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第190話 逃奔


「ドラギニス軍と話は終わりましたか?」


副官が結果を聞きに来た。

俺が会合を持ちたい、という話をし、副官が手配をしくれた。

そして先ほど、その会合も終わった。モニター越しだったが、思っていた通りの言葉が向こうの指揮官から返ってきた。


「ドラギニス軍は撤退する。この惑星は放棄することに決まったそうだ」

「やはりそうですか」

「ん? 驚かないのだな」

「はい。この間の情報部の船が出航してから、この惑星にオーガ族の船はありません。見捨てられてのではないかと薄々思っていました。それで、私たちはどうなるのですか?」

「自由にして良いそうだ。この惑星を支配しても良し、どこか好きなところに行っても良し。ただし、ドラギニス公国に来ることは拒否された」

「それでは最初の話とは違うのではありませんか? 叙爵の話はどうなったのですか?」

「俺もそのことを言ったが、惑星を返したのだから約束を守る義理はないと。聞く耳を持たなかったよ。最初からその気はなかったのだろう。フフ、笑いながら言われたよ」


そのときの情景を思い出し、思わず笑ってしまった。あまりにも滑稽過ぎてだ。


「何て自分勝手な!」


吐き捨てるように言って副官は憤慨しているが、俺はこうなることを薄々感じていた。

なので、それほどショックは受けていない。


「司令官は落ち着いているのですね」

「代官がこの話を持ってきたとき、あまりにも条件が良すぎてな。罠ではないかと疑ったぐらいだ。なのでそれほどショックはない。ただ、俺の話を聞いて付いてきた部下達に申し訳なくてな。今後どうするかは、部下たちに決めさせようと思う。この惑星に残るか、他国へ行くか。残っていても帝国軍が来れば捕まるだけだ。他国に行っても国際手配はされるので同盟国には近寄れない。それに傭兵にも狙われることになる。肩身を狭い思いをすると思うぞ。副官も好きにしても良い。無理に付いてくる必要はない」


俺はそう言って微笑んだ。この先の身の保障はできない。それどころか、まともな生活を送れるかもわからない。最悪は海賊に成り果てるか。

そういう可能性もある。部下を道連れにはできない。


「司令官はどうなさるのですか?」

「俺は捕まれば流刑は確実だ。死ぬまで監獄衛星で働かされるだろう。それならこの惑星から逃奔する。この国のために働きたくはないからな」

「それでしたら自分も司令官に付いていきます。捕まれば自分も同じですから。それに、1人で船を動かすことはできませんよ。サポートする人がいないと」


そう言って笑顔で答える辺り、最初からその気だったのだろう。

好きにしろ言ったのは俺だ。自由にさせた。


「では、各部隊長に連絡を。ドラギニス軍に裏切られたのでこの国から出奔する。付いてきたい奴だけが付いて来いと。ただし、生活は保障できないとな」

「わかりました。それと、連絡が遅れましたが、監視衛星が艦隊を捕らえました。帝国軍がこちらに向かっています」

「ムッ、やはり来たか」

「迎え撃ちますか?」

「いや、こちらに残っている船の数では、迎え撃つに数が足りない。真っ正面から戦えば勝てないだろう」


残っている艦数は街の治安部隊も含めて41隻。向こうは100隻以上で来るはずだ。勝負になるとは思えなかった。


「到着予定時刻は?」

「何部隊かに分かれて移動しているようなので正確にはわかりませんが、3日後ぐらいには集結し、侵攻になるかと。それと、戦艦ウリウスが出航したと連絡を受けました」

「合流して道案内でもさせるのか? まあ、今更1隻増えたところで、こちらの不利は変わらない。どうするか……」


俺は顎に手を当て思案する。

このまま戦っても勝ち目はない。逃げるしかないのだが、どっち方面に逃げるかだ。

ドラギニス公国には行けない。

そうなると我々が行ける国は、バジルスカル帝国と敵対している国家、イスタール王国にでも行くしかないが、しかし、あそこに行くにはここから第3惑星を通らなければならない。領軍が待ち構えている中、突破して進むのは無謀というものだ。

第3惑星を避けて行くのであれば、反対方向から一度第1惑星を経由し、くるっと回らなければならないが、国内で補給が受けられない我々は、時間が掛かるコースは取りたくない。それに帝国軍がどこで待ち構えているかわからない。避けたいコースではある。

それ以外になると小国家群宙域があるが、あそこはここから遠い。補給無しで行ける距離ではない。一度、どこかに寄らないと行けないが、そうなると、結局はイスタール王国を経由しなければならない。どの道、第3惑星を通らなければならないということだ。


「ドラギニス軍の方はまだ第3惑星に留まっているのか?」

「まだ戦闘にはなっていません。ですが、ここを放棄されたのであれば、時期に引き上げると思われます」

「戦う理由がなくわったわけだしな。そうなると後はどのタイミングで撤退するかだが、ドラギニス公国に戻るのであれば、来た道を引き返すしかない。奪還に来た領軍を突破しなければならないということだ。それが嫌なら、一度こちらに戻って来てから別ルートで逃げるか。ただし、背を向けた瞬間に領軍の攻撃が始まる。どれだけの数が逃げ切れるか。数は領軍の方が少ないが、敵にケツを向けては攻撃できない。難しい判断を強いられるな」

「ですが、彼らには()()があるのではないですか? あれを使えば簡単に突破できそうですが」

「あれは数が少ないと言っていたぞ。あまり使いたくはない感じだったな。だから使わないと思うぞ」

「自軍の艦が犠牲になっても使わないと?」

「さあな。それはわからない。いざとなれば使うかもしれないが……」


使うのであればとっくに使って勝っているはずだ。

ずっと睨み合いを続ける意味がない。

それなのに使わずにいるにはそれなりの理由があるはずだ。使わない理由が。


「……もしかすると最初から勝つ気がなかったのかもしれないな」

「どういうことですか?」

「あのミサイルを使って勝ったとしても、その次がまた来る。ミサイルも無限にあるわけではない。領軍が攻めてくる度に使ってられない。だから敢えて睨み合いを続けて、消費を抑えたのだ。それに最初から見捨てる惑星に使っても意味がない。攻めて行かなかったの時間を稼ぐためで、我々のためではなかったということだ」

「最初からこの惑星を見捨てるつもりだったということですか?」

「最初からはわからないが、守るつもりはなかった。だから自分たちの消耗を恐れ、戦いもせず睨み合いを続けれていた。多分これが戦闘を避けていた理由だろう。勝とうと思えばいつでも勝てていたはずだからな」


数も有利だし、あのミサイルもある。

負ける要素がない。


「時間を稼ぐということは、あの情報部隊が何かをするための時間稼ぎ、ということですか?」

「何を調べていたか知らないが、その時間だろう。最後まで舐められたものだな。我々にここを守らせてたのは、逃げ出すときに邪魔だから。だから別行動を取っていたのだ。信用していたわけではない」


腹立たしいが、最初からそういうつもりだったのだろう。約束など最初から守るつもりはなかったのだ。


「昔からオーク族を信用するなと言っていた意味がわかりました」

「そうだな。俺も100パー信用していたわけではないが、こうも裏切られるとは。でも、それはそれで構わない。叙爵だけが目的ではないしな」

「はあ……?」


副官は、言っている意味が理解できずキョトンとしているが、今は奴らのことなどどうでも良い。俺たちの方をどうするか考えないと。


「今から補給物資を集めて、出航するのにどれだけの時間が掛かる?」

「量にもよりますが、全部隊の量を集めるとなると3日は掛かるかと」

「それでは帝国軍を鉢合わせだな。仕方があるまい。正面から叩くか」

「しかし、それだけの戦力はないのでは?」

「別に勝つつもりはない。逃げるだけならどうにでもなる。フッ、心配するな。全滅するようなことにはならんよ」


副官は不安そうな表情を浮かべているか、こちらにはあれがあるのだ。上手く使えば逃げられるはず。

もしかすると、この時のためにドラギニス軍は我々に寄越したのかもしれないな、あのミサイルを。あの戦艦用に取っておいたのだが、丁度良い。一緒に叩き潰すか。宇宙空間なら二次被害を考えなくてもよいからな。


「帝国軍の艦隊を突破し、彼らが来たルートで星系を出る。出航は3日後だ。二度とこの惑星に戻って来るとはないことを兵士に伝え、自由に選択しろと伝えろ。この先、どうなるかは俺にもわからないからな」

「了解しました」

「補給物資は可能な限り積めよ。空いている部屋や格納庫にもだ。今度、いつ補給が受けられるかわからないからな。部隊の倉庫になければ街の食料庫からも調達しろ。どうせ戻ってこないのだから、空になっても構わない。支払うのはここの領主になるのだからな」


副官が部屋を出て行くと出航準備を始めた。もうこの惑星に戻って来るとはない。

部屋の中を整理すると、以外と持ち物が少ないことに驚いていた。


「5年間働いてこれだけとは」


詰め終わった荷物を見て苦笑した。

軍関連の資料は全て破棄し、私物だけとなるが、その私物も段ボール2個だけ。書籍類は全て電子書籍なので持っていくような物はない。普通の司令官室なら勲章や表彰状などが飾られているが、国軍籍を剥奪された上に、嫌われていた俺にはそのような物はない。



この辺境に来て5年近くになる。

帝国軍からここの司令官にと打診されたときは憤慨したが、軍籍を移し、自由にやれたことはことは良かったかもしれない。あのまま国軍にいれば、上司との衝突は避けられないでいた。最悪は冤罪で処刑もあり得る状況になっていたからな。醜い上層部の権力争いのせいで。


俺の上司は貴族派だった。

貴族派は貴族しか認めない連中だ。国益よりも自分の利益を最優先する。だから庶民の出自であるを俺を認めなかった。いくら功績をあげてもそれだけで、昇進の話も来ない。逆に嫌みを言われるぐらいだ。冷めた目で睨まれ、お前は働き過ぎだと。

そして作戦の失敗は俺の責任にされた。何もしていないのにな。

自分たちの失敗は決して認めない。失敗を認めれば、皇族派に何を言われるかわからないからだ。なので、こうして立ててもいない作戦の責任を俺ひとりに擦り付け、責任を取られた。そして星系軍へ移籍の話。

名目上は栄達になっているが、実際は責任を取っての左遷という扱いだ。司令官にしたのは、黙っていろ、という意味での報酬だろう。

俺のためだと言っていたが、ただ単に、失敗を隠したいだけだ。

駄駄を捏ねて断ることもできたが、あのままだったら暗殺もある得る状況になっていた。責任を取っての自殺、なんていうのはよく聞く話だからな。

ここへの移籍はある意味、自分を守るためのものでもあった。それはわかっていたが、国軍籍までも剥奪されるとは。後で知ったときは、頭の血管が切れそうになった。

庶民の俺が帝国軍に入るのにどれだけの努力をしてきたのか、あの醜いオークどもにわかるまい。ただ、貴族というだけで無条件に入れる連中にはな。

しかし、これであいつらも少しは懲りるだろう。

元とはいえ、帝国軍に居た俺が謀叛を起こしたのだ。調べられ、どうしてこのようなことになったのか、責任を追及されるはずだ。

ここの領主共々、罰を受ければいい。

俺にとっては貴族の話など二の次。これは復讐でもあったのだ。



積めるだけの食料と燃料を用意させ、出航準備が整ったのは予定通り3日後のことだった。

俺に付いてくると言う兵士は結構な数に上った。残っていても国家反逆罪で逃れられない。それで付いていくことにしたようだ。別に俺と一緒でなくても、勝手にどこかに行っても良いのだが、なぜか俺と行動を共にしたいらしい。困った連中だ。宛てもないのに付いてこられても俺が困る。

しかし、巻き込んだの俺なので責任は取らないとな。

安全な国まで連れて行き、そこで解散すれば良いか。その後は自由に行きたいところ行けば良い。その頃には気も変わっているだろうしな。




ご覧いただきありがとうございます。


時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。

毎日ぽつぽつと書いています。

ついでに評価もしてくれると嬉しいです。

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