第168話 その後①
「それで、亜空間関連の機材は奪われたのだな?」
「はい。ザイラ司令官殿。残っている戦闘艦で応援に向かいましたが、戦艦ウリウスの前に我々の艦は全滅しました」
「そうか……」
「驚かないのですね」
「まあ、結果は分かっていたからな。今の我々に戦艦ウリウスに勝てる船がない」
1部隊を簡単に壊滅させたのだ。普通の船では勝てないだろう。
ゴリアンテが改造中でなかれば負けることはなかったのだが、超高熱反応弾を搭載するのに改造中で、出すことができなかった。
タイミングの悪さに悔やまれた。
「しかし、戻ってきていたのは知っていたが、直ぐに作戦に参加するとは。最初から計画されていたのか?」
「いつ戻って来るか分かるはずがないのですから、計画など立てられないかと。戻ってきたので作戦に参加させたのでは?」
「そうなると、戻ってこなくても作戦は実行する予定だったということか……」
「そうではないでしょうか。でなければ、ステルス型のドローンや爆薬など、あれだけの機材を事前に準備はできなかったでしょう」
「ふむ……」
確かに副官の話に説得力はあるが、ただ、地上部隊だけで通信施設を襲うとは思えない。前回、失敗しているのだから、何かしらの作戦を立てなければ同じ事の繰り返しになる。
そこまで革命軍も馬鹿ではないだろう。
「それで、あの新兵器か……」
「はい。解放された兵士の話ですと、突然、火柱が上がり、小型レーザー砲を破壊したということです。話を聞いても信じられなかったのですが、その時の映像が残っており、それを見ると確かに火柱が上がっていました。あれは革命軍によって新たに開発されたレーザー砲破壊兵器ではないでしょうか? それが完成したので、施設を襲撃したのかと思われます」
「新兵器か。まさか革命軍がそのような物を開発するとは……向こうには優秀な科学者が居るようだな」
兵器の研究している部署があるという話は聞いていたが、まさか開発に成功しているとは。甘く見ていたな。
話を聞いたとき、徹底的に潰せば良かったか。
「新兵器はどのような物かわかっているのか?」
「わかりません。あの場に居た兵士に聞き取り調査をしましたが、突然火柱が上がったとしか。誰かが何かを投げたというわけでは無さそうです。ただ……」
「ただ?」
「はい。その前に小さな火の玉を見たとか。それ以外にも石の塊とか水の玉などが飛んできたそうです」
「火の玉? 水の玉? 見間違い……というわけではないのだな?」
「映像を確認しましたが、確かにそのような物が飛んでいるのを確認しました」
「よくわからないな……」
「はい。それに石壁が突然現れたりと、意味不明な現象が確認されています」
「ふむ……」
これが全て革命軍の新兵器だというのか?
だとしたらどのような手を使ったのか。
色々と調べる必要がありそうだ。
「早急に映像の解析を。それと奪われた機材の搬送先を調べろ。奪われた物はまた奪い返せば良いだけだからな」
「了解しました。しかし……よろしいでしょうか?」
副官は俺の顔を見ながら、少し言いづらいそうにして言葉を続けた。
「もう、奪い返す意味はないと思うのです。我々のことは既に領主殿に知られていると思われます。今更なのですが、情報封鎖をしても意味がないと思うのですが」
「もう隠す必要がない、だから奪い返す意味がないと。そう、言いたいのか?」
「はい。何も時間を掛けてまで奪い返す必要はないかと」
確かに我々のことは知られているだろう。星系軍を寄越したぐらいだからな。
だからといって、奪われたままなのは不味い。
あれは今後、必要になる機材なのだから。
「亜空間通信機が必要なのは、ドラギニス公国と連絡を取るのに必要なのだ。今は良いが、今後は向こうの指示で動くことになる。その為には奪い返す必要がある」
「そうなのですか? ですが、通信機の接続先は領都だったはず。そちらはどうするのですか?」
亜空間通信機は相手先にも同じものがなければ通信できない。
一対で1つということになっている。
しかし、それは一般に知られている情報で裏設定がある。
それを使えば問題ない。
「何も領都にある奴も回収しなければ、使えないというわけではない。通信に必要な固有IDさえお互いに合えば、どこにでもある通信機と繋ぐことができる。それさえ変更すれば、領都だろうがドラギニス公国だろうが場所など関係なく繋がるのだ。ただし、接続先の固有IDが分からないとできないけどな」
亜空間通信機は相手にも同じ物がなければ通信できないが、既存の物でも固有IDさえ変更できれば、新たに用意する必要はない。
しかし、その固有IDは最重要機密となっており、バレると通信を妨害することができる。
なので知っている者は限られている。
「そんな物があるのですか? 私は初めて聞きましたが」
「最重要機密だ。関係者以外は知らされていない。俺もその手の話に詳しい友人に教えて貰っただけだ。軍の中でも知っている者は限られているだろう」
外部に漏れるとテロとかで利用されないとも限らない。
知っている人数は少ない方が良い。
「その固有IDは分かっているのですか?」
「ドラギニス軍に問い合わせはしているのだが、教えては貰えなかった。最重要機密だけあって我々には簡単に教えられないのだろう。知られたら大変なことになるからな」
「そうなのですか?」
「ああ。同じ固有IDが3つ以上あると動作しなくなるのだ。だから、知られたら敵国のネットワークを止めることができる。そうなるとどうなるか」
「通信ができないと通話や情報のやり取りができないですね。星系間で送金もできないので、物資の輸入が止まります。それはかなりの問題ですね」
「そういうことだ。今は電子マネーでの買い物が主流だ。現金で買い物をする奴はいない。決算ができないと星系間で物流が停まり、大混乱になる。経済的テロを仕掛けることができるのだ。だから簡単には教えられないと言うことだ」
「そう言えば、亜空間通信を止めたことで、この惑星でも混乱しましたね」
俺は頷いた。
「輸入業を営む連中は軒並み潰れたと聞く。それが原因とまでは言わないが、その後、革命軍に参加する人数が増えたのも事実だ。生活できなくなったからな」
それでも大きな混乱にならなかったのは、代官の息が掛かった商人が物資を運んでくることで商品が手に入るからだ。その代わり多少値が上がったようだが、物が手に入らないという事はなかったので、市民との全面戦争にはならなかった。
そこは上手くやったようだ。
「今後はドラギニス公国が主導して管轄するはずだから、母国と連絡がつかないのは何かと困るだろう。我々は困ることはないが、彼らが居ない間に奪われたとあっては立つ瀬がないというものだ。ドラギニス軍が戻ってくる前に亜空間通信機の奪還をしなければなるまい」
「そういうことですね。わかりました」
「それと、追撃に向かった防衛部隊は戻ってきたか?」
「まだです。壊滅した部隊の救助は終わりましたので、明日の朝には全部隊が帰投できるかと」
「早く戻らせろ。これ以上革命軍の好き勝手にやらせるわけにはいかない。帰ってくれば数でこちらが有利になる。力で押さえ込むこともできるだろう。それと革命軍の基地はわかっているのか?」
「レーダーで追跡はしていましたが、途中で見失いました。惑星軌道上の監視衛星がいくつか破壊され、一部のエリアが監視できなくなっています。そのエリア内に潜んでいるかと」
「そちらも早急に復旧させろ。衛星が足りなければ他から持ってきても構わない。今は戦艦ウリウスを監視することだ。あれを野放しにしておくわけにはいかない」
「了解しました」
「それとゴリアンテの進捗状況は?」
「後3日もあれば改造は終わります。そうすれば出航できるかと」
「そちらも急がせろ。今度、奴が出てきたらこちらで叩く」
「もしかして超高熱反応弾を使われるのですか?」
「場合によってはな」
「ですが、あれを地上で使えば惑星に深い傷跡が残りますが」
「それもやむを得ない。我々に楯突けばどうなるか。見せ付ける必要がある。革命軍にも市民にも」
「しかし、そんなことをすれば市民の反発も大きくなり、各地で暴動に発展するかもしれません」
「ふん、そんなのやらしておけば良い。直に居なくなる我々には関係ないことだ。後はドラギニス軍が何とかするだろう」
ドラギニス軍が戻って来れば、我々はこの星系から移動する予定である。
今後、誰がこの星系を統べるのかは知らないが、いつまでも居るわけではない。引き継ぐ奴が頑張れば良いことだ。
副官はなんとも言えない表情を浮かべているが、気にすることではない。
「それよりも開戦はしたのか? まだ、第3惑星で待機してるか?」
「はい。未だに始まっていないようです。お互いに何かを待っているみたいで動きがありません」
「ふむ……」
数が少ない星系軍が動かないのは分かるが、なぜドラギニス軍が動かないのか分からない。こちらの方が有利のはずなんだが……。
「連絡は無いのだな?」
「はい、ありません」
こちらからとやかく言うことではないので黙っているが、何か不気味である。
「何か動きがあれば連絡するように」
「はっ!」
敬礼をして出て行く。
なんとも言えないモヤモヤ感が残るが、こちらかは何もできない。前もって作戦を教えて貰えていればこんな思いはしないのだが……。
信用されていない、というのがありありと分かる。いつになったら仲間と認められるのか。
何も上手くいかず、苛立ちだけが募るだけだった。
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