第188話 基地での情報収集①
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革命軍の基地に戻ると、人が少ないことに気づいた。
船の整備員はいたが、それ以外の人となると両手で数えられほどしかいない。
決して小さな基地ではない。それなのにこの人数しかいないとは、明らかにおかしなことだった。
「人が少ないな。どういうことだ? ブライアン」
「さあな。それも含めて聞いてみるか」
ドックに向かいと、俺たちの船に多くの整備員がいた。
いくつかの外装が外され、中の機械がむき出しにされている。そこにいくつかの測定器が付けられ色々と検査しているようだが、何をしているかは素人の俺にはさっぱり。
他のメンバーは船内で待機して貰い、俺ひとりで聞きに行くことにした。大勢で向かうと目立つし怪しまれるからだ。
近くにグリースと同じぐらいの青年がいたので、彼を捕まえて、今の状況などを聞くことにした。
「お疲れさん。船の方はどうだい?」
「今は測定器をつけてチェックをしています。もう少しすれば全て終わりますよ」
俺たちがいない間に船の整備と補給をお願いしておいた。後は留守番も。
戦争中は船が狙われやすく、高値で売れるからだ。セキュリティーがきちんとしている空港なら、そんなことをしなくてもよいのだが、今は基地の中なので何があるかわからない。なので、監視という意味で留守番と整備をお願いしていた。
相場よりも少し高い金を取られたが、それは必要経費ということで、後で依頼主に請求すればよい。それに空港が使えない今は彼らに頼むしかなかった。燃料を補給しなければ帰れないからだ。
「スラスターが大分へたっていました。早めに消耗しているパーツを替えないと危ないです。できれば一度降ろし、オーバーホールをお勧めしますね」
青年がスラスターの方を見ながら説明してくれた。
それは前々からわかっていたので、「わかった」と言って頷いておいた。この依頼が終われば纏まった金が手に入る。それでスラスターを交換する予定だ。
「それ以外は?」
「それぐらいですかね、気が付いたのは。後はシールドが弱いですね。もう一つランクが上の発生装置を付けた方が安全ですよ。あれでは直ぐにダウンしてしまいます。ジェネレーターもですが」
船の欠点まで見つけたようだ。
俺たちの船はスピード特化型なので、スラスラーを一回り大き奴を載せている。なので、ジェネレーターの出力が足りなくなったのだ。それにステルス装置も積んでいるので、シールド発生装置が小さくなっている。
載せられるスペースというのは決まっているので、それは仕方がないことだった。
「考えておくよ」
「早めにですね。命に関わることですから」
「ハハハ……」
それをやるには船のグレードを上げなければならない。
ようは買い換えだ。
流石にそこまでの予算はない。
「そういえば基地に来て気が付いたのだが、人が少ないように見えたが何かあるのか?」
「ああ、この基地は特別で、船の格納庫としか使っていないので人が少ないのです。それに我々も人に余裕がないので、全部の基地に人員を配置することはできません。なので今は我々整備員しか使っていません。何かあれば、放棄して逃げ出しても良いことになっていますので。とは言っても、今はあなた方の船しかないんですけどね、この基地は」
そう言って、ちょっと恥ずかしそうにして苦笑していた。
戦闘艦や戦闘機は、星系軍とドラギニス軍によって殆どやられたので、今は数隻しか残っていないそうだ。
そして残っている船は別の基地に配備されているので、ここにはないらしい。
そっちには人がいるそうだが。
「この惑星は船の建造は駄目なのか?」
「はい。この星系内での船の建造は認められていません。なので船が欲しい場合は他の星系で買ってくるか、輸入業者に頼むしかないです。決まりですから」
帝国法で、領主が保持できる軍艦の数は決められている。
なので勝手に作らせないようにするため、領内での船の建造は、一部を除き禁止されている。これも一領主に、過剰な戦力を持たせないための政策で、謀叛を起こさせないための措置なのだ。
その代わり、他国の脅威から領民を守るのは帝国軍の仕事になっており、星系外は帝国軍の管轄となっている。
「と言うことは、もうこの惑星に船は残っていないということか?」
「空港が破壊されたときに残っていた船も殆どやられたのでありません。修理をすれば使える船がいくつか残っていますが、修理用の部材が足りないので、今は他の船用に部品取りとして使っています。全ての輸入が止まっていますので」
「あーなるほど。どうりでドック内がガランとしているわけだ」
辺りを見渡しと、俺たちの船以外は1隻もない。
だから尚更人を必要としないというのもあるのだろう。
説明を聞いて納得した。
「それと、ここだと亜空間通信が使えるのだが」
「それは亜空間通信機を我々が奪ったからですよ」
それから彼は奪った経緯を話してくれた。
今までは星系軍が管理しており、亜空間通信は全て止められていたのだが、半月ほど前、それを奪還したからだそうだ。
そして使えるように、基地内のネットワークに接続したということだ。
「でも、外では使えなかったが?」
「それは接続した装置が古いからです。惑星全てのデータを処理できないので制限を掛けているんですよ」
亜空間通信機とは亜空間通信機同士を繋ぐための物で、ネットワークとは別の物なんだそうだ。そしてネットワークと繋ぐには、それ専用のデータ変換器が必要で、今回使った変換器が倉庫に眠っていた何世代か前の古い変換器で、データの処理が遅く、対応できないからというのが理由らしい。
今は暫定的に繋げているだけで、とてもじゃないが実用に耐えられない。だから基地内限定にしているということだ。
詳しく説明してくれたが、俺には難しくてちんぷんかんぷんだった。
「ようは、その変換器が駄目なので基地内だけしか使えないと。そういうことか?」
「駄目と言うことではないですか、大量のデータを処理するには性能が低すぎるのです。元々は惑星開発当時に使っていたもので、今ほど人口は多くなく、それで足りていたのですが、移住者が増えたことで処理ができなくなり新しい物と替えたそうです。そして今回はその古い変換器を持ってきたいうことです」
新しいデータ変換器が手に入れば良かったのだが、この惑星では生産しておらず、輸入で取り寄せるしかないのだが、それが今はできない。なので倉庫で眠ったやつを引っ張り出したということだ。
よくそんな古い物が残っていたな、と思ったら、変換器は高額なので捨てるわけにもいかず、それに今の変換器の予備として残しておいたそうだ。今回はそれが功を奏した、ということだ。
「なるほどね。そういう理由があるのか」
「市民に教えて一斉に送信されたら変換器がパンクしてしまいます。それも一緒に奪ってこられたら良かったのですが、亜空間通信機を運び出すので手一杯で、そっちまで手が回らなかったのです。それで今回は見送ったのです」
「それなら施設ごと占拠すればよかったのでは?」
「そんなことをすれば施設ごと破壊されてしまいますよ。向こうは戦艦を保有しているのですから、空から攻撃されたら一溜まりもないです。それに施設を破壊されたら、この後のことを考えると手痛い損害となります。だから装置だけを奪ってきたのです」
惑星を取り戻しても破壊されたら、その後困るのは市民だ。だからそのようなことはしなかったと。
それに装置は高額だと言うし、それで止めたのかもしれない。
「やけに詳しいのだな」
「ええ。我々の班からも何人か設置に協力したので」
場所は教えてくれなかったが、亜空間通信機とデータ変換器の接続に協力したそうだ。
「しばらくは市民に公表はしないのだな?」
「はい。知ればみんな使いたくなると思うので公表しません。市民が基地に押し寄せても困りますから」
混乱するので今しばらくは公表しないそうだ。
それに処理が追いつかずパンクすると、外部と連絡が付かなくなる。通信できなくなると作戦に影響がでるからと。
「そういうことなら俺たちも黙っているか?」
「お願いしますね」
取りあえず頷いておいた。
「それでだ、俺たちが使っても良いのか?」
「今更ですから、ご自由にどうぞ。あなた方が使ったぐらいではパンクしませんから」
「悪いね。友人にメールを送りたくて。ちなみに今の状況を教えても問題ないのか?」
「構いません。既に知られていると思うので、好きなことを書いて送って下さい」
「知られている? それってどういうことだ?」
「今の状況を各星系にあるメディアに送ったそうですよ。だからもう隠す必要がないということです」
「おいおい、そんなことをしたらここの領主の失態を広めるということだぞ。大丈夫なのか?」
「さあ、わかりません。しかし、そうすれば帝国軍が動くと言っていました。そうなれば助かるからと」
「まあ、確かに大義名分が立つが……」
領地が敵国に落ちれば、帝国軍が参戦できる。それを狙ったのだろう。
しかし、それだけではないはず。
メディアに送らなくても、このことは皇帝陛下の耳に入っている。いつでも帝国軍を動かせるのだ。だから、それをする意味がない。そのことは皇太后様が一番わかっているはずだ。
それなのに送るとは。
他に目的があるとしか思えなかった。
「やれやれ、また振り回されるのか……」
俺は小さい声で呟いた。
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
そう言い、携帯端末を取り出して接続した。
試しにメールを知人に送信したが、問題なく送れた。
「ありがとう。助かったよ」
「いいえ、どういたしまして」
「それともう一つ教えてくれ。どうして君たちは俺たちを助けたのだ? この基地に誘導したのは革命軍だろ?」
「それは俺たちにはわかりません。ただ、こちらにあなた方が来ると聞かされたので、受け入れ準備をして待っていただけなので」
「すると、君の上司の命令ということか?」
「そうですね」
「誰なんだ、君の上司は?」
「船の整備の責任者はバルジャクスさんですね。ジャックスさんから連絡を受けました」
「リーダーではなく?」
「リーダーですか? そんな偉い方から連絡が来るはずはありませんよ。私たちは下っ端なのですから」
恐れ多いといった感じで、顔の前で手を振って否定した。
リーダーが直接、下の人間と話すことはないそうだ。
何かあるときは上司を通して指示が来るので、それに従うだけだと言う。
「リーダーってどんな人物なのだ? 女性だって言う噂は聞いたが」
「50歳戦後のご婦人という話です。会ったことがないので詳しいことは知りませんが」
「会ったことがない? 隠れているのか?」
「いえ、そういうことではなく、自分が会ったことがないという話で、会ったことがある人はいますよ。恐らくですが、整備員の中にはいないと思いますが」
船に乗るようなことはないので接点がないとのことだ。
自分たちは一日中ドックにいるからと。
「会うにはどうすればいいのだ?」
「うーん、それは難しい話ですね。居場所を定期的に変えているみたいですし、どこにいるかはその時になってみないとわかりませんから。どうしてもお会いしたいのであれば、幹部の方にアポを取っても貰うとか。幹部の方なら居場所を知っていると思いますので」
「その幹部と会うには……」
「おい、ミルグ! ちょっとこっちに来て手伝え!」
上司と思われる人物から呼ばれた青年は、俺に頭を下げると行ってしまった。
どうやら話を聞かれていたようで警戒されたようだ。
「ちょっと露骨に聞き過ぎたか……」
他の整備員がチラチラと俺を見ている。
周りの空気が悪くなったので、この場を離れることにした。
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