第187話 第2惑星での捜索②
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ホテルのルームサービスで美味しそうな肉料理を注文した後、グリースは汗を流しにシャワーへ。俺とブライアンは今後について少し相談をした。
「はぁ。俺たちだけでは無理そうな感じがするな」
「ああ、情報規制が思っていた以上に厳しい。もう少し集まるかと思っていたがちょっと予想外だったな」
「俺もダッツみたいに飯屋へ行って情報を集めるか? 夜になれば働いている連中も食べに来るだろうし、そっちの方が集まる気がするんだが」
飯を食って酒が入れば口も軽くなる。情報を集めるのであれば、そういう所が一番だ。
しかし、ブライアンは首を横に振った。
「それは無理だ。ここの都市は、夜間外出禁止令が出ている。夜の9時以降は外出禁止だ。店も夜間の営業は禁止になっている」
「そうなのか? そんなに治安が悪いようには見えなかったが……」
街中を歩いた感じだが、破壊された建物などはないし、子供達も普通に過ごしていた。
とても治安が悪いという感じはしなかった。
「様子を見ているのではないのか? 市民が暴れて都市ごと制裁では市長も困るだろうし、政府が替わることで暴動なんてことは珍しくはない。落ち着くまでの間だけだと思うがね」
「そういうことなら仕方がないか。市民も納得しての降伏という訳ではないみたいだし」
「ああ。だから余計に神経を尖らせているのだろう。食料や燃料などの軍需品を徴集された商会も多かったと聞く。それで市民の生活に影響が出たし、傾いた商会もあるとか。恨みを買っているからな」
「代官からの補償はなかったのか?」
「ネットで調べた限りだと何もなかったらしいぞ。それで怒っている商会も結構ある。そういった連中が兵士を襲わないようにするために、夜間の外出を禁止にしたのかもしれない。襲ったら面倒なことにしかならんし」
市民が兵士を襲えば、その責任は市長となりその都市に及ぶかもしれない。
なので、しばらくは大人しくて欲しい、という市長のメッセージなんだろう。
時間が解決しくれるかもしれないと、淡い期待を寄せているのかもしれない。
「そんなことで怒りが収まるか?」
「無理だろうね。ドラギニス軍がいる限りは」
奪った連中が街中を歩いていれば恨みなど消えるわけがない。
しばらくは解除されることはないだろう。
「しかし、ドラギニス軍の兵士はどこに行ったのだ? ここの街中にもいなかったぞ」
「わからない。ネットにもその理由は書いてないし、逆に居ないことで、歓喜している書き込みがあるぐらいだ。もしかすると他の都市も似たような状況かもしれんな」
今までいくつかの都市を巡ってきたが、ドラギニス軍を見かけることはなかった。いや、ドラギニス軍どころかオーガ族さえ見かけない。
本当に占領されているのか疑わしいぐらいに誰もいないのだ。入港時の映像が残っていなければ、星系軍の自作自演でないかと思えるぐらいにだ。
普通なら、ドラギニス軍が都市を監視・管理していてもおかしくはないのだが。
「放棄して母星に帰ったとかないよな?」
「それだったら第3惑星に集まって戦うとかしないだろう。とっくに撤退しているはずだ」
「それならどうしてドラギニス軍はこの惑星にいないのだ? 折角手に入れたというのに」
「そんなこと俺に聞かれても知らんよ。軍のことなど簡単に情報が集まるわけがないし、知っていてもネットには載せないだろう。機密漏洩で捕まる危険がある」
星系軍はネットも監視しているはずだ。
変なことを書き込めば直ぐに消すだろうし、機密情報を漏らせば直ぐに捕まえに来る。
情報漏洩は重犯罪だ。
軽い気持ちで書いたりはできない。
「しかし、おかしな話だな。占領したら、その軍が惑星の治安を管理・監視するものだろ? 無責任ではないのか? 統治する気がないみたいで」
「何か事情があるのだろう。そもそもドラギニス公国自体がよくわからない。何のためにこんな辺境の惑星を占領したのか。特別変わった物が採れるわけではないのにな」
「まあ、確かにそうだな」
資源衛星や惑星から、鉄鉱石が取れるぐらいで、値打ちがある物が採れるわけでもない。
しかも、ドラギニス公国の母星から離れている。はっきり言って他国と揉めてまで奪う価値はないのだ。
「わからない事が多すぎる」
「ああ。もうじきダッツが帰ってくる。何か新しい情報を持って帰ってくれると嬉しいが」
「面白い情報を持って帰ってくれることを期待しようか」
食事が届いたので、一旦話を終わらせることにした。
ソファーに座り食べていると、ダッツが赤い顔して帰ってきた。
飯屋で一杯引っ掛けてきたみたいで、手には土産らしき物を持っている。
良い情報でも掴んできたのか、上機嫌でシファーに腰を下ろした。
「お土産だ」
そう言って渡されたのはワインボトルに入っている酒だ。
この惑星で作られている酒で、数が少なくて、滅多に手に入らないそうだ。
それがたまたま飲んでいた店で売っていたので、みんなに飲んで貰おうと思い買ってきたということだが、普段はそんなことをする奴ではない。単純に自分が飲みたいだけで、まだ飲み足りなかった、というのが正直なところだろう。
ダッツは無類の酒好きだからな。
「この惑星の酒か。作物が育たない環境だと聞いていたが。原材料は輸入か? コストがかなり掛かっていそうだな」
瓶を手に持って中身を確認すると、赤い液体で、ワインに近い色合いをしていた。
「それがそうでもないらしい。原材料はブロッチという赤い実の果物から作っているらしいぞ」
「ほう、ブロッチか。どこでも育てられる安い果物だ。あれに目を付けたのか……」
「ただ、普通のブロッチでは駄目らしく、この惑星で栽培したブロッチでないと酒にはならない。その理由は教えてくなかったが」
「企業秘密というやつか。特産品でもない限り、こんな辺境に誰も来ない。生き残るために必死で作ったという感じだな」
「作るのもそう難しくはなく、ワインと同じような製法だと言っていた。ただ、ブロッチをそのまま使うのではないく、前もって、ある液体で浸しておく必要があると言っていた。その液体がなんなのか、それも教えてはくれなかったが」
「それに何か秘密がありそうだな。折角だし、一口飲んで見ようか」
話を聞いていたグリースが、コップを取りにキッチンへ向かった。
そして人数分を持って来ると、みんなに少しずつ注いだ。
「甘い香りだな……」
匂いを嗅いでから一口飲んでみる。
甘い果物のはずなのに少し苦みがある。
アルコール度はそんなに高くはないようだ。
「これは……癖があるな」
「ああ、その苦みが良いという人もいるがな」
「僕はちょっと苦手だ」
一口舐めたグリースが、顔をしかめて言った。
元々グリースは酒が好きではない。だから普段はジュースばかりを飲んでいた。
「それで、酒を買ってきただけではなのだろ?」
「もちろん。面白い情報も仕入れてきたぞ」
自信があるのか、そう言ってニヤッとする。
かなり良いネタを仕入れてきたようだ。
「ほう、どんな情報だ?」
食事を終えたブライアンが質問する。
俺はまだ食事が終わっていないので、質問はブライアンに任せた。冷めてしまうと美味しくなくなるのでね。
「皇太后様らしき情報を掴んだ」
「おっと、その名前は出すな。誰かに聞かれたら不味い」
注意されてダッツは辺りをキョロキョロと見渡していた。
誰かいないか確認しているのだろう。ちょっと抜けたところがあるのがダッツだ。
会話するときはなるべく名前を出さないようにして注意をしている。
誰を探しているか知られたら面倒なことになるだけだからな。
「悪い。ちょっと酒が入って気が緩んでいたみたいだ」
「いや、構わない。一応、盗聴とかされていないか確認はしてある。だから聞かれていることはないと思うが、それでも注意はするように」
「わかった」
そう言って素直に頭を下げた。
「それで、何を掴んだのだ?」
「飯屋で飲んでいるおっさんから聞いたのだが、革命軍のリーダーは女性らしい。しかも老年の女性らしいと」
それを聞いて俺とブライアンは目を合わせた。
その情報は最初に話していたので驚くことではないのだが、それが老年の女性という情報はなかった。
なるほど、確かに面白い情報だ。
「あれ? 驚かないのだな」
俺たちが驚くと思っていたのか、拍子抜けした顔して首を傾げている。
俺とブライアンは苦笑して、その理由を説明した。
「あー、悪い。その情報はネットに上がっていて知っていた。ただ、具体的なところはわからなくて、俺たちも怪しいな、ぐらいにしか思っていなかったんだ」
「それで聞かされたとき、やはりか、という感じになったのだ。別にロッジが悪いわけではない。気にするな」
「いや、気にしていないが……」
その割にはムスッとしているが。
苦労して集めてきた情報が、こうも簡単に手に入ればむくれるか。
「それで、それ以外は?」
ブライアンが質問を続けた。
「名前はミチェイエルというらしいが……怪しいだろ?」
「ミチェイエルか……似ている。確かに怪しいな。しかし、よくわかった。ネットには殆ど情報は上がっていなかったのだが」
「俺が聞いたのは、元星系軍の軍人さ。今は辞めてこの都市で生活しているみたいだ」
「辞めたのか?」
「何でもドラギニス公国に行くのが嫌で辞めたそうだ。それと、司令官の考えに賛同できないからと。それで除隊したという話さ」
「司令官の考えというのは何だ?」
「この国に居ても未来がないので、見切りを付けて、ドラギニス軍に入ると言っていた。ようは鞍替えみたいなものだな。向こうは実績があれば簡単に貴族になれるので、夢があるようなことを言っていたそうだぞ。嘘か実か知らないらしいけどな」
そう言ってケラケラと笑っている。
そんなの嘘だと思っているのだ。
ドラギニス公国で貴族になった人族はいない。そもそもオーガ族は排他的で、人族を下に見る傾向がある。そんなオーガ族が、人間を貴族にするわけがない。
ここの司令官はそんなことを信じているのか?
どうしてそのような話になっているのか知らないが、騙されているとしか思えなかった。
「その考えに賛同した兵士が、今の星系軍ということになるわけだな?」
「そういうことだ。ドラギニス公国に行きたくない奴は除隊しても構わないと。そういうお触れがでたらしい。話を聞いたおっさんは、今更そんな国に行ってもしょうがないということで除隊したそうだ。貴族とかに興味がないからと」
「ドラギニス公国はよく分からない国だからな。慎重なって止めたのだろう。向こうに行けばどんな扱いを受けるかわからないし」
「そんなに酷いのか?」
「さあな。ただオーガ族は、自分より体格が劣る人族を見下す奴が多い。向こうに行って上手くやっているかは些か微妙だと思うが」
オーガ族は俺たちと比べて身長が高いし、体も一回り大きい。力で勝つことはできない。
そんな連中だからこぞ、俺たちをなめている。対等で付き合うことなど無理な話のだ。
「それじゃ、行きたくないと思う奴が出てもおかしくはないか……」
「向こうに行って揉めるのは目に見えている。オーガ族のことを知っていれば行こうとは思わないだろう」
「それなのに付いて行こうという奴がいるのが凄いなあ」
「知らないだけだろ? それか、安全を保証されているとか。どの道、このようなこと仕出かしたのだから、この国にはいられない。向こうに行くしかないのさ」
謀叛を起こしたのだから、捕まれば極刑だ。
協力した兵士は、行くしか生き残る道が残されていない。
「除隊した兵士にも罪あるのか?」
「どうだろうな……知らずして命令に従っただけならば罪に問われることはないと思うが、最終的な判断は、ここの領主がするだろう。俺にはわからない」
「そうか……あのおっさん、罪にならないと良いな」
ダッツが他人の心配をするなんて珍しい。
一緒に飲んでいて友情でも芽生えたが。
「市民は星系軍が裏切っていることを知っているのか?」
「知っているという話だ。革命軍が漏らしているからと」
「まあ、確かに隠し通せる物ではないな。……なるほど、それで兵士を見るとみんな逃げていくのか。仲間だと思って」
「星系軍の治安部隊も恨まれていると言っていた。それでも暴動に発展しないのは、革命軍が市民に無茶なことはしないように呼びかけているからだと。必ずこの惑星は取り戻すと約束しているみたいだぜ」
「かなり信頼されているんだな」
「大勢の人に支持されていたな。周囲の話を聞く限り、悪く言っている奴は居なかったぞ」
「ここの領主の評判は?」
「それはもう最悪だったな。くそみたいな代行を野放しにしているし、年一回の視察も来ないらしい。かなり怒っていたぞ。これならドラギニス公国の方が良いのでは、なんて言う奴もいるぐらいだ。市民からしてみれば善政を敷いてくれるなら、ドラギニス公国でも構わないからな」
まあ、当然と言えば当然の反応だな。
同じ税金を払うのであれば、市民のために尽くしてくれる国の方が良い。
市民からして見れば国がどこでも構わない。自分たちの生活が豊かになるのであればドラギニス公国でも。
「ここの領主って確か……」
ブライアンに聞くと一回頷いてから答えた。
「ベルカジーニ伯爵だ。代替わりしてかなり苦労しているとは聞いている。軍の方までは知らないが、預かっている他の星系も評判は良くない。執政に積極的ではないし、市民の声も届かないらしい。あまり人前に出ないそうだぞ」
前領主が不慮の事故でなくなり、跡取り問題でかなり揉めたということだ。
そして継承順位が低い庶子が継いだとか。かなり政治の臭いがプンプンするが、俺たちには関係ない話だ。ここの領民でもないし。
「領主の話はどうでも良いよ。俺たちの仕事は人捜し。この惑星がどうなろうと上が考えることだ。そうだろ?」
「フッ、ダッツの言うとおりだな。それで、それ以外のことは聞けたのか?」
「いや、それぐらいだ。俺が聞いたおっさんも雑兵だから詳しくは教えて貰えないと」
「まあ、命令に従っていれば良い、というのが軍隊だからな。余計な知識は与えないのだろう……で、どうする?」
ブライアンが俺に聞いてくるので、食事の手を止めて話に加わった。と言っても、殆ど食べ終わって話を聞いていたのだ。
「調べるしかないだろ。それしか情報がないのだから」
「革命軍の連中に聞くか? 基地に戻れば誰か居るはずだが」
「それしかないが、しかし、部外者の俺たちに素直に教えてくれるか? 必要がなければ隠すだろうし、それに、いきなり来てリーダーのことを教えろとか言ったら怪しむだろう。密偵かと疑われるぞ」
「あー、それもあるか。目的を話して聞く、というのはできないし……」
「後は俺たちも革命軍に参加するしかない。そうすれば教えてくれると思うが」
「ふむ……」
それは戦争に参加するという意味だ。
俺たちの話を聞いていた2人は嫌な顔をしているが。
「取りあえず仲間になるというのは置いといて、一度基地へ戻ろう。亜空間通信を使いたいし」
「報告するのか?」
「ああ。この惑星の現状だけでも知らせておきたいと思ってね」
「ついでに応援でも頼むか?」
「それは……状況次第だな。もし、そのリーダーが別人だったら俺たちだけで探すのは無理だ。歩き回って直接見つけるしかないが、都市だけでも30以上もある。まあ、不可能だな。この惑星にいるのがわかれば、応援を頼むのもありだとは思っている」
その考えには俺も賛成だ。
さすがに俺たちだけでは無理がある。いるとわかれば応援を呼んで手伝って貰うのが良いだろう。契約違反になるかもしれないが、消息がわかっただけでも十分だ。役目を果たしている。
後は向こうがどう考えてどう判断するか。
依頼主に委ねるしかない。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
毎日ぽつぽつと書いています。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。