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第176話 ミチェイエルの監視③

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船がゆっくり上昇する姿が窓からも確認できた。

俺とミチェイエル様は黙ってそれを眺めていた。

今でもわからない。このまま行かせて良かったのかと。


エミリー様が誘拐されたのはこちらのミスだ。

警戒はしていた。グリード・ラグマンが船を乗っ取った時点で、何かしでかすのはわかっていた。それに彼が巻き込まれていることも話に聞いている。

こうなることは予想できたのに。


……悔やまれる。

もし、エミリー様に何かあったら大変なことになる。

ここだけの話では済まなくなるだろう。


「出航しましたね」


ミチェイエル様は表情を変えず、淡々と話されている。

まるで心配していないかのように。


「ええ。ですが本当にこれで良かったのですか? 奴らを捕まえて、エミリー様の居場所を吐かせることもできたと思うのですが」

「それは愚策ね。向こうも監視を付けているはずなので、彼らを捕まえた時点で殺されるかもしれません。この場合は素直に従うことね。それにもう少しすればAIから連絡が来ると思うわ。それまで待ちましょう」


古代船のAIからメッセージが届き、誘拐されたことを教えられたそうだ。

その時に監禁場所を調べてくれることになり、その連絡を待っていた。

ミチェイエル様はAIを疑わないようだが、一緒に任務をしてきた俺からして見れば信用できなかった。何か裏があるのではないかと。


「そんなに早く調べられますかね。俺にはちょっと信じられないのですが」

「ロズルトには信用できないかもしれませんが、直接話した感じだとかなり優秀なAIよ。恐らく国内で一番の性能でしょうね。彼女ができると言ったからにはできるのでしょう。信じて待つしかないわ。我々だけでは全部の都市を調べられないでしょうから」

「彼女ですか……」


誘拐されたとわかってから1日。

仲間にも探させているが、一向に監禁場所がわからない。

グリード・ラグマンの自宅を調べさせたが、そちらには誰もいないとわかった。もしかすると、第19都市に居ないのかもしれない。そうなるとやっかいだ。短時間で、俺たちだけで探すのは不可能に近い。


「心配しなくても大丈夫よ。だってあのAIは私の本名を知っていましたから。それだけ探索能力が高いという事よ」

「え? 本名がバレてしまったんですか? やばいですね。分からないようにデータは全て消去したはずなんですが。そうなると彼も知っているかも知れませんね」

「フフフ。それは無いでしょう。私と話していても、そんなことを知っている素振りを一切見せなかったわ。私のことを知ったなら、平然と話すことはできないでしょうから」

「まあ、確かにそうですが」


普通なら誰でも話せるような人ではない。ここの領主でも。

それを平然とした顔で話したとなれば、知らない、ということだ。知ってしまえば緊張で話せないはずだから。


「それに、あのAIは知っていても彼には言わないと思うわ。メリットがないから」

「メリットがない? 皇族と知り合いになるだけでも十分なメリットがあると思うが」

「そこは個人の考え方次第では。私たちと知り合いになることで、余計なことに巻き込まれる可能性が高くなるのよ。彼は平和に暮らしたいそうですから、我々と知り合いになることはデメリットにしかならない。現に今、巻き込まれているのですから」


確かに、我々とは積極的に関わろうとはしない。

平和に暮らしたいと言っていたから、革命軍にも参加を拒んでいる。

そうなると、我々と関わりを持つことはデメリットしかない。

知ってしまえば、知らん振りはできなくなるのだから。


「なるほど。あえて知らないようにしていると?」

「そういうことね。だから例え私たちのことを知っても知らない顔をすると思うわよ。我々から正体を明かさない限りは」


だから知られたところで、自分から話すようなことはしないだろう、ということか。心配することはないと。


「そういうことなら、彼のことは放っておいても問題はないか……」

「でも、そうはいかないと思うわ。問題は例のAIよ。あれがある限りは平和に暮らすことは無理だと思うわ。彼の意思とは関係なく、巻き込まれると思うから」

「あー……」


確かにあれは超特級の呪物だ。

付き纏われている限り平和は訪れないだろう。


「縁が切れればよいのだが」

「それは無理でしょうね。どうも彼女には彼が必要みたいですから」

「彼を艦長に選んだ理由があると?」

「多分ね。全てはマスターのために、と言っていたから、だから我々に協力しているのと思うのよ。エミリーの捜査に協力しているのも彼のためだと思うわ。理由はわからないけど」

「……」


彼が死なない限り艦長の設定は外せないと言っていた。

言い換えれば、それだけ彼から離れたくないという意味にも取れる。

何か特別な理由があるということか。

彼ではないといけない理由が。


「連絡が来たようね」


ミチェイエル様の携帯端末にメッセージが届いたようだ。

内容を見て、嬉しそうに微笑んでいた。


「フフフ、早いわね。もう監禁場所を特定したそうよ。グリード・ラグマンが契約している貸倉庫に監禁されているわ。場所は第20都市ね。以外と近くだわ。後はお願いできるかしら?」

「見つかったのですか?」


驚いている俺の顔を見てミチェイエル様が、メッセージの内容を見せてくれた。


「わかりました。ここに仲間を向かわせます。第20都市にも仲間がいるので、それ程時間は掛からず救出できるかと。後で俺も迎えに行きます。しかし……3人ですか。監視をしている人数にしてはやや少ないですね。もっと大勢で見張っているかと思ったのですが。この人数なら俺たちだけで何とかなりそうです」


添付されていた映像には、酒を飲んでテレビを見ている男が3人映っていた。

恐らく貸倉庫の防犯カメラの映像だと思うが、短時間でそこまで侵入しているとは。

やはり普通のAIとは違う。ミチェイエル様が信用するだけのことはあるということか。

でも、俺は信用しないが。


「人に余裕がないのでしょう。彼らも逃げるのに精一杯のはずですから」

「一体どれだけの人がこの件に関わっていたのか。調べるだけも大変そうだな」

「どれだけ関わっていたかわかりませんが、そう多くはないと思いますよ。大勢の人に知られたら、それだけ外に漏れるリスクも高まります。恐らく、下の人間は知らないでしょうね」


人に知られるわけにはいかないから、限られた人数で取引していたはずだ。

関わっていたのは極一部の人だけということになるだろう。


「今後、商会はどうなるんですか?」

「そうね……何も知らなかった社員に罪はありませんが、だからといってそのトップの会長が不正としていたのですから、そのままという訳にはいかないでしょう。それに彼らが漏らした情報により、大勢の人が亡くなったのであれば遺族からして見れば許せないはずです。私も泳がしていたという責任はもちろんありますが、それでも作戦をリークしたのは彼です。この星で商いは無理でしょう。最悪、解散命令が出るかもしれないわね」

「解散命令ですか。やはり、あの一件ですかね?」


ミチェイエル様は静かに頷いた。


「1回目の通信設備の襲撃は、彼から漏れていたようです。でなければ、向こうも戦艦を配置しているわけがありません。失敗したのは彼の責任と思ってよいでしょう」


俺たちが居ない間に通信施設を襲撃したそうだ。

しかし、そこには戦艦が待ち構えており襲撃部隊は壊滅。作戦は失敗した。

後で調べて分かったそうだが、どうやらグリード・ラグマンが情報を漏らしたみたいで、それで先手を打たれたということだ。恐らくだが、空港の件も漏れていたに違いない。

作戦を知られたら俺たちに勝ち目はない。負けは確定していたということだ。


「彼に監視を付けなかったのが痛かったですね」

「それは仕方が無いことです。疑っているのがバレてしまえば、彼は手を引きます。そうなると我々に補給物資が届かず、戦うこともできなくなっていたでしょう。しかし、あれほど彼には情報を渡さず、何とか誤魔化していたのですが、どこから情報が漏れたのか。下の者には当日にしか教えなかったのですが……。彼以外にも情報をリークする者がいるのかしら」

「それは考えられないですね。素性がハッキリしていない者は、幹部に入れないはずですから。考えられるとしたら、物資の流れを読んだとか。作戦にあたり、かなりの物資を移動させるでしょうから、そこからバレたのかもしれないですね。補給を担当していたから、作戦もなしで物資が移動すれば何かあると勘繰るでしょうから」

「仮にも商会の会長さん、ということかしら。はぁ、甘く見ていたのは私の落ち度でした。もっと慎重に事を運べば、あのようなことは起きなかったのですが……。今更後悔しても遅いですね。今は我々の成すべき事をしましょう」

「ええ」


過去は過去として、毅然とした態度で話を切り替えた。


「ところで、船の行き先はわかりますか?」

「星系軍と合流するまでは会話でわかってますが、どこで待ち合わせているかまでは。星系軍の動きも調べてはいるが、今のところは」


変わった動きはないと報告を受けている。

こちらが動かなければ向こうも動かないだろう。待つしかなさそうだ。


「レーダーで行き先を追跡してちょうだい。後から追いかけられるように」

「ですが、追いかける船がありませんよ」

「そうね……全てドラギニス軍と星系軍に破壊されましたが、小型船1隻ぐらいならあるでしょう。船を沈めに行くわけではありませんから、それで十分です」

「わかりました。そちらも俺で手配します。修理が終わった船もあるかもしれないので」

「よろしくね」


ミチェイエル様はそう言ってニコッと微笑んだ。


「そう言えば彼はどうします? エミリー様を救出しても連絡が付かないですが」

「それに関しては大丈夫でしょう。AIが何とかしてくれます。私たちはAIの指示で動いているのですから、何か策があると思ってよいでしょう。任せればよいのです。それよりもエミリーの救出を急がせてね。人質がいるとAIも彼も動きが取れないでしょうから」


俺は頷いた。

今は彼らよりもエミリー様を救出することが最優先。

そっちに集中しなさいということだ。


「それと商会の方はどうします? このまま営業をさせておくのも、どうなのかと思いますが」

「そっちは公になるまではそのままで良いでしょう。その時がくれば営業停止にさせます。今止めると困るのは市井の住民ですから」


輸入品の中には食料品や生活雑貨も含まれている。

商品が手に入らないと困るのは市民で、代わりが見つかるまでは、そのままにしておこうということだ。


「わかしました。しかし、何も知らない社員からして見れば可哀想な気がしますね。営業停止では」

「仕方がありません。逃げた時点で残された商会が、責任を取ることは予測できたはずです。誰かが責任を取らなければなりません。とはいえ、今の私たちにはそんな権限はありませんがね。惑星の支配権を取り戻さない限りは、商会に命令を出すことはできないでしょう」


ドラギニス軍が支配しているのに、関係ない我々が営業停止と言っても言うことを聞かないだろう。

それにそんなことをすればドラギニス軍に目を付けられてしまう。

何をやるにしろ、支配権を取り戻してからになる。


「それと言い忘れましたが、小型船が1隻、こちらに向かっているそうよ。この騒動に紛れて惑星に降下すると思うわ。船と連絡が付くように通信で呼びかけて。監視衛星がないルートを通るようにと、指示を出して下さい」

「1隻だけですか?」

「大勢で来ると艦隊が集まってくるから1隻なのでしょう。身元を確認し、怪しくなければこの基地に誘導をして。それ以外では他の基地へ」

「わかりました。しかし1隻とは。調査部隊ですかね?」

「それか、私たちの救出船かもしれないわね。エミリーから連絡が行って迎えに来たかも知れないわ。連絡を待ちましょう」


俺は頷いた。

領都に行った時、実はエミリー様はひとりで別行動し、実家へメッセージを送っていた。

領都から帝都まで距離があるため、直ぐに届くようなことがないが、最悪、領主との接触が失敗しても大丈夫なように保険を掛けていた。

これがあれば領主と会わなくてもよかったかも知れないが、これはあくまでも保険。メッセージも距離があれば必ず届くとは限らないし、それに、本人に見られる前に握りつぶされる可能性もある。だからこれだけに掛けることはできなかったのだ。

この作戦は、領都に向かうと決めたときから考えられていたもので、領都行きのメンバーには必ずエミリー様は選ばれるようになっていた。

本人は凄く嫌がっていたが。

実家と連絡を取ればどうなるか、わかっていただけに行きたくなかったのだ。

まあ、説教だけでは済まないだろうな。俺も他人事ではないが。


「それじゃ、後はお願いね。私は自分の部屋に戻るわ。エミリーを救出したら私の部屋に連れ来るように。説教しないといけないわね。まったく言うことを聞かないのだから。それとエミリーに様は付けないように気をつけない。2人で居るときは良いですが、他の人が居る前ではそのように呼ばないこと。いいですね? グランパーは、そこら辺はきちんとしていましたよ」

「ぐっ……」


あいつはそういうのはあまり気にしないタイプだからな。

それに向こうは平民だし、そう命令されたら従うだろう。

俺は貴族だから、そこら辺の関係は厳しく言われ育てられている。

命令されても簡単に直るものではない。


「わかりました。注意します」


そう答え、頭を下げた。


ミチェイエル様が部屋を出て行くと、残された俺は早速仲間と連絡を取った。

第20都市にも俺の仲間は居るので、倉庫の住所を教え人を集めさせた。

後は救出するだけ。

今回の作戦に俺は参加しないが、3人ぐらいなら問題ないだろう。

そして、無事に救出できたと連絡を貰ったのは、それから1時間後のことだった。



ご覧いただきありがとうございます。

救出シーンは書くようなこともないのでカットです。

次回は主人公に戻ります。


時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。

毎日ぽつぽつと書いています。

ついでに評価もしてくれると嬉しいです。

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