第163話 通信施設奪還作戦⑥その1
長いので2話に分けました。
入場ゲートが見える近くまで行くと、多くの兵士がゲートの前に立ち、誰も入れないように目を光らせていた。
警備室には多くの兵士が詰めており警備用ロボットまで見える。
まさに厳重警戒と言ったところだ。
ドローンの映像で確認していたが、忍び込むことなどほぼ不可能。
魔法を使って潜入しようかと思っていたがさすがに無理そうだ。
「どうやってここから近寄るのだ? 結構距離があるぞ」
ゲートまでの距離は300m以上離れていた。
通信施設の周辺には障害物がないので、この人数で隠れることは無理。なので今は少し離れた廃工場の中に身を潜めていた。
「ドローンに爆弾を取り付け、警備室を爆破します。その混乱に生じて突入します」
先ほどからドローンからカメラを外し、何かを取り付けいたが爆弾だったのか。
やっていることがテロリストと同じだな。
ちょっと怖くなってきた。
「車で突っ込むようなことはしないのだな」
「ゲート脇の見張り塔には無人のレーザー砲が設置されています。それで撃たれるとAGCなど車は一撃で吹っ飛びます。なので使いません」
「それでは俺たちも危ないのではないのか? そんなのがあれば入れないだろ」
「だから警備室を爆破するのです。そこでコントロールしていますので破壊すれば止まります」
「そうなるとドローンは重要だな。見つかることはないのか?」
「ステルス機能があるのでレーダーには映りません。ただ、近づくと肉眼で発見される危険があるので、建物の背後から近づくように操作する予定です」
そこら辺は慣れてる彼らに任せれば良いだろう。
俺が手伝えることは無さそうだ。
「しかし、警備室を破壊したらゲートも開けられなくなるのではないのか? 俺たちが攻撃を始めればゲートは閉じるはずだし」
「その為に爆破班を用意しました。彼らが爆薬を仕掛けて閉じたゲートを破壊します。我々は彼らを守り、設置するまでの時間を稼ぐことになります」
メンバーの中には大きな鞄を背負っている者がいたが、どうやらそれが爆薬だったようで、邪魔なのか、シールドバックを装備していなかった。
一発当たれば吹き飛ぶだろう。
まさか、こんなところで花火を打ち上げるとは。
こんな無茶な作戦を立てるとは、さすが軍人ということか。それともミチェイエルの作案なのか?
どちらにしろ、彼らの指示に従うだけだ。
しかし、ゲートぐらいなら魔法で壊せそうだが……まぁ、彼らがやるというのであれば手を出すことはしない。
せっかく用意したことだし、彼らの仕事を奪うつもりはない。
駄目そうなときは手を貸すが、それまでは見守ることにした。
「作戦開始時刻です。このまま待ちましょう」
しばらく待っていると遠くに戦艦ウリウスが見えた。
外から見ると、なかなかごっつい感じがする。三角形のフォームの上に主砲と艦橋、船の形をしていないので、まさにSF感が半端ない。あれで空を飛んでいるのだからすごいの一言に尽きる。それ以外にも先頭に付いているあの波○砲もどきが気になる。今までの戦闘では一度も使ったことがないが、あれは動くのか?
誰も何も言わないところを見ると、博士が勝手に付けた物だと思うが、あまり触れない方が良いだろう。頻繁に使うような物でもないと思うし、使われても困る。
うん、見ないことにした。
「つられて敵艦が出てきました。やはり数は少ないようです」
反対方向から敵艦が。
こちらは星系軍の船のようで、ここの領主の紋章が側面に塗られているはずだが消されていた。
「戦艦クラスが2隻で巡洋艦が4.5隻といったところですか。1部隊にしては少ないので寄せ集めでしょう。それでも戦艦1隻にこの数は多いですね。持ちこたえられるでしょうか?」
「あれ以上の艦隊に囲まれても沈まなかったのだ。多分、大丈夫だろう。それよりも他のことが気になるが……まぁ、気にしたところで今更だな。隊長さんには頑張って貰うしかないか」
「はぁ……」
意味がわからずジェラート少尉は首を傾げた。
俺の心配事はダンジョンコアなのだが、やり過ぎなければ良いが……。
しかし、俺たちを追撃するのにかなりの部隊を出したと言ってたが本当のようだな。
まさか入れ違いで戻って来るとは思っていなかったはず。しかも留守中に戦闘を仕掛けるとか考えもしないはずだ。
これはレイチェルの作戦を褒めるべきか。
これを見て俺たちも作戦を開始した。
「ドローンを飛ばしてください!」
ジェラート少尉の指示でドローンが飛んで行く。
それを見て全員が飛び出した。さすがに軍人だけあって躊躇もなく行動が早い。
一般人なら戸惑って遅れるのだが。
俺も彼らに遅れないよう後から追いかけた。
*****
「敵艦、多数確認。距離6万。かなり早い速度で移動中。こちらに向かってきます。メインモニターに切り替えます」
メインモニターには敵艦の姿が映っており、見慣れた戦艦も映っていた。
「星系軍の戦艦と巡洋艦だな。やはり出てきた。戦闘準備、敵艦の注意をこちらに引く」
全部で7隻か。
それ以外にも小型戦闘艦も混じっているが、それほど脅威ではない。
やはり、防衛部隊は惑星外に出て行ったということだ。残っているのは治安部隊ぐらいだろう。革命軍の情報は正しかった。
この数なら落とせなくても時間稼ぎぐらいはできそうだ。
「防御シールド展開」
地上部隊とはいえ操艦ぐらいはできる。士官学校で一通りの訓練は受けるからだ。
だから滞りなく次々と指示と飛ばす。
ブリッジ内にいるクルーも乗艦経験がある者を集めた。
戦闘に不安はない。あるとすればこの戦艦ぐらいだな。
初めての船でどこまでやれるか。
「ジェネレーターの振り分けはどうします、隊長?」
オペレータの一人が聞いてくる。
ジェネレーターは無限に出力できるわけではない。
だから、攻撃と防御とその他の必要機関にと振り分ける必要がある。
「反重力装置に2、防御に6、落ちるわけにはいかないからな。残りは攻撃に回せ」
「それだと敵艦を落とすのに必要な火力が足りませんが」
「向こうの方が数が多いのだ。防御を優先させないとこちらがやられる。我々は時間稼ぎが仕事だ。落とせなくても、攻撃をこちらに集めさせておけばよい」
「了解しました」
宇宙空間なら反重力装置は必要ないが惑星上だとそうはいかない。
そちらにもエネルギーを回す必要がある。
だから全体の攻撃力は落ちるが、それでも攻撃に20パーもあれば威嚇には十分だろう。無理に落とす必要はない。
我々の目的は時間稼ぎなのだから。
そんなことを考えていると、クルー達が急に慌てだした。
何か問題が発生したようだ。
「どうした?」
「た、隊長。操縦桿が動きません!」
操舵手が慌てて報告する。
スロットルレバーを動かしているが反応がなく焦っていた。
「自動操縦ではないのか?」
「それはありえません。今まで手動で操縦していました」
「ふむ……」
「隊長。こちらはジェネレーターの調整ができません。これだと振り分が。どうしましょうか?」
「主砲がかってにチャージされています、隊長!」
次々と報告が上がってくるが、全て操作できず、船がかってに動いているという内容だった。
「何が起きているのだ……」
ブリッジ内はパニックに近い状態になっている。
それでも船は止まることはなく進んで行った。
「敵艦の射程圏内にはいります! ……主砲の発射を確認、攻撃です!」
レーダーを見ていたクルーから報告がきた。
シールドは張られているので問題ないが、こちらで制御できないのは怖い。
攻撃に耐えられそうになければ出力を上げなければならないが、それができないのだ。
最悪な結果が頭をよぎる。
「直撃です!」
敵の攻撃がシールドに当たり白く反応する。
一瞬で落ちることはないと思うが、乗ったことがない船だけにヒヤヒヤする。
早く船のコントロールを取り戻さないと大変なことになりそうだ。
「原因を調べろ!」
クルーに指示を出す。
その間にも攻撃が次々を当たり、クルーの中から悲鳴に近い声が漏れた。
「シールドの損耗率は!」
「57パーセントです! まだ余裕があります!」
「57パーセント? これだけの攻撃を受けてか?」
損耗率が低いことに驚いた。
ジェネレーターの出力をかなりシールドに回しているに違いない。
「ジェネレーターの出力はどうなっている?」
「そ、それが50パーセントほどです」
「はあ?」
思わず間抜けが声が出てしまった。
この状況で50パーしか出ていないとは。
これで防御ができているのは異常なことだった。
「それで耐えられるのか?」
「わかりません。何分初めての船なので、そこまでのデータがありません」
乗っているいるクルーは今日初めての操艦で、しかも代官が建造した戦艦だ。どこまでやれるのか、艦の性能を把握できていない。
それで不明と言うのだ。
「これだと攻撃は無理かも知れない。もっと出力を上げることはできないのか?」
「無理です。上げようとしていますが上がりません。入力を受け付けないのです」
「ふむ……」
ここに来て故障したとは思えない。何か理由があると思うが……。
こんなことになるのであれば、無理にブランニュー博士を降ろすのではなかった。
最初は嫌がっていたが、作戦の邪魔なるので降ろしたのだ。
整備士でもある博士なら、この原因がわかったかも知れない。
「機関室と連絡を取り、手動で調整できるか確認しろ」
「はい」
「た、隊長!」
「どうした?」
「しゅ、主砲が勝手に!」
言い終える前に主砲が動き出し発射された。
しかも誰も攻撃指示を出していないのにだ。
「何で攻撃しているのだ! 指示を出していないだろ!」
砲撃手が手を離して、こっちを見て首を横に振っている。何もしていないと言っているのだ。
攻撃にエネルギーを回したらシールドが落ちるかも知れない。
ジェネレーターの出力が50パーしか出ないのであれば、防御に徹する方が安全だ。
だから攻撃の指示を出さなかったのだ。
「攻撃が命中します!」
次々を主砲が発射され全てが敵艦に当たっていた。
もう、見ているしかなかった。
「敵艦、シールドダウンを確認!」
「は、早い!」
誰かが叫んだ。
攻撃が全て当たってるとはいえシールドが落ちるのが早すぎる。
見た目以上に威力があるのかもしれない。
これで出力50パーとは思えなかった。
「直撃します!」
メインモニターにはその瞬間が映っており、何もできないクルー達が固唾をのんで戦況を見守っていた。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
年末年始も書いています。
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