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第123話 元勇者とベルカジーニ伯爵②


確かここの領主はベルカジーニ伯爵。若いと聞いていたが、それでも俺よりは年上に見えた。

ブラウンの髪をオールバックにし、彫りの深い顔をしている。眉は太く鼻も高い。逆に言えばここでは一般的な顔だ。ダンディーなおじさん、と言うには少し若いかな。

ただ神経質なのか、人差し指を細かく動かしている。貧乏揺すりみたいに。

服装も金ぴかの服装ではなく、飾りっ気のない普通の服を着ている。あのような服は公式の場にしか着ないのかもしれない。こうして見ていると至って普通の人という感じだ。

なんか貴族らしくない。


「……」


俺が何もしないことで少し余裕ができたのか、少し落ち着いてきた。

そして、口をパクパクさせ何か問いかけてきている。

聞こえないので何を言っているのか分からないが、恐らく「目的は何だ」とか、聞いているのかもしれない。

一度、人差す指を口に当てて黙らせることにした。

伯爵も意味を理解したようで口を閉じた。


「初めまして伯爵様。騒がなければ何もしませんのでお話だけでもさせて下さい」


魔法を解いて上品に挨拶をする。

と言っても腕を胸に当てて右足を一歩引き頭を下げる。それだけなんだけどね。

貴族風に挨拶してみた。


「こ、声が聞こえる!?」


魔法がかかっているときは自分の声も聞こえない。

声が戻って驚くのも無理がない。


「君がやったのかね?」

「ええ、騒がれると面倒なのでね。音を封じさせて貰いました」

「音を封じるとは? 特殊な装置か何かで?」

「魔法で」

「魔法?」


目をギョッとさせて驚いているが、俺がニコッとしたことで揶揄われたと思ったようだ。

眉を寄せて俺を睨んでいる。

まあ、今はそんなことはどうでも良いのでね。肯定も否定もしないが。


「先ずは確認させて下さい。ベルカジーニ伯爵様で間違いありませんか?」


一応、来る前に顔だけはネットで調べてきたので間違いはないと思うが念のため。

中には影武者とかいるからね。

暗殺を恐れて弟を代理に立てていた、なんて話しもよく聞くし。

鑑定魔法が使えればすぐにわかるんだが、この世界はレベル制ではないからなのか、鑑定魔法を使っても何も表示されない。ステータスも見れないから、単純に神様がいない世界だから鑑定できないだけかもしれない。そういった情報は神様が与えてくれていたみたいだからね。


「私がベルカジーニ・ラッセンス・デルバートだが、君は何者だね? 服装を見るとレイ・ジョージ社の社員に見えるが」


俺の服装をジロジロと見る。

作業着のままで来たのでそう思ったのだろう。

自分の素性をあえて教える必要はないので、ここは答えず「ニコッ」と微笑んで流した。

後でクレームがいくのはレイ・ジョージ社になるけどね。


「質問に答える前にこちらを。渡して欲しいと言われた物でね」


ロズルトから預かってきたデータカートリッジと手紙を渡した。

最初は不審に思ったのか受け取らず、再度と突き出すようにしてようやく手に取り受け取った。


「何だね、これは?」

「ブラトジール男爵の不正データが入っている、ということです」

「ブラトジール男爵?」


男爵の名前を言ってもピンとこなかったようで、ニルブルク星系と言って「ああ」と言い、ようやく思い出したようだ。

誰が代官なのか覚えていないのだから好き勝手にやられるわけだ。

田舎の星系には興味がないのかもしれない。


「ブラトジール男爵の不正データとは?」

「男爵が増税して、市民の生活を圧迫しているのはご存じですか?」

「増税? そんな指示は出してはいないが」

「やはりそうですか。では、戦艦の建造をしていたことも?」

「知らん。何の事だ? 何が言いたいのかね?」


要点がわからず少しイライラしているように見える。

やはり何も知らないようなので、ニルブルク星系で何が起きているか詳しく説明した。


「そんな馬鹿なことがあるか! どれも職務規程違反だぞ。代官にそんな権限はない。嘘を言いに来たのかね?」


速攻で否定した。

そうなるよね。どこの誰とも知らない奴がそんなことを言っても信用して貰えるわけがない。

予想通りの反応だった。


「嘘ではないです。口で言っても信用できないので、そのデータカートリッジを持ってきたのです。見て貰えばわかりますよ」

「だが、これも本物とは限らないだろ? 偽のデータとも考えられる」


疑い深いな。

確かにそうなんだが。


「ですが、嘘をついてまでそれを届けに来る理由があると思いますか? こんな所まで。良く考えて下さい。そんなことをしても我々には何のメリットもないことを」

「むっ……」


おいおい、凄い目で睨んでいるが俺が悪いわけではない。

何もせずに放置した伯爵が悪いから、ここまで届けに来たのだ。

逆に感謝して欲しいぐらいだ。


「君の話をまとめると、代官として管理してるブラトジール男爵が私の許可もなく増税し、戦艦を建造している、そういうことか?」

「それ以外にも亜空間通信を使えないようして情報封鎖をしています。それでレジスタントと戦闘にもなっていますよ」

「内戦が起きているということか?」

「はい。増税などで苦しむ市民が立ち上がったそうです。それで星系軍と戦闘になっています」

「星系軍と戦闘になっている? そんな報告は軍からこちらに届いてはいないが」

「ああ、それに関しては星系軍のトップのなんとかバーツとかいう人も、代官とグルになって協力しているそうですよ。その人の報告書も偽造されている物なので」

「軍が協力していると。あり得ない。そんな話し信じられるわけがない。軍の司令官になるには、家庭環境や適正検査など、あらゆる厳しい審査を合格して初めてなれるのだ。戦功だけで選ばれるわけではない。国に命を捧げられるような人物が選ばれるのだ。そんな人物が軍を裏切るはずがない。それにそんなことをすれば家族やその関係者、一族全てを巻き込むことになる。1人の責任で済むわけが無い」


貴族制というのは何かと連帯責任になるからね。

当主が1人で勝手にやっても家族やその一族に責任が及ぶ。

関係がない人まで巻き込むのだ。女子供にも。

そういうのは好きになれない。

だが、禍根を断つためにそういうふうにしているのはわかる。将来、謀叛とかされたら困るからね。

そういう考え方は貴族制である限り変わることはない。


「そんなことは知りませんよ。自分は真実を伝えに来ただけ」

「ぐっ……」

「伯爵様の気持ちもわかりますが、これだけのことやっていて伯爵様が気が付かないのはおかしいと思いませんか? 男爵ひとりで出来ることではないですよ」


星系軍にも報告する義務はあるはずだ。

そんなことをしていて報告がないのだから疑わないといけないだろう。


「にわかに信じられん。少し待ってくれ。調べるから」


ベルカジーニ伯爵は椅子に座り直すと情報端末機を操作し、何かを調べ始めた。


「ふむ、報告書にはドラギニス軍と紛争中とあるが?」

「それはレジスタンスの間違いです。ドラギニス軍とは戦っていません」


送られてきている報告書には虚偽の記載がされており、本当の事は何一つないと説明した。


「データには証拠となる物が入っているそうです。確認してみては如何ですか? 自分の言葉よりも信用できると思いますよ」

「ふむ……」


データカートリッジを手に取り見つめる。

見ようか見まいか悩んでいる感じだ。

今更だと思うが。



ご覧いただきありがとうございます。


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