第186話 第2惑星での捜索①
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俺たちは今、第18都市にある高級ホテルに滞在している。
船を下りてからは各都市を巡り、情報を集めていた。
目的は皇太后様とエミリー様の消息を掴むこと。それとこの惑星の情勢。
内紛で革命軍と戦っていると言うが、それらしき戦闘は今のところ起きていない。
調べたところ、離叛した地上部隊がドラギニス軍と交戦していたようだが、連敗が続き、今は表立った行動はしていないそうだ。壊滅したというわけではないらしい。
ネットの情報も、戦争に関しては軍の公式発表以外は情報封鎖になっており、詳しいことは誰もわからない。亜空間通信も制限が掛かっているのか繋がらなかった。
「お疲れさん。どうだ、何かわかったか、ニコラス」
俺は小さく首を横に振った。
何も情報を得られなかった、ということだ。
「そっちはどうなんだ? ブライアン」
「俺も同じだな。情報規制が厳しくて、戦争に関しては何もわからない。軍のホームページに載っている情報以外はな」
俺たちは個別に別れて情報収集をしていた。
ブライアンは部屋に残って、設置してある情報端末機で情報を。
俺とグリースは街中を歩いて市民の声を拾っていた。酒に強いダッツは飯屋で、昼間っから酒を飲んでいるおっさん達に話を聞きに行っている。
ネットで調べられたら楽だったのだが、戦争に関しては情報規制が掛かっており、いくら調べてもわからなかった。
なので情報を集めるため、人が多く集まる駅やショッピングモールなどで聞き耳を立てていた。
しかし、思っていた以上に人の動きが鈍く、買い物客も少なかった。それに店自体が休業しているところが多く、ゴーストタウンに近い雰囲気になっている。
その原因は輸入製品が入ってこなくなったことと、ドラギニス軍が物資を大量に徴集したことにある。
代金を払わず持って行かれたことで物価高になっており、尚且つ、ドラギニス軍によって占領されたことで、商人が来なくなったのだ。
紛争宙域に好んでくる商会はいない。それにドラギニス軍によって徴集されたらたまったものではない。ドラギニス軍と協定が結ばれない限り、怖くて近寄ることもできないのだ。
しばらくはこんな感じが続くという話だ。
「ここも駄目ということか?」
「ああ、星系軍が意図して隠しているようだな。それかドラギニス軍か。今の状況だと、これ以上は無理っぽいな」
色んな場所で調べてみたが、惑星内の情報しか手に入らない。
それもかなり制限されており、戦争に関する情報は殆ど書き込まれていなかった。
自由に書き込みができる掲示板からも消されている。
「俺も雑貨屋の店員に聞いてみたが、戦争に関しては俺たちが知っている以上のことは知らなかった。後はニュースで流している情報だが、それも星系軍が局に圧力を掛けているみたいで、嘘の情報を流していると言っていた。それぐらいだな」
「メディアは信用できないと言うことか……やれやれ、何を信用すれば良いのやら」
そう言って、疲れた顔で頭を振っていた。
嘘の情報が拡散されている可能性がある。裏を取るまでは、鵜呑みにできなくなったということだ。
「帝都と連絡は?」
「送信してみたがエラーで返ってきた。ここも亜空間通信が止められている。何か理由があるのかもしれないな」
基地では繋がったのだが、一歩外に出ると繋がらなくなった。
ドラギニス軍が遮断しているのか、それても行政側で故意に止めているのか。
兎に角、外の情報は一切入ってきていなかった。
「あの方の方はどうだ?」
「そっちも検索しているが、これといった情報はない。ただ、気になる情報がいくつか発見した」
「ほう、それは?」
「革命軍のリーダーが女性だということだ」
「それは……面白い」
思わずニヤッとしてしまった。
革命軍は、困窮している市民に対し無料で食料を配付しているそうだが、ある時、リーダーらしき人物が配給所を訪れ、部下たちに指示を与えていたそうだ。その時見たのが女性だという話だ。ただ、マスクをしていたので顔まではわからなかったそうだが。
「俺も気になって調べたのだが、それ以上の情報は見つからなかったので、違う人物だと判断した。それにあの方が、リーダーなんて目立つことをするか、と思ってな」
「それは……確かに危険だな。正体がバレたらどうなるか」
「そうだろ? それで別人ではないかと思っている」
「でも、あの人なら喜んでやりそうで怖いな。それに、ボランティアは好きだし」
「まあ、確かにな」
そう言って俺たちは苦笑する。
好奇心旺盛な人だから、何事にも首を突っ込む。
革命軍でリーダーをやっていてもおかしくはない。
「どうする? 調べるか?」
「その人の写真とかはないのか? 年齢とか容姿とか。そういった情報が欲しいな」
「探しては見るが難しそうだな。そういった情報があれば直ぐに消すだろう。星系軍に知られるわけにはいかないし」
市民のために命を掛けて戦っているのだから、そういった情報はネットに載せないだろう、と言うことだ。
そうなると、あるとすれば取り締まる側、星系軍の方かな。
「軍のサイトには載っていないか? 戦争犯罪者なら指名手配されているはずだ。もしかしたらそっちの方で載っているかも」
「ちょっと待て、調べる」
モニターに向かい調べ始めたが、直ぐに首を横に振った。
「軍の犯罪者リストを見たが、リーダーに関してはなかった。シューイチとかいう男性は載っていたが。1小隊を壊滅させた凶悪犯として指名手配されている」
「1人で壊滅か? 確かに危険だな。しかし、それは違うな。俺たちが探しているのは女性だから。そういえば一緒に逃げたエミリー様やロズルトの情報もないのか?」
「彼らの名前で検索したが、こちらもヒットしなかった。表立った行動はしてないか、もしくは偽名で行動しているのか。どちらにしろ、それらしき人物の情報はなかったので、不明といったところだ」
まあ、普通に考えれば目立つような行動はしないか。
逃げているわけだし。
「それよりもニコラスの方はって……無理か」
「ああ。写真とか使えれば探せるが、さすがにそれはな。誰を探しているかバレてしまう。だから噂話でもと思って主婦に聞こうとしたが、怪しむような目で睨まれた。今は戦争中だから、市民はみんなピリピリしている。変なことはしない方が良いだろう。軍にでも通報されたら厄介だし」
捕まったら俺たちの目的がバレる危険がある。
だから捕まるわけにはいかなかった。
「他の2人に期待するか……」
ブライアンはそう呟いて、再びモニターへ視線を戻していた。
それから少しして、グリースが疲れた顔で戻ってきた。
部屋に入ると何も言わずソファーに倒れ込む。もう、話すのも嫌というぐらいにヘトヘトになっていた。仕方なく、冷蔵庫から彼の好きなジュースをコップに注いで持ってきてやった。
「お疲れさん。どうだった? 何か聞けたか?」
ジュースを受け取ると凄い勢いで飲み始めた。
そして飲み終えると、「プハー!」と大きく息を吐き、袖で口を拭っていた。
「何もないね。戦争のことを聞こうとすると、みんな逃げるので何も聞けなかったよ。みんな巡回している兵士を気にしているみたい。だから無理だった」
歩き回って汗を掻いたのか、上着を脱いで、シャツの胸元をパタパタさせていた。
「監視が厳しいということか?」
「うーん、どうだか。そんな感じはしなかったけどなあ。でも、兵士を見かけるとみんな逃げるようしていなくなるから、嫌われているのだと思うよ。関わりたくない、という感じだった」
代官の命令とはいえ、肩を持っていたのだから嫌われていても仕方がないか。市民の味方をしていたわけではないし。
それに、ドラギニス軍が占領してからも何一つ変わっていないという話だ。仲間と思われているのかもしれない。
「あの方のことは?」
「それも無理。おばちゃんに、変わったおばさんが居ないか聞いたら凄い目で睨まれたよ。星系軍の人間と思われたのかもしれないね。直ぐに逃げられちゃったよ」
「おばちゃんってお前……」
皇太后様をおばちゃん呼ばわりとか。こんなことを聞かれたら不敬罪に問われるぞ。
それに、おばちゃん相手におばちゃんがいないかとか。きっと自分のことと勘違いし、馬鹿にされたのかと思って怒ったのかもしれない。
そういうのは、聞く相手を選ばないとな。
「それで、どうするの? このまま探し続けるの? はっきり言って無理だと思うけど」
「それにはついては面白い情報があるぞ」
そう言い、ネットで調べた結果を教えた。
「ふーん、あの人に似た人物がいたと言うこと?」
「そういうことだな。今のところ本人かどうかは分からないけど」
「もしかして、それで睨まれたのかな? リーダーを探していると思われたのかもしれないね」
「それはどうだか。可能性はあるが、まあ、多分違うだろう。そんな重要なこと、市民が知っているわけがない。単純に怪しく見えたから、逃げただけだと思うぞ」
「僕が怪しく見えた? ハハハ、それはないよ。だってキチンと挨拶もしたし、微笑んで優しい声で「お嬢さん」と言って呼び止めたのだぞ。言われたとおりにやったのだ。全然怪しくなんかないよ」
ドヤ顔で言われて一瞬ポカンとしてしまったが、直ぐに「プッ」と吹き出してしまった。
「おいおい、冗談で言ったのにその通りにやったのか? それじゃ逃げるわけだ。不気味だからな」
そう言ってブライアンが爆笑していた。
声の掛けた方がわからないと言ったので、ダッツが冗談で教えていたことを実戦してしまったようだ。
今どき「お嬢さん」はないわ。キャッチセールスじゃあるまいし。
「おい! 僕を揶揄ったな!」
俺は「まあまあ」と言って慰めた。
「でも、声の掛けたかはわかっただろ? ただ、普通に声を掛ければ良いだけだから」
「むー!」
怒ってしまった。
まあ、揶揄ったダッツが悪いのだから、後で謝らせるか。
「でもさ、僕は気が付いたんだけど、あの人は革命軍にいるんじゃないの? だって、エミリー様からメールが届いたのでしょ? 亜空間通信が使えるのは基地内だけだし、関係者しか考えられないんじゃない」
おお! グリースが最もらしいことを言ったので俺たちは驚いた。普段はそんなに賢くはないのだが。
確かに、亜空間通信は今のところ基地内でしか使えない。だから基地内にいるのではないかと言うのだ。
しかしだ。肝心なことを忘れている。
メールを送ったのはここからではないということを。
「残念だが、メールが送られたのは領都からという話だぞ。公爵様が調べ、送信場所を特定していたからな」
最初にメールが送られて来たときに、どこにいるか調査はされていた。
そして送信場所が領都であると判明し、その後、小型宇宙船で星系を出たところまでは掴んでいた。
しかし、その先から行方がわからない。だから可能性があるこの星系へ調べに来たのだ。
そのことは依頼書にも書かれていたはずだが。
どうせ読んでいないのだろう。文句ばかり言っていたからな。
「え? それじゃ、この惑星にはいないということになるんじゃないの?」
「そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。それがはっきりしないからから調査に来たのだ。依頼書にも書いてあっただろ? もしいたら連れて帰れと。いなければいないで報告すれば良いだけの話だ」
「えー。いるかいないかわからない人を探すのって時間の無駄じゃない? 面倒だから、最初からいないことにして帰ろう。ここにいたら、いつ戦争に巻き込まれるかわからないし……」
臆病風に吹かれたように、急に帰ろうと言い出した。
軍の戦艦が相手では、いくらグリースの腕でも勝つのは難しい。
それに、レーザー砲一発で沈む危険がある。
だから弱気になり、帰ろうと言っているのだ。
グリースの気持ちも分かるが、流石にそれは許されることではない。
「しかし、契約は契約だ。嘘つくことはできない。それにバレたら帝国に居られなくなるんだぞ。それでも良いのか? 違約金も取られるし」
違約金と聞いて眉を顰めた。
有り金を全て遊びに使ったので、払う金がないからだ。
「だ、大丈夫だよ。バレやしないって。ここまで来たことだし、契約は果たしてたことになる。帰ったって怒られはしないよ」
「もし、本当に居たらどうする? 嘘をついたことになるのだぞ。そんなことをすればギルドの信用はガタ落ちだ。調べて見つからなかったら諦めるが、それ以外は駄目だ」
「むー……」
ちょっと強めで注意したら、むくれてそっぽを向いた。
これだからお子ちゃまは。直ぐに楽をしようとする。
若いときからこんなことをするようになれば、先は暗い。
仕事は仕事。若いうちからキチンを躾けないとな。
「まあ、そんなにむくれるな。取りあえずダッツが戻るまで飯にでもしようか。昼も過ぎたことだし、腹も空いただろ?」
ブライアンの提案に俺たちは頷く。
歩きっぱなしで腹が減っていたのだ。
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