第151話 帰還⑤
戦闘が終わり、ぐったりとしてシートにもたれ掛かっているクルーを見かけた。
最後の最後にこれだけの戦闘すれば疲れるよな。俺も疲れたし。
結果を見れば、半数以上の船を航行不能にしたので大勝利と言えるが、これはこの船だからできたことで普通の船では無理だった。
コアが機転を利かし火力アップしていなければ、沈んでいたのはこっちの方だろう。それも相手がこちらの裏技を知らなかっただけで、次回からは同じような手は使えないかもしれない。簡単には近寄って来てはくれないだろう、ということだ。警戒されるからね。
はっきり言えば偶々勝てただけだと思う。二度目は無いと。
一息ついているとメッセージが届いたようで、惑星に近いため通信が普通にできるようになっていた。
それには降下ポイントが指示されており、その前に、衛星軌道上にある監視衛星を破壊して欲しいと書かれていた。
それをグランバーが見て眉を顰めていた。
「本部の人間は人使いが荒いな」
一緒に見ていたロズルトが文句を言っていた。
「軍にこちらの位置を知られないようにするために破壊するのだろう。俺たちが降りれば場所が特定されてしまうからな」
軌道上に監視衛星があれば、こちらの動きが筒抜けになる。だからついでに破壊してこい、ということなのだろうが、しかし、ようやく任務が終わって戻ってこられたというのに、ここでまたひとつ仕事を振るとは。
これもリーダーのミチェイエルが考えた指示だろう。
確かに人使いが荒い。
「降りるついでだし、大した手間でもないだろう」
それだけ言うと苦笑いを浮かべ、クルーに指示を出していた。
それからは特記するようなこともなく、監視衛星を破壊し降下準備に入った。
追撃部隊も来ず、至って平和といったところだ。というか、それだけの部隊が残っていない、というのが現状なのだろう。送られてきたあの星系図が正しく、殆どが第3惑星に向かったということだ。
シールドを展開し指示されポイントに向かう。
そこからは映像通信が使えるようになり、レジスタンスの本部に連絡を取り情報交換ができるようになった。特に壊滅した都市もなく、意外と被害が少ないことでクルー達に安堵の表情が広がった。
エミリーもミチェイエルが無事とわかり、ホッと胸を撫で下ろしていた。
それを見てミチェイエルとエミリー、やはりというか何かあるのだろう。
親子と言うにはちょっと年の差を感じるし、祖母と孫、という感じだな。よく見ると顔立ちが似ているし血縁者なのかもしれない。
しかし、本人からそのようは話は聞かないし、内緒にしておくようなことでもない気がするが……まぁ、何かあるのだろう。隠しているということは理由があるわけで、こういうことには首を突っ込まないことにしている。
藪蛇になりそうなのでね。
第19都市近くの基地へ向かい、敵の追跡もなく無事に帰港した。
ゲートが開き、地下に降りる。
そこには大きな空間が広がっているだけで、泊まっている船は1隻もなかった。
「なんか基地にしては寂しいな……」
これが今の状態なのだろう。何も無いというのが。
だが、そんなことは気にならないのか、気が付くとブリッジには大勢の人が集まり、メインモニターを見て大騒ぎしていた。
モニターには出迎えのために集まった人々が映っており、中には家族が映っていたのか泣いている者までいる。
生きて帰って来られるとは思っていなかったのだろう。グランパーは何も言わず、彼らの好きにさせていた。
接岸すると、我先にとブリッジから飛び出して家族の元へ走って行った
「それじゃ私たちも行くわ」
エミリーもロズルト達と一緒に船を降りた。
中には家族がいない者もいるが、そういった連中は、他の同じようなメンバーと一緒になって飲みに出かけるみたいだ。
そして気が付くと、ブリッジに残っているのは俺とグランバーだけになっていた。
「終わったな」
「そうだな……」
俺が話しかけると少し疲れ表情で答えた。
長いこと一緒にいたがまともに話したことがない。お互い話し好きでないし、用事がなければ話すことはない。
それに恐らくだが、一緒に行動することはもう二度とないだろう。それで話しかけてみたのだが、やはり話すこともなく、ただ、降りるクルー達をモニターで眺めていた。
「家族は居ないのか?」
「………居ないな」
返答までの間に全てを察した。
表情に変化はないが、明らかに聞くなオーラが強く出ていた。
普段なら聞かないのだが、左手の薬指の指輪が気になったので尋ねたのだ。そして失敗したと後悔した。別れたのであれば指輪は外すだろうし、生きていれば居ないとは答えない。居ない、ということはそういうことなのだろう。
この話題には触れないことにした。
「この後はどうなるのだ?」
俺が問いかけるとグランバーは肩をすくめて見せた。
「知らん。ミチェイエルから指示があるだろう。ただ、今はゆっくり休みたい。それだけだ」
精根尽きた、という感じだな。
軍人でもない素人を引っ張ってここまでやったのだ。普通とは違うプレッシャーがあったのだろう。俺も同意という意味で頷いた。
俺も休みたい。
それだけは共通の思いだったようだ。
「なんだ、若いのに疲れているとは。わしはまだまだやれるぞ。休んでいる暇もないわ!」
元気いっぱいの博士が、いつの間にかブリッジにいた。
さっさと降りたはずなのになぜかここにいる。しかも手には見たこともない機械を抱えていた。
どういうことだ?
「なぜ博士がここに?」
「決まっておるじゃよ。古代船を調べるためじゃ。まだ終わったわけではない。AIを調べないといかんのでのう」
そう言って「カッカッカッ」と大笑いしていた。
道具を取りに戻っただけのようで、そして変な機械をコンソールに取り付けていた。
「それで何を調べるのだ?」
「もちろんAIのプログラムをコピーするのじゃ。コピーできれば大型コンピューターを使って解析できるじゃろ? 逆コンパイルしてどういうデータがあるか調べるのじゃ。それで誰が作ったか分かるかもしれんからのう」
ここで解析するには限界がある。だから持ち帰って調べたいらしいが、あれってコピーできるのか?
ダンジョンコアがプログラムで動いているとは思えないが、やれるならやって欲しいね。俺も興味がある。しかし、無駄な努力になりそうな気がするが……。
それでも諦めずに頑張って貰いたい。神様が作った物を解析できれば、それは凄いことだから。
「しかし、博士は疲れというのは知らないのか?」
「さあな。あれが正常みたいだぞ」
博士が活き活きと機械と睨めっこしている。
今では慣れてしまった光景に、フッと笑ってしまった。
「さて、俺も船を降りるよ」
そう言ってブリッジを出ようしたとき背後から「世話になったな」と声が聞こえた。
振り返るとグランパーはモニターを見つめている。
面と向かって言うのが恥ずかしいのか、このタイミングで言うのは彼らしいと思った。
「こちらこそ」
と、こちらも返しておく。
俺も今回の任務は勉強になったからだ。
他の星系や宇宙ステーションにも行けたし、この世界の事を少しでも知れたのは良かった。
それにこの船を助けられたのが一番大きい。
彼らだけで行っていればきっと沈んでいただろう。魔力が補給できなければ助かる術はなかったのだから。
そういう事で、お互い様、ということで頷いておく。
短い間だったけれど、世話になったと。
船を降りると知らない男が近寄って来た。
俺を待っていたみたいで、挨拶もなく要件だけを伝えた。
リーダーが待ていると。
はぁ、俺の仕事はまだ終わらないようだ。
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自分でも気が付かないのがあり、ビックリしています。
暇があるときに修正していますので、今度もよろしくお願いします。