第166話 通信設備奪還作戦⑦その2
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敵の隊長らしき人物が指示を出すと、地面から小型のレーザー砲が迫り上がってきた。しかも2基も。
それが建物の玄関脇に現れたのだ。
予期せぬ出来事に全員が呆気にとられていた。
「おい、そんな物があるなんて聞いていないぞ!」
近くにいた仲間が大声で叫んでいる。
俺は一言発せず、一目散に逃げだした。
「さ、下がれ!」
ジェラート少尉が俺を見て慌てて指示を出すと、前に居た仲間も逃げ出した。
さすがにあれに突っ込むような馬鹿なことはしないようだ。
レーザー砲から距離を取り、石壁の後ろに隠れた。
それと同時に攻撃が始まった。
「おい! この石壁はあの攻撃に耐えられるのか!?」
近くに居る仲間が質問してきたので俺は正直に答えた。「無理じゃね」と。
現に、撃たれた石壁は一発で崩壊していた。
「ど、どうするのだ!」
「いや、俺に聞かれとも……」
俺が何でもできると勘違いしているようだ。
焦っている仲間を尻目にジェラート少尉の方をチラッと見ると、こっちは呼吸を荒くして石壁に隠れている。間一髪で逃れてきたようだ。
小型レーザー砲は戦闘艦に搭載されている物と同じで、個人のシールドなど簡単に貫通する。
狙われたら助からないと言うことだ。
「何であんな物があるのだ?」
「知らん! 我々が貰った施設の見取図にはそんな物は記載されてなかった。後から設置したに違いない!」
その貰った見取図も古い物で、ここを軍が接収する前の物なんだそうだ。
きっとその後に設置したのだろう。奪われないようにするために。
「取りあえずストーンウォールで時間を稼ぐか」
石壁で小型レーザー砲を囲む。
1枚では薄いので何重にも重ねてだ。
しかし、それも大した時間稼ぎにはならないだろう。
火力が強く、石壁など一瞬で崩壊していたからな。
「今のうちに体制を整えよう」
周りに居る仲間に声を掛け、後方へ下がらせた。
そして近くにいるジェラート少尉と合流した。
「あれを破壊することはできないのか?」
俺の問いにジェラート少尉は首を横に振った。
「無理です。我々のレーザー銃ではあのシールドを破壊することはできません。戦闘艦に積んである物と同等タイプですからもっと威力がある物でないと。対空戦車砲でも持ってくればあるいは破壊できるかもしれませんが」
小型レーザー砲にも防御シールドがあるので、こちらの攻撃が届かない。
レーザーソードで切れたら良かったんだが、あのクラスのシールドになると威力が足りなく切れないそうだ。
元々人間相手に使う物だし仕方ないと言えばそうなんだが。
こちらで装備している武器では対応できないということだ。
「上空にいるウリウスに攻撃して貰うか?」
「それですと威力がありすぎて建物の方まで被害が及ぶ危険が。ピンポイントにあれだけを狙うのはかなり至難の業かと思います」
照準が狂えば建物に当たる可能性がある。それに爆風で建物に被害が出るかもしれない。
我々の目的は建物内にある亜空間関連の通信機材で、それが壊れたらここに来た意味がない。
強硬手段は取りづらいという話だ。
「俺たちの手で何とかしないといけないのか……」
あれだけ大きな物になるとどこまで魔法が通じるか。
威力がありすぎると建物の方まで被害が及ぶ。
しかし、威力がなければあのレーザー砲のシールドを突破できない。
ジレンマに陥りそうだ。
「先ずはシールドの強度を調べるか」
ファイアボールを遠距離から撃ってみたがシールドに当たり一瞬で霧散した。
他の魔法も同じで、初級魔法では威力が弱く話にならない。
ファイアストームが撃てたらよいのだが、あれは広範囲の魔法なので建物まで被害が及ぶ。
撃てる魔法が限られてきた。
「す、凄いですね。今のが魔法ですか?」
隣で見ていたジェラート少尉が、少しびっくりした表情で聞いてきた。
初めて魔法を目の当たりにし、ちょっと興奮している。
「石壁もそうだし、さっきから魔法を使っているが?」
ストーンウォールも魔法だ。
しかし地味なのか、それほど驚いてはいなかった。
「この石壁は映像でも見ていましたのでね。驚きは少ないです。それよりも身近で見る火の玉の方が驚きです。あれはどうやっているのですか? 特殊なデバイスでも付けているのですか?」
俺の体をジロジロと見て、何か付けていないか確認していた。
「いや、何も使っていないぞ。全て魔法だよ。種も仕掛けもない」
手の平の上で火の玉を作って見せると「おお!」言った。そして、それに触ろうと手を伸ばしたので慌てて消した。
「火傷するぞ。本物の火と変わりは無いからな」
「ほ、本物なんですか?」
「偽物を投げつけてどうする。冗談にもならないぞ。しかし、初級魔法が効かないとは。他の魔法を試すしかないか……」
あまり悠長なことは言っていられない。囲っている石壁もかなりの数が破壊されて残りが少なくなってきている。
減る都度作ってはいるが、それでも向こうの破壊力が高い分、減る方が早い。
機銃ほどではないが連射ができるので、こちらの生産が追いつかない。それに俺の魔力にも限界はある。
尽きる前に破壊しないと。
「敵が動かないのであればやりようはある」
「破壊できるのですか?」
「城塞破壊用の魔法があるのさ」
俺は頭の中で座標を定め、レーザー砲に向けて手をかざした。
「火よ集まれし1本の柱となれ、炎柱!」
炎の柱を生成した。
高さは10メートルほど。室内では使えない魔法だな。
ファイアストームは火の竜巻に対し、これは1本の柱だ。範囲が限られているので周りの被害も少ない。
それがレーザー砲を包み込む。
シールドが激しく光り反発しているが、どれだけ持つか。
「こ、これが魔法の力ですか……」
「要塞を攻略する際に使った魔法だな。これなら城門も簡単に破壊でき、周りに被害が少ない。特定の場所だけを破壊することができる」
「これがあれば兵士も一瞬で倒せそうですが……」
「それがそうでもない。これは固定魔法でね、動かない物にしか使えないのだ。移動する人間だと範囲から逃げられてしまうのでね」
炎柱は座標固定式で、発動すると移動することはできない。敵を追いかけることはできないのだ。だから使い道も限られており、建物を破壊するときや、密集しているところでないと効果が薄い。
「魔法にも欠点があるのですね」
「そうだ。だから使いどころを考えて行使しなければならない」
この後どんな魔法があるが聞いてきたが、それは後日ということで話を終わらせた。
まだ戦闘中なのでね。それに俺も魔法を使っている最中なので集中力を欠くことはできない。
「レーザー砲のシールドの耐久値はどのくらいだ?」
「普通です。シールド発生装置が負荷に耐えられずオーバーヒートすれば止まります」
普通と言われても何が普通だかわからないが。
しばらく続ければ落ちるそうなので、このまま続けた。
「止まりそうです」
シールドが点滅を始めて直ぐに消えた。
その途端にレーザー砲は炎に包まれ、あっという間に燃え上がった。
「炎に包まれて2分弱か。それでも個人のシールドバックよりは持つな」
前に兵士と戦ったときは1分ほどだったから持った方だな。
炎柱で倒せるとわかれば、後は簡単だった。もう1基も同じように炎で包み、丸焼けにした。
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