第17話 逃走劇①
「ふむ、やはり付けられているな」
街頭カメラがない所と思い、商業施設を出てからは潜伏場所を探して街中を彷徨っていた。
しかし、少し前から後を付けてくる奴がいた。軍服ではないので、いきなり撃ってくるということはないと思うが、それでも注意は怠らない。
気がついてないふりをして歩き続けると、後を付けてくる人数が増えてきた。
1人から2人、3人、4人と囲むように付けてくる。
何か、わざとバレるような感じで俺の方を見てくる。何かあると思い警戒していると、前方で検問をしている兵士を見かけた。
このまま強行突破するわけにもいかないので脇道にそれる。すると、また少し歩くと検問所にぶつかった。
「やばいな。街から出さないように包囲している感じだ」
それを避けて更に歩くと再び検問所だ。そして周りを見ると家に囲まれていた。街の中心から外れて住宅街に入っていた。
携帯端末で現在位置を確認すると、どうやらこの先の郊外へと誘導されているようだ。
「なるほど。それで見え見えの尾行か……」
敢えて分かるように尾行し、行動範囲を制限していたのだ。街中での捕り物劇は避けたいという思惑が透けて見える。恐らくだが、俺の魔法対策だろう。あれを街中で使われたら一瞬で焼け野原だ。
俺も街中での戦闘は避けたかったのでその作戦には賛同するが、しかし、郊外に行けば魔法が使える。逆に捕まえるのが難しくなると思うが……。
「軍としては、市民に被害が出なければ良いということか」
とはいえ、奴らの作戦に乗ってやる必要はない。どんな兵器が待ち構えているかわからないのだから、あえて向かうつもりはない。
何とか他の道を使い逃げようとしているが、行く先々で、逃げ道を塞ぐように検問している。このままでは郊外に追い出される。立ち止まると尾行者も同じように立ち止まる。もう、隠す気がない。
施設内に逃げ込みたかったがここは住宅地。逃げ込めるような所もない。
「向こうの指揮官はなかなかやるようだ。住宅地だと隠れるところがない」
服装を変えたので、もう少し時間が稼げると思っていたのだが駄目だったか。
こういう時に転移魔法が使えればと思うが、勇者の俺でも覚えることができなかった。
覚えるにはいくつか条件があって、商人であること、空間魔法が使えること、など、他にも色々とあるそうだが細かなことはわからない。誰でも覚えられるというものではなかったからだ。
ある条件を満たせば、ある日突然覚えられるそうだが、その条件がわからず挫折した。収納魔法も同じ理由で。
誰でも覚えられたら苦労しないということだ。
そもそも職業自体を得るのは難しい。俺の場合は神様が最初からくれたので苦労はしなかったが、長年その仕事に従事しないと覚えられない。
職業自体、持っている市民が少なく、殆どの人が無職だった。職業があるだけでも有能とされ重宝されていた。
それでも色々とやっていくうちにいくつかの魔法は覚えた。ミラージュという魔法もそのひとつ。
これは敵陣を偵察するときや逃げ隠れする時に覚えたのだが、特定の何かをすると魔法が覚えられるというのはわかっていた。
ただ、全員が覚えられるかというとそうでもない。同じことしても覚えられない奴はいた。もしかすると経験値不足とか考えられるが、そんなの数値化されていなかったのでわからない。レベル表示もない世界だったからね。
そうやっていくつかの魔法を覚えたが、今は関係ないので割愛とする。
まあ、話が逸れたが、今はこの場を乗り切ることを考えないと。
取りあえず身体強化の魔法を使う。それからダッシュだ。
ひたすら走り続けて逃げるしかなさそうだ。
細い路地裏に入るとジャンプし一軒家の屋根上に上がる。
道が無ければ上に逃げるだけ。
身体強化の魔法を使っているので余裕で10メートルぐらいまではジャンプできる。
さすがにここまでは追って来れないだろう、と思ったら、普通に兵士もジャンプしてきた。
「おいおい、ここの世界の人間は普通と違うのか? ……まさか強化人間?」
と思ったら、よく見ると上着の下に何か装着していた。プロテクターみたいだが、一部がチカチカと点滅していた。
「機械式のプロテクター?」
恐らくだが、パワーアーマーには違いない。
身体能力を向上させる機能があるようで、軽軽と上ってきた。
「まいったな。魔法の意味がないよ」
身体強化も機械で補えるのであれば魔法は必要ない。
魔法を使うのが恥ずかしくなってきたよ……。
屋根の上を飛び跳ねて移動する。
探知魔法を使い兵士がいないところを目指すが、かなりの人数が動員されたようで、逃げる先々で待ち構えていた。
「逃げる場所がなくなってきたな。さて、どうするか……てっ、えっ、撃ってきた!?」
太いレーザーが脇を通り過ぎて行く。
そして、その先の民家に当たると赤い炎を上げて黒煙を吐き出した。しかも、レーザーが通り過ぎた民家までもが燃えている。かなりの高熱で、当たれば穴どころではなく一瞬で蒸発だ。それを街中で撃ってくるとは。
突然のことで思考が追いつかず、唖然としてしまった。
「おいおい、まさか住宅地で発砲とは。軍の指揮官は馬鹿なのか? 火災になり、とんでもないことになるぞ」
家から逃げる住民の悲鳴を聞いて、他の民家からも住民が飛び出してきた。
燃えている家と武装している兵士を見て慌てて逃げ惑う。中には燃えている家を見て、呆然と立ち尽くす男性までいた。
「不味いな……」
このままでは被害が広がりそうなので郊外へ逃げることにした。
俺のせいで関係ない市民を巻き込むのは本意ではない。
まぁ、屋根の上に逃げた俺が言うのも何だが。
ただ、発砲するとは思わなかった。軍は民衆を敵に回すつもりなのか?
俺の知った事ではないが、この事が知れたら、反発する市民が増えるのは確実だ。
輸送機から降りて、簡易的に作られた作戦司令室に入ると、兵士たちが慌てふためいていた。
何か予想もしなかったことが起こり混乱している。
どういう状況か、近くにいる兵士を捕まえて問いかけると、予想もしなかった言葉が返ってきた。
「発砲しただと?」
そう言って兵士をギロリと睨むと、兵士は冷や汗を搔きながら状況を説明した。
「そ、それが傭兵部隊の1人が勝手に発砲したようで……」
「傭兵部隊だと。誰だ、奴らを街中に入れたのは。奴らは外で待機のはずだ」
「それが、チューイス少尉が勝手に指揮をして追跡班に入れたそうです」
「ちっ! 直ぐに発砲するなと伝えろ。それと傭兵部隊は引き上げさせろ。我々の邪魔だ」
チューイス少尉。
確か代官が連れてきた部下だったはず。
会議で何度か顔を合わせたが、青白い顔で、いけ好かない奴だったことを思い出す。ニヤニヤと笑っており、嫌味ばかりを言っていた。確か代官の遠縁にあたる人物で、コネで今の地位に昇った奴だ。
しかし、そんな奴がどうしてこの場所に? 俺にはそんな連絡は来てなかったが。
上層部が、俺の知らないところで何かやっているということか……。
そもそも今回の内戦もおかしな点が沢山ある。
どうして星系間通信を復旧させないのか?
これでは総司令部と連絡が付かず、増援も呼べないのではないか。
総司令部と連絡がつかない場合は、その指示は全てその星系の責任者、すなわち代官に従わなければならない。
そういう規則があり、この惑星に駐留している星系軍の全指揮権は、今は代官にあるということだ。
総司令部と通信ができればこんな内戦、直ぐに終わらせるのだが。
「被害は?」
「発泡したことにより家が数軒ほど燃えています」
「街の治安部隊と共同で消火に当たらせろ。これ以上の市民の反感を買うのは得策ではない」
最近は市民の反発が強い。
それなのにこんなことをしてしまえば、革命軍に参加する人が増えてしまう。
上層部は内戦を長引かせたいのか。
これでは奴を捕まえても市民は納得しないだろう。
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ストックがある間は、小まめにアップしたいと思います。