第181話 今後の対応
副官が戦闘結果を持って俺の執務室を訪ねていた。
その表情には笑みがなく、少し疲れた顔をしている。
それで何となく察した。まんまとやられたということが。
「やはり罠だったようだな?」
「はい、司令官。基地に誘導しなくてよかったです。基地内で暴れられたら手が付けられず、壊滅していたかもしれません」
「そうだな。最悪は基地を放棄して逃げ出していたか。慎重なって正解だったか……」
あまり当たっては欲しくなかった勘が当たり「フッ」と鼻で笑った。
しかし、予測していたのにも関わらず敵艦を沈められなかったのは痛かった。
計算では沈められる数を集めたつもりだったのが。
「宇宙ステーションごと沈めても構わないと言ったのだが」
「反撃したのですが間に合わず、初動でかなりの艦を沈められました。それが勝敗を大きく分けたようです」
「向こうの艦長は思い切った行動をしたものだ。宇宙ステーションを傷つけたら重罪だということは知っているはずなのにな」
「ええ、それで完全に裏をかかれました。ドックに入れば大丈夫だと思った矢先に、ドック内から攻撃を受けました。最初からその作戦だったと思います」
「普通に考えれば、ドック内で発砲はしないからな。向こうの方が上手だったと言うことだ」
まさか攻撃するとは誰も思わないだろう。
油断するなと言ったが無理な話だったようだ。
「それと、代官からクレームが入っています。宇宙港を使えなくなったことで責任を取れと」
「ふん、無視しておけ。どのみち商船は来ないからな」
亜空間通信機を奪われたことで、この惑星の現状が他の星系に知られるだろう。
ドラギニス軍とこれから戦闘に入ろうかとする宙域に商船は来ない。それに、ドラギニス軍に支配されていると知って来る馬鹿もいないはずだ。運んできても、無条件で接収されたらたまった物ではないからな。
そしてそれは、我々も補給ができないという意味にもなる。
軍事物資は全て輸入に頼っていたのだから、商船が来なければ補給もできないということだ。
しかし、それはわかっていたこと。
現状を知られたら、この星系に対して軍事物資の輸出制限が掛かる。
それを無視して持ってこようとする商人はいないはずだ。バレたら営業資格剥奪で捕まることもある。たとえ代官の息が掛かっている商人でも、そこまでしてここには運ばないだろう。
商人を呼ぶには全てを終わらせて、ドラギニス公国から呼ぶしかない。後はどこの国も属していない自由貿易都市の商人を呼ぶか。
どちらにしても戦争を終わらせないことには誰も来ることはない。
「それよりも出航の準備を進めろ」
「どこかに行かれるのですか?」
「帝国軍が攻めてくる」
「え? まさか、こんなところに?」
「こちらの残りの部隊は?」
「先ほどの戦闘で数を減らしましたので、動かせる部隊ですと4部隊ほどになります。しかし……」
「だいぶ減らされたな。この数なら一気に落とせる。私が向こうの指揮官なら、帝国軍を呼ぶだろう。こんなチャンスは二度とないからな」
これだけの数では惑星周辺の宙域を監視できない。
分散していれば何とかなるが、それだと戦力が大きくダウンする。
攻めてきても対抗できない。
どうするか……。
「ですが、帝国軍を動かすとなると簡単にはいかないのでは? ここはベルカジーニ伯爵の領地ですし、他の軍を入れるなど許可が下りないと思います。内政干渉にあたる可能性がありますから」
余程のことがない限り、自領に他領の軍を入れることはない。それは帝国軍でも同じこと。
普通に考えればありえない話なのだが。
「それはこの惑星がドラギニス軍に支配されていなければの話だ。奪われたことで領主殿の管理から外れる。帝国法でも、領地の奪還に関しては帝国軍の介入は許可されている。領地も守れない貴族に任せることはできない、という意味でな」
「無能扱いを受けるのですね」
俺は頷いた。
「そのために軍の保有を許されているのだ。それで守れなければ帝国軍が出てくるのは当然だ。領主殿は、その後が大変になるがな」
帝国軍を動かせば金が掛かる。その費用は領主持ちになるはずだ。
かなりの金を支払うことになるだろう。
「そうなると大変なことになりますね」
「この第2惑星が、ドラギニス軍と交戦中であれば、まだ、領地として認められるが、降伏しドラギニス軍を受け入れたことで、帝国の領地ではなくなった。陛下の許可が下りれば、いつでも介入できるのだ」
「それでしたらこちらもドラギニス軍に援軍を求められたら如何でしょう? 帝国軍が来るのであれば、我々の残り部隊だけでは対処できないと思います」
「フン、何て頼むのだ? 戦艦1隻にやられたので増援が欲しいと、そう言うのか? そんなこと頼めるわけがないだろ」
我々にもプライドはある。
そんなこと、頭を下げて頼めるわけがない。
「ですが、どうすれば」
「取りあえず、いつでもゴリアンテを出せるように整備と補給を済ませろ。それと超高熱反応弾も積んでおくように。恐らくだが、それが命運を分けるだろう」
「反応弾を? ……わかりました」
副官は詳しく聞かなかったが、この一発で戦局を大きく変えることができると思っていようだ。
俺の経験上、そんなに甘くはない。
戦力差がないときに使いのであれば有効だが、大差があるときは気休めにしかならない。向こうがどれだけの数で来るかわからないが、我々の部隊より少ないということはないはずだ。戦局を変えるほどの効果は期待できないだろう。
「取りあえずドラギニス軍の司令官と連絡を取るか……」
「やはり、増援を求められるのですか?」
「いや、増援ではない。確認したいことがいくつかあってな。その話の内容次第で次の作戦を考える」
やはり気になるのは、ドラギニス軍のほぼ全てが第3惑星に向かったことだ。
残された我々を信用して、ということはないはずなので、その真意が知りたい。
どうして我々に惑星を任せたのかと。
「連絡が付きますかね。向こうも忙しいと思いますが」
「わからない。こっちに残っているドラギニス軍に連絡を取って繋いで貰え。私からでは出て貰えないからな」
なぜかこちらから通信すると無視される。
同盟になったのだからおかしな話だ。そういったことも含めて確認したいのだが……。
「そういえばドラギニス軍の調査は終わったのか。この星系のデータを集めていたようだが」
「それについては先日終わったようです。なぜか知りませんが、解析していた人達がすごく落胆していました。何を調べていたのでしょうか?」
「わからない。そういったことも教えてはくれなかったからな」
謎が多い国だ。
侵略された都市は、兵士の略奪によってかなり荒れるものが、ここではそういったことが起きなかった。もうちょっと混乱するかと思ったが、そういったことも起きていない。
要求したのは燃料や食料など、航海に必要な物だけ。
それとこの星系のデータを求めていた。最初は侵攻するのに必要だからと思っていたが、そういったことではなさそうだ。
一体何が目的なのか。不気味で仕方がなった。
「そういえば、我々はいつまでここに? 話ではドラギニス公国で叙爵のはずですが」
「恐らくだが、早くても第3惑星での戦闘が終わってからになるだろう。それでまでここで待機ということだ。惑星を守ってな」
守れなかったどうなるか。話は無しになるだろう。
付いてきた部下達が落胆するだろうが、まあ、仕方がない。
負ければそうなるのは兵士ならわかるはずだ。
戦争は、勝たなければ意味がないのだと。
「早く終わればいいですね」
「そうだな……」
いつまで経っても開戦しない。増援を待っているかと思えば、そういう感じでもない。
彼らの考えている事がわからなかった。
できれは早く終わらせて貰えばこちらも助かるのだが。
こればっかしは意見が言える立場ではないので待つしかない。
「今のうち革命軍の基地でも攻撃しますか? 場所はわかっていますので」
「ふむ……」
基地の位置はグリード・ラグマンが知らせてきた。だからいつでも叩ける状況にはなったのだが、今は部隊が少ない。
この数であの戦艦を相手にするには不安が残る。負けでもしたらそれこそこの惑星を手放さないといけなくなるだろう。
このタイミングで部隊を動かすには、リスクが高すぎる気がした。
「それよりも亜空間通信機の所在はわかったのか?」
「そちらはグリード・ラグマンからの報告にはありませんでした。本人には知らせていなかったようです」
「その時点で警戒されていたということか。大分前からバレていたのかも知れないな。有力な情報も、例の空港の時にしか持ってこなかったし、大きな作戦には参加させていなかったのかもしれん。敢えて泳がされていたのかもしれないな」
本人は一生懸命隠していたようだが、最初からわかっていて見逃されていたのかもしれない。奴が持ってくる情報は、どれも簡単に手に入るような物が多かったからな。
「知っていて見逃されていたのですか? 凄いことしますね。情報が渡れば、壊滅する恐れもあるのに」
「向こうも、こちらが本腰を入れて潰そうとしてなかったことがわかっていたのだろう。敢えて見逃されていると知っていたから、向こうも見逃していたのだ。お互いの利益のために」
捕まえてしまえば軍事物資が手に入らなくなる。そして物資が手に入らなければ戦えない。悩んだ末の決断だったのかも知れない。
「全てわかっていての行動ですか?」
「革命軍のリーダーもなかなかやるようだ。正体はお金持ちの貴婦人と聞いていたが、それだけではないだろう。素人がこんな作戦を思いつくはずがない。きちんとした教育を受けた者、恐らく士官学校を出ているな」
「軍人ということですか?」
「年齢を考えれば元だと思うが、そこら辺の情報は少ない。それに帝国軍に居れば俺の耳のも入ってくるはずが、そのような女性がいたような話は聞いたことがない。謎の人物だ。調べてみるのもありだと思うが……フッ、今更か。正体を知ったところで今の現状を変えることはできない。時間の無駄になりそうだな」
知ったところで何かできるわけでもない。
この話は終わらせた。
「今は基地を叩くのはリスクが高すぎる。反応弾がもう一つあれば基地ごと破壊できるのだが、今後の事を考えると今は使うべきではないだろう。それに、その基地に亜空間通信機が隠されていたら一緒に破壊することになる。無闇矢鱈と攻撃はできない。所在を明らかにするまではな」
はっきり言えば、亜空間通信機が無くても俺が困ることはない。自分がこの惑星を統治することはないと思うからだ。しかし、ドラギニス軍が治めるとなるとそうはいかない。
あの戦艦を沈めたとしても、亜空間通信機がなければ本国と通信できず孤立するだけだ。
だからと言って、貴重な通信機をこの惑星のために持って来るかというと、そこまでこの惑星に価値はない。これといった資源もない惑星なのだから、放置されるのが関の山だ。
誰に統治を任せるかは知らないが、破壊すればドラギニス軍がすることはない。
それに責任問題にもなるだろう。守れ、とは言われていないが、それでも俺の評価は下がる。喜ばしいことではない。
「わかりました。どこに運ばれたのか、所在を確認させます」
「向こうも簡単にわかる所には隠していないだろう。しかし、通信するには巨大なアンテナが必要だ。それを見つけ出せば場所はわかるはずだ。それを衛星で探し出せ」
「しかし、いくつか監視衛星が破壊されているので、全ての地上をスキャンするのは無理です」
「それなら監視衛視で見れない所にあるということだ。そこを重点的に探させれば良い。人を使い時間を掛ければ見つかるはずだ」
「わかりました。各都市にいる警備兵に探させます」
「ふむ。任せたぞ」
もう遅い気もするが。
通信が復旧しているようでは、こちらの情報は領都に伝わっているだろう。そして帝都まで行くはずだ。止める方法はない。
部屋を出て行く副官を見送ると、小さな溜息を吐いた。
やはり後手後手に回っている感が否めない。そして気が付けば相手の術中に嵌まり、多くの艦を失っている。ドラギニス軍を招き入れた所まではよかったのだが……。
今後、どうするか。
増援も補給も期待できないこの状況で、どうやって革命軍と戦っていくのか。そして帝国軍が来た場合どうするか。
残されている時間は少ないようだ。
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