第150話 帰還④
まぁ、そのような出来事があって、今は少し体が怠い。魔力を持って行かれたから。
でも、やっておいて良かったと思う。
コアが予想したとおり、数が多かったからだ。
「戦艦に命中。沈黙したわ。残り戦艦5、巡洋艦10、駆逐艦が16」
「さすがというか何というか……」
あまりの光景に言葉を失っているロズルト。
誰も予想していない一方的な展開に、唖然としてメインモニターを見つめていた。
「どうなっているの?」
「……」
エミリーの問いに誰も答える者はいなかった。
それからも戦闘は続いた。
射程外から攻撃することで敵からの攻撃をほぼ無力化し、シールドに回すエネルギーを主砲へ回す。攻撃力がアップしたことで更に一撃が重くなり、シールドを紙のように破っていく。
現状で、この船に勝てる戦艦はいないだろう。
まさしく最強の船になった感じがした。
こんな物、表には出してはいけないと、改めて思った瞬間でもあった。
「敵艦の様子がおかしいわ。急に速度を上げたわね。こちらに突っ込んでくるみたい。無理にでも射程内に入るつもりよ」
射程外になるよう船をコントロールし、うまく距離を保っていたのだが、さすがにこのままでは不味いと思ったのだろう。突っ込んでくる。
埒が明かないということで当たる距離まで近づこうという魂胆だ。
「敵との距離6万。どんどん近づいてくるわ」
敵艦の距離が縮まったことでこちらの連射速度が上がった。
威力があるので満タンまでチャージする必要がなく、距離が縮まったことでなおチャージする時間も少なくなった。
近づくということは向こうの攻撃も当たるが、逆を言えばこちらの攻撃も当たるわけで、威力がある分、損害は向こうの方が遙かに大きい。
今の状況だと諸刃の剣になりかねない。
それを理解していないのか、次々と攻撃が当たり数を減らしていく。
「射程内に入ったわ。攻撃が当たるわよ!」
先程と比べ敵の攻撃が当たっている。
こちらもシールドで防御しているのでダメージはないが、それでもシールドにエネルギーを回さないといけなくなったので攻撃力が下がった。とはいっても、まだまだ十分すぎる火力はあるが。
「どんどん距離が近づいているわ。接近戦に持ち込むつもりよ」
ブリッジからでも肉眼で見える距離になった。
レーザー砲では駄目だとわかり、ミサイル攻撃に切り替えるつもりだ。
ミサイルは距離があると撃ち落とされる確率が高くなる。だから接近して撃つのだ。
「距離2万。シーカーミサイルが来るわ!」
だいぶ数を減らしたとは言っても敵の数はまだ多い。
その敵艦からミサイルが次々と飛んできた。
無数の小さな赤い光りが接近してくるのが見える。
「衝撃が来るぞ! 何か捕まれ!」
グランバーが叫ぶと同時に甲板に取り付けてある小型レーザー砲が一斉に掃射し、ミサイルを撃墜する。
数が多いせいでひとつ当たると次々と誘爆していく。
爆煙が船を包んだ。
「おお!」
「きゃ!!」
船が大きく揺れた。
「被害状況は?」
「だ、大丈夫よ。直撃は無し。シールドに当たった衝撃で艦が揺れただけ。問題ないわ」
「こっちは損耗率92パーセントまで跳ね上がったぞ! レッドゾーンだ!」
一気に跳ね上がったことでローズが焦っている。さすがにこれ以上あがれば危険だ。
耐えられないかもしれない。
「次弾、まだ来るわよ!」
休む暇も無くミサイルが雨あられのように飛んで来る。
小型レーザー砲でミサイルを撃墜しているが、それでも全てを防ぐことはできず、シールドが激しく点滅を繰り返していた。
「大丈夫なのか?」
船が細かく揺れている。
俺は心配になりダンジョンコアに尋ねた。
『大丈夫です。主砲へ回すエネルギーを減らし、シールドを強化します』
シールドの光りが2割ほど増した。出力を上げたようで安定してきた。
「損耗率が下がっている。78パーセントまで回復したぞ!」
ローズの報告を聞いて一安心。
それでも揺れが続いたが前ほどではなく、船に被害が出るようなことはなかった。
「ねえ、我々でできることは無いの?」
戦闘を見て心配のなったのか、エミリーがグランパーに相談していた。
船のコントロールは全てコアがしている。
何もできないことで苛立ちと不安を覚えているようだ。
「何もしないほうが良いだろう。かえって邪魔になる。それに我々だけでは攻撃と防御、同時にはできない。シールドへの出力も最低限に絞っているし我々の照準では全弾当てるのは無理だ。防御よりも攻撃を優先し、数を減らすことでダメージを軽減させているのだ。任せておけば沈むことはない。後は古代船のAIを信じるしかないだろう」
さすが状況をよく理解している。こういう場合は、余計なことをしないのが一番だ。
それで納得したのはわからないが、不安げな表情を浮かべながらも小さく頷いていた。
内心ヒヤヒヤしているだろうが、俺たちに何もできることはない。
他のクルー達も状況を見守るしかなく、メインモニターをジッと見つめてた。
あれからすぐに飛んで来るミサイルの数が減ってきた。
こちらの攻撃で船が減ったのと、恐らくだがミサイルを撃ち尽くしたのだろう。レーザー砲と違い無限ではないからね。
耐えきった、ということだ。
少しずつだがシールドにも余裕がでてきて、一時は90パー近くまで上がった損耗率も50パーまで落ち着いてきた。
さすがに0にはならない。
ミサイルを撃ち尽くした船が、レーザー砲に切り替えて攻撃を続けているからだ。
「……逃げないな」
「ああ。引けない理由でもあるのだろう。かなりの船が被害を出しているのにな」
半分近くの船が大破し航行不能になっている。
しかし、こうやって見ていると上手いこと撃っている。
その前の戦闘もそうだったが、武装やスラスターを狙って行動不能にさせている。決してジェネレーターを撃って爆破していない。完全に沈めていないのだ。
乗組員のことを考えて敢えてそのように撃っているのだろう。普通ではできないことをやってのけていた。
「でも、時間の問題だな」
グランバーが頷いた。
まだ戦闘は続いているが、勝敗は決したようで逃げていく船も増えてきた。
最後まで頑張っていた戦艦も、こちらの主砲が当たると反転して逃げていった。
「敵艦隊が撤退を開始。逃げるわよ」
レーダーを見るとどんどん遠ざかっているのがわかる。
外を見ると航行不能になった船が宙を彷徨っていた。残骸も多く、まるで船の墓場のようになっている。
「救助はしないのか?」
「それは無理な話だ。この艦だけで救助はできないよ。それに捕虜を乗せておくようなスペースもないし監視もできない。下手をすると乗っ取られる危険がある。俺たちは市民の集まりだから艦内戦になったら太刀打ちできない。そんな危険はおかせないよ」
ロズルトに尋ねたらそんな答えが返ってきた。
確かにこれだけの船を救助するのは無理だろう。
それに軍人を相手にするのもリスクが高すぎる。
見捨てるしかないか。
「大丈夫だよ。すぐに救助の部隊がくる。それに逃げた艦隊も後から戻ってくると思うし、見捨てるようなことはしないはずだ」
俺の表情を読み取ったのか微笑みながら諭してくれた。
そんなに心配している顔をしていたか?
ただ、戦争とはいえ救える命があれば救いたい。そう思っていただけなんだが。
だからと言ってこちらが危険になるなら助けるようなことはしない。
恩を仇で返すような連中は異世界で多く見かけたからな。人を信用してはいけないと教えて貰ったよ。それ程酷かった。
だから気にしてはいないんだが……。
まぁ、彼の優しさだと思い、俺も微笑んで頷いておいた。
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