第155話 潜入部隊③
「そうだな、いつまでもここにいても始まらない。それに戦闘になれば星系軍は負けるだろう。付き合う必要はない。行くのであれでこのタイミングがベストだな。戦闘になる前に」
ダッツの話では戦力的に差がありすぎると。だから戦闘になって負けたら惑星に近づくことは困難になる。その前に向かおうという話だ。今なら警備の部隊も少ないからと。
「俺は反対だな。だって死にに行くようなものだろ? その情報だって正しいかわからないし……」
いくら報酬が良くても死んでしまっては元も子もない。だから無茶はしたくないと。
確かにグリースの言うとおりだ。命あっての物種と言うし、その慎重さは間違いではない。
この依頼が普通の依頼であれば断っても問題ないのだが。
「星系軍が偽の情報を持ってくると思うか?」
「そ、それはないと思うけど……でも、その情報が正しいとは限らないだろ? 嘘かもしれないし……」
「ドラギニス軍が我々を騙すために嘘の情報を送ってきたと?」
「十分あり得るだろ? そこに誘い込んで後ろから攻撃するとか。場所が分かっていれば艦隊を配置できる。罠にはめるために送ってきたかもしれないだろ?」
「星系軍も馬鹿ではない。送り主ぐらい誰か最初に調べているだろう。それにさっきも話したが、ドラギニス軍がそんなことをして何の意味がある? 向こうの方が数では有利なのだぞ。そんなことをする意味がない」
ダッツがきっぱり言う。
圧倒的有利の状況で罠にはめる意味などない。正面から叩けば良いのだからと。
「それはそうだけど……」
口で争っても勝てないと分かっているので、ムスッとした表情で口を閉じた。
このような口論はいつものことなので、ダッツは苦笑しながら彼を諭していた。
「ブライアンは?」
「ここにいても金にはならないし、ドラギニス軍の動きが読めない以上はここに居ても危険だ。この先どうなるかわからなし。それなら向かった方が良いのではと思う。それにその情報が正しければ、惑星の近くまでは行けるということだ。そこからはワープでひとっ飛びで惑星へたどり着ける。運が良ければバレずに惑星へ降りられるだろう。この船なら可能なはずだ」
この船には他の船にはない特殊な装置が積んである。
それはステルス装置でレーダーを無効化することができる。
海賊を待ち伏せできるのでとても有効な装置だが、その分、場所を取るのでシールド発生装置が小型な物になってしまった。それがシールドが弱い原因でもある。
監視衛星はレーダー以外の索敵機能も搭載しているので誤魔化すことはできないが、地上のレーダーならそれが可能だ。タイミングさえ間違わなければ惑星に降りることもできる。
ただし、そのタイミングが難しいのだ。そこに行くまでに、監視衛星の目を潜り抜けないといけないのだから。
「それがあるから俺たちに依頼してきたのだろう。それに過去にも付き合いがあったし、信用できると判断されたのだ。それが俺たちに個人指名で来た理由だろうけどな」
その依頼主から依頼を受けるのは初めてではない。何度かあって実績を買われた、というのが大きい。まぁ、その依頼も今回のこれに繋がりがあるのだが。
「そう言うニコラスはどうなんだ? すでに考えているのだろう?」
ブライアンが俺に聞いてくるが、俺の考えはある程度纏まっていた。
「そうだな、俺は向かう方に賛成だな。ここに待機しているだけでも金が掛かっているし、何よりも退屈で暇だ。やることがなくて飽きている。とっとと終わらせたいね」
俺の意見を入れると行く方に3票。これで決まりだ。向かうことになった。
「はあ、やっぱり行くのか……」
ギリースが愚痴っぽく言うが、表情を見るとそれほど嫌がってはいない。
まぁ、こうなることはわかっていたのだろう。それなりに付き合いも長いし、お互いをよく知っている。みんなスリルに飢えていると。
だから無茶だとわかっていてもやりたいのだ。
「それじゃ星系軍に連絡をするぞ。他に何か手伝っても貰う必要はあるか?」
ブライアンがみんな聞くが答える者はない。
手伝っても貰うことはないということだ。
「軍と一緒に行動すれば目立つから、俺たちの船だけで行った方が良いだろう」
俺は、応援は断るように言った。というか、そもそも応援する気はないだろう、と言いたい。
護衛の船も付けてないし、こちらに情報は渡さない。今日貰った情報が初めてかもしれない。話してみても歓迎されている雰囲気は感じられなかった。
きっと、面倒な荷物を背負わされたと思っているに違いない。上からの命令とはいえ、はっきり言って俺たちは邪魔者で構っている余裕はないのだから。
星系軍と連絡を取っている間、こちらも出航準備を始める。
ジェネレーターを起動し、チャージを始める。そしてルート設定を始めるが、グリースが困った顔をしてこちらに振り向いた。
「ここから送られてきた宙域までの距離を計算すると、一回のジャンプでは行けないな。どこかで一度チャージする必要がある。どうする?」
グリースの話を聞いて星系図をメインモニターに出す。確かにこの船のワープでは一回で飛べる距離ではない。どこかでチャージが必要だ。
「ノンストップでは行けないか……」
隣に座っているダッチが難しい顔をして考える。
一回で行けないとなると、どこかでチャージしないといけないのだが、その場所を選ばないといけない。変なところを選んでドラギニス軍がすぐに飛んでくることは避けたいのだ。
「例の宙域に行くまでにはどうして監視衛星には引っ掛かる。どこを通っても同じだ。なら一直線に飛ばず、少し迂回しよう。ドラギニス軍と鉢合わせになるのは避けたい」
ここから惑星まで真っ直ぐ飛べば距離は近くなるが、そうするとドラギニス軍の進路とぶつかる。
そこで船を止めてチャージしていればすぐに飛んでくる。
そんな危険なことはできない。なので湾曲する感じでちょっと遠回りをする。
進路から外れていれば、ドラギニス軍も態々追ってくるようなことはしないだろう。小型戦闘艦1隻のために。
「軍が動くかな?」
「軍は動かなくても我々と同じ傭兵部隊が動くだろう。そのぐらいは雇っているだろうし」
傭兵の仕事は海賊を狩るだけでない。護衛任務や戦争にも参加するのだ。
危険な戦争ほど依頼料も高い。それに敵を多く撃墜すれば特別ボーナスも付いてくる。腕があるほど、かなり儲けられる美味しい仕事となっていた。
だから戦争だけを専門に依頼を受けている傭兵もいるぐらいだ。
「でも、それぐらいなら何とかなる。任せて、余裕で逃げ切れるから」
笑顔で自信満々にグリースが言う。
操縦技術に関しては同じ傭兵仲間からも一目置かれており、惑星間レースでも優勝経験があるほどだ。
その彼が言うのだから任せることにした。
「後は向こうの宙域に着いてからどうなるか。惑星の回りに防衛部隊がいるだろうし、簡単には近寄れないな」
「それは行ってから考えよう。惑星の状況も掴んでいなし、そこまで行けるかもわからない。今から考えてもどうにもならないし」
ブライアンの言葉にダッチが頷いた。
「そうだな。向こうに行けばまた変わってくるだろうし、今はそこまで考える必要はない」
俺も同意ということで頷いた。
そんなことを話していると星系軍から連絡があった。
いつでも出航しても構わないが、護衛は付けられないし、何かあっても助けには行けないと言われた。
ようは自己責任で行動して欲しいそうだ。
最初から期待はしていないのでそれには了承した。
とやかく言ったところでどうにかなるわけでもないし、それに、その方が自由に動けて我々も助かる。一々星系軍の許可を取らなくてもよいのだから。
「思った通りの返答だったな」
ダッチが呆れ顔で言うと、俺は苦笑した。そしてグリースが「出るぞ」と一言、ワープを起動させた。
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