第125話 ベルカジーニ伯爵のその後
「ふう、帰って行ったか。暗殺者だったら死んでいたな」
そう言って苦笑した。
あまりにも無防備といえばそうだが、しかし、こうやってここまで辿り着くのだから警備が甘いのは否めない。
至急、見直しが必要だ。
「しかし謀叛とは……」
まさか自分の領地でこのようなことが起こるとは夢にも思わなかった。
ブラトジール男爵。
確か宰相が連れてきた男だ。
前代官が急死したことで、どこかの星系から呼んだと聞いたが。
「これも宰相の企みだったのかもしれないな。増税も戦艦も何もかも」
頭を抱えた。
どうすれば良いのだ。やることが多すぎて、どこから手を付ければ良いかわからない。
こういう時に宰相が居ないのは痛い。
早く後任を探さないと俺が参ってしまう。
扉をノックする音が聞こえる。
誰かが尋ねて来たようだ。
「トパーズ中尉です。入ります」
守備隊の隊長だ。
この城の警備を任せている。
「入れ」
「ハッ!」
扉を開けて足早で入ってくる。
何か問題でも起きたようで、緊張した顔で机の前まで来た。
「どうした?」
「侵入者です。今、城内を調べています」
ああ、彼のことか。
今頃になって気が付いたようだ。
「それならもう良い。用事は済んだ。彼ならもう帰ったはずだ」
「こ、こちらに来たのですか?」
驚いた顔してこちらを見ている。
その表情が可笑しくて思わずクスッと笑ってしまった。
「フ、つい先程までここに居たよ。今はラデュックに言って送らせているところだ」
「ここまで侵入を許したのですか?」
「窓から入ってきたぞ」
「窓から?」
トパーズ中尉は窓を見て開いていることに気が付いた。
「窓から侵入したということですか?」
「そうだ」
「ハア、警備の連中は何をしていたのか。ここまで侵入を許すとは」
自分達の不甲斐なさに怒りを通り越して呆れていた。
「侵入者は何ものですか?」
「何もの? ……勇者だったな」
「勇者?」
俺の言葉を聞いてポカンとしている。
何を言っているのか理解できなかったようだ。
それもそうだろうな。
言っている俺も何を言ってるか分からないのだから。
「侵入した者のことはもう良い。それよりもバディス司令官を呼んでくれ。至急ということで」
「司令官でありますか?」
「そうだ。急いでいると伝えてくれ」
「わかりました。至急、呼んで参ります」
敬礼をしてから部屋を出て行った。
この後はニルブルク星系について話をしなければならない。
その対応もだ。
バディス司令官が来るまでは、例の持ってきたデータカートリッジを情報端末機にセットし中身を確認した。
そしてこちらに送られてきている書類を見比べ、改竄されていることがわかった。
「何がドラギニス軍だ。こちらの報告書ではレジスタンスになっているではないか。それを全て改竄したということか」
他にも戦闘エリアは地上になっているのに、送られてきた報告書では宙域に書き換わっている。
補給もレーザー銃やエネルギーパックなどの消耗品に対し、こちらでは戦艦の修理備品や消耗品にすり替わっていた。
こちらから送られた修理部品を使って戦艦を建造したようだ。
なるほど。彼の言うとおり、全て虚偽の報告書だった。
「これをみると代官ひとりの犯行ではないな。軍も関わっているのは明白だ。まさかトップである星系軍の司令官が裏切るとは」
それともうひとつ、手紙があることに気が付いた。
何も書かれていない無地の封筒を開けると一枚の便箋が入っていた。
「これはこのデータカートリッジの出所とその信憑性を説いた物か。至急対応せよと。送り主は誰だ?」
何も書かれていない。しかし、一番最後に紋章が。
「……え? この紋章はまさか……でも、なぜこんなところに?」
胃がキリキリと痛くなる。
この手紙を無視することはできない。
データカートリッジよりもこっちの方が爆弾だった。
「このことが皇帝陛下の耳に入ったら……」
頭を抱え、大きな溜息を吐いた。
ご覧いただきありがとうございます。
時間がなくて毎日アップはできないと思いますが、気長に付き合って下さると嬉しいです。
毎日ぽつぽつと書いています。
ついでに評価もしてくれると嬉しいです。