第179話 宇宙港での戦闘③
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隔壁が閉まり、宇宙港の機能が全て停止した。
そして退去命令が出されている。
宇宙港にいる人たちは、反対側のドックから逃げるようにとアナウンスが流れていた。
「動力炉に当たればぶっ飛ぶぞ」
星系軍はそれをわかっている撃ってきている。
この宇宙ステーションごと沈める気だ。
「これは不味いな。外に出るぞ。ジェネレーターの出力を更に上げろ。一発で船を沈める」
コアに命令する。
全て任せるつもりだったが、このままだと宇宙ステーションが沈むので、仕方なく指示を出すことにした。
宇宙港を沈めたとあっては、不名誉な伝説が残りそうなのでね。
「本艦移動開始。ハッチに向かって加速中です」
「ハッチが開きません。ロックされています!」
「管制室に連絡を取れ。開けるようにと」
「管制室、応答ありません!」
みんな逃げ出したみたいだ。
こうなったら突き破るしかない。
「ジェネレーターの出力が更に上がります。120パーセント」
100パーを超えると、その後は動かなくなるんだっけ?
でも、基地に戻れば関係ないか。
しばらくは休めるだろう。
「ハッチを突き破る」
「無理です。シールドのエネルギーだけでは突き破れません」
近くの社員が俺に報告するが、そんなことは知るか。
コアが何とかするだろう。出力も上がったことだし。
それに駄目なら駄目だとコアが言うはずだから。
「構わない。衝撃があるかも知れないから、何か捕まるように」
シールドが破れて船に直撃すれば衝撃があるかもしれない。
俺もそこら辺はわからないので行き当たりばったりだ。
「ハッチと衝突します!」
メインモニターには、迫ってくる穴だらけのハッチが映っていた。
なかなかの迫力。
これが普通の船なら恐怖しかないだろうが、しかし、この船は普通ではない。
大丈夫だと信じていた。
バチッという音とともにハッチがくの字に曲がる。一瞬、船が止まったが、そのまま突き破って外に出た。
「嘘だろ……」
みんな驚いていたが、俺はそのぐらいでは驚かない。できるだろう思っていたので。
「まだ、終わりではない。敵艦の位置を確認」
今度は外から攻撃していた敵艦と交戦が始まった。ゲート付近の船は全て破壊したので、残りは、この宇宙港を包囲している部隊のみ。
それでも中から攻撃をしていたので、数はそれなりに減らしていた。
「最初に比べたら数が減ったが、それでもまだ多いな」
当初よりは減っていたが数が多い。
かなりの数をここに集めていたみたいだ。
「攻撃がきます」
レーザー砲が飛んでくる。しかし、全ての攻撃をシールドが弾いていた。
その光景を始めて見た部下達は、唖然としている。
普通の船とこの船ではジェネレーターの出力が違う。
2倍以上は出せるこっちのジェネレーターは、シールドにも多くのエネルギーを回せるため簡単にダウンすることはない。
シールドがダウンするときは、損耗率に対しエネルギーの供給が追いつかなくなった時だ。大量に作り出せるこの船は、簡単に沈むことはない。
「お、おい。耐えられるのか?」
いつの間にか会長さんが復活して、青い顔をしていた。
これだけのことをしでかしたのに、死ぬのは怖いらしい。
「シールドの損耗率67パーセントです。まだ、余裕があります」
それを聞いて安堵の表情を浮かべていた。
「近くの船から確実に沈めていけ。後方の船は気にするな」
『わかしました、マスター』
この船のシールドなら、長距離のレーザー砲など気にする必要ない。
問題なのは近くの船で、ミサイル攻撃だ。同時に当たるとシールドの損耗率が一気に跳ね上がる。注意するのはそれぐらいだ。
「この数に勝てるのか?」
会長さんが聞いてくるが俺にもわからない。
ただ、やらなければこちらがやられるだけで、勝つしかないのだ。
でも、それは杞憂だったようだ。
100パー以上に上げたジェネレーターは敵の攻撃を全て弾き、百発百中の攻撃で確実に敵を減らしていった。
気が付けば一方的になっていた。
結局、どれだけの船がいたのか知らないが、敵部隊は壊滅、戦闘は終わっていた。
中には逃げ出した船もあるので全滅とまではいかなかったが、それなりの損害を与えられたようだ。
「しかし、ドックに入って相手が油断しているところで攻撃か。いつもながらえげつないね。ドックにいた兵士は全滅か? とても子供に見せられたものではなかったぞ」
残っている敵艦がいないか確認しながら嫌みを言う。
今回はやり過ぎではないかと。
『あの場に民間人は居ませんでした。破壊しても問題ありません。しかし、反撃してくるとは予想外でした。あの状況なら攻撃してこないと計算していたのですが』
サブモニターに映っている女性士官は淡々と話している。
驚いていないところを見ると、実は予想していたのではないかと思う。コアが、このぐらい予想できないとは思えないからだ。
こうなることを予想してドックから攻撃したのだろう。破壊されても構わないと。
俺が命令を出さなければ、あのまま戦っていたはず。宇宙ステーションは沈んでいたかもしれない。
「最初からそういう命令が出されていたのかもしれないな。場合によっては破壊してもかまわないとか。相手は国を裏切った軍隊だ。宇宙ステーションの1つや2つ、破壊しても構わないと思っていたのかもしれない」
『だとすると、敵の指揮官を少し甘く見ていたのかもしれません。次回はそういったことも考慮し、もっと効率よく殲滅できるように計算しましょう』
「いや、殲滅しなくて良いから。それよりも犠牲を少なくする方法を考えてくれ。後処理が面倒だから」
『私の計算では、それほど被害はでない計算でした』
「普通に戦うだけでは駄目だったのか? お前の性能なら、正面から戦っても勝てたはずだ」
『敵艦の数が多いのと、こちらを警戒していました。正面から戦うにはこちらが不利で、なのでこのような手段を使いました。あの時の状況では、あれが最善策です』
「はぁ、最善策ねぇ……」
確かに警戒していた。
最初からシールドを張っていたし、攻撃体勢にも入っていた。
下手な行動していれば、一方的に攻撃されていただろう。
あれが最善策だったと言えばそうかもしれない。
「まぁ、こちらに被害がなかったし、あれが正解とは思わないが、最善策といえば最善策だったのだろう。その代わり宇宙港に甚大な被害がでたけどな」
終わったことをとやかく言っても仕方がない。
そういうことにしておいた。
「で、この後はどうするのだ?」
『基地に戻ります』
「こいつらを乗せて?」
『引き渡す必要があるでしょう。エミリー様を誘拐しましたので』
それを聞いていた部下達は青い顔をした。
捕まればどうなるか、わかっているからだ。
「わ、私は戻らないぞ、絶対に!」
会長さんは何を血迷ったのか、倒れていた傭兵からサーザー銃を取ると、俺に向けて構えた。
「基地には戻らない! 直ぐにワープだ!」
「ワープ? どこに逃げるつもりだ?」
「ラスティン王国へ逃げる。そこでもう一度やり直すのだ。この船を売り払えば、開業資金ぐらい直ぐに集まる。捕まるものか!」
戻れば捕まるのは目に見えている。
だから隣国へ逃げるようだ。
「それは無理ではないのか? 燃料も食料もそこまで用意はしてないだろ。途中で尽きると思うが」
「指名手配されない今ならどこででも補給はできるはずだ。途中の宇宙ステーションで補給すれば良い」
たとえ逃げたとしても、今の状況では彼を指名手配にはできない。革命軍にそんな権限はないからだ。
あるとすれば裏切った星系軍だが、彼らがそんなことはしないだろう。それにそんな権限が残っているとは思えないし、籍は剥奪されているはずだ。
今であれば、逃げようと思えばどこにでも逃げられるということだ。
「そう言われるとできそうだな。でも、俺はまだ行くわけにはいかないんだよね。身分証を貰っていないから。それに、あんた達と一緒に旅をしても面白くなさそうだし、遠慮させて貰うよ。いくならひとりでどうぞ。他に行きたい奴がいれば別だが」
部下達の方をチラッと見るが、あまり乗り気ではないようで、会長さんがそっちを見ると慌てて目をそらした。
惑星に家族を残しているのであれば、そう簡単に決断できないだろう。二度と会えなくなるのだから。
「お前達は行かないのか?」
「自分には嫁と子供がいるので……」
ひとりがそう答えた。
そもそもこの作戦は100パー成功すると思って協力していたので、捕まるとは思っていなかったはずだ。
家族と離れ離れになることなど考えていたとは思えない。
「お前達、捕まったら監獄ステーションに送られるのだぞ。そしたら死ぬまで出てこれなくなる。それでもよいのか?」
「いや、自分達は会長の命令に従っただけなので、そんなに罪は重くないはずです。でも、逃げてしまえばもっと罪が重くなります。この場合は逃げない方が良いのではないかと……」
会長さんを裏切って保身に走った。
確かに会長さんの命令に従ったとなれば、情状酌量はあるかもしれない。
逆らえないのであればだけど。
「お前達、俺を裏切るつもりか! 今まで散々世話してきた俺を見捨てるのか!」
「あんたの世話になった覚えはない。俺たちは先代に世話になったのだ。今の会長に恩などない!」
誰かがハッキリと言い切った。
その声に合わせるように他からも声が上がる。
「会長には付いていけない。私たちは最初から情報を渡すのは反対だったのだ。それを会長がひとりで勝手に決めた。私たちは国を裏切るつもりはなかった」
「そうだ。いつも勝手に決めて、失敗すれば私たちのせいだ。もう懲り懲りなんですよ。会長に怒鳴られるのは」
「な、何を……」
まさか反抗されるとは思っていなかったのか、驚いて動揺していた。
「捕まるなら会長ひとりで捕まればいい。私たちは関係ない」
「そうだ! そうだ!」
「な、何を言っているのだ! 俺が受けていなければ商会は潰れていたのだぞ!」
「そんなことはない。輸入はできなくても、惑星内で生産された物資を売り捌くだけで商会は維持できた。会長が遊ぶお金欲しさに受けただけなのでは?」
従業員のためとか言っていたが違うのか?
俺まで騙されるところだった。
「そ、そんなことはない! 私はみんなのためを思って!」
「知っているのだぞ!」
「な、何が?」
「商会の金を使い込んでいたんだろ? 断れば金が無いことがバレてしまう。だから受けたのだろ? 違うのか?」
「う……」
言葉に詰まっていた。
図星らしい。
まさかの横領とは。
見た目通りのクズだったということだ。
「わ、私の商会だ。私が自由に使っても問題ないだろ! お前らに文句を言われる筋合いはない!」
逆ギレした。
何か話が変な方向に向かっているが、これはこれで面白そうだから止めないでおく。
それに、いつの間にか会長さんの弾劾裁判になっているし。
みんな溜まっていたのだろう。ここぞとばかりに、言いたいことを言っていた。
「会長の商会ではない。全員の商会だ。そんなことが許されるわけがないだろ!」
「使ったお金はどうした? あの女性に使ったのか? 派手な服を着たあの女性に」
「そういえば、会長とその女性が宝石店で買い物をしている姿を見かけたぞ。あれは会社の金を使って買っていたのか? 奥さんが居るのにとんでもない人だ!」
「まさか、あの高級車もそうなのか?」
呆れている人まで出てきた。
会社のお金を好き勝手に使って買い物をしていたのか。
そりゃ、みんなが怒るわけだ。
「お、お前達! ふざけるな!」
完全に切れて、銃口を部下達に向けた。それを見て部下達から悲鳴が上がる。
俺はその一瞬を見逃さず会長さんの近くまで移動すると、銃を奪い、横っ面に拳を叩き付けた。
「ブホッ!」
ぶっ飛んでいた。
前々から殴りたかったんだよね。こんなに早く夢が叶うとは。
倒れている会長さんを数人の部下で取り押さえていた。
『あっけない幕切れですね』
サブモニターに映る女性士官が、呆れ顔で言う。
俺は思った。
原因を作ったお前が言うなと。
「それよりもあれはいいのか?」
半壊とまではいかないが、かなりの被害が出ている宇宙港を見てどうするか悩んでいた。
『破壊したのは謀叛を起こした星系軍です。請求書は星系軍にいくかと』
「でも、先に発砲したのは俺たちだぞ」
『この船は乗っ取られていたので、私たちに罪はありません。あるとすればそこの男です』
倒れている会長さんの責任にした。
「それで納得するのか? 無茶な気がするが」
『問題ありません。何かあっても私たちの罪になることはないでしょう。それに、あの宇宙ステーションは軍の管理下にありました。敵に取られた施設を破壊しても罪には取られません。これは戦争ですから』
頭が痛くなってきた。
何か言われたらミチェイエルに振れば良いか。
今回の件はエミリーが誘拐されたことが起因なんだし、俺は悪くない。
「まあ、いいさ。後は戻ってから考える。で、基地に戻るのだろ?」
『メッセージで連絡は取っています。基地へ帰投すれば後は革命軍が乗っている人たちを拘束するでしょう』
「手配済みか。俺のやることはないな」
『はい。後は私にお任せ下さい』
「はぁ、優秀なAIで助かるよ」
『どういたしまして』
嫌みを込めて言ったのだが通じなかったようだ。
俺はメインモニターに映る宇宙港を見て、小さく溜息を吐いた。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
毎日ぽつぽつと書いています。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。