第177話 宇宙港での戦闘①
1/3
第1都市の近くにある元星系軍の基地で、戦艦ゴリアンテの改修作業を見ていた。
作業はほぼ終わり、甲板に付けられた発射台を眺めている。
後はここに超高熱反応弾をセットするだけ。いつでも発射可能な状態になっていた。
「こんな危険な兵器を俺に預けてどうするつもりなのだ? 今ひとつ、ドラギニス軍の考えていることがわからん」
『いざ』という時に使えという意味だと思うが、その『いざ』というのがわからない。
ここに居れば使う機会もないはず。敵が攻めてくるとは思えないからだ。
「戦艦1隻の為に使うというのも勿体ない気がするが、はて、どうしたものか……」
勝つためというのであれば使うことに躊躇はないが、しかし、それが『いざ』という時なのかというと、微妙というか何というか……。
一発しかないのだから、使いどころを見極めなければならない。
「面倒な……」
別な意味で、爆弾を預けられた気分だ。
「ザイラー司令官。お話が」
背後には諜報部の人間が立っていた。
急ぎの用事で来たのだろう。いつもなら人目があるような所で会うようなことはしないのだが。
「船の強奪に成功したと連絡が。如何しましょうか?」
「成功したのか?」
「そのようです」
「ふむ……」
腕を組んで考える。
グリード・ラグマンから匿って欲しいと緊急の連絡を貰ったのは、つい数日前の話だ。
亜空間通信機が奪われたことにより、自身の不正が発覚することを恐れ革命軍に見切りを付けたようだ。
発注先の虚偽が知られると、軍事物資の購入先が我々からだと知られてしまう。そしてその見返りが情報漏洩だと知られるだろう。情報漏洩は重罪だ。死刑、もしくは監獄ステーションで終身刑だ。生きて出られないだろう。それで捕まる前に逃げだそうという腹だ。
当然、我々は断った。
というのも、あれはれっきとした商いで匿う理由がないからだ。
我々は代金を貰い、商品を渡した。情報も代金内に含まれてる。
今後、情報が入りにくくはなるが、今の状況から考えればそれ程欲しい情報もない。
今まで態と長引かせていた戦争も、ドラギニス軍が来たことにより必要なくなり、いつ終わらせても良くなった。革命軍を残しておく必要もなくなったということだ。
彼が捕まっても困ることはない。
そう言って断ったところ、戦艦ウリウスを強奪してくるとまで言い出した。
必死だな。
しかし、そうしなければこの惑星で生きていくことは不可能。裏切っていたことが市民に知られたら袋だたきにあうだろう。はっきり言ってドラギニス軍と市民の関係は、良好とはいえないからな。
それでも助けるかは微妙なところだった。
しかし、戦艦ウリウスの戦闘データを貰ったところ、とても興味深いデータが多数見受けられた。特に気になったのは、ジェネレーターの出力が通常の2倍以上出ていたことだ。あの使えなかった戦艦をどのように改造したのか興味が涌く。
それを調べれば戦艦ウリウスにも利用価値が生まれるということだ。
それで了承した。
そして引き渡し場所だが、
「ここまで持って来させるのは危険だな……」
「どうしてですか、司令官?」
「こんな簡単に手に入ったのだ。疑わないでどうする」
「罠ということですか?」
「いくら素人の集まった革命軍でも、商人であるグリード・ラグマンを押さえることなど朝飯前だろう。それをせず、みすみす逃がすとは。疑わないでどうする」
「はあ……」
「この基地に入れた途端、中から兵士が大量に出てきたらどうなる? 負けることはなくても基地に甚大な被害が及ぶ。この惑星を預かる身としては、それはあってはならないことだ。慎重になるのも当然だろう」
司令官とはいえ、今はドラギニス軍の下請けのような物。軍が不在の間は、この惑星を任されている。自由にして良いと。その代わり制限は色々と付けられたが。
「一度、別な所で中を確認させるか。信用しない方が良いだろう」
「基地は駄目となるとどこが?」
「そうだな……宇宙ステーションにするか。あそこなら何かあっても私たちに被害はない。宇宙港が使えなくなっても我々には関係ないことだ」
主に商人や旅行客が使用するところで、使えなくなっても軍に影響はない。
「わかりました。そちらに向かうように指示を出します」
「ドック内に兵士を待機させ、ハッチが開き次第、艦内を制圧。それと近くに居る部隊を宇宙ステーションに集結させ、ウリウスの動向を確認させろ。不審な行動を見せたら直ぐに撃沈するように。1隻で部隊を壊滅させたのだ。油断するなと伝えろ。最悪は宇宙ステーションごと破壊してもかまわないと」
「了解しました。そのように伝えます」
足早に下がる姿を確認すると、視線をゴリアンテに戻した。
「上手くいけばミサイルを使わずに済むが……」
理由はわからないが、上手くいかない予感がする。
あの戦艦はイレギュラー過ぎる。無条件に沈めるというのも手なのだが……。
この判断が後にどう影響するか。
今はまだわからなかった。
*****
基地を出航してから1時間近くが経過した。
外を見ると真っ暗。星が輝いている。
なぜか宇宙に上がっていた。
そして、俺の後ろにはレーザー銃を持った部下が二人ほど立っている。俺が何かしないか見張っているのだろう。ご苦労なことだ。
人質がいるのだから無茶なことはしないのに。
「しかし遅い! もう少し早く飛べないのか?」
艦長席に座っているグリード・ラグマンが、貧乏揺すりをしながら操縦している部下に文句を言っていた。
飛んだのは良いが速度が出ていない。
態と遅く飛んでいるみたいだ。
「それが、ジェネレーターの出力が上がらず、これが精一杯です」
部下のひとりが申し訳なさそうに報告した。
色々とやっているようだが、従来の20パーセントも出ていないそうだ。
「それだと合流時間に遅れるだろ。何とかしろ。チッ! 博士を置いてきたのが徒となったか」
部下に怒鳴っているが、それで何とかなるものではないと思うが。
それに博士が居ても変わらないと思うぞ。きっと、ダンジョンコアが何かしているに違いない。船に乗ってから一度も姿を現していないのだから。
「合流場所はどこなんだ?」
俺が質問すると、ギロリと睨んで質問に答えた。
「合流場所は惑星軌道上にある宇宙港だ。そこで星系軍と落ち合う」
「宇宙港?」
「惑星軌道上にある宇宙ステーションのことだ。星間シャトルが発着する宇宙ステーションは宇宙港とも呼ぶのだ。宇宙への玄関口という意味でな」
はっきりとした定義があるわけではないので、宇宙ステーションと呼んでも宇宙港と呼んでも間違いではないそうだ。
しかし、はっきりとした目的があるステーションは別で、例えば、入出星を管理する入管ステーションや、資源惑星や資源衛星などを管理する管理ステーションなど、そういったのは宇宙港とは呼ばない。
多くの民間人が利用するような宇宙ステーションを宇宙港と呼ぶんだそうだ。
「それで、なんで宇宙港なんだ? 奪ったのだからそのまま基地へ直行すればよいのでは?」
「私に聞かれても知らん。向こうが宇宙港を指定してきたのだ。それに従うしかない」
「騙されていないか?」
「騙す? 意味がわからないが」
「宇宙に誘い出し、この船もろとも殺そうとしているとか」
「何で殺されないといけないのだ?」
「用済みだから?」
俺が首傾げて言うと、急に冷や汗をかき始めた。
その可能性があるかもしれないと思ったのだ。
「そ、そんな訳がないだろ! 今まで散々協力してきたのだぞ。殺されるわけがない。ば、馬鹿なことを言うな」
顔を真っ赤にして否定している。かなり動揺しているな。
小心者だな。
ちょっと冗談を言っただけなのに。
でも、その可能性はゼロではない。もし、グリード・ラグマンが星系軍の機密情報を知っていたら、尻尾を切る可能性がある。死人に口なしだからな。
「お、おい! 急に速度が上がったぞ!」
そんなことを言って揶揄って楽しんでいると、操縦士が騒ぎ始めた。
急に船の速度が上がったらしい。
その声に合わせて他の部下達も騒ぎ出した。
「フン、やっと直ったか、この欠陥品が。速度をそのままで維持しろ。遅れを取り戻すぞ」
「し、しかし、原因がわかっていませんが良いのですか?」
「そんなことはどうでも良い。間に合えば良いのだ」
「はあ……」
部下達は「良いのか?」と不安げな表情を浮かべて、お互いを見ているが、会長さんはそれでも良いらしい。
逆に俺は意味があると思っているが。
「この船に乗っているのは全員社員なのか?」
「いや、一部は傭兵を雇っている。後ろに居る二人はそうだ」
チラッと見ると確かに雰囲気が違う。厳つい顔だし服装も迷彩柄だ。体格もでかい。
それに、やり慣れているというか何というか、堂々としている。
銃を持つ姿も違和感がない。
「社員だけではないんだ」
「当たり前だろ。普通の社員が銃など扱えるわけがない。高い金を払って雇ったんだよ。この日のためにな」
「ふむ、なら問題ないか……殺しても」
会長に聞こえない程度の声で、ボソッと呟いた。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。こっちの話だ。それよりも、ここに居る連中は覚悟して乗っているのか? 失敗したら捕まるのだぞ」
「捕まりはしないさ。逃げた後は、ドラギニス軍が革命軍を鎮圧すればそれで終わりだ。私たちは何もなかったかのように普通の生活に戻れる。心配することでもない」
笑顔で話しているが、脳天気だね。上手くいくと思っている。
世の中そんなに甘くはないんだが。
「しかし、こんなことが市民にバレたら誰も商会から商品を買わなくなるぞ。国を裏切っているんだから」
「フン、買いたくなければ買わなくても良い。他に買える商会があれば別だけどな」
この戦争で多くの商会が潰れた。
残っている商会は数えるほどで、自分たちの代わりになるような商会はないそうだ。
だから知られたところで関係ない。結局は買わざる得ないのだからと。
「それは革命軍に勝ったらの話だろ? 負けたらどうするのだ?」
「これだけの戦力差があるのだ。負けるわけがないだろ」
勝つことをちっとも疑っていないようだ。
しかし、こっちにはコアがいる。
これから何か仕出かしそうなんだよな。
まあ、どっちが勝っても負けても俺には関係ない話。
戦争が終われば、この惑星を出る予定だからね。いつまでもここに居るつもりはない。
「会長、レーダーに反応が。……星系軍です」
「おお。やっと迎えに来たか」
「ですが、会長。向こうは攻撃準備に入っています。どういうことですか?」
「なに! ま、まさか私たちを本当に沈めるつもりなのか? 至急、向こうの艦長と連絡を取って状況を確認しろ。なぜ攻撃準備をしているのか、説明を求めるのだ!」
冗談で言ったことが本当になりそうで焦っている。
俺も冗談で言っていたのが、本当になりそうでビックリしていた。しかし、攻撃されたところでダンジョンコアが何とかするだろう。
見す見すやられるような玉ではない。
「会長。確認しましたが、そのまま宇宙港に入れとしか。変な行動をするな、と警告も来ています。どうしますか?」
「疑われているのか? 何で私が……お前か、お前が何かしたのではないのか?」
そんな血走った目で俺を睨むな。
理由がわからないといって俺を疑うのは御門違いというやつでは。
きっと、ダンジョンコアが悪いのだ。俺のせいではない。
「あれじゃない? この船は普通の船と違うから警戒しているだけだと思うぞ。そこら辺は報告書に書いてあっただろ?」
「部隊を壊滅させた件か。チッ! 面倒なことを」
キッと俺を睨み付けてくる。
いや、俺の責任ではないし、ダンジョンコアが勝手にやってたのだが。
そんなことを言っても信用して貰えないとわかっているので説明はしない。
もう、俺も面倒になってきたから。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
毎日ぽつぽつと書いています。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。