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第180話 後処理


ロズルトはエミリーを迎えに行ったため、今はグランバーが代わりに指揮を執っていた。

そのグランバーから帰投したと報告を受けた私は彼を呼び、事後処理について話をしていた。


「無事に戻ってきたようね。しかもかなりの部隊を壊滅させたとか。私の考えを読んでいるのかしら?」

「しかし、ミチェイエル様。宇宙ステーションに甚大な被害が出ているとの報告も受けています。復旧には時間が掛かるかと」


グランバーはそう報告すると「はぁ……」と溜息を吐いた。

この後の処理を考えると頭が痛いのでしょう。それに責任の所在を明らかにしないといけないし、彼に責任を押しつけるわけにはいかないわ。全てあのAIがやったのでしょうから。


「それは仕方がないことです。逆に考えましょう。あれだけの被害でこの惑星が取り戻せるのであれば安い物よ。人的被害も少ないようですし」

「星系軍が管理していたようで、民間人は少なかったのが幸いでした。物資の管理も代官の息が掛かっていた商会が一手に引き受けていたようでし、被害があっても代官のところの商会だけかと思います」

「輸入制限を掛けて管理していたのは代官でしたね。自分の都合が良いように好き勝手にやってたようですし、少しは痛い目に遭った方がよいでしょう。今後は輸入もできなくなりますから」


宇宙ステーションがあの状態では船は来れないでしょう。

それに亜空間通信が復旧したことで、商人もこの星系に来ることはできなくなる。

現状を知れば、ここに商品を運んでくればドラギニス軍に協力している思われるから簡単には行けないでしょう。しばらくは商品が届かなくなるわね。


「市民の生活に支障がでそうですね」

「それは仕方がないです。今は有る物で何とか凌ぎましょう。しかし、それも長くはないはずです。この惑星を奪還すれば商人を呼べますから、今しばらくの辛抱です。市民にもそう伝え、暴動など起こさないよう軽はずみな行動は控えるように伝えて下さい」

「了解しました」


私は静かに頷いた。

与えられた仕事をキチンとこなせるのがグランバーの良いところ。

軍歴が長く、隊長ということもあって、細かなところまで指示が出せるのが彼の強みだわ。ロズルトはどちらかというと脳筋派ですから直感で行動する。

グランバーがこの惑星にいてくれて助かるわ。私たちだけでは無理だったでしょうから。


「ところで船の制圧は終わったの?」

「はい。抵抗もなく全員が投降、怪我人もでませんでした。しかし、傭兵のひとりが重傷で、医療カプセルに入れました。それと、グリード・ラグマンが……」

「あら、死んだの?」

「嬉しそうに聞かないで下さい。いいえ、死んではいないのですが、顔を腫らせ別人のようになっていると」

「殴られたのね?」

「はい。彼に殴られたそうです」

「フフフ。先を越されたようね。後で私が殴ろうかと思っていたのですが、残念です」


私は思わずニコッと微笑んだ。

今までの恨みを込めて殴ってやろうかと思っていたのですが、先を越されたようね。

仕方がないですね。腫れた彼の顔を見て満足しますか。それに、もう会うこともないでしょうし。


「彼は牢屋に入れておいて。戦争が終われば裁判に掛けるから。後は治療もしなくて良いです。しばらくはそのままにしておきましょう。罰として」

「そう言うと思ってそのまま牢屋に入れてあります。それと、他の乗員はどうしましょうか? かなりの人数になりますが」

「そうね、話を聞きましたが会長の命令で付いてきたそうね。家に帰らせて周りにペラペラしゃべられても困るので、しばらくは軟禁を。この戦争が終われば解放しましょう。殆どがラグマンの被害者ですし」


全員がそうだとは思わないけど、ひとりずつ証言を取るのも面倒だし、細かいことは領主に任せればよいわ。

戦後の処理は領主の勤めですから。


「それよりもこちらに向かっていた小型船の方はどうなの? 連絡は付いたのかしら」

「はい。ウリウスが敵部隊を引きつけてくれたおかげで、惑星に近寄ることができ、無事に降下しました。今はこの基地に向かっています」

「誰だったの?」

「ブライアンと名乗る青年と、その他3名でした。宇宙船名はダブニース号です」


ダブニーズと聞いて思わず眉を顰めた。

また面倒な人たちが来たものだと。


「はぁ、やはり彼らでしたか。こんなところに来るのは彼らぐらいでしょう。それに重要な任務は彼ら以外に頼む人はいませんから。それで、目的は聞いているかしら?」

「いいえ、詳しい話はまだ。彼らを知っているのですか?」

「ええ、昔ちょっと雑用を頼んだことがあって、それからの付き合いかしら。危険はないので、近くの基地に誘導して。こちらには連れて来ないように」

「わかしました。しかし、どうしてですか? お知り合いならこちらの方が良いかと思いますが」

「フフフ、私たちがここに居ることは、まだ知らせない方がよいかと思って」


彼らの目的が何か想像は付くわ。陛下に言われて私たちを迎えに来たのでしょう。

でも、これからが面白くなるのだから帰るわけにはいかないわ。

それに帰ったら五月蠅い五月蠅い説教が待っているんだもの。帰るわけがない。帰るときはそれなりに戦果を残さないと言い訳ができないし。

彼らには悪いけど、しばらくこの惑星で遊んでいて貰いましょう。私たちのことを探し回ってね。


「顔が知られている私は会わないわ。エミリーとロズルトにもしばらくこの基地から出ないようにと伝えて。見つかると面倒ですから。それと、彼らと話すときはあなたが代表で会うようにして。私の事は内緒にするように。もし、どうしても私に会いたいと言われたら、代わりの人を連れていけば良いわ。向こうは革命軍の代表の顔を知らないのですから、いくらでも代わりを立てられるわ。それで誤魔化して」

「どうしてそんなことを?」

「今彼らと会うと、私の存在が広がってしまう恐れがあるからよ。噂が広がったら面倒なことになるわ。だからしばらくは内緒にしておきたいの」


全部嘘ですけどね。

会えば無理矢理連れて帰らされると思うので、会わないだけ。

私も勅命と言われたら逆らえないですから。


「ですが、彼はここに居ることは知っているわけですよね?」

「私たちが惑星にいることは知っているわ。そのように伝えるようエミリーには言っておきましたから。ですが、私が革命軍で指揮を取っていることまでは知らないはずです。教えないように言っておきましたから。こんな事をしていると陛下に知られたら怒られますからね、私が。だから内緒にしているのよ」


「また、余計なことに首を突っ込んで」と言っていつも叱られる。

仕方ないでしょ。退屈なんですから。

ずっと後宮で籠もっているのも辛いのよ。これぐらい大目に見て貰いたいわ。あそこは娯楽が少ないのですから。


「内緒にできるようなことではないと思いますが……」

「いいですか? 私はここではただのお金持ちのお婆さんになっているのですから、そのように話を合わせて下さい。良いですね?」

「そう言われるのであればそれに従いますが……」


渋々という感じで頷いた。グランバーは頭が固いわね。黙っていれば良いのよ、黙っていれば。

私の事を知っているのは幹部の人だけ。しかも本当のことを知っているのは僅か数人。簡単に見つかることはないわ。

なるべく人前に出ないように気をつけていたし、顔を知られないように会うときは代理人を立てていた。すぐに見つかることはないはず。向こうも大っぴらに人捜しなどできないですからね。時間が掛かると思うわ。その間に私はやることをやるだけ。

忙しくなるわ。見つかる前に全てを終わらせないといけないのですから。


「それで、ウリウスのことですが、どうなさるのですか? 野放しというわけにはいかないでしょう。あの戦闘力を見れば」

「そうね……」


そう言えばウリウスの問題もあったわね。

戦艦1隻であの戦闘力。それにあのAI。

監視をつけないと危険かしら。でも、そんなものを付ければ嫌がるのは火を見るよりも明らかですし、逃げ出すかもしれないわね。

彼を縛り付けておく理由があれば良いのですが……。


「今のところ良案はないわ。私たちが何かすれば逃げ出すと思うし、敵に回すともっと厄介になるわ。今は余計なことはしないほうが良いかもしれませんね。静観としましょうか」

「わかしました」

「もう少しエミリーと仲良くなってくれたら、一石二鳥なのですが……」


私はグランバーに聞こえないように、小さな声で呟いた。


「ん? 何か言いましたか?」

「いいえ、何でもないわ。それよりも次の作戦だわ。敵の数が減ったことで監視が緩くなったから、今のうち帝国軍を動かしましょう。向こうの方は星系軍に任せて」

「帝国軍を動かしてもよろしいのですか? 領主殿の許可を取らないと内政干渉とか言われますよ」

「構いません。そもそもこの惑星は今はドラギニス軍によって支配されています。既に領主殿から管轄を離れたということです。それなら何をしても構わないでしょう。全てここの領主殿の責任なのですから。私が関わったところで文句の1つも言えないはずです」

「まあ、そうなんですが……」

「一度に動かすと目を付けられますから、少しずつ動かして。惑星の近くで集めてから奪還作戦かしら。ちょうど監視衛星が壊されて目が届かない場所があるから、そこに集結を。それから一気に叩くという感じになるわね」

「監視衛星を破壊していたのはこのためですか?」

「私の作戦ではないわよ。あのAIがやっていたこと。そうでしょ?」

「ええ、まあ、確かに帰る途中で監視衛星を破壊していましたが……それもこの時のため?」


グランバーは信じられないという顔をしていた。


「それはどうだか知らないわ。でも、折角そういう状況を用意してくれたのですから、利用しない手はないでしょう。それにあえて数を減らすような行動しているでしょ? 積極的に敵艦を沈めているし。そこまでされたら私も動かないわけには行かないわ。亜空間通信も復旧したことですし、これで帝都と通信できるのですから帝国軍を派遣させましょう。一度に動かすとドラギニス軍に感づかれるかもしれないので、少しづつしか移動できないけど」


途中で見つかるとドラギニス軍が戻って来る恐れがあるわ。そうなると、この惑星を巻き込んだ戦闘になる。それだけは避けたい。

惑星を盾に戦われたら、私が居ると戦えないでしょうから。


「わかりました。連絡を取ってみます。しかし、帝国軍を動かすとなると陛下の許可が必要になりますが、大丈夫でしょうか?」

「そうね、あの子は昔から頭が固いから。私が言っても簡単には動かさないでしょう。それに帰って来いと言うと思うし。……困ったわ、いっその事、エミリーを誘拐されたままにしておこうかしら。そうすれば部隊を派遣しくれるかもしれないし……。そうね、そうしましょ!」


妙案を思い付き、思わず嬉しくて両手をパチンと合わせた。

まさかここに来てエミリーの誘拐が役に立つとは思いも寄らなかったわ。

ラグマンには感謝しないとね。

食事くらい豪華にしてあげようかしら、フフフ。


「いや、それは後で知られたときに不味いのでは」

「いいのよ。こちらに着いた時には、すでに救助したことにしておけばわからないわ。全てラグマンのせいにすれば良いのよ。誘拐したのは事実だし、今更罪が少しぐらい重くなっても問題ないでしょ?」

「嘘をついただけでも問題大ありだと思いますが」

「いいのよ。何か言われたら逃げれば良いのだから」

「いや、それはそれで問題が」


グランバーが困った顔をしているが、冗談だわ。

これで逃げたら更に怒られるし、指名手配とかされるわね。

いつまでも隠れていれば、それぐらいやりそうだわ。私を捕まえるためにね。


「冗談よ。それよりも帝都に連絡を取って部隊を動かして。エミリーが誘拐され探索に人手が欲しいからと。そのついでに奪還作戦も実行するので、艦隊も派遣するようにお願いしておいて下さい。もし、私に帰って来いと言われたら、探索の指示があるから無理と答えておけば良いから。それと見つからないように少数で移動すること。集合場所はこちらで指示をするわ」

「本当に良いのですか? 後でどうなっても知らないですよ」

「あなたは心配しなくても大丈夫よ。私が何とかするから」

「そう言って後で怒られるのは我々だと思うのですが……」


そう言って「はぁ……」と溜息を吐いているけど、心配性ね。

ちょっと黙っていれば良いだけの話なんですし、知られなければ怒られることはないわ。

上手くいけば、惑星を取り戻せるのですから。


「それじゃ、後はよろしくね」


私がニコッと微笑みと「わかりました」と言って、ものすごく疲れた顔して出て行った。

働き過ぎかしら?

一段落ついたら休暇を与えるのも良いかもしれないわね。



*****



執務室を出た俺は頭が痛くなってきた。

相も変わらず無茶を言う。

やるこっちの身にもなって貰いたい。頼むだけでも大変なのに。

それに黙っていれば良いなんてできるはずがない。

聞かれたら答えるしかないだろ。相手が陛下だったら。

俺たちの身分を考えて欲しいよ、まったく……。

ま、愚痴っても仕方がない。

今は言われたことをやるだけ。通信室へ向かった。


「疲れた顔をしていますね、グランバーさん。またリーダーから無茶を言われたのですか?」


そう言って気楽に話しかけてくるのは、この部屋の管理を任せているカリーナ嬢だ。

この基地の通信関係を一手に引き受けている。ネットワークの監視も彼女の仕事だ。不審な通信があれば教えてくる。

その彼女が俺を見て笑っている。まったく、人の不幸が嬉しいようだ。


「亜空間通信を使いたい。大丈夫か?」

「問題ないですよ。亜空間も安定していますし、送信は可能です。ですが、大量のデータを送るのには、ちょっと接続帯域が少ないかと。惑星全土に使用解禁するには、きちんとした設備の元で動かさないと駄目ですね。パンクすると思います」

「ふむ……」


仮で作った通信施設ではこんなものか。それでも我々で使う分には問題ない。

使用することにした。


「帝都に連絡を取るにはボルトン公爵家を通さないといけないのだが……」


ボルトン公爵家はエミリーの実家だ。

私が教えられたのはそこだけ。流石に皇族と直接連絡を取る方法は教えられていない。

ミチェイエル様が直接やればよいのだが、叱られるのが嫌だからと言って拒否された。

あの人には困ったものだ。これで迷惑を掛けていないと思っているのだから。


公爵家には先ほど言われた内容でメールを送信する。ただし、誘拐の件は除いてだ。嘘と知られたら面倒になるだけ。俺まで責任と取らされる。だから黙っていることにした。


「そういえばエミリーさん宛てに、こちらにメールが届いていますがどうしますか? 中身は開いていないのでわかりませんが」

「なんでこちらに? それよりもどうして基地のメールアドレスを知っている? 誰か教えたのか?」

「いいえ、誰も教えていないと思いますが。中を開いていないので送信主も誰かわからないですし」

「ふむ……」


恐らくが、公爵様がエミリーにメールを送ったが無視されたので、こちらに送ってきたのだ。

これは開いて俺が確認した方が良いのか?

他の人に読ませてエミリーのことを知られるわけにもいかないし。


「俺が後で本人に確認する。今度、エミリー宛に来たメールは俺を通すように。他の人には見せるなよ」

「了解しました」


彼女は口が堅いので余計なことは言わないだろう。でなければ、通信関係の仕事を任せるはずがない。


「しかし、今後こういうやり取りをするとなると窓口が必要だな。エミリーに頼みたいのだが……」


家を飛び出しと聞いた。嫌がるだろうな。色々と言われるからな。


「仕方がない。俺のアドレスを知らせておくか。ミチェイエル様を表に出すわけにはいかなし……」


結局、貧乏くじを引くのは俺なので、楽になることはない。

今後はミチェイエル様と公爵家に挟まれるのか。

考えるだけでも、胃がキリキリと痛くなってきた。






ご覧いただきありがとうございます。


時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。

毎日ぽつぽつと書いています。

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