第138話 世界標準語①
ニルブルク星系の入管ステーションは球型ではなくドーナッツ型だった。
ドーナッツの中央には巨大な柱が1本立っており、それとドーナッツ型のドームがいくつもの通路で繋がっていた。見た目はドーナッツの中心に棒でも立てた感じかな。
その巨大な柱がこの入管ステーションの管理棟となっており、ドームや宇宙船を管理している。
「船はどこに着けるのだ?」
横で一緒に見ているローズに質問すると直ぐに答えが返ってきた。
「船は全てあの巨大な管理棟の中に入れる。外側にあるドームは住居施設や商業施設だけになっていて、そこに船は着けられない。船と住居、完全に独立しているんだよ」
ドーナッツ側は住民や商人などが暮らす施設で、管理棟が船が入る港となっているそうだ。
「面白いな……でも、ちょっと小さいか?」
俺の発言を聞いてローズが「そりゃそうだ」と言った。
何も知らない俺に簡単に説明してくれた。
「最初に行った入管ステーションは領都があるからここよりも大きいんだよ。人の出入りも激しいし人口も多い。それに物流も活発だ。だから当然訪れる商人も多い。自然とあの大きさになったということだ。それに向こうは軍事拠点も兼ねているしね。こっちはこれといった特産がある星系ではないので向こうほど人の出入りはない。だからこのサイズで十分足りているのさ。無駄に大きく作る必要も無いだろ?」
ようは多くの人が訪ねてくるような星系でもないので、入管ステーションも小さくなったということだ。だからこの大きさでことが足りると。
都会の役所と地方の役場と言った感じか。
人が来なければ大きく作るだけ無駄ということでドーナッツ型になったという話しだ。小さくすれば維持費もそれだけ少なくて済むだろうし。
「ドーナッツ型はコストがかからない?」
「球型は全体が街だからな。それに比べドーナッツ型は、ドームになっている部分だけで済む。金がかからないステーションのひとつさ」
「へえ……」
言われると確かに簡単に作れそうだ。それほど大きくないし、ドームには管理棟から伸びているエレベーターで簡単に行ける。反対側に行くにも中央の管理棟を経由すれば簡単に移動できる。なのでモノレールなどの交通手段も必要ない。
そう言われるとそうかもしれない。
「でもそれなら、管理棟もドームと一緒にくっつけた方がもっとコストもかからないと思うが」
わざわざ真ん中に作る必要もないという意味だ。
「管理棟と分けてあるのはコスト以外にも理由があって、防災のために分けてあるんだ。船が事故を起こし火災にでもなったら逃げる場所がないだろ? 小さなステーションは避難場所も限られてくる。だから、火災とか起こしそうな危険な施設は中央に集めてあるのさ。安全のためにね。だから分ける必要があるということだ」
避難場所の問題か。
確かにドーム型だと逃げられる場所が限られてくる。そういう意味では、ドームと管理棟、分けておいた方がいざというときに移れる。安全面でそうなったということか。
「人が住めれば良いと言う物ではないのか……」
「惑星と違って逃げ場所がないからね。安全面には人一倍気を使っているのさ」
そんな話をしているとエミリーから報告が上がった。
「グランバー、入港申請が通ったわよ。でも長くは居られないみたい。軍で使うそうだから」
軍でもここのステーションを使う予定で、ドックの数が足りなくなるかもしれないと話している。
戦争になればここのステーションは物資の補給や整備の拠点として使われる予定なんだそうだ。
「ここでも情報収集はできるが中に入れば色んな噂も聞けるだろう。取りあえずは追い出されるまで中で情報収集しようか」
グランパーの言葉に全員が頷くと、指定されたゲートへ向かった。
*****
入管ステーションに入港してから2日ほど経った。
みんなが休憩しているなか、エミリーは精力的に情報収集を続けていた。
それに釣られてか何人かの人達も一緒になって調べている。
ブリッジにはそういった人達が残り、昼夜問わず明かりが付いていた。時折グランパーも訪れ、集まった情報を持って艦長室に戻って行った。
やることがない連中はステーションに行き、息抜きという遊びをしている。
ようはお金を払って女性と飲んだり遊んだりしているということだ。
こんな時に、と思うが、こうでもしないと落ち着かず、イライラでストレスが溜まるからだ。やることがなく、見ているだけというのも辛い物だ。
俺も初日はドーム状の街を見てきたが、中から見える景色が違うだけで普通の街と変わりはなかった。だからそれほど長居はせず船に戻ってきた。
それにこれといって気になる物も売っていなかったしね。
「どこまで情報が集まった?」
そろそろかな、と思いブリッジに行ってエミリーに声をかけた。
難しい顔をしてモニターと睨めっこしているところを見ると、上手くいっていないのは一目でわかった。そして俺の顔を見るなり疲れた表情で「はぁーー」と重い溜息を吐いた。
「殆ど集まっていないわね。惑星からは何も発信されていないの。多分だけど、通信施設が全て押さえられ止められているわね。だから惑星の状況がわからない。どれだけの被害が出ているか調べようとしたけど無理だったわ」
少しイライラしながら話している。上手くいかずストレスが溜まっている感じだな。
俺からしてみれば、やはりか、なんだが。
ダンジョンコアにも聞いたが、何も通信が出ていないと言っていた。完全に孤立した状態だとか。
これだと調べようがない。
「敵の船の通信はどうだ? 傍受できないか?」
「やっているけど暗号が複雑すぎて解読できない。それに特殊な言語を使っているみたいで翻訳もできないわ。たぶんだけど世界標準語ではないわね。向こうの言葉、オーク語じゃなく旧オーク語よ、きっと。だから翻訳機も役に立たないの」
世界標準語とは、公式の場ではそれで話しましょう、ということで決まった言葉。
その会議の場にドラギニス公国は参加しなかったそうで、世界標準語で話すことはないと言う。
「旧オーク語とは?」
「宇宙進出する前の言葉だそうよ。今のオーク語はそれ以降のもの。だからオーク語なら解読できるけど旧オーク語はあまり使われることがないから情報が少ないの。それを使って通信しているみたい」
なるほど。
解読されて作戦がバレると困るから旧オーク語を使っているのか。
暗号も100パーセント安全とは言えないし、二重三重に用心しているということだ。
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