第173話 グリード・ラグマンからの歓迎②
人とすれ違うこともなく、ブリッジに到着した。
話したとおりに人が少ない。全員で出かけているのか?
探知魔法を使ってみたが、こっちも反応が少ない。
あまりの不自然さに作為的なものを感じるが、グリード・ラグマンは疑っていないようなので、俺から話すことはしない。何か策でもあったら困るからね。
黙っていることにした。
ブリッジに入ると見たことがない顔が数名乗っており、シートにもたれ掛かり、俺たちが到着するのを待っていた。
服装を見ると、会社のロゴが入っているのでレジスタンスでないのはわかるが、しかし、彼らが操縦するのか? と疑問に思う。
まさかと思うが、戦艦を素人が操縦できるとは思えないが。
不安になったのでそのことを訪ねた。
「当然ではないか。革命軍に頼めるわけがないだろ。人員はこちらで用意した。彼らは大型の商船も操縦したことがあるので、飛ばすぐらいなら問題ない。戦闘にならなければね」
自信満々に答えるあたりは、それなりに実績があるからか?
それに、基本的な操縦はAIに任せるそうだ。
それを聞いて俺は尚更心配になる。
この船のAIはダンジョンコアなのだから、何をしでかすかわからない。いきなり発砲することもあるのだ。
どうなっても知らんと思い、素知らぬ顔で黙っていることにした。教えてやる義理はないからね。
それに、報告書を読んでいればコアが危険だというのは知っているはずだし、使うのであれば自己責任で。
当方は一切関係ありません。
「状況はどうだ?」
グリード・ラグマンが従業員のひとりに聞いている。
聞かれた彼は渋い表情を浮かべ答えていた。
「サブジェネレーターは起動していますが、やはりメインの方が動きません。それが動かないことには何もできない状況です」
最初から状況は変わっていないそうだ。
色々とやってはみたが動かず、マニュアルで動かそうとしてみたが全てエラーで弾かれたとか。
マニュアルとは言っても完全にマニュアルというわけではない。
ボタン押してレーバーを引いたりしても、結局は内部のマイコンが制御するため、サーバーと繋がっている限りは、そっちからも制御できてしまう。
だからダンジョンコアが干渉できるわけで、物理的に切りはなさいと意味がないという話だ。
もっとも物理的に切り離すことは不可能で、コンピューター制御ができなければ暴走してしまう恐れが。
燃料供給から燃焼室の圧力・燃焼温度まで、全てコンピューターで管理している。昔の蒸気機関みたいに、人間が燃料を焼べて人力で動かすのとはわけが違う。だからコアが好き勝手できるわけで、コアが生きている限りはジェネレーターを自由に稼働させることは不可能なのだ。
「変わらずということか……科学者だから少しはできるかと期待しておったのだが、役に立たんな。時間だけが無駄になった」
博士の文句を言い始めた。でも、誰がやっても同じ結果になると思うけどね。
しかし、その博士の姿が見当たらないが。
サーバールームに居るのか?
気になったので訪ねた。
「その博士はどうした? 調査で乗っているはずだが」
「邪魔になったので降りて貰った。どこかの部屋で軟禁しているはずだ」
「軟禁? 殺していないのか?」
「役立たずの老人を殺したところでなんになる。外に連れ出し、個室に軟禁しただけだ。明日になればドアが開くので出てこれるだろう」
それを聞いてちょっと安心した。
博士まで人質に取られていたら面倒だと思ったからね。
しかし、邪魔になったということはまた騒いだのかな?
きっと、時間切れで止めるように言われて暴れたのだろう。調べさせろと。
十分ありえるな。
だから無理矢理降ろされたに違いない。
「さあ、話は終わりだ。命令したまえ。お前の言うことなら動くのだろ?」
ブリッジにいる奴らが「動かしてくれ!」と期待する目を向けてくる。
俺だって動くかは知らないよ。
マスターとはいえ素直に従うような玉ではないからな。
「やってみるが期待するなよ。俺でも分からないのだから」
これで動かなかったどうするか。
こいつらを倒して逃げるか?
しかし、エミリーの安全を確認してからでないと逃げられないだろう。間違いなく殺される。
説得して動いて貰うしかないか。
「戦艦ウリウス。ジェネレーター起動だ」
何も映っていないメインモニターに向かって命令する。するとコンソールに光が点り、電源が入った。
シートに座っていた奴らが「おお!」と驚きの声を上げた。
「凄い! やはりお前の命令しか聞かないようだ!」
興奮してグリード・ラグマンが叫ぶ。そして急いで出航準備が始まった。
このまま出発するようだ。
「補給は終わっているのか?」
「そんなのは最初に終わっている。後は合流地点まで向かえば良いだけだ」
「合流地点?」
「星系軍だ。おっと、今は逆賊になるのか。ザイラ・バーツ司令官のところだ」
「そういえば最初から裏切っていたと言っていたが、あれは?」
「初めから星系軍に協力していたということだ。革命軍と戦争が始まる前からね」
「何でこんなことを?」
「そうしなければ商会は潰れていた。空港が閉鎖されて商売ができなくなっていたのでな。だから情報を流すという条件で交易許可を貰ったのだ。仕方が無いことだったんだよ」
自分たちにも生活がある。従業員やその家族を守らなければならない。だからその条件を飲むしかなかったと言い訳をした。
選択肢がなかったと。
「それに、革命軍に軍需品を供給することも許された。だから今まで戦えてきたのだ。逆に感謝して欲しいぐらいだ」
「は? 星系軍が軍事物資の補給を許したのか?」
「星系軍も早く戦争が終わったら困るからな。だから少しでも長引くようにと軍需品を渡された。それを売るようにと」
「自分では買わず渡されたのか?」
「それはそうさ。一介の商会が軍事物資を買えるわけがない。だから星系軍から購入していたのだ。向こうの言い値でな」
かなり吹っかけられたと言って怒っている。
儲けなど出なかった。
「何でそんなことを?」
「少しでも長引けば、それだけ領都から補給物資が手に入る。整備や修理に必要な物資が山ほど送られてくるからな。その物資で戦艦を作る必要があった。軍備を増強するために」
そこから話が長くなったが、ようは、謀叛を起こしたときに全員が味方になると限らない、というのが理由らしい。
中には反対する部隊も出てくる。そうなれば武力衝突は避けられない。そうなったときの戦力が必要だったということだ。
「確かに反対する部隊もいそうだな。クリフト・ベルマン大尉のように」
「そうだ。だから自分たちの軍備増強は必須だったのだ。自由に動かせる艦がね」
司令官とはいえ、何でも自由にできるというわけではないらしい。
自分の都合が良いような部隊の縮小や艦の移動は、何かと他の部隊と揉める原因になるし、謀叛を疑われる要因にもなる。特に、正当な理由が説明できなければ尚更疑われる。
だから自分の部隊だけを増強するのが難しく、波風を立てずに増強するには艦を作るしかなった。そして増えた艦で自分直属の部隊を作り、防衛に当たらせた。
名目上は増援部隊ということにして。
「戦争を始めてから23隻の艦が建造された。凄いことだぞ。その新設された部隊で反抗する宇宙部隊を沈めたそうだからな」
あたかも自分がやったかのように自慢げに話す。
いやいや、お前は何もしていないだろ、と突っ込みたかったが、こういう輩は言えば言うだけムキになって言い返すので何も言わないことにした。
時間の無駄だからね。
「やれやれ、そのために戦艦を作っていたということか。面倒なことだ。普通に戦艦を買うとかできなかったのか?」
「戦艦の購入は、領主の許可が下りないとどこも売ってくれない。謀叛するから売って下さい、と領主に頼めるわけがないだろ? 内密に進めるしかないのだ。それは物資を集めていても同じで、必要以上の物資を購入しても謀叛の恐れがあるとして調査部隊が派遣される。だから、このような方法を取るしかなかったのだ」
「かなり神経質だな」
「それはそうさ。辺境だと監視の目が届かないからな。陰でコソコソとやられても気が付かない。だから軍事物資の流れは厳重に監視・管理されている。謀叛を起こされないようにね」
「自分で集めるのが難しいので、補給物資に目を付けたということか。戦争中にして多くの物資を要求しても怪しまれないように」
「そうだ。だから少しでも長引かせ、多くの軍需品を手に入れることにした。そのためには革命軍に頑張って貰うしかないのだ。しかし、ククク。実際にはドラギニス軍と戦争しているように報告していたみたいだけどな。ご丁寧に画像まで加工して。そこまでしないといけないとは。ご苦労なことだと思うよ」
滑稽に思えたのか肩を揺らして笑っている。
自分には関係ないかのように。
いや、確かにその通りなんだろう。
この謀叛が失敗ししても彼の懐が痛むわけではない。
脅されてやっているようなものだからな。
「しかし、どうしてこのタイミングで革命軍を裏切るのだ? バレていなければそのままで良かったのでは?」
「それはお前らが帰ってきたからだ。帝国軍にやられておけば良かったものを」
忌々しげな表情で俺を睨む。
まさか生きて帰ってくるとは思わなかったそうだ。
「はて、何で俺らのせいなのだ? 何かやったつもりはないが。言い掛かりだと思うぞ」
とぼけた口調でWHYのポーズをすると急に切れた。
「艦隊を沈めて亜空間通信機を強奪しただろ!」
相変わらず切れやすい。
ちょっと煽っただけなのに。
「あれでドラギニス軍から苦情が入った。情報が筒抜けになると。これから第三惑星で大規模な戦闘に入ろうとするときに、こちらに残存する艦隊がないと知られたら帝国軍が真っ先にこちらを攻めてくる。後ろから挟み撃ちもできる状況になるのだ。しかもご丁寧に監視衛星まで破壊してきたそうだな。その穴埋めでこちらも大変らしく、部隊を派遣し守りを固めないといけなくなったとか。その影響が私にまで来た。亜空間通信が復旧したことで、今までは領都の商会から取り寄せていた物資が、実は取り寄せていなかったことがバレてしまう。星系軍から購入していたことがバレてしまうのだよ。そうなれば裏切っていたことが知られてしまう。だから調べられる前に逃げるのだ。この戦艦を土産にしてな」
だから時間がないと騒いでいたのだな。
物資の入手経路を調べられるとバレてしまうからと。
「それならミチェイエル殿に相談すれば良かったのでは? 本当のことを話せば助けてくれたかもしれないぞ」
「それはできない。我々の商会にも監視の目が付いている。裏切ったと知られた殺される。しかも、私1人なら良いが家族を巻き込むことになる。それはできないのだ」
ふむ、監視者がいるのか。
確かにそれぐらいは向こうも付けるか。
裏切らないとは限らないからな。
「だからと言ってこの戦艦を持って行くとはやり過ぎだと思うが? こんなことをすれば、今度は革命軍に追われる。この惑星で生活できなくなるぞ」
「そんなことは百も承知だ。しかし、このようなことをしなければ助けて貰えないのだ。向こうからして見れば、我々はいつ切っても構わない価値のない存在だからな」
よく分かっているようだ。
情報を得られるから向こうも生かしていたわけで、革命軍から逃げ出せば、その価値は無いに等しい。
助ける義理はないということだ。
「戦艦ウリウスを持って行けば向こうも邪険には扱わないだろう。それに今後も同じように交易権をくれかもしれない。やるだけの価値が我々にはあるのだ」
それでも助けてくれる保証はないと思うがね。
貰う物だけ貰って、はい、さよなら。何ていうこともあり得る。
国を裏切るような連中を信用しない方が良いと思うが。
「まぁいい。俺は指示に従ったのだからエミリーを解放して貰おう。そういう約束だっただろ」
「もちろん解放はするさ。この惑星を出たらな」
そう言って「ククク」と笑う。
用心深いなぁ。
しかし、俺でも同じようなことを言う。
商人のくせに油断しないようだ。
「さあ、話は終わり。出航だ」
その言葉に合わせて、船がゆっくりと動き出した。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
毎日ぽつぽつと書いています。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。