第154話 潜入部隊②
星系軍から思いも寄らない情報が送られてきた。
内容を確認すると第2惑星周辺の星系図で、敵艦の位置が記されていた。
それ以外にも監視衛星を破壊したと書かれている。
この情報をどうするか、ブリッジで話し合いが行われた。
「この情報は正しいと思うか?」
「8割がたは本物だな。このタイミングで嘘の情報を送る意味がないし、それに星系軍も確認しているだろう。信用しても良いと俺は思うが」
「ふむ、星系軍が偽の情報を我々に送るわけがないか……」
上からの依頼で活動しているのだ。
偽の情報を我々に渡してくるわけがない。
俺の問いにブライアンは本物だと答えた。
この話し合いに参加したのはクルー全員、と言っても四人しか乗っていないが。
少年っぽさが残るクルーで一番若いグリース。
それと筋骨隆々でスキンヘッドのブライアン。このパーティーのリーダーでもある。
色白で背が高いダッツと纏め役の俺。ブライアンは口下手なので俺が代わりにしている。
この船は小型戦闘艦なので4人でも十分操船できる。
各々が自分のシートに座り、俺の話を聞いていた。
「ダッツはどう思う?」
「俺も本物だと思う。わざわざ偽の情報を流して誘う意味がない。戦場はここなのだからな」
俺は頷く。
ここに艦隊を集めているのに戦力を分散して誘うようなことはしないだろう。
戦力を分散するなど下の下の作戦で、普通では考えられないからだ。
「はぁ、僕はやりたくないなあー。今から断れないの?」
操縦席に座り、グリースはムスッとした表情で俺に文句を言っている。ここに来てからずっとこの調子だ。文句ばかりを言って周りを困らせている。
まぁ、そう言いたい気持ちも分からないでもない。この状況なら。
「もう無理だ。ここまで来たら断れない。それに一度受けた依頼をキャンセルすると違約金が発生する。今回の依頼料は高額だから、かなりの違約金を取られることになるぞ。それでも良いのか?」
違約金は依頼料の8割と決まっている。
高額に設定することで、簡単に依頼をキャンセルさせないようにしているのだ。
「そんなのパーティーからの貯蓄から出せばいいじゃん。そのために貯めているのだろ?」
「それを使うと船を出せなくなる。それに、それだけでは足りない。不足分はみんなからの徴収になるがそれでも良いのか? お前からも取るぞ」
パーティーの貯蓄は船に使う消耗品や整備、それに停泊料に使う。
だから簡単に使うことはできない。仕事ができなくなるからだ。
「そ、それは嫌だな。払うお金なんかないぞ。この間の稼ぎはもう使っちゃったし……。もう、ブライアンが受けてくるからこんなことになったのだぞ!」
急にあたふたし始めると、今度はブライアンに文句を言い始めた。
「仕方がないだろ。あの方の個人指名だし、それにギルド長が頭を下げて受けてくれって言ってきたのだ。あの場で断れるわけがないだろ」
何でもギルド長室に呼ばれて直に依頼書を渡されたとか。
確かに断れないな。そんな所に呼ばれたら。
それに傭兵ギルドには世話になっているし、ギルドにとっても今回の依頼主は特別だ。顔を立てないと何かと都合が悪い。
無茶でも引き受けるしかなかった、というのが実情だ。
「それに悪いことだけではないぞ。報酬だって破格だった。今の俺たちには金が必要だというのはわかっているだろ?」
依頼主は、2、3年は遊んで暮らせる金額をポンッと提示してきたのだ。そこはさすがだと思った。
しかし、それだけこの依頼が危険という意味でもある。それと口止め料も含まれているのだろう。それを天秤にかけると、果たしてその金額は釣り合うかどうか……。
まぁ、この状況を見れば俺は釣り合わないと思うが、受けてしまった以上は文句を言っても始まらない。
それに我々には金が必要だ。この船をオーバーホールしないといけない。
ジェネレーターの出力が上がらないし、それにスラスターの反応も悪い。武器もアップグレードしたい。
船は金食い虫であって、金がいくらあっても足りないのだ。
「それに、お前も最初は賛成していたではないか。楽な仕事だって」
「そ、それはここにドラギニス軍がいなければの話だ。そもそもニルブルク星系が戦場になっているなんて聞いてないよ。その中を通って惑星に向かわないといけないのだから契約違反だろ?」
グリースも最初は「楽勝」とか言って喜んでいた。でも、ここに来て状況を知ったとたん文句を言い始めたのだ。危険だとか無謀だとか言って。
そもそも我々は海賊退治はするが戦争に参加することはない。
確かに儲けは良いがそれだけ危険も多く、乱戦になると敵味方関係なくレーザーが飛んでくる。しかもこの船のシールドは普通よりも弱く、すぐにダウンする。だから、四方八方からレーザーが飛んで来る戦場には向いていないのだ。
この船の性能では受けられない、というのが理由だ。
今の戦場は正しくそれで、我々がもっとも苦手としている。
「契約には第2惑星に行って、本当にその人物がそこにいるのか、その存在確認と、もし可能であれば連れて帰ること。それだけだ。現状の説明はなかった。違反でも何でもない。確認を怠った我々が悪いのだ。文句は言えないよ」
ダッツの説明に苦々しい表情を浮かべ、グリースはそっぽを向いた。
このメンバー内では唯一の十代。
だから短絡的というか、子供のようにすぐに駄駄をこねる。まぁ、いつものことなんだが。
「ここで言い合っても解決しない。まずは行くのか行かないのか決めよう」
俺は話を進めた。
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