第157話 通信施設奪還作戦②
「私なら犯罪者リストから貴方を消すことはできます。どうします? 話を聞きますか? もし、私の依頼を受けて頂けたらその件も含めてどうにかしましょう。悪い話ではないでしょ? 貴方も平和に暮らせるのだから」
交換条件ということか。
良い笑顔で話してやがる。俺が断れないことわかっていて話しているな。
しかし、この国で生活しなけれな良いだけだ。
そんな話に俺が乗るわけがない。
「別にこの国で生活しなくても良いのでね。その話には魅力がない。いざという時は出て行けば良いのでね」
まさか断るとは思っていなかったのか、ちょっと以外という表情を浮かべて俺を見ていた。
「あら、この国を見捨てるの? そうなるとせっかく作った身分証も役に立たなくなってしまうわ。それでもよろしくて?」
「身分証がなくても金さえあれば生活はできるみたいなのでね。それに指名手配されたら使えないだろ? 顔がバレているんだから。だから今はそれに固執していない」
「そう、それは残念。でも、現在の状況では難しくてよ。惑星を出ることもままならないのですから」
宇宙には裏切った星系軍が目を光らせている。
脱出するのは無理という話だ。
「船1隻だけでも出られないのか?」
「残っている防衛部隊が惑星を囲っているわ。無理よ。それに貴方に差し上げる宇宙船も今はないわ。空港が星系軍によって破壊されたの。だから船もないのよ。それに残っていても使う予定があるの。次の作戦でね」
なるほど、俺が断っても慌てないわけだ。どこにも行けないことを知っているからだ。
そうなると、全てが終わるまでこの惑星に留まっていないといけないわけだが、それだとちょっと遅いか。
現状はこの惑星にしか指名手配されていないが、戦争が終わり通信回線が復旧すれば国中に知れ渡る。
そうなれば宇宙ステーションが利用できなくなるし、傭兵ギルドからも狙われる。
この国にいる間はどこに逃げても追いかけられるということだ。
「惑星に閉じ込められたということか……」
「そうなるわね。どうします? 私としては貴方の判断にお任せますわ。仕事を引き受けても受けなくても、この惑星にいる間は匿ってあげます。ですが、命の保証はしません。貴方の命を守るだけに人を回せませんので」
「どういう意味だ?」
「人に余裕がないのと、あの船の存在は貴方が思っている以上に危険ということですわ。是が非でも手に入れたいと思う人もいるのです。貴方を排除してでも」
俺を殺してまでも欲しいと言うことか。
報告書を読めばそうなるよな。
言うことを聞くのは俺だといういう話になっているのだから。
「やれやれ、どうしてこうなるかねぇ……」
「グランバーからの報告書を読ませて貰ったけど、あの戦艦は特殊だわ。攻撃力にしろ防御力にしろ普通の戦艦ではないのよ。そのような戦艦を遊ばせておくわけにはいかないの。だから、協力して貰えなければ力ずくでも奪おうとするわ。それは私が認めなくても」
「……」
「貴方が我々の仲間なら命令できるがそうではない。だから報酬を付けて働いて貰おうとしたのよ。この依頼は貴方の命を守るためにも必要なことだったのよ」
「俺を守るためにね……」
わかって頂戴、という感じで話しているが、ようは都合の良いことを言って俺を無理矢理働かせようとしているだけではないのか。
どうも裏がありそうで信用できない。
しかし、そうじゃないとも言えない。本当のことを言っているのかも。
困った物だ。
だから知られたくはなかったのだ。こうなるからね。
「今の我々に残っている戦力は少ないのよ。この基地を見て貰えればわかるでしょ? 何もないの。だから動かせる船は1隻でも欲しい状況なの。わかるかしら?」
そういえば基地に降りたとき、1隻も船がなかったな。
おかしいとは思っていたが、そういう状況か。
戦況はかなり厳しいということだ。
「かなり劣勢なんだな」
「フフフ、劣勢どころではないわ。勝負にならないぐらいに負けているのよ。今は相手を刺激しないように身を潜めているの。勝てない勝負をして無駄に戦力を消耗しないようにね」
巡洋艦を使って空から攻撃してくるので一方的な展開になる。
対空ミサイルとかあればまだ戦えるそうだが、空港ステーションを押さえられたことで武器が輸入できず、物資が不足して戦うこともできない。
手も足も出ない状況になっていると言う。
「だからといってあの船が戦闘に参加しても変わらないと思うぞ。数には勝てない」
「それはわかっています。だから惑星を取り戻そうとかそういう話じゃないの。ここからは作戦になりますが、我々は通信網を復活させたい。できれば亜空間通信を。一度奪還作戦を実行しましたが失敗しました。代官の戦艦が出てきて手も足もでなかったわ。貴方はあの戦艦で押さえて貰いたい。貴方が戦っているうちに通信設備を押さえるわ」
代官の戦艦というのは、俺がこの世界に来て最初に見たあの巨大戦艦のことだ。
そいつが出てきて作戦は失敗したそうだ。
「時間稼ぎと言うことか?」
「ええ、全ての船を沈めて欲しいわけではないわ。我々が施設を押さえるまで粘って欲しいの。できれば追い返して貰えれば助かるわ。それだけ時間も稼げるから」
「だが、その後はどうするのだ? たとえ奪還してもドラギニス軍が戻ってきたら守り切れないぞ。数は向こうの方が多いのだから」
「我々が欲しいのは機材だけで艦隊が戻って来る前に施設から運び出すわ。そしてこちらで用意してある施設に運び込んで運用するの。そこは誰にも知られていない場所だから奪われることはない。そこまで心配しなくても大丈夫よ」
「そうか……」
気が付けば作戦内容まで聞かされている。
何だか上手く乗せられている感じだ。
「貴方のは仕事はあの戦艦で敵の注意を引きつけて欲しいだけ。その間に別の部隊が施設を襲うわ」
「でも、どうして今なんだ? 帰ってきてすぐにやる必要は無いだろ。乗っていたクルー達も疲れているだろうし」
「すぐに来て貰ったのは今は部隊が少ないからよ。あなた達も知っているでしょ。ここの元星系軍があなた達を探しに出航していったのは」
「……あの星系図か?」
送られてきた星系図を見て部隊が移動してるのがわかった。
だからグランバーは帰還することを決めたのだ。
防衛部隊が少ないからと。
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