第16話 第22都市
ショッピングモールからうまく逃げ出した俺は地下鉄を使い、第22都市と呼ばれている隣街まで移動してきた。
乗車賃はやはり電子マネーで支払うようで、ゲートみたいな物を潜ると自動的に引かれていた。早速、携帯端末が役に立った、というわけだ。
地下鉄は車と同じで車輪がなく空中に浮いている。リニアとは原理が違うようで、線路を見るとレールも何もない。エアーで浮いているわけでもなく、天井にぶら下がっているとわけでもなさそうだ。もしかすると地中に何か細工がしてあって、浮いているのかも知れない。何の技術が使われているか、素人の俺にはわからなかった。
移動中、買ってきた携帯端末でこの都市のことを調べた。
ここでは地名で呼ばれるのではなく、開発された番号で呼ぶのが普通らしい。
22番目に作られたから第22番都市。駅は街の中央に位置し、そこからローカル線が出ているようで、端までいくには乗換えが必要だ。1都市にだいたい10万人から100万人が生活しているようで、街の広さや場所によって違うみたいだ。
地上に出ると多くの兵士を見かけた。
市民たちも不安げな表情で彼らを見つめている。軍と市民で揉めているだけあって、何とも言えないような緊張感が両者にはあった。俺も軍とは関わりたくはないので、市民が多くいる方に移動した。
「おい、今日はいつにも増して警備兵が騒がしいようだがどうした?」
「どうやら指名手配班を探しているらしいぞ。それで兵が集まってきている」
「革命軍の誰かが見つかったのか?」
「いや、彼らではないらしい。別な人だ」
「そうか、彼らでなくてよかったよ。この街にいるのがバレたのかと思ったよ」
「しっ! そのことは言うな。兵士に聞こえたら連れて行かれるぞ」
近くにいた市民から、ひそひそ声で、このような会話が聞こえた。
まさか、と思い商業施設の壁にある街頭モニターを見ると、俺がデカデカと映っていた。
地下鉄に乗るところがばっちし映っていて、それで知られた感じだ。駅の監視カメラで撮られたみたいだ。
「バレるのが早かったな。やはり撮られていたか。もしやと思っていたが、俺の魔法はカメラには通じないようだな」
俺が逃げることが出来たのは、魔法の『ミラージュ』という精神魔法を使ったからだ。
この魔法は幻覚魔法の一種で、相手の精神に干渉し、自分の特徴だった黒髪黒目を金髪金眼に見せることで兵士たちの目を欺いたのだ。
ただ、色は変えることができるが姿形までは変えることができないので、服はショッピングモールのブティックで買い、トイレで着替えて誤魔化した。髪色が違っていても服装が似ていれば目に付いてしまう。ただでさえ俺のスーツは目立つみたいだからね。
しかし、それが通用するのは人の目だけだったみたいで、機械には通じなかった。駅で撮られた時も精神魔法を使って移動していたはずだがバッチリ黒髪で映っていた。
精神魔法は機械に通じない。
まぁ、人間では無いので効かないのは当たり前な話で、文明が進めば使える魔法も限られてくる。それは仕方が無い事だと思って諦めた。
「逃げるとなるともう同じ手は使えないか……」
顔がバレており、主要施設の前には警備の兵士が立つようになった。
兵士の数も増えており、逆に市民の姿が少なくなっている。巻き込まれる前に帰宅したようだ。
「不味いな。また、移動するか?」
とは言っても地下鉄を使えば、また監視カメラに撮られてしまう。
公共機関は使用できないだろう。
「困ったもんだな」
今更、身の潔白を証明しても、あれだけの事をしたのだから無罪放免とはいかないだろう。捕まれば拷問の末、銃殺刑が良いところだ。だから捕まる訳にはいかない。
「さて、どうするか……」
とりあえず、駅近くの商業施設に逃げ込んだが見つかるのは時間の問題かもしない。
魔法を掛けている状態なので市民には気が付かれてはいないが、監視カメラには映っているはずなので監視している人が見れば気づくだろう。
再度洋服を買い、トイレで着替えると商業施設から離れる。
買い換えた服も映像に撮られていたので、又、買い換えたのだ。念のために、というやつだ。
着替えた服はトイレのゴミ箱へ。勿体ないが、持って移動はできない。邪魔になるだけだ。
「しばらくはどこかで身を隠すしかないか……」
軍が諦めてくれるまでは、人気がない場所で身を潜めることにした。
*****
「22都市に逃げ込んだのは間違い無いのか?」
移動中の輸送機の中で、部下から渡された資料に目を通しながら尋ねた。それには手配犯の姿が映った写真が添付されており、服装など、特徴が細かく書かれていた。
「はい、隊長。監視カメラで駅を出るところまでは確認できています」
「そうか。しかし、どうして逃げたことに気が付かなかったのだ? 映像を確認したらお前らの前を堂々と歩いてショッピングモールを出て行ったぞ。お前らの目は節穴なのか? しっかり監視しろ」
「ですが、隊長。お言葉を返すようですが、誰ひとり、彼を見た者はいません。我々も録画がされた映像を確認するまでは気が付きませんでした。これはどういったことなのでしょうか? まるで夢でも見ていたような感じなのですか」
「我々の目を欺く認識阻害装置でも開発したのかもしれない。しかし、監視カメラには映るので完全とはいえないようだが。奴を確認するさいにはカメラ越しで確認すること。全兵士に通達しろ。目で確認するなとな」
「ハッ!」
指示された兵士は敬礼をすると、コクピットの方に移動にした。無線で連絡を取るようだ。
「やれやれ、たった1人を捕まえるだけでこんなに苦労させられると」
写真に写った手配犯の顔を見る。
見た目は一般人と変わらない容姿だが、1分隊を全滅させた実力はある。迂闊に手を出せば、街は火の海になるだろう。あの映像を見ればな。
だから強引な手は使いたくはないのだが、上からの命令では逆らえない。犠牲者が出ても捕まえろとの指示だ。
とは言え、出さないに越したことはない。
最終的には捕まえれば良いので、しばらくは監視を優先させることにした。
「隊長。手配犯らしき人物を見かけたと報告が」
若い兵士が報告に来た。
発見場所を確認し、兵士には監視を優先させ接触するなと指示を出す。
後はどうやって捕まえるか。
「街中で捕まえるわけにはいかないな。郊外へ追い出すか」
先回りをし、道を閉鎖する。
街の中心から郊外へと誘導する。向こうも兵士を見掛けたら他の道へ逃げ出すだろう。そうやって、移動できる範囲を狭めていけば、自然と郊外へ辿り着く。
建物がなくなり、人がいなければ好きなようにやれる。
追い込む最終地点を指示し、俺もそこへと向かうことにした。
これだけ手間を掛けさせたのだ。最後は自分の手で捕まえたかった。
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