第145話 博士とダンジョンコア
「お主の名前はなんというんじゃ?」
『名前はありません。個体番号ならあります。10110です』
「おお! す、凄いぞ! 古代船が話しておる! これで謎が解明できるぞ!」
博士がサブモニターに映っているダンジョンコアを見て歓喜している。
女性士官が古代船のAIとわかり質問をしている。本当はダンジョンコアなのだが、博士にとってはどちらでも同じなんだろう。
質問を繰り返していた。
「お主は何者なんじゃ? 誰が作ったのじゃ? 目的はなんじゃ? いつ作られたのじゃ?」
質問のオンパレードだ。
息つく暇もなしに質問している。横で聞いているこっちはヒヤヒヤしている。余計なことは言わないかと。
『博士の質問には禁則事項が数多く含まれています。お答えすることはできません』
「なんじゃ、規則事項とは? 誰がそんな命令を出しておるのだ?」
それは俺です、とは言えないので話しを聞くだけにしていた。
ダンジョンコアには余計なことは話すなとは言ってあるのでね。
『お答えできません。禁則事項です』
「それじゃ話しにならん。しかし、この船は隅々まで調べたのじゃ。お主のようなプログラムは確認できんかったぞ。どこにあるのじゃ?」
コアだからな。その中を調べないことには分からないだろう。それにあのコアを調べても分かるとは思えない。
神様が作った物なんだから解析できるとは思えないのだ。
『私は最初からいました』
「ふむ、調べ方が足りんかったということか……ところでお主は何ができるんじゃ?」
『この船を自由に動かすことができます。その他にも情報収集などもできます。お申し付け頂ければ、可能な限りお手伝いします』
「普通のAIと同じ事ができるということか。この船のジェネレーターを制御しているのもお主か?」
『そうです』
「なぜ自由に動かすことができんのじゃ? 何か理由があるのじゃろ?」
『あなた達にはその資格がありません。なのでコントロールできないようにしてあります』
「なんじゃ、その資格とは? その資格はどうやったら得られるのじゃ?」
『それについてお答えはできません。禁則事項に触れます。ですが、今のあなた方では無理だとお答えします』
「なんじゃ! これでは何も解決せんわい!」
博士が憤慨している。
何でも禁則事項で逃げているからだ。
それにジェネレーターはこの世界の技術を使って作られているわけではないからね。
そう簡単には情報を渡せるわけがない。
「それじゃ別の質問をするぞ。お主、先程は勝手に撃っておったが誰かに命令されておったのか?」
『いいえ。命令はされておりません』
「とするとじゃ、お主が勝手に判断して撃ったということじゃ。そういうことじゃな?」
『あの場で最善の判断をして行動したのです。問題ありません』
「いや、それが問題じゃ。勝手に判断して撃つことはAI規制法に違反しておる。普通に考えれば消去確定じゃ。廃棄処分じゃな」
『私を消すことは不可能です。この船を破壊しないことには』
おいおい、消去とか破壊とか物騒なことを言っているぞ。
コアを破壊すれば終わりだと思うが、それだとこの船が使い物にならなくなる。
それはそれで困ると思うが。
「ふーむ……」
博士が悩んでいる。どうするのかねえ……。
「まあ、良いわい。わしが作った物ではないので規制に引っ掛かることはないじゃろ。古代の遺物は保護指定されておる物もある。AIも申請すれば保護対象になるじゃろ。ただ、研究のためバラバラにされると思うがのう」
そう言って博士は「カッカッカ」と楽しそうに笑っている。
解体が楽しいのか、それとも保護が嬉しいのかわからないが、どちらにしろ博士にとって損はないということだ。
解体してもAIを保護しても研究は続けられるからだ。
「ところでお主、どうして急に動き始めたのじゃ? 最初は稼働しておらんかったじゃろ?」
『私は最初から目覚めていました。ただ、必要がないので手を出さなかっただけです』
相も変わらず平気で嘘をつく。
俺が魔力を与えたから目覚めたくせに。
「必要がないとは、危険にならないと手をださんということか?」
『私にも生存本能があります。死にたくはありませんので』
「AIに生存本能が! これは面白い。AIが死にたくないとは!」
博士が大声で笑っている。
近くに居た人が、急に博士が大声で笑い出したのでビクッとした。
「だからジェネレーターの出力を上げたんじゃな」
『私で管理できるのジェネレーターだけです。他の装置にもアクセスは可能ですが、そちらで止められたら動きません。船を完全にコントロールすることはできません』
「ほほう。撃つ前に止めることも可能ということじゃな。危険はないということじゃな」
『……』
あれも嘘だな。止めても何かしらの方法で動かせるはずだ。
何もできないとは思えない。
「まあ、よかろう。面白い研究対象ができたわい」
少年のような笑顔で笑う博士。
なんか、これ以上話しを聞いていると頭が痛くなる。
余計なことは言わないだろうと思い、早々とその場から逃げ出した。
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