第158話 通信施設奪還作戦③
「ええ、そうよ。あれは我々が送っていた物よ。上手く活用して頂いたようね」
「確かにあれがなければここに戻って来ようとは思わなかったな。でも、どうしてあのような物を?」
「あなた達が戻って来ることはわかっていたわ。だからその手助けになるようにと定期的に軍の情報を送信し、戻って来られるタイミングを教えていたのよ。上手くいったでしょ?」
「結果を見れば上手くいったが褒められたものではないな。普通の戦艦なら沈んでいたぞ」
最後の戦闘はやばかったな。
コアが機転を利かせてくれなかったらやられていただろう。あの数は無理だった。
「報告書は読んだけど、意外と戦力は残っていたのね。でも、グランバーは帰れると判断した。それはあの船を信用したからではないのかしら?」
「どうかな。そこまで信用されているようには見えなかったが。たぶん疲れていたのだろう。普段ならやらない。敵の戦力がわからないのだから」
「そうね。確かにあの星系図だけでは全ての戦力はわからないわ。ドックに入っていてレーダーに写らない戦力もあったかもしれないし。でも、帰ってこられた。それでよろしいのではありませんか? みなさん無事だったのですから」
そう言ってニコッと微笑む。
結果が良ければ全て良し、と言いたいのか。
元々は済んだことだし責めるつもりはないが、無茶なことをしたのは変わりない。
惑星を目の前にして判断を誤ったのかもな。
別に怒ってはいないので、肩をすくめて見せて話を終わらせた。
「話を戻すけど今は惑星の近くに部隊がいないのよ。だからその部隊が戻って来る前に作戦を実行したい。そのために今は準備をしているわ。後は貴方だけなの、許可が取れていないのは。貴方が『うん』と頷けば作戦は始まるのよ」
「俺だけってグランバー達は?」
「彼らはこの作戦に参加しないわ。いいえ、今まで乗っていたクルー達も参加しない。この作戦に参加するのは艦長のあなただけよ」
「俺は艦長ではないが」
「いいえ、貴方が艦長よ。だって貴方の言うことしか聞かないのでしょ、あのAIは?」
「まぁそうなんだが……」
聞かないというか誰も認めていないと思うよ、俺も含めてだけど。
自分の益になるなら協力するという感じで、俺が魔力を持っていなかったらきっと言うことを聞かなかっただろう。
言い換えれば、俺の機嫌を取るために従っているだけで、主従関係とかではない。どちらかと言うとビジネスパートナーに近いな。お互いに利益があるから従っているだけで。
「今から1時間以内にクルーは揃うわ。今回はれっきとした軍人よ。安心して」
「軍人?」
「そういえば何も話していなかったわね。今我々は、星系軍の地上部隊と手を結んでいるのよ。ん、ちょっと違うかしら。元地上部隊と言った方が良いかしら。彼らは軍を裏切った者として追われているのよ。貴方と同じように。だから軍籍を剥奪され、今は賊軍扱いなのよ。その彼らが手を貸してくださるわ。だからクルーについては心配しなくてよろしくてよ。貴方は乗っているだけ大丈夫ですから」
「……」
思わず首をかしげた。
言っている意味がよく理解できない。
軍が仲間とか。
何をしたそうなるのだ?
この間までは戦っていた相手だったと思うが。
「大丈夫なのか?」
「問題ないわ。彼らに任せれば良いのです。それに彼らにも色々とあるのですよ。私はそれのお手伝いをしているだけですので、貴方が気にする必要はないわ」
「まぁ、ミチェイエル殿がそう言うのであれば気にしないが……というか、なぜ俺が行くことになっている? まだ、何も約束はしていないはずだが?」
「断りますか?」
「む……」
何だろう、この敗北感。
既に選択肢がないように思えるが。
「わかったよ。取りあえず話を纏めさせてくれ。この依頼を受ければ俺の指名手配は消せるのだな?」
「間違いなく消せます。それに兵士を攻撃したことは不問に付しましょう」
「どうしてあなたがそこまで約束できるのですか? 一般市民には無理な話ですよね」
「それについては今はお答えできません。私にも色々あると思って頂ければ良いのです」
これ以上は聞くなと言わんばかりにちょっと強い口調で話を終わらせた。
触れて欲しくないことのようだ。
でも、大抵は想像が付く。
この手の話というのは決まっていて、きっと彼女も『高貴な人』なんだろうということが。
理由があって今は名乗れないが、俺の罪を簡単に消せるほど身分は高いということだ。
それならそれ以上は聞かない方が良い。面倒になるだけし。
「わかった。今回はそれが報酬ということで引き受けよう。だが、まだ借りはあるぞ。グランバーと約束した件だ。そっちの報酬はまだ貰っていないが」
「それについては全てが終わってからにしてからの方がよろしいかと。今、慌てて決めるようなことでもないでしょう」
そう言うってじっと俺を見つめる。
状況が変われば要求する物も変わる。そう考えているのだろう。
別に欲しいものが決まっているわけではないので、その件は後日ということにした。
「それじゃ早速だけど、船に戻って頂けるかしら。クルーの入れ替えはもう終わる頃だと思いますので」
「補給の方は良いのか?」
「惑星戦なので食料の補給はいらないでしょう。燃料を積み込めれば終わります。後は貴方が戻って指揮官の指示に従って頂ければ良いのです」
「素人の俺が乗っても大丈夫か? 絡まれるのは嫌だぞ」
「大丈夫です。既に元部隊長には話を通してあります。彼らも元軍人ですから、上司が命令すれば逆らえないでしょう。身の安全は保証してくれるはずです」
そうは言っても大抵は従わないんだよね。
軍人というのは血の気の多い連中ばかりなのだから絡んでくるはずだ。
面倒なことにならなければ良いが。
「作戦の詳細はクリフト・ベルマン大尉と話して下さい。今回の指揮官は彼なので彼の命令に従っていれば問題ないでしょう。今回の作戦は今の局面を大きく変えることになります。よろしく頼みますよ」
やれやれ、昨日の敵は今日の友か。
俺は恨みはないが果たして向こうはどう思うか。仲間の軍人を殺しているし恨まれていなければ良いが。
面倒な仕事引き受けてしまったものだ。
この依頼が終わった後、もう一度会う約束して席を立った。
来た道を引き返す。
すでに船は軍服を着た者たちに囲まれており、人が忙しく出入りしていた。
補給が終われば出航する。
軍人に囲まれる中、俺は再び船へと乗り込んだ。
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