません!」

「今攻撃されたまずいぞ。システムを再起動しろ!」


グランバーが大声で指示を飛ばす。

俺はその間、目が見えなくなったクルーたちに、そっとヒールを掛けていた。

回復魔法だが、目を治すぐらいならそれで十分だ。掛けられたクルーは突然目が見えるようになり驚いているが、何も説明せず、その場を離れてメインモニターの前へ戻った。

魔法が存在しない世界で魔法を使った、なんて言ったら痛い人扱いだからね。

内緒にしておいた。


「レーダー再起動……復旧しました」

「どこにいる!」

「星系軍の位置を確認。そ、それが消えました。レーダーに反応ありません」

「一緒に消滅したということはないはずだ。どこに向かった? 解析班、レーダーの解析を急げ!」


一通り指示を飛ばした後、グランバーは疲れた顔でシートに腰を沈め、何も映っていないメインモニターを眺めていた。


「やられたな。これほどの威力があるとは……」


ボソッと呟き、しばらく無言でいた。

そういえば前にグランバーが言っていた。戦争は何が切っ掛けで戦況が変わるかわからないと。

正にその通りになったと思った。


「レーダーから戦闘時の位置情報の解析が終わりました。星系軍は帝国軍に向かってワープをしています」

「こちらに向かってワープだと? 惑星とは反対方向だ。どこへ向かった?」

「これ以上の追跡は無理です。監視衛星からの情報がないと」

「おかしい。第3惑星へ向かうコースからも外れている。ドラギニス軍と合流ではないな。……まさか逃げたのか? 惑星を捨てて逃げたというのか?」


信じられない、という顔で考えているが、俺はアリだと思っている。

このまま惑星に戻っても勝てるとは思えないし、あのような兵器が何発もあるとは思えない。勝てる見込みがなければ普通に逃げるだろう。惑星など捨てて。捕まれば極刑なんだから。


「考えたところで始まらない。まあ、惑星に戻ればわかるだろう」


俺が言うと「チッ!」と舌打ちして、ギロリと睨んだ。

俺に怒っても仕方がないだろ。最初からこうなると知っていたわけではないし。


「ところで、こちらの被害状況はどうなんだ? AIが色々とやっていたようだが」


リミッター解除とか言っていたな。必要以上のパワーを使うと、その後は動かなくなる。

そっちの方が心配だった。


「今調べさせている。各班、報告を」

「はい。本艦はジェネレーターがダウンしています。サブが可動中です」

「艦内酸素量値正常。外装などのは破損はないです。ただし、主砲が全門使えません」

「生命維持装置正常。重力発生装置も問題ありません」

「シールド発生装置停止。オーバーヒートで緊急停止しました。復旧の時刻はわかりません」

「ワープ装置停止中。メインジェネレーターダウンにより使用できません」

「スラスターも動きません。高負荷が掛かり、緊急停止したようです。整備し解除が必要です」


その後も色々とを報告が上がってきたが、復旧できないような致命的な故障はないようだ。


「はぁ、ボロボロだが船は守られたようだ」


そう言ってグランバーが安堵の溜息を漏らしていた。


「あの爆発範囲内で生き残ったのは、この船だけみたいだな。他は全て消滅したようだ」


チラッと外を見ると、あの範囲内で生き残っているのはこの船だけ。近くにいた艦隊も消滅していた。もし、少しでも対応が遅れていたら、俺たちも一緒に消えていたかもしれない。いや、この船でなかった堪えられなかっただろう。あの攻撃を。

この船で迎えに来て正解だったようだ。


「さて、どういう状況か説明しろ」


俺は女性士官こと、ダンジョンコアに訪ねた。状況が飲み込めない者が多くいたから説明を求めたのだ。


『超高熱反応弾が爆発し、超高熱線が船を襲いました。シールドでガードを試みましたが、それでは耐えられず、全てのエネルギーをシールドに回し、強化して耐えました。そのせいでシールド発生装置とジェネレーターに負荷が掛かりダウンしています。復旧には丸1日必要です。シールド発生装置は修理の必要があります』


一時的に200パーに近い出力を出したことで、ジェネレーターを休ませる必要があるとか。しばらくは移動もできないということだ。


「そういうことなら仕方がない。こうしてAIが船を守らなければ沈んでいた」


そう言ってグランバーは一定の理解を示していた。

いつもなら勝手なことをして、と怒るところなんだが、今回はコアの機転で助かった。いや、こうなることが予想できたから後方に下がったのだろう。もっと早く教えて欲しかったね。被害が出る前に。


「お前はどこまで知っていたのだ?」

『予測はできていました。しかし、威力がわからず、はっきりとした事を申し上げることができませんでした』

「あの兵器は何なんだ?」

『資料がなく、何なのかはわかりませんが、超高熱反応弾ということで、どういう物かはわかります。高熱を発するミサイルで、瞬間的に5千℃に近い温度を出していました。ですが、材質や材料などはわかりません。火薬を使った爆発ではないのは確かです』

「核とか水素とか、そっち系統の爆弾か……」

『実際にはそれとは違います。放射線が検出されませんでした』

「人体に影響はないのだな?」

『観測したデータによると、健康被害はありません。ただし、直視した者は網膜を損傷したようです。医療ポットで治療が必要です』

「目をやられただけか。命に関わる被害がなくて良かったよ。しかし、超高熱反応弾か……危険な兵器だな」

『軍のサーバーに侵入しましたが、この国で使われた痕跡はありません。他国で使われた事例がありましたが、詳細はなく、噂程度の情報しかありませんでした』

「そういえば誰も警戒していなかったな。普通のミサイルとは違うのだろ?」

『特殊で、かなりの大型です。普通のミサイルとは違い専用の発射台がないと撃てません』


そう言ってメインモニターに戦闘時の映像が流れた。

戦艦から発射され、爆発するシーンが録画されていた。


「かなり大きいな。普通のミサイルの倍以上はあるのか。あれでは普通に発射することはできない」


拡大されたミサイルを見てグランバーが呟いていた。


「そうなのか?」

「ああ。あのサイズでは発射口に収まらない。……なるほど、それで戦艦ゴリアンテか。こうやって見ると甲板に専用の発射台がある。あのような物を作らないと発射できないのであれば、大型艦でないと無理だな。スペースがない」


拡大された戦艦ゴリアンテの映像が映し出されたが、甲板に専用の発射台が付いてた。前に戦ったときに付いていなかったということだし、デザイン的に不格好だから後から急遽付けたのだろう。あのミサイルのために。


「あんな物、辺境の星系軍が開発できるものなのか?」

「あのような兵器が開発されているという情報はなかった。きっとドラギニス軍が用意したものだろう」

「すると、あれがまだあるということか?」

「その可能性はある。あれがドラギニス軍から提供された物なら」

「それってもしかして非常に不味いのではないのか?」

「ああ、第3惑星に集結している領軍が負けるぞ。なんな物を何発も撃たれたら勝ち目はない」


これから第3惑星で戦闘が始まる。

勝負にならないな。

戦わずして逃げた方がリスクは少なく済む。

さて、どうするか。


「このことは領軍に知らせるのか?」

「帝国軍が知らせると思うが、今すぐとは行かないだろう。混乱しているようだし。落ち着いてからの情報共有になる」

「それでは遅いと思うが」

「とはいえ、俺たちが教えたところで領軍が引くとは思えない。何もせずに見逃したら領主の沽券にも関わる。知っていても戦うと思うぞ」


これだから貴族は。命よりも面子にこだわる。

戦う兵士が可哀想だ。


「防ぐ方法はないのか?」

「爆発する前に撃ち落とせば防げると思うが、しかし、あのミサイルにはシールドが取り付けてあった。一発二発、当てたぐらいでは落とせないだろう。それに、他のミサイルと一緒に混ぜて撃っていたから、それだけを狙うのも無理だ。他のミサイルに邪魔されて当たらない。ミサイルの弱点は速度が遅いことだ。撃ち落とされないように対策して撃ってきたということだな」

「シールドで防げれば良いが」

「あの熱量ではは無理だ。現にこの艦のシールドが耐えられずダウンしている。ジェネレーターの出力を最大にしてガードした結果だと思うが、普通の戦艦のシールドでは耐えられない。そこまでの出力は出せないだろう」


古代船のジェネレーターでも落ちたぐらいだ。

普通の船では耐えられない。


「そうなると、対抗手段はなし、ということになるな」

「あの発射台を見たら逃げ出さないと助からないだろう。無駄に死ぬだけだ」

「最強の兵器だな」

「ああ、俺が知っている兵器のなかで最強だな。ドラギニス軍はとんでもない物を作ったな。これでドラギニス公国との戦争が激化する。小競り合いというレベルではなくなるな」

「しかし、撃ったのはここの星系軍だろ? ドラギニス公国は関係ないのでは?」

「建前上はな。しかし、責任の一端はある。兵器を供給したのはドラギニス軍だ。無関係とは行かないだろう。とは言っても、向こうは関係ないと言って突っぱねるだろうがね」


そう言って「ククク」と笑っているが、俺が当事者ならそう言って突っぱねるだろう。使ったのはここの星系軍だ。自分たちは関係ないと。


「そういえば帝国軍の被害は?」

「確認したがかなりの艦がやられたようだ。124隻あったはずだが、こちらで確認したが40隻ぐらいはやられたな。近くにいた戦艦にも被害が出ている。電気系統がやられたみたいで、立ち往生している艦もある。再編成に時間が掛かりそうだ。それと旗艦もやられた。ベルンハルド・ベイロン少将が戦死したそうだ」

「え? 英雄がやられたのか? そうなると現場は混乱するな。しばらくは動けないかもしれない」

「指令部と連絡を取って、後任が決まるまでは待機になるだろう」

「誰が指揮を取るのだ?」

「さあな。生き残っている士官の誰かがするだろう。階級が高い士官が代理として、後任が派遣されるまでは指揮を取るはずだ」


全滅ではないわけだし、代わりはいるか。

しかし、こんなことになるとは予想もしなかった。楽な依頼だと思っていたのだが。


「大変なことになったな」

「でも、俺たちに被害はない。それに星系軍が逃げ出したのであれば、惑星はもぬけの殻だ。残った艦隊だけでも奪還できるだろう。戦では負けたが目的は達成されるはずだ。それで良しとしておこう」


割り切ったな。

冷たい発言だが、仲間がやられたわけではないので、どうでも良いと言うことか。

帝国軍がやられる分には、痛くも痒くもないし、自分たちの惑星が取り戻せるのであれば、結果はどうあれ、それで満足のようだ。



その場で一日待機した後、帝国軍と共に惑星へ帰還した。

移動できない艦は、他の船に牽引されて惑星近くまで移動し、後日改めて修理となる。

そして、残った艦隊で惑星を奪還した。

残っていた星系軍は抵抗せず、投降したという話だ。とは言っても数隻しか残っていなかったそうだが。

長かったが、これで内乱は終わった。

レジスタンスも解散となるが、それはもう少し先になるようなことを言っていた。やり残した事があるからと。

代官はというと、いつの間にか逃げたらしい。しかも戦艦1隻で。気が付いたときにはもういなかったという話だ。星系軍が出航した後、どさくさに紛れて逃げたということだ。どこに逃げたかも不明。

今となってはどうでも良いがね。




ご覧いただきありがとうございます。

パソコンがクラッシュし、復旧に時間が掛かっていました。申し訳ない。

後は、後日談的な物を書いて、この章は終わりとなります。


各話の修正を少ししてから2章が始まります。

お隙の方は、引き続き付き合ってくださると嬉しいです。


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