第130話 今後の方針④
「みんなの思いを考えれば直ぐに向かうべきなんだろうが、登録ぜずに向かえばIDがないので敵艦と間違われ、帝国軍に攻撃される可能性がある。かなり危険だ。それを回避するとなると、今度は通信エリアにも近寄れなくなる。何もできないということだ」
どっちに転んでも困るということか。
IDを取得するには時間がかかるし、取らなければ帝国軍にも狙われる。
頭が痛いな。
クルー達は一刻も早く向かいたいだろうし……。
「はぁ、それは困ったわね。向こうに行っても何もできないんじゃここにいるのと同じ事でしょ? それで逃げ回らないといけないことにもなるわけだし……」
エミリーにしては珍しく弱りきった表情を見せた。
気持ちは分からないでもないが、まぁ、焦らないことだ。
焦って結論を出しても碌な事にならないし。
「難しく考えずIDを取ってから向かえば良いのでは? 時間はかかるが、その方が安全だし面倒なことにならなくて良いと思うけど」
俺としては少しでも危険があるのであれば避ける方向で舵を切りたい。
死にたくないのでね。
なのでそういう方向で話しをするが、まあ、案の定というか、他のメンバーは面白くない顔をする。
早く向かいたいからだ。
「でも、それだと時間がかかるでしょ? みんな一刻も早く惑星へ行きたいと思うし……」
エミリーの反論に諜報員の2人が頷いているが、そういう問題ではないと思うけどね。
早く行ったってどうにもならないと思うが。
ここはハッキリと言った方が良いかもしれない。
「みんな勘違いをしているんじゃないか? いくら早く向かっても惑星には行けないぞ。ドラギニス軍が待ち構えているんだ。この船1隻で戦うなんてできない。いくら古代船でも死にに行くようなものだぞ」
「そ、それは分かっているわよ。だから向こうに行って情報収集だけでも……」
「情報収集だけなら急ぐ必要はないだろ? よく考えてみるといい。惑星の状況がわかったところで俺たちだけで何とかできるようなものなのか?」
「……」
「もし、何かをするのであれば帝国軍と合同になるのではないだろうか。それならそれまでに間に合わせれば良い。どうせ直ぐに動くことはないだろうし、帝国軍の動きならここでもわかるだろ? それに伯爵だって艦を集めていると言うし。ここは時間がかかっても取るべきだと俺は思うが」
単独行動するのであればIDは必要ないが、軍と一緒に行動するのであれば必要だ。
会った瞬間、敵と間違われて撃たれてしまう。
それだけは避けたい。
「……確かに彼の言うことも一理はあるな。みんな、少し落ち着いて考えてみたらどうだ? 今すぐ決めることでもないして、向かうにしても食料や燃料を補給しなければならない。どのみち直ぐに向かうことは不可能だ。それならこのままドックに入れて補給と検査を受けても良いかもしれない。結局はそれだけの時間が必要ということだ」
グランバーの話しに全員が渋い顔をする。
食料の買い出しだけで、行って帰ってくるだけでも4~5日はかかる。場合に寄っては1週間はかかるかもしれない。
それならIDを取得してもそんなに変わらないのではないかと。
一刻も早く向かいたい気持ちは分かるが、今後のこともあるので慎重に考えた方が良い。
それによって俺たちの方針も変わるのだから。
「そうね。少し落ち着きましょ。ここで言い争っても仕方がないし……ロズルトはどう思うの?」
「お、俺か?」
エミリーに聞かれロズルトがビクッとした。
まさか自分に振られると思っていなかったのか、ちょっとビックリした顔をしていた。
「俺はそうだな……ここは焦っても仕方がないのでIDを取る方に賛成だな。みんなの気持ちもわからないではないが、向こうに行っても何もできないのではもっと辛い思いをするのではないか? 自由に動くのであればIDは取っておいた方がいいだろう。余計な苦労をしなくても済むし」
さすがロズルト。状況をよく理解している。
他のメンバーというと、……難しい顔をして考えている。
俺が言うよりも説得力があるのか?
ちょっと納得いかないが、同じ仲間というのもあるんだろう。
それで考えてくれるのであれば誰が話しても問題ない。
「ニクスはどうしたいの?」
今度はニクスに尋ねている。
全員に尋ねるつもりのようだ。
「自分は家族が心配なので惑星へ帰りたいです」
直ぐに向かいたい派か。
でも惑星は無理だぞ。1隻だけで戦えるわけがないのだから。
「ジャックは?」
「自分は親はいないですが友人がいますので……」
こっちもか。
「ローズはどう?」
「俺も家族が心配だが、IDを取ってからの方が良いと思う。向こうに行っても何もできないんじゃかえってそれが辛い」
こっちはID取得派か。
俺は最初に言ったので聞いてはこない。
そして全員がエミリーを見る。
まだエミリー本人の意見を聞いていないからだ。
「私は早く行きたいかな。情報が手に入ればやれることもあるんじゃないかと。軍に見つからず戻る方法とかあるかもしれないし……」
「惑星に戻りたいのか?」
「ええ、ミチェイエルのことが心配だから……」
リーダーのことか。
心配と言えば心配だが、でも彼女のことだから何とかするような気がする。
そう簡単に死ぬような人では無いと思うが。
「これで半半に分かれたな。最後はグランバーだが、どうする? 判断は任せるよ」
結局は多数決になったが、それが一番良いかもしれない。
後腐れなくて。
「俺は取得してから向かった方が良いと思う。みんなの気持ちを考えたら早く向かいたいが、向かったところで直ぐに何かできるとは限らないだろう。それに遅く行った方が情報も集まっているかも知れないし、クルーの安全を考えるのであれば、少しでも危険は取り除くべきだと思う。味方から撃たれたくはないのでな」
帝国軍に追いかけ回されたからね。
そういう気持ちも分かる。
「そう、グランバーが決めたのならそれに従うわ。代表はグランバーなのだから」
エミリーがちょっと棘のある言い方をする。
この船の代表というか責任者はグランバーだ。だから決めたことには従わなければならない。この船の秩序を守るためには必要なことだ。
「それじゃ入管ステーションへ向かおう。それと代表だが俺がなっておく。後で変更はできると思うから今は暫定的に。俺も戦艦なんていらないからな」
苦笑しながら俺に向かって言う。
みんなそう言うだろうな。
俺もいらないし。
「色々と思うところはあると思うが今は焦っても仕方がない。向こうに行っても困らないように準備だけはしっかりして行こう。それでは頼む」
みんな疲れた表情で各々の部屋へ戻った。
戻ってきて早々こんな話しを聞かされたら誰でも参るよな。
俺もそうだけど。
そして何よりも俺たちの苦労が無意味だとわかったから尚更だ。
こうなることが分かっていれば領都までいかないのに。
俺たちの任務は、よけいな金と時間を使っただけで終わった。
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