第149話 奥の手
実はここに来る前、ダンジョンコアに呼ばれたのでサーバールームまで行ってきた。
いつものごとく、魔力が欲しい、と言われたわけだが、今回は別の意味で必要だったらしく、ついでに許可も求めてきた。
「この間入れたばかりだろ。もう魔力が無くなったのか?」
開口一番、文句を言う俺。いつ誰に見られるかわからない。
あまり出入りはしたくなかったのだ。
『マスター、このまま進めば戦闘は避けられません。今のこの船の状態で戦っては苦戦を強いられます。ですので、魔力で補強したいと考えています。それにはマスターの許可が必要です』
突然、妙なことを言いだした。魔力で補強とは。今まで一度も聞いたことが無かったが、今回はそれが必要らしく、それで俺を呼んだようだ。
「魔力で補強? 初めて聞くが」
『この船のジェネレーターが解体されても解析できないのは、それには理由があるからです。ジェネレーターには魔法陣が刻まれており、それが出力を上げているのです』
おっと、ここでネタばらしか。
ジェネレーターに魔法陣とは。
考え方によっては、ジェネレーターは巨大な魔道具ということだ。
「凄いことをするな。科学と魔法のハイブリッドということか?」
『はい。ジェネレーターの核となるブラックボックスには特殊な魔法陣が刻まれており、開けると魔法陣が壊れて使えないようにしてあるのです。それが解析できない理由のひとつです』
「魔法陣か……確かに科学で解明するのは難しそうだな。それにまさかそんな非科学的な物が使われているとは誰でも思っていないだろうし、開けて魔法陣が壊れてしまえばもっとわからないだろう。なるほど、どうりで解析できないわけだな」
思わず感心して、うんうんと頷いてしまった。
『この世界の科学力を持ってすれば、同じ物を作り出すことは可能です。ですが、そこに魔法陣を加えることで解析不能にしているのです。魔法や魔力に関して研究はされていませんので、この先、一生わからないでしょう』
「この時代に魔法はないからね」
魔法と言っただけで痛い人と思われたからね。
研究する人はいないだろう。
『今回は、この船に取り付けられている武装に魔法陣を刻もうと考えています。それによって出力を2倍以上に上げることが可能です』
「威力も2倍、ということか?」
『はい。射程もそれに合わせて伸びます』
「今以上に火力を上げるとは、恐ろしいことを考えているな。しかし、壊れないのか? 出力を2倍にしたら回路が焼き切れそうだが」
『問題ありません。魔法陣には不壊の魔法陣も組み込みます。オーバーヒートはしても壊れることはないでしょう』
「不壊の魔法陣なんていうものがあるのか?」
『あります。表には使われることがない技術なので知らないだけだと思いますが、有名なのは聖剣でしょうか? あれにも不壊の魔法陣が刻まれています』
「ああ、あれね。確かにいくら使っても刃毀れひとつしないし、折れることもなかった。なるほど、不壊の魔法陣が刻まれていたのか……」
鎧や岩を切っても刃毀れひとつしない。
材質はオリハルコンだと聞いていたが、それでも他の剣は普通に刃毀れしていた。だからおかしいとは思っていたのだが……。
なるほど、そういう仕掛けがあったのか。
聖剣というだけで気にはしていなかったのだが、教えられて納得した。
「それじゃこの船にも、不壊の魔法陣を刻み込めば一生壊れないということか?」
『それは無理です。不壊の発動条件は魔法陣に魔力を流している時のみ機能します。魔法陣が大きく細かくなるほど魔力の消費も激しく、船を覆うほどの魔法陣を常に展開するには膨大な魔力が常に必要となります。マスターの魔力を持ってしても無理でしょう』
この船の魔力を満タンにしても1時間もたないとか。
満タンにするには毎日魔力を与え続けても2週間以上はかかる。とてもじゃないが現実的ではない。
というか、毎日枯渇するほどの魔力を与え続けていれば俺の方が壊れる。無茶というものだ。
だからやらないそうだ。
「そう都合良くいかないものだな。無敵の船ができるのに」
『不壊の魔法陣は小さな物にしか使わないのが基本です。大きな物に使うとそれだけ魔力の消耗が激しく、使う側にも負担が掛かります。聖剣が勇者にしか使えないのは魔力量にも関係しているのです』
膨大な魔力を待っている勇者だからこそ使えるということか。
「でも、今回は武装に刻み込むのだろ? あれも結構大きいと思うが」
『全体に刻むのではなく、必要なパーツのみに刻むのです。それでしたそれほどの魔力は必要ありません。それに戦闘が終われば消しますので問題ありません』
「今回限定ということか?」
『危険ですので残しておくようなことはしません』
「確かにな。そんな兵器があれば誰でも欲しがるだろう。それには賛成だ」
まあ、外されて調べられてもわからないと思うが、念には念を。
それに、こんな物を世に残してはいけない。
残せば面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだし、騒動の元になる。いや、使った時点で騒動になるのは確実か。最強の武装になるのだからそれは避けられないか。
やれやれ、また面倒事がひとつ増えるということだ。
それなら使わなければよいのだが、そうも言ってはいられないのだろう。俺に魔力を求めてきたのだから、今度の戦闘はかなり危ないということだ。
でなければ、好き勝手にやっているだろうし。
「やらないと駄目か?」
『私も使いたくはないのですが、今回の戦闘は敵艦の数が多いと予想されます。シールドに全出力を回せば攻撃は防げますが、それですと敵を攻撃することができません。その状態で惑星に向かっても、敵を多く引き連れて行くことになるのでお勧めはできません。都市が巻き込まれ、二次被害がでる可能性があります。ですので、敵を多く破壊することを推奨します』
「なるほど。減らせるのであれば減らそうということか。数を減らせばこの先も安全になるし。わかった、その作戦でいこう。しかし魔法陣とか。お前は物を作ることができなかったのではないのか?」
ダンジョンコアとしての機能は失われているので、物を作り出す機能はないと言っていた。
それで聞いたのだ。
『マスター。魔法陣は物質ではありません。魔法を書き込んだ魔術です。それを魔力で直接書き込むので物資は必要ありません。ですから可能なのです』
サラッととんでもないことを言っている気がする。
魔法陣があれば、どんな船でも最強にすることができると言っているのだ。
これが古代船が最強と言われた所以か?
しかし、それには大量の魔力があってのこと。
魔力を供給できなければできないらしい。
「ここまで来たら任せるよ。俺の出番は魔力を注ぐだけだし」
勇者と言っても戦艦が相手では手も足も出ない。
ここは任せることにして、限界一杯まで魔力を注いだ。
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