第167話 通信設備奪還作戦⑦その3
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「後は良いかな」
「はい。我々に任せてください!」
この後、再び銃撃戦になるかと思ったが以外と早く終結した。
俺の魔法を見て敵兵が戦意喪失したからだ。
大した抵抗もなく投降した。
「後は施設内だが、そっちはどうする?」
「仲間が中を捜索する予定です。隠れている兵士もいるかもしれないので、安全を確保してから通信技術班を入れます」
「回収はどうする? 持って行くのに車がないが」
「無線で連絡を取りましたので、もう間もなく回収班がAGCで来ます。機材の回収が終わり次第、我々もそれに乗って帰還します。その前に玄関前にある石壁を撤去して下さい。中に入れないので」
「それは失礼した」
敵兵が中に逃げないように塞いでいた石壁を一瞬で元の土に戻した。
やることは魔力を抜けば良いだけ。造作もないことだった。
「作った物も壊せるのですね」
「壊せなければ困るだろ。あれで家を作ったりするのだから」
「家?」
家と聞いてギョッとしている。
何も壁を作るだけが土魔法ではない。使い道はいくらでもあるのだ。
「野宿をするときに四方を囲んで家を作るんだよ。ようはテントの代わりだ。雨風を凌ぐのにね」
「ああ……」
まぁ、この世界では野宿することなんてないと思うけどね。
車や宇宙船があるのだから。
「てっきり一軒家が建つものだと思っていました」
「土だけで一軒家が建つわけがないだろ。土を固めているだけなんだから」
石を積み上げれば家らしき物はできるが、そこに住もうとは思わない。夏は暑いし冬は寒い。窓もなければ扉だってない。そんなところに住めるか、と言う話だ。
魔法で家を作っている漫画とか見たことがあるが、土で木材が作れるわけがない。作れたとしたら、それは土魔法ではなくて錬金術の世界だ。砂から金が作れるような。
まぁ、石のテーブルぐらいは作れそうに思うかもしれないが、平らにはならないし、ゴツゴツしている。断面を切ったように綺麗な平らにはできないので実用的ではない。精々、竈ぐらいだ。冬ならば暖炉ぐらいはできそうだが、その程度。
所詮は土魔法。何でも作れるわけではない。
「そうですよね。魔法だから何でもありかと思っていました」
「魔法も万能ではないのでね」
「わかりました。私は部下の指示に戻ります。シューイチ殿はどうしますか?」
話を聞いていると手伝えることも無さそうなので表で待つことにした。
作業を見ていても邪魔になるしね。
「俺はここに残るよ。やることも無さそうだし」
そう話していると建物内が騒々しくなった。
諦めが悪い連中が残っていたようで、銃撃戦が中で始まったようだ。
「まだ、残っていたのだな」
「中でレーザー砲を操作していた兵士もいるはずなので、表に出ている兵士だけではないでしょう。それに、大分前から軍の管理下に置かれていましたので、建物内に残っているのは兵士だけだと思います。少なくない人数が残っていると思います」
「長引くとあまり良くないな。手伝おうか?」
「魔法で倒せますか?」
「うーん、どうだか……」
室内だと使える魔法も限られてくる。
さっきみたいな魔法は使えないし、土魔法も不可だ。地面に接していないと発動しない。
火魔法は火事の恐れがあるし水や氷魔法は水浸しになる。雷魔法もあるが、精密機械がある建物でそれを使うのはできないだろう。そうなると残りは風魔法になるが、それでシールドを破れるとは思えない。魔法では無理という話だ。残る手段は……。
俺は腰に差しているレーザーソードに手を触れた。
「剣で戦うしかないかな?」
「建物内で戦えますか?」
「無理だな。通路が狭いと剣が振れない。それに狭い通路ではレーザーの玉は躱せない。ふむ、俺の出番はなさそうだ」
早々に諦めた。
「魔法でも無理ですか……」
急にしょんぼりとした。
何を期待しているのかわからないが、俺に頼りすぎるのもどうかと思うぞ。
自分たちで頑張って欲しいね。
「まぁ、建物を壊しても良いのなら何とかできるが、そうはいかないのだろ?」
「はい。機材を回収するまでは、そうはいきません。我々の目的は回収ですから」
ということで俺は外でお留守番をすることにした。
増援の部隊が来ないとも限らないので、来たときのための時間稼ぎ要員と、捕虜の監視だ。
見張ってないと何をしでかすかわからない。
身包みを全て剥がしてたので、何もできないと思うが念のために。
「後はよろしくおい願いします」
それだけを言ってジェラート少尉は建物内に入って行った。
しばらくして大型車が続々と施設内に入ってきた。
ジェラート少尉が呼んだ回収班だろう。以外と早く着いたことで近くで待機していたと思われる。
そこからレジスタンスのチームが下りてきて、外で見張りをしてた人と話を始めた。
「上手くいったようだな」
レジスタンスの代表らしき人物が話している。
今回の作戦はレジスタンスと元地上部隊の合同作戦だったようで、回収から先はレジスタンスが請け負うようだ。
「ああ、彼のおかげで大きな被害も出ずに済んだ。助かったよ」
そう言って俺の方をチラッと見る。
レジスタンスの代表者は、俺を見ると「チッ」と言い、あからさまに面白くない顔をして視線を直ぐにそらした。
知らない顔だが、知らないうちに恨みでも買っていたみたいだ。
はて、どこだろうか?
「機材はどこに?」
「そちらの通信技術班が今解体しているはずだ。先ほど中に入って行ったからな」
「そうか」
それを聞いてレジスタンスの代表者も建物の中へ向かった。
戦闘はいつの間にか終わっていたようで、中で戦っていた仲間達が続々と出てきていた。
その中にジェラート少尉の姿を見かけたので話を聞きに近寄った。
「ご苦労さん。終わったのか?」
「はい。一部の兵士が部屋に閉じ籠もりましたが、見張りを立たせていますので出てくることはないかと。解体作業の邪魔をしなければ籠もっていても我々は構いませんからね。取る物を取ったら撤収する予定ですから」
建物を占拠する必要はないので、出てこないならそれでも構わない。
作業の邪魔をしなければ。
「作業時間はどのぐらいだ?」
「多く見積もって1時間ほどだそうです。それまではここで待機ですね。他の基地から増援が来るかもしれませんから」
「でも、その心配は不要だろう。上の戦闘も終わったようだし」
上空を見るといつの間にか戦艦ウリウスが待機している。敵が来るようなら向こうで対処するだろうし連絡がくるはずだ。任せれば良いだろう。
「あの数に勝ったのですか?」
俺と一緒に上空を見上げ驚いていた。
「そのようだな。でもあいつが居れば問題ないだろう。勝手にやるだろうし」
「あいつ?」
「いや、何でもない」
コアの事は説明しない方が良い。面倒臭いことにしかならないし。
「それよりもレジスタンスの代表者のことは知っているか?」
俺は回収班で見かけた彼のことを説明した。
「ギルバートさんの事ですか? 彼が何か?」
「初めて会ったのでね、どういう人物かと思ってな」
「はあ、別に普通の人かと。ただ、今回の作戦に、彼が無理を言ってメンバーに加わったとか。そんな話を隊長が言っていたような……」
「無理を言ってねぇ……」
宇宙から戻って来てからそんなに時間は経っていない。
なのに睨まれるようなことをやったか?
原因が思い浮かばず、首を傾げるだけだった。
そんなことを話しているうちに回収班は無事に作業を終えたようで、全員が迎えに来た車に乗り込むと作戦は終了した。
投降した捕虜は連れて帰っても対処に困るので、そのまま置いて帰ることに。
運び出した機材というと、そのまま別の場所に輸送されてそこで新たに組み立てられるそうだが、その場所はトップシークレットということで誰も知らない。
ジェラート少尉に聞くと、隊長も知らないそうだ。せっかく奪った物をまた奪い返されても困るので、情報を漏らさないようにという理由で。
しかし、ギルバートは知っているようで機材と一緒に乗って行った。
なんだかなぁ……。
まぁ、色々とあったがやっと休めそうだ。
そう思ったのは、基地に着くまでだったが。
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