第169話 その後②
基地に戻ってくると、真っ先にブリッジへ呼ばれた。
何だろう? と思い行って見ると、全くもってくだらない苦情だった。
「俺が命令していないのに、勝手に艦が動くのはどういうことだ?」
半分キレ気味でクリフト・ベルマン大尉に文句を言われた。
そんなの知るか、と言いたい。ダンジョンコアがやったことまで責任は持てない。
「だから聞いただろ、大丈夫かと?」
俺は出航前に訪ねたのだ、不安だったからね。しかし、何も答えなかったので大丈夫かと思ったのだが、やはり大丈夫ではなかったようだ。
何かしらやらかしたのだろう。怒っている表情を見れば一目でわかる。
まあ、そんな予感はしていたので諦めてはいたのだが。
「そういう次元の話ではない。船のAIが命令を聞かないなど前代未聞の出来事だ。あれは不良品だ。即刻、外すべきだ」
外せと言われてもなあ。
技術者でもないのでできるわけがない。それにあれは機械ではないからね。
正確にはダンジョンコアであって、外せるような物ではない。いや、外せるのか、あのコアを?
引っこ抜いたら持って帰れそうだが。
そんな事を考えていると横から怒鳴り声が聞こえた。
「何を言っておる! 外すなどわしが許さんぞ!」
博士だった。
話を聞いていたようで、激怒してこちらに詰め寄ってきた。
「こんな貴重な物を外すなど、わしが許さんぞ!」
「ブ、ブランニュー博士、いつ戻ってきたのだ? 船を降ろしたはずだが」
あまりの剣幕だったのでクリフが引いている。
邪魔になるということで、先ほどの作戦には参加させなかったそうだ。
軍人でもない人を乗せておくにはいかないという理由らしいが、博士にそんなことは関係なく、研究のためなら自分の命さえ投げ出すだろう。
自分の命よりも研究なのだから。
「ふん、ウリウスが戻って来たと聞いて直ぐにブリッジに来たのじゃ。貴重な戦闘データを取りにじゃ。そしたらお主らの不穏な会話を耳にしてな。これは考古学的にも貴重な古代船じゃ。製造当時のことや船のことを知るのに必要な物なのじゃ。AIを外すことなどわしが許さんぞ!」
「は?」
何を言っているか分からず、目が点になっている。
どういうことか理解できないようだ。
「おいおい、博士が何を言っているのか分からないのだが?」
俺に聞いてきたが、俺は理由を知っているだけに答えにくい。
説明すると博士の知らないことまでしゃべり、ボロを出す可能性があるので、説明は博士に丸投げにした。それに俺は何も知らないことにしてある。だから説明などできないのだ。
「ようは、外すな、と言っているのでは? 理由は博士に聞いてくれ。俺よりも詳しいと思うから」
一瞬嫌そうな表情を見せると、視線を博士に移した。そして憤っている博士を見て首を横に振り「ハア……」と大きく溜息をついた。またか、という感じだな。
きっと船を降ろされるときに揉めたのだろう。
素直に言うことを聞くような人ではないからね。
「博士。ようは何なんだ? 何が言いたいのだ?」
イライラしているのか、ちょっと乱暴な口調になっていた。
博士の相手をすれば誰でもこうなる。仕方が無いことだ。
「古代船のAIを外すなと言っておるのじゃ。古代の遺産なのじゃぞ。壊れたらどうするのじゃ。もう二度と手に入らんかもしれんのじゃよ。もって丁寧に扱うべきじゃ!」
「はあ……」
ピンとこないのか、首を傾げて博士を見ている。
そういえばクリフは知らないはず。あのAIが古代船の物とは。
だから後から付けたAIだと思っているので、「外すな!」と言われても「なぜ?」という反応しかできない。替えが利く物だと思っているからね。
クリフからしてみれば、博士が変なことを言っているとしか思えないので、そういう反応になってしまう。
知らないのだから責めるのは酷というものだ。きちんと説明をしないことには。
「わからん奴じゃの。このAIは昔のことを知っているかも知れんのじゃ。我々でも解明できなかった船の事や建造時のことも知っているかもしれん。だから外すなと言っておるのじゃ!」
博士が顔を真っ赤にして怒っている。
それでもわからずクリフはきょとんとしている。
考古学に興味がなければ、そんなことを言われてもわからないだろう。
俺だって、「この壺は江戸時代の物だ」と言われても「へえ、そうなんだ」ぐらいしか反応できない。興味がなければそんなものだ。
クリフが悪いわけではない。
「このAIはとても重要なのか?」
「そうじゃ。だからそのままにしておくのじゃ。よいな、外そうなどと考えるのでないぞ。わしの研究が進まなくなるのでのう」
「しかし、勝手に動いて勝手に攻撃するのでは、危険で使うことはできない。それに命令も聞かないのだぞ。どうにかならないのか、博士」
「どうにもならん。それが古代船のAIなのじゃ。黙って従っておればよい」
「そういうわけにはいかないだろう……」
困ったか顔で俺をチラッと見るが、俺に頼られてもなあ。
命令したところで言うことを聞くとは思えないし、何よりも向こうの方が俺よりも賢いからね。それに合理的だし、口で勝てる気がしない。
困ったものだ。
何か罰でも与えられたら従うと思うが、俺の魔力供給だけでは断ったところでちょっと弱い。それに船が動かなければ我々も困る。
何とかするのは無理そうだ。
「まあ、諦めることだな」
「そうはいっても、これだけの性能があるのに使えないのは困ると思うぞ。それに今後もこの戦艦は使い続けるだろうし、このままというわけにはいかない。俺は、外した方が安全で良いと思うがね」
まあ、そうなんだが外せないんだよね。だってあれはダンジョンコアだし、外したらあの船は二度と使い物にならなくなる。ジェネレーターはコアが制御しているみたいだし、高出力はでないだろう。
きっと奪ったときの状態に逆戻し、役にならない戦艦に成り下がる。
今のところ、古代船を改造して使えたという話はないということだし、コアを外すことはできない。
我慢して使うしかない。
博士とクリフが、外す・外さないで揉めていると、突然、吊り目のおっさんがブリッジに入って来た。
後ろにはレーザー銃を持った若者が3人、護衛をするかのように一緒に付いてくる。
そして誰かを探すように、ブリッジ内をグルッと見渡しからクリフに気が付くと、「チッ」と言い、不機嫌そうな表情も隠そうともさず近寄ってきた。
「クリフト・ベルマン大尉殿。作戦が終わりましたら出て行っても貰いましょうか。今からこの戦艦は我々が使用しますので」
「お前は誰だ? 初めて見る顔だが」
ギロリと相手を睨む付ける。
無礼な態度で、ちょっとカチンときたようだ。
「私はグリード・ラグマン。この戦艦は革命軍の物になっていますので、私で管理することになりました。なので星系軍の方々には退去して頂きたい」
「何を言っているのだ?」
俺に尋ねるが、俺だって初めて見る顔で誰だか知らない。
というか、俺はレジスタンスではないので、メンバーの顔など知っているわけがない。名前も聞いたことがない。
だから首を横に振った。
「聞こえませんでしたか。出て行きなさいと言ったのです」
「……」
高圧的な態度でブリッジ内が不穏な空気に包まれる中、平常運転なのは博士だけ。
誰かれ構わず、噛みついていた。
「誰が出て行くか! これはわしの研究物じゃ。誰にも渡さんぞ!」
さすがは博士。ブレない。
どんな状況になっても研究第一とは。
「違います。これは我々の戦艦です。博士の物ではない。私が優しく言っているうちに出て行って下さい」
「このことはミチェイエル殿は知っているのか?」
「この船は革命軍の物なので私たちに管理する権限がある。彼女は関係ありませんよ。そういう決まりなのでね。さあ、話は終わりです。今すぐに降りて貰いましょう」
彼が右手を上げると、後ろで待機していた3人がレーザー銃を構えた。
どうやら強制らしい。
困ったものだ。これだから人もレジスタンスも信用できないのだ。
「出て行けというのであれば出ていくさ。元々俺たちは任務で乗っていただけなのでね」
クリフが肩をすぼめて言うと、ブリッジ内にいた仲間達にも目で合図し、騒がず出て行った。
一悶着あるかと思ったが意外と諦めが良いことに驚く。
俺も無言で出て行った。
呼び止められるかな、と思ったが、そんなこともなく無事に船を降りた。
「意外と冷静だったので驚いたよ。もっと暴れるかと思っていたが」
横に並んで歩きながらクリフに話しかけた。
怒っているかと思っていたが、以外と何も無かったかのように澄ましている。
さすがというか、隊長だけあって冷静だったようだ。
「従うも何も元々この作戦だけの乗艦だし、そもそも俺たちは地上部隊だ。船で戦うのは専門外でね。だから使いたいと言うのであれば喜んで差し出すさ。揉めてまで乗りたいとは思わない」
「未練は無いと言うことか。それにしては博士と揉めていたが」
「今後の事を思って言ったまでさ。あんなAIを積まれていたら、今後乗る奴が困るだろ? だから外した方が良いと言ったのだ。しかし、今となってはどうでも良いな。困るのは奴らだし」
困った顔が目に浮かぶのか、「ククク」と笑っている。
素直に引き渡したのは、今後を見越して苦労するのが分かっていたからということか。
確かに彼らではあの船を使いこなせないだろう。ダンジョンコアが納得し、協力するとは思えない。
そう考えると、また巻き込まれる予感が……。
頭が痛くなってきた。
「しかし、あいつは何者なんだ? あの態度からしてミチェイエル殿と対立しているようにも見えたが」
「さあな。俺も会ったことがないね。それに全員知っているわけではないから」
俺はレジスタンスではないのでね。仲間のことなど知らない。
でも、この手の話はよくあることなので、権力争いで揉めているのだろう。
レジスタンスも、一枚岩ではないということだ。
「それよりも博士は大丈夫か? かなり抵抗していたみたいだが」
降りるときチラッと博士を見たが、グリード・ラグマンに食ってかかっていた。
多分、誰が降りるか!、と駄駄を捏ねているのに違いない。
危険だな。
あの手の連中は融通が利かないのに。
「それなら最後に出てきたぞ。あいつの部下に連れられてな。かなり暴れたみたいで銃を突きつけられていた。無茶なことをする。ああいう連中は話すだけ無駄なのにな」
クリフが呆れている。もうちょっと相手を選んでからそういうことをしろと。
博士も、奴らが何をするか分からないだけに不安だったのだろう。
気持ちも分からないではないが、もうちょっと空気を読んで欲しいね。死んだら研究なんてできないのだから。
俺も頭の悪い貴族を相手にした事があるが、自分の言いたいことだけ言って人の話を聞かない連中が多かった。それでどれだけ苛立ったことか。
あいつらもその臭いがプンプンする。だから何も言わずに出てきたのに。
「博士はあれが生き甲斐みたいなものだし、諦めきれないのだろう。壊されたら困るし」
「ふむ……」
「問題はあのAIなんだよなあ。素直に言うことを聞くかどうかだが、無理なような気がする。壊されなければ良いがね」
「奴らは壊すと思うか?」
「あの船を自分たちで何とかできるようなら壊すだろうね。言うことを聞かないAIなんて邪魔なだけだから」
「そうだろうな。勝手に攻撃するし、コントロールが奪われ何もできなくなる。邪魔でしかないな」
「後は彼らが、あの船が古代船で貴重な物だと認識していれば、壊されないかもしれないが……まあ、無理だろうね、あの感じでは。博士には悪いが壊されるかもしない」
実際はダンジョンコアを破壊しないことには大丈夫だと思うがどうなるか。
彼らがコアの事を知っているとは思えないので大丈夫だと思うが……。
「さて、やることがないので帰って休むか。クリフはどうする?」
「俺たちもアジトに戻って休む。ここでは落ち着かないのでな」
あんな感じで追い出されたら、ここには居られないだろう。それに、明らかに敵意を感じたのでいつ寝首を掻かれるかわかったものではない。身の安全を考えるのであれば、帰る方が賢明だ。
「面倒臭いことになりそうだな」
「そうだな。しかし、俺たちはこれで終わりだが、お前さんはどうするのだ? 革命軍ではないのだろ?」
「ああ。だからこの惑星を出て違うところで商売でも始めようかなと。この惑星では指名手配されているんでね」
「それに関しては、この戦争が終われば取り消されるだろう。それだけの活躍をしたのだし、あれは正当防衛だ。先に撃ってきたのは我々の方なのだから」
「そうなんだが、しかし、それで良いのかクリスは? 仲間を殺したのだぞ」
「別に構わないさ。俺の部下ではないのでね。あいつらは基地に配属された航宙部隊でザイラ・バーツの部下だ。気にする必要はない」
どのみち軍を裏切るのだから、殺したところで問題ないということらしい。
ドライだね。
しかし、それで良いというのであれば気にしないが。
「わかった。それで、そっちはどうするのだ? この惑星を取り戻せるのか?」
「無理だね。わかっていると思うが戦力が足りない。だからしばらく大人しくしているさ。今日の件で目を付けられたと思うし、変に動かない方が良いだろう。都市を巻き込む危険がある。人質にでも取られたら勝てないからな」
向こうは都市を人質にできる。
降伏を勧告してきたら断れないだろう。だから、程程にしておくのが一番。
やり過ぎないようにしないとな。
話していると船を降りてきた仲間達がクリフの所に集まってきた。
その一部の人たちが激怒しており、レジスタンスのことを罵倒していた。
話を聞くと、銃を突きつけられて無理矢理追い出されたとか。協力してやったのにあの態度はないと怒っていた。
元は敵対した仲だから仕方が無いと思うが、この時期に関係を悪化させるような行為は愚かとしか思えない。ミチェイエルは何を考えているのか。
しかし、よく暴動にならなかったなと感心する。銃で突きつけられたら、暴れる者が一人や二人でてきそうだが、そうならなかったのは部下の教育が良かったのか、それとも前もってそういう指示が出されていたのか。
どのみち、今後彼らの協力を得るのは難しくなった。こんなことをされたら黙った従うはずが無い。もう少し穏便な方法を取れば、こんなことにはならなかったのだが。
まあ、おれの知ったことではない。後は勝手にやってくれと。
俺は人が集まり騒がしくなったのでクリフに後は任せその場を離れた。
これでしばらくはゆっくりできるだろう。
ようやく長い一日が終わった。
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毎日ぽつぽつと書いています。
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