第171話 呼び出し②
「ふん、勝手に動くAIなど不要だ。だから外させたのだ」
「AIのことは知っていたのか?」
「これでも幹部の1人だ。報告書ぐらいは読む」
どうやらグランバーが提出した報告書を読んだらしい。
それには船のAIのことが記載されており、それで外すことにしたそうだ。
「私が欲しいのは従順な船だ。あのような物は邪魔でしかない。だから外させたのだ」
「しかし、あれがないと本来の性能を発揮できないぞ。報告書には何って書いてあったんだ?」
「あの1隻で部隊を全滅したと書いてあった。しかし、勝手に攻撃されては困るのだ。敵と見なされるだろ」
「敵と見なされる?」
「い、いや、何でもない……」
しまった、という顔で視線を逸らした。
余計なことでも話したようだ。
「と、兎に角だ。あんな物があっては我々が自由に動かすことができない。命令を聞かないようではどこにも行けないだろ。だから外して別な物を付けさせたのだ」
「あれでどこに行くつもりなのだ?」
「領都だ」
「領都?」
「戦うには物資が必要だ。だから領都まで買付に行く。そのために船が必要だったのだ」
商会でも商船を持っていたそうだが、空港が破壊されたときに一緒に破棄され、補給物資を買いに行けなくなった。
だからその代わりにあの船を使いたかったそうだ。
「戦艦だぞ。それほど荷物は詰めないだろ?」
「武装などは外してしまえば良い。我々は戦いに行くわけではないのでな」
武装を外せばその分空きスペースができる。そこに積むつもりだったと。
何かとんでもないことを言い出したぞ。
今のこの状況で武装を外すなど、とても正気は思えない。自殺行為に等しい。
「戦わずして逃げられると思っているのか? 数は向こうの方が多いのだ。囲まれたら逃げられない。それでも外すのか?」
「そうだ。武装をしてなければ向こうも民間船として見逃すだろう。だから無い方が良いのだ」
「……」
呆れて物が言えないとはこのことだ。
戦争中に民間船なんて関係ない。物資を積んでいると分かった時点で撃沈される。見逃すはずがない。
そんなことも分からないとは。
ますます頭が痛くなってきた。
「はぁ……これにはミチェイエル殿も絡んでいるのか?」
「いいえ。ですが、物資の補給はグリード氏に任せてあるので、彼が必要というのであればそうなんでしょう。私から口を挟むようなことはしないわ」
そう言われ、グリード・ラグマンが勝ち誇ったようにニヤッとする。
補給のために船が必要というのであれば、ミチェイエルでも文句は言えない。
だから強気に出れると言うことか。
「ま、いいさ。自由に使えば良い。俺には関係ない」
実際は関係あるのだが、俺とダンジョンコアの関係を知っている者はいない。
それにダンジョンコアがどうなっても俺には関係ない。煮るなり焼くなり好きなようにすればよい。
しかし、できるのであればの話だが。
「そんなことがあるか! 報告書にはお前の指示以外は聞かないと書いてあったぞ。だから動かないのではないのか!」
「まだ疑っているのか? そう思うならAIボックスを新しいのと替えれば良い。そうすれば俺の命令なしでも動くのだろ? 違うのか博士?」
「そうじゃ。AIボックスを交換すれば艦長の設定はなくなるので、お主とは関係なく誰の命令でも動くはずじゃ。しかし、交換しても動かんのじゃ。だからお主に聞いてるのじゃ」
「俺に聞いても技術者ではないのだから分かるはずがないだろ。それこそ博士の専門になるのではないのか?」
「そうなんじゃが、しかし、お主ならその理由を知っているかと思ったんじゃが……ふむ、もしかすると我々の知らないところに別のAIボックスがあるのかもしれん。それを外さないと動かないのかもしれんのう……」
おっと、博士が別な可能性に気が付いた。
確かにもう1個、AIボックスがある。ダンジョンコアというAIボックスがね。
それに気が付くとは。
さすがだね。長年研究しているだけはある。
「おい、博士。全部調べたのではないのか?」
グリード・ラグマンがイライラしながら文句を言っている。
今更何を言っているのだ? という感じだな。
「もちろん調べたじゃ。サーバールームにそれらしき物はついておらんかった。しかしじゃ、調べたのはサーバールームだけでそれ以外は調べておらん。普通はそこにしか付けんからのう」
「チッ! 使えん連中だ!」
吐き捨てるように言った。
何様だ、こいつは。
見ているだけでイライラしてくる。
「そうは言ってもじゃ。普通の戦艦はブリッジで操作すると、その信号は全てサーバールーム内にあるコンピューターに送られ、コンピューターが各デバイスに指示を送り、動作しておのじゃ。だからサーバールーム内にAIボックスを付けるのが一般的なのじゃ。他の所に付ける方がおかしいのじゃ」
はるほど。
どうしてサーバールームにダンジョンコアがあるのか不思議に思っていたが、そこが制御しやすいからか。
意味がなくそこに居るというわけではなかったようだ。
「そんなのはどうでも良い。それを見つければあの船は動くのか?」
「見つけて交換すれば動くはずじゃ」
「時間はどれだけ掛かる?」
「わからん。船の中を隈無く探すのじゃ。それなりに時間は掛かるじゃろう」
元々は我々が建造した船ではないので設計図など何もない。
一から調べるので時間は掛かると言っている。
「なら、早速やってくれ! 時間がないのだ!」
「時間?」
「ほ、ほら。早くしないとドラギニス軍が戻って来るだろ。だからその前に出航したいのだ」
何だ? めちゃくちゃ焦っているように見えるが、そんなに急いで行かないといけないのか?
そこまで物資が不足しているとは思わなかった。
「それならやれることでもやっておけ。武装を外すのだろ? それなりに時間も掛かるはずだから、今のうちにやっておけば後で楽になるぞ」
「ぐっ……い、今は外さない。向こうに行ってから外す」
「ん? 荷物を積むのに外す必要があると言っていたが」
「も、もちろん外す。しかし、この星系を出るまでは安全を考慮し、外さない方が良いと思っている。付けているだけでも威嚇になるはずだからな」
武装がないほうが、民間船と間違えられて安全だとか言っていなかったか?
言っていることがおかしいぞ、こいつ。大丈夫か?
俺はチラッとミチェイエルを見るが、微笑んでいるだけで口を挟みつもりはなさそうだ。
こっちも何を考えているか分からない。
やれやれだな。
「そういうことなら俺からは何も言わない。勝手にすればよいさ。しかし博士、見つけられるのか? どんな物かもわからないのだろ?」
「配線を追っていけばわかるかもしれんが、こればっかしは調べてみんとわからんのう。資料も何もないし、手探りでやるしかない。時間は掛かるがそれしか方法がないじゃろ」
先ほどとは違い、急に楽しそうに話している。
船を弄れるのが嬉しいのだ。
「余計な所を触って壊さないでくれよ、博士」
「わしが壊すわけがなかろう。大事な研究資料だぞ。大事に扱うに決まっておる。カッカッカッ」
生き生きと嬉しそうに話す姿を見ると、余計に不安へ駆られる。
コアを壊されるとガラクタに戻るので、それだけは注意して欲しいね。見つけたらだけど。
しかし、コアも思い切ったことをしたな。だんまりとは。余程ここから動きたくないということか。いや、俺から離れたくないということだな。
俺が乗っていなければ魔力を供給できないわけだから、長距離の移動はできないということだ。
そうなるとコアを外さないことには動くことはない。可哀想だけど無駄な努力になりそうだ。結果がわかっているだけに哀れに思える。
「さて、用がなければ帰らせても貰うが?」
ミチェイエルに聞く。
この場で一番偉いのかの彼女だからね。
「そうね……帰っても良いわ。グリードさんもよろしいですね?」
「それは困るなあ。船を動かせるのはこいつしかいないのであれば、最後まで残って貰わなければ。博士が見つけることができなければ、こいつに動かして貰うしかない」
ニヤニヤしながら人を見下すような態度で当たり前のように言う。
ふざけるなと。
そんな態度で手伝うわけがないだろ。
「フッ、何かおかしなことを言っているが、俺がどうして手伝わないといけないのだ? 言っておくが俺は革命軍の一員ではない。命令に従う理由はないのだ。なのにどうして付き合わないといけない? 寝言は寝てから言え」
キッパリと断った。
「何だと!」
激怒した。
沸点が低いな。ちょっと煽っただけですぐ切れる。
こんなのが商会の会長さんとは思えなかった。
「俺は付き合うつもりはない。付き合って貰いたいのであれば、それなりの態度で示せ。話はそれからだ」
こんな奴と話すだけで無駄だ。
遠慮させて貰う。
「それじゃ、そういうことで」
何か喚いていたが知らん。
とっとと部屋を後にした。後はミチェイエルが何とかするだろう。リーダーなのだから。
「結局俺は何しに来たのだ?」
身分証を貰うわけでもなく、ただ気分を害しただけで何もなかった。
これなら来なければよかったと後悔した。
「しかし、あの会長さん。何か臭うな……」
俺たちに何か隠している感じがするのだが気のせいか?
それにミチェイエルの反応も引っ掛かる。あんな態度を取って何も言わないのはおかしいだろう。リーダーなのだから、あんな態度を取っていたら注意の一つや二つ言っても良いと思うのだが……。
何か考えがあってそうしているのであれば、俺からは何も言うことはない。
自分からは関わるつもりはないのでね。
やれやれ、無駄な時間だった。
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