第143話 ワープ作戦の裏で
暖かい日差しが射し仕込む司令室で、ゆっくりお茶を楽しんでいた。
仕事もなく平和な日々を過ごしている。そのおかげか、すこぶる体調が良い。イライラすることがなくなった。
こんなにゆっくりできたのは何時ぶりだろうかと考える。この惑星に赴任してきてからは無かったはずだ。
くだらない争いや代官のつまらない相手でいつも頭を悩ませていた。
それも全てが終わった。
ドラギニス軍がこの惑星を占拠したからだ。
当初は地上部隊や革命軍から反抗されたが、空からの攻撃で壊滅し、今は残存部隊を残すのみとなった。
それも今はどこかに身を隠しているだけで戦うようなことはなくなった。革命軍も同じような状況になり、なりを潜めている。
恐らくだが勝てないと分かったので諦めたのだろう。このまま戦っても犠牲者を無駄に増やすだけだからだ。
今は殆どの都市を手中に収め、ドラギニス軍管理の下、物資の生産を強要している。
「しかし、彼らは統治に興味がないのだな。物資さえ寄越せば後は今まで通りの生活を保障している。変わった種族だ」
噂には聞いていたが本当に興味がないとは。
でも、そのおかげで混乱もなく自由にできるのだからある意味助かっている。
これで都市のひとつでも壊滅させていたらこんなにゆっくりしている時間はないだろう。市民の反抗に備え部隊を出さなければなるまい。彼らに任せれば、この惑星から人が消えてしまうからな。
とは言え、降伏したからといって何もしていないわけでは無い。
これでも一部の部隊を預かっている。
裏切ったニルブルク星系軍の管理を任されており、全部で13部隊が裏切り、一部は通信施設の警備に回しているが残りはこの惑星付近で待機させている。
仕事を与えても良いのだが向こうから断られた。我々にちょこまかされると邪魔らしい。というか、我々を信用していないのだ。だからここで待機という名目で監視されている。
まぁ、自分が逆の立場なら同じような事をしていただろう。敵だった部隊を簡単に信じるようなことはしない。
だからやることがなく、暇を持て余しているというのが今の我々の現状だ。
「ザイラ・バーツ司令官、緊急の報告があります」
ドアの向こうから副官の声がする。
せっかくこちらがお茶を飲んでくつろいでいるのに。無粋な奴だ。
平静を装い「入れ」と言った。
「はっ!」
ドアを開けて急ぎ足で部屋に入ってきた。
何か問題が起きたのだろう。でなければ副官がこの部屋に来ることは殆どない。
「どうした? 帝国軍でも攻めてきたのか」
攻めてきたところで我々の出番はない。ドラギニス軍が対応するからだ。
「いいえ、帝国軍ではありません。戦艦ウリウスが戻ってきたようです」
何の事を言っているか分からず首を傾げたが、すぐに思いだした。
戦艦ウリウスとは我々が最初に造船した戦艦だ。確か失敗作で、作戦のためにレジスタンスにくれたやつ。それが戻ってきたということだ。
「戦艦ウリウスというと革命軍に盗まれた船だったな。あれが帰ってきたと?」
「はい。惑星から少し離れた宙域で監視衛星を破壊しています」
破壊された監視衛星から送られてきた映像には、戦艦ウリウスの姿が映っていたそうだ。
「監視衛星に狙いを付けたか。そこに艦隊を集めるつもりか……しかし、あれが戻ってくるとは。やはり帝国軍は馬鹿ばっかりが揃っている集団のようだ。戦艦1隻も沈められなかったとは」
報告では宙域外で帝国軍と戦闘になったと聞いた。そして逃亡したとも。
それを追いかけて行ったという話しだが、撃沈できなかったということだ。
たかが戦艦1隻を。
あれは失敗作。戦闘力は巡洋艦にも及ばないはずだ。
それを沈められないのだから、エリート意識が高いだけで使えない連中だということだ。
「しかし、なぜそんなに急いでいる? 惑星の防衛はドラギニス軍がやるはずだろ?」
「それが、戦艦1隻を相手に艦隊は出せないと少将殿から言われまして、それで我々で早急に対処しろと」
「少将殿が?」
少将と言えば階級では俺よりも上にあたる。
それに軍事は全てドラギニス軍が管理しているので従うしかないが、なぜか釈然としない。たかが戦艦1隻で。
「わかった。確か第6航宙部隊が惑星外で待機しているはずだ。彼らに任せよう。ちょっと数が多いがあいつらも暇を持て余しているはずだ。よい遊び相手になるだろう。連絡を」
戦艦2隻に巡洋艦が5隻だったはず。
それだけいれば十分だろう。連絡は任せることにした。
「分かりました。私の方から連絡を入れます。それよりも向こうから何か言ってきましたか?」
「何が?」
「本国への移動です。我々はこの星系を明け渡したのですから、ドラギニス公国で爵位が貰えるはずではないのですか?」
「その話か。手続きはしているそうだが首都への移動はないそうだぞ。近く、どこかの星系へ向かうらしいが」
「首都で叙爵式というわけではないのですね」
「そんなことはしないだろう。我々は種族が違うのだ。扱いも違うだろうし、そんなところに行っても息が詰まるだけだ。それに紙を1枚渡されて終わりだろう」
オーガ族は人族を下に見る。
対等に話すようなことはない。だから本国へ正式に呼ばれるようなこともないはずだ。
それに最近は他の種族を首都へ入れないらしい。
何か秘密があるからではと囁かれているが、知っている者はいない。一度行くと帰って来れないからだ。偵察で向かった間者は誰も帰ってこなかったと聞く。
今は商人も入れないという話しだ。
「何にしろこの仕事が終わったら我々は他の星系へ移動になるだろう。それまで待っていることだ」
「はい。ところで代官殿はどうなさるのですか? まさかあの方も一緒に連れて行かれるのですか?」
「ふむ……」
ブラトジール男爵か。
確かにこの謀叛の話しを持ってきたのは彼だ。何でも宰相の紹介でドラギニス公国と関係を持つようになったとか。
どこまで本当のことか知らんが、はっきり言ってもう用はない。邪魔なぐらいだ。いつ処分してもよいのだが……。
「今はまだよい。宇宙に上がってから考える。宙に上がれば事故は日常茶飯事。人ひとり亡くなったところでドラギニス軍は何も言わないだろう」
「事故ですか……わかりました。ではそのように対処します」
俺の意図を読み取ったのだろう。静かに頷いた。
恐らく叙爵すれば以前のように会うようなことはないが、何かある度に呼び出されても面倒だ。自分で解決できるような頭は持っていない。爵位がこちらが上だろうが、関係なくこき使おうとするに決まっている。
この先は俺の邪魔にしかならないということだ。
それなら早めに処分したほうが面倒がなくて良い。
消えて貰うのが手っ取り早いということだ。
副官が部屋を出て行った後、またお茶を楽しんだ。
だが、それも前日までの話しで、部隊が半壊したと聞いた時は頭に血が上った。
それからは残りの部隊長に招集をかけ、戦艦ウリウスの追撃を指示したのだった。
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