第189話 基地での情報収集②
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「悪い。ちょっと失敗した」
整備中の船の中に移動すると、みんなをブリッジに集め、先ほど聞いた話を説明した。
リーダーの居場所を聞き出そうとして警戒されたことも包み隠さず。
それを聞いたブライアンは、一瞬眉を顰めたが、それだけだった。誰が聞いても同じ結果になると思ったのだろう。誰ひとり責める奴はいなかった。
「警戒されたのは仕方がない。理由も告げずに直接聞けば、そうなることは予想できていたのでね。気にするな。それでも幹部と接触できれば、会えるということがわかっただけでも僥倖だ。問題はその幹部とどうやって会うかだが……」
「さっきみたいに聞くことはできないな」
「ああ。警戒されている以上は無理して聞かない方が良いだろう。密偵と間違われる。今ここで革命軍と揉めるのは避けたいからな」
それには全員が頷いた。
捕まりたくもないして、何よりもここを追い出されても行くところがない。
空港が使えない今、基地に置いて貰うしかないのだ。
「そうなると、俺たちだけで幹部を探さないといけないな」
「それなんだが、ロズルトがいない間にメールが届いた。見てくれ」
そう言って俺に携帯端末を投げてよこした。
基地にいれば亜空間通信が使えるので、星系外からでもメールが届く。それで受信したのだろう。表情を見るとあまり喜ばしい内容ではないようだ。
「依頼主からか。……今の状況を求めているのか?」
「それ意外にも公爵様からも来ているだろ。どうして俺のアドレスを知っているのだ?」
「あの方が教えたのではにないのか? それか傭兵ギルドで聞いたとか。教えろと言われたら断れないだろう、上からの命令では」
「まあ、そうなんだが……」
首の後ろをさすりながら、困った表情をしていた。個人情報を簡単に漏らすなよ、と言いたいのだろう。
変な依頼が直接くると困るし、何よりも貴族と関わると碌な事がない。それを今、身に染みて実感しているからだ。
しかし、ギルドに聞かなくても、俺たちのメールアドレスぐらいなら彼らが本気で調べれば簡単にわかることだ。帝国府には、そういう専門の機関もあるだろうし。
それにギルドに圧力を掛ければ簡単に教えるはず。ギルドは独立機関とはいえ、国の支援なしで運営できるわけがないのだから。
「……革命軍からメールが届いたとあるな」
「ああ。その人物と接触しろとある。無茶を言う。顔も知らないのにどうやって接触するのだ? 俺たちは人捜しの専門家ではないんだぞ。毎度毎度いい加減にしろと言いたいね」
無茶な依頼にブライアンが呆れている。
本来人捜しは俺たちの仕事ではない。俺たちは傭兵で海賊を狩るのが仕事だ。
それなのに人捜しなどできるわけがない。
皇太后様は顔を知っているから探せるが、手掛かりも無しにそれ以外の人を探すのは無理というものだ。
「グランバーという人物か……せめて顔写真ぐらい付けて貰いたいね」
「まったくだ」
他の二人も同意という意味で頷いた。
「しかし、あの方の名でメールが届いたと言うことは、少なくともこの惑星にはいるということだ。あとはその人物と接触できれば居場所がわかる。やることは決まったがしかし、また人捜しとはね」
「結局は同じということだな」
「さっきの整備員に聞いてみるか? 革命軍にいるのであれば、グランバーの名前ぐらいなら聞いたことがあるかもしれないぞ」
「そうだな……いや、今は止めておこう。リーダーの話の後だし、警戒されていると思う。聞いても答えてはくれないだろう」
「タイミングが悪いか」
「ああ。無理に聞こうとすれば革命軍に捕まるかもしれない。それだけなら良いが、秘密裏に処理されることだってある。普通の軍隊と違い規律なんていう物はあってないような物だろうしな」
革命軍と言っても正規の軍ではない。
だから捕まっても身の安全は保証されない。その時の情勢や指導者の気分によって処刑されたっておかしくはないのだ。
「あまり刺激しない方がよいな」
「彼らに目を付けられたら監視されることにもなる。そうなったら厄介だぞ」
リーダーを探しているとわかったら、どんな行動に出るかわからない。
向こうはリーダーを守るためなら何だってやるだろうし。
「しかし監視か……」
もう遅いような気がするんだよな。時々、変な視線を感じるし。
最初はよそ者だからと、警戒して見られているだけだと思っていたが、今考えると監視されていたのかも。
それに、何も疑われず基地に入って整備を受けられている。
今の状況を考えれば、敵として疑われてもおかしくはないのだ。
傭兵の俺たちを、そこまで信用しているのはおかしい。しかも補給まで受けられている。
誰かの指示がなければあり得ない話だ。
俺たちのことが皇太后様にバレている気がした。
「ブライアン。ちょっと内密で相談したいのだがいいか? できればここではなく、別の場所で」
「今か?」
俺は頷いた。
思っていたことを相談した方が良いだろう。それに、この船を整備したのは革命軍だ。
何か細工されている可能性がある。盗聴器が付けられているとか。
そう考えると、ここで話さない方が良い。
「わかった。近くのホテルでも行こうか。時間も時間だし、ここで寝泊まりもなんだしな」
「報告は良いのか? するようにメールが来ただろ?」
「報告か……状況報告であれば、俺たちがするまでもないだろう。話を聞くと、各メディアに送ったと言うことだし、俺たちが何もしなくても状況は知れ渡るはずだ。後はあの方のことだが、今はまだ良い。限りなく黒に近いというだけで確証はない。それでは報告できない。報告するのであれば、全てわかってからの方が良い。送った後で間違いでしたは不味いからな」
確かにグランバーの言うとおり、革命軍のリーダーが、まだ皇太后様と決まったわけではない。
この惑星にいるかもしれないが、それも姿を見たわけではない。いるかもしれない、という報告をしても、それは向こうもわかっていると思うので意味がないだろう。向こうとしては確証が欲しいはずだ。
「わかった。もう少し調べてから報告するか」
一度話を切り上げて、近くの第19都市へ移動した。
*****
「悪いな、みんな。もう食事の時間だが俺の話を聞いてくれるか?」
気が付けばもう夕方だ。
基地に行って話を聞いたりと慌ただしい一日だった。
空きのあるホテルを見つけて部屋に入ると、みんなをソファーに集めた。
ご飯を食べてゆっくりしたいと思っているだろうが、その前に話しておいたほうが良いと思ったのだ。ご飯を食べると酔っ払う奴や、すぐに寝てしまうお子ちゃまがいるからだ。
まあ、誰とは言わないが。
「内密に話がしたい言っていたが、何かあったのか?」
不安そうにダッツが聞いてきた。
「実は気になったことがあってな。それでみんなの意見を聞きたい。ダッツはどうしてあの基地に誘導されたと思う?」
「ん? それは空港が破壊されたからだろ? それで降りるところがないから基地に誘導したのではないのか?」
「そんなことはない。空港が破壊されたとしても発着場ぐらいは使えるはずだ。小型船1隻ぐらい降りられるスペースぐらい残っているはず。基地に誘導する理由にはならないよ」
「そうなのか? 俺も詳しくは知らないが……」
空港が破壊されても発着場が残されていれば船は降りられる。
ただし、管制塔のサポートはないので、自動操縦で降りることはできないが。
「グリースはどうだ?」
「僕は……空港に星系軍がいるからじゃないかな? それで危険だと思って基地に誘導したとか」
「それはないだろう。だって空港を破壊したのは星系軍だという話だぞ。自分で破壊していおいて、そこを占拠して何の意味がある? 使い物にならないのだぞ」
「それはそうだけど……」
二人は俺の質問に答えられなかった。というか、何も考えていないのだろう。疑問にも思っていなかったようだ。
「そう言うロズルトはどうなんだ?」
今度はブライアンが俺に聞いてきた。
「俺が思うには、俺たちだからあの基地に誘導されたのではないかと思っている」
「俺たちだから?」
「そうだ。敵か味方かわからない船を、いきなり基地に誘導するのはあまりにも危険だ。星系軍が化けた密偵かもしれないのだぞ。それなのに誘導したということは、安全だとわかっていたから。この船のことを知っていたからではないかと思っている」
「それって……」
俺は力強く頷いた
「俺たちのことを知っている人物が革命軍にいる。だから基地に誘導したのだ」
「わかった。あの方が誘導したと言いたいのだな?」
流石、頭の回転が速いブライアン。俺の言いたいことを理解したようだ。
「そうだ」
「でも、なぜそんなことを? 僕たちのことを知っているのであれば、捕まえに来たことぐらいわかるはずでしょ? それなのに態々基地に誘導するかな? 捕まるかもしれないのに。考えすぎじゃないの?」
グリースがそう言って首を捻るが、俺はそうは思わなかった。
「俺はその逆だと思っている。俺たちを身近に置くことで監視しているんじゃないかと思っているのだ。こちらの動きがわかれば捕まることはないからな」
「僕たちを監視しているというの?」
「ああ。街中を歩いていると、時々不審な視線を感じていたからな。最初から監視されていたのだと思う」
「そうか、ロズルトも感じていたのか。俺も街に着いてからは、何か見られているような感覚がずっとあって落ち着かなかったのだ。それで部屋の中を調べて盗撮されていないか調べたりもしたのだが、何もなかったからみんなには言わなかった。不安にさせても悪いと思ってな」
ブライアンも俺と同じように違和感を覚えていたようだ。
他の二人はまったく気が付いていないかったようで、俺たちの話を聞いて驚いていた。
「それじゃ、最初から俺たちを知っていて、泳がされていたということか?」
「僕たちが今までやってきたことは全て無駄だったということ?」
そう言って、ダッツとグリースがガックリと項垂れた。
手の平の上で踊らされていたとは思ってもいなかったはずだ。
「そう考えると、船内の会話は危険だ。だから場所を移動したのだ」
「盗聴されているか?」
「彼らに整備を任したのだ。そのぐらいされているだろうな。それにもしかすると、あの整備員も全て知っていて、俺の話に合わせていたのかもしれない。それで余計なことまで言いそうになったので慌てて呼び止めた。そんな感じがする」
あるいは、基地にいる全員がグルかもしれない。俺たちを油断させるために。
疑ったら切りが無いが、そのような気がしてきた。
「はぁ、やられたな。全てあの方の考えか?」
「そうだろうな。俺たちのことを知っているのはあの方ぐらいだ。この惑星に来たと知って、先手を打ったのだ。捕まらないように」
革命軍にいれば船が来たことぐらいわかるはずだ。
そして、俺たちの船とわかった瞬間ここへ誘導して監視を付けた。
流石としか言い様がない。
「それじゃ、どうしようもないということか?」
「こちらが何かしても逃げられる。向こうに会う気がなければどうしようもないだろう」
俺は両手を挙げてお手上げのポーズをした。
為す術がないからだ。
「ねぇ。このままずっとここに居ることになるの?」
グリースが眉間に皺を寄せて訪ねてくるが、それに答えられる人はいない。
向こうに会う気がなければ、俺たちではどうしようもない。自分から出てくるまでは待つしかないのだ。
「革命軍は当てにはできない。俺たちだけ何とか見つける方法を考えないと」
「とは言っても監視されていればこちらの動きは筒抜けだし、どうしようもない。それにグランバーという人物も、あの方から話を聞いていれば見つからないように逃げるかもしれない。探し出すのは難しいな」
俺の言葉を聞いたブライアンが、額に手を当て「はあ……」と溜息を吐いた。
「おいおい、また逃げられるのか? 勘弁してくれよ。これで何度目だと思っているのだ。あの方を探す依頼は。後宮から逃げ出すたびに俺らが迎えに行っているのだぞ。勘弁してくれよ」
もう、うんざりという感じでダッツが文句を言う。
皇太后様の捜索依頼は一度や二度ではない。
何かある度に俺たちに依頼がくる。
他の星系で面白そうなイベントがあると、後宮を抜け出して遊びに行く。
そして見つけて連れて帰るのが俺たちの仕事になっていた。
鬼ごっこのように、隠れては見つけて追いかけて、それの繰り返しで寸前の所で逃げられる。最後は飽きるか用事が済むと捕まりに出てくるので、それで一緒に帰るのだ。
今回もそれと同じことになりそうだ。
あの方にとってこの戦争は楽しいイベントだ。恐らくは、この戦争が終わるまで出てくる気はない。
「もう、いいんじゃない。探さなくても。ほっとけばそのうち出てくると思うよ。いつものように」
グリースは早々に諦めた。
面倒臭くなったのだろう。俺もその気持ちは良くわかるので、苦笑して何も言わなかった。
「今まではそれでも良かったが今回は戦争が絡んでいる。安全ではないので、そうは言ってられないのだ。巻き込まれて戦死なんて洒落にもならない。そのためには早く見つけて連れ帰らねばならない」
ブライアンの言うとおり、確かに今までと状況が違う。
安全な惑星で逃げ隠れするのであれば、ゆっくりしてられるが、今はそうでない。
いつ都市に向かって攻撃されるかわからないのだ。
早くあの方を捕まえて、安全を確保したいということだ。いつでも逃げ出せるようにと。
「とは言っても見つけることはできないぞ。革命軍の協力なしでは」
「それでも見つけるしかない。それが依頼なのだから」
ダッツも腕を組んで渋い顔をしている。
口には出さないが、無茶だと思っているのだ。
「そうは言うがブライアン。やみくもに歩き回っても見つからないと思うぞ。何か考えがあるのか?」
「先ずは監視されているか調べよう。そして監視されているようなら、その監視から逃れないといけない。こちらの動きが筒抜けでは何もできないからな」
「場所を移動するか?」
「この場所は知られていると思うから、移動は必須だ。それからみんなバラバラに行動して、どこか違う都市で落ち合おう。監視を巻いてな」
「なかなか難しいミッションだな」
ダッツがぼやくが、しかし、巻かないことには始まらない。
監視を付けたままでは、何をやっても意味がないのだから。
「はぁ、今度は僕らが逃げないといけないのか……」
グリースが疲れた顔で文句を言うが、それは仕方がない。それしかないのだから。
「そうなると基地には戻れないな。船はどうする?」
「あの方が俺たちのことを監視しているのであれば、船は安全だと思う。そのまま置いておこう」
話が終わると解散した
行動は明日からということで、各々が自由に過ごすことになった。
第19都市は、夜間の外出はできるのでダッツとグリースは出かけていった。
俺とブライアンは留守番で残ることにした。あまり遊びたい、という気分にはならなかったからだ。
「元気だな、あの二人は」
「フッ、それが取り柄みたいなものだ。自由にさせればよい」
ダッツは酒好きでグリースは女好きだ。どっかで飲んでいるか娼館にでも行っているのだろう。その為に稼いでいるようなものだから。
「監視か……全員に付いていると思うか?」
「いや。恐らく一人か二人だろう。俺たちの行動がわかれば良いのだから、全員に付ける必要はない。俺かロズルトのどちらかには、必ず付いていると思った方が良い」
パーティーの決定権はリーダーか俺にある。大抵のことは俺たち二人で決めてきた。
だから、どちらかに監視を付けておけば行動が全てわかるということだ。
「面倒臭いことになったな」
「ああ。いつもなら一人で逃げているから、こんなことにはならないのだが、今回はリーダーとして人の上に立っている。いくらでも人が使える立場にあるから、逃げるのは簡単だろう。俺たちだけで捕まえるのは無理かもしれない」
「……応援を頼むか?」
「応援か……頼むにしろどうやってここまで来る? 俺たちはたまたま来れたようなものだぞ。普通に来ることはできないだろう。軍が目を光らせているからな」
俺たちは、誰か送ったかわからないメッセージの指示に従い惑星まで来た。
近くまで来ていたのだが、星系軍の監視が厳しくて近寄れなかった。
そこへメッセージが届き、指示された宙域に向かいと、革命軍から連絡が入り無事に降りることができた。
あのメッセージが届かなければ、今もまだ惑星近くの宙域で隠れていたかもしれない。
「俺たちだけでやるしかないのか……」
「そうだな。あの方が革命軍にいるのであれば、彼らは当てにはできない。俺たちだけで探さないといけないだろう」
「はあ……何でこんな面倒なことになったのだ? 頼むよ、ブライアン」
「俺にお願いされても何もできないぞ。こんな辺境に伝などないし。取りあえずはグランバーという人物を探すしかない。彼を見つければあの方もすぐに見つかるはずだ。それに掛けるしかない」
「そうだな」
俺はホテルのルームサービスで酒を注文した。
飲まないとやってられない気分になったからだ。
この後はブライアンも付き合い、日付が変わるまで飲んでいた。
ご覧いただきありがとうございます。
ようやく終盤ですかね。第一章がこんなに長くなるとは。
次回は戦闘に突入するので、話が長くなりそうです。ちょっと時間がかかるかも。
お暇の方は付き合って下さると嬉しいです。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。
それではまた。