第121話 侵入
決行日。
ホテルから20分ほどの所にある食料生産商社レイ・ジョージ社の物流倉庫へ来ている。
かなり広い敷地で東京ドームの倍はあるだろうか。
4階建てで、1階はトラックバースになっており、右側部分は積荷を降ろす場所、左側は商品を積むための場所となっていた。
今もトラックバースには野菜などの積荷を降ろす大型AGCや、配送するAGCで一杯だった。
「広いな。迷子になりそう」
ここの倉庫では、各プラントで収穫された野菜などが集められている。
そして洗浄・殺菌・検品され、ホテルやレストラン、食料品店に配送される。
この世界では品質管理が厳しく、生鮮食品は必ず出荷前に検査する必要がある。
検査自体は専用の機械で直ぐに終わるそうだが、高額なので、各プラントに設置することができない。
どのみち仕分け作業もあるので1カ所に集める必要もある。
なので、纏めてやってしまおう、ということでこれだけ大きな倉庫になったということだ。
「さて、どこから入るか……」
中に入るには守衛室の前を通らなければならない。
今の俺は作業着を着ているので見つかっても問題ないが、呼び止められるとちょっと面倒だ。
素通りできれば良いが監視カメラがあるので魔法を使っても無理だろう。
だが、施設を囲っている塀には監視カメラが設置されていないので壁を飛び越えれば問題ない。後は認識阻害魔法を使えば見つからずに侵入できる。
城と比べると侵入方法はいくらでもあった。
身体強化の魔法を使い塀を跳び越え敷地内に入る。
降りた周りには人影はなく、こちらに向いている監視カメラもない。
まぁ、見られていてもここの作業着を着ていれば怪しまることはないだろう。社員と間違えられるだけで。
「後は城に納品するトラックを探さないといけないのだが……」
どれも同じ色の同じ車なのでわからない。
ただ、配送してる人はいつも同じ人なのでその人物を探し出せば良い。
認識阻害魔法インヒビションを自分にかけ、積み込み中のトラックの近くで待つことにした。
「監視カメラは……あそこにあるのか」
さすがに搬出場所には監視カメラがある。
映らないようにトラックの影に隠れることにした。
後は乗り込む時に、なるべく映らないように移動しないといけない。
死角を探すのも一苦労だ。
「おっと、忘れずにもう1つ」
ミラージュという精神魔法をかけておく。
これで特徴的な黒髪黒目を赤色に変える。
実際に変わるわけではなく、相手にそう見えるようにする。相手の精神に干渉する魔法だ。
見つかって逃げても、髪の色が違うので直ぐに捕まることはないだろう。ただ、監視カメラには通用しないので見れば簡単にバレてしまう。
時間稼ぎ程度にしか使えないということだ。
積み込みは全てオートメーション化されており、パレットに載せられた野菜が、コンベヤみたいな装置で運ばれてくる。そしてそのままAGCに積まれるのだ。人は殆ど見かけない。天井にカメラが付いているので、どこかで見ながら操作しているのかもしれない。
配送は人の手でしているが積み込みまでは機械でしていた。
宇宙ステーションやコロニーには物流配送システムがあるが、地上にはない。
その一番の理由はコストの問題だ。はっきり言って金がかかるらしい。
エミリーから聞いた話では、物流配送システムを作るには地下に配送専用トンネルを作り、更にそれを蜘蛛の巣のように各会社や家庭まで張り巡らさないといけない。膨大な距離になる。
その費用を誰が出すかというと領主で、そして税金となり市民が負担する。
なのでそこまでして作る必要があるのか、ということになり、Noという結論になったという話しだ。
昔ながらの人力に頼れば良いのだがらと。
それに雇用にも繋がるし悪いことだけでもない。維持費も馬鹿にならないし、地震に弱いという欠点もある。
元々宇宙ステーションなどは物流配送システムを付けることを前提にして設計してあるので、コストはそれほどかからない。地面を掘る必要もないし地震もないからね。
中には作っている都市もあるそうだが、そういう所は税金が高く、その皺寄せは市民にきている。
便利だがその分、余計な金が取られているということだ。
しばらく待っていると例の男性が現れた。
自分のトラックを見つけるとそれに乗り込む。
俺も後を付いていき、監視カメラを避けながら急いで荷台に乗り込んだ。
一瞬、映ったかもしれないが、周りで騒いでいないところを見るとバレなかったようだ。
積み込みが終わり、リアのドアが自動で閉まった。
トラックの荷台の中は真っ暗。カメラみたいのは付いていないので、見つかることは無さそうだ。
「ここまでは予定通り。さて、連絡を入れるか」
無事に乗り込んだとメールを打っておく。
後は城の監視システムを落とすタイミングだが、それは既に打ち合わせてある。
トラックが城門を潜ってから5分後となっていた。
*****
「シューイチからメールが来たわよ。上手く乗り込んだようね」
「それじゃ、俺たちはここで待機だ」
「でも、申し訳ないわね、シューイチひとりに任せるなんて」
「それは仕方がない。魔法が使えるのがシューイチだけだし、大勢で行ったら見つかる可能が高くなる。彼に任せるしかないだろ?」
城が見えるところで全員が待機している。
今のところ俺たちにできることは無く、シューイチが乗ったAGCを待つだけ。
後は門を潜ったあと、ハッカーと連絡を取り警備システムを落として貰う。
俺たちの仕事はそれだけだった。
「あれは渡したの?」
ジュースを片手にエミリーが問いかけてきた。
城は観光名所にもなっているいるので近くに売店が多数ある。
そこで買ってきたようで観光客の振りをして飲んでいた。
「もちろん渡した。中身は見ていないが悪事の証拠らしいから、あれがあれば信憑性は増すだろう。話しは聞いてくれるはずだ」
ホテルを出るときに渡しておいた。
ただ、俺も内容は知らないので渡すようにしか言わなかった。
「信じてくれたら良いけどね」
「そればっかしはなあ。俺にもわからん」
「ここの領主のベルカジーニ伯爵ってどういう人物? 話しは聞いているのでしょ? 私は会ったことがないから知らないけど」
「俺も会ったことがない。しかし、話は聞いたことがある。まだ若いが真面目でここの領民からは慕われていると聞いているが」
「えっと、それだけ?」
「それだけだ。街で話しを聞いたが悪いことは話さんのさ。貴族の悪口は耳に入ると不敬罪になるからな。さすが領都でそういった話しはしないだろうし」
どこに耳があるかわからないので、領主の悪口は公衆の場で話すことは無い。
治安の悪い酒場とか行けば聞けると思うが、ただ、信憑性がないので参考にはならない。
「自分の目で見て判断しないとな」
「まぁ、そうだけど……」
不満があるのか、ブスッとしている。
会っていきなり捕まらないか心配しているのだろう。
悪い奴ではないという話しだし、信用するしかない。
「もうじき城に着くな。こっちも準備しよう」
とは言ってもメールをするだけだが。
何時に落とすか時間を書いて送るだけ。
それで俺たちの仕事は終わりだ。
後はシューイチに任せるだけだ。
更新が遅くなり申し訳ございません。
話しが纏まらず、時間が掛かっています。
続きは書いていますので、少々時間を下さい。
ご迷惑お掛けしますが、気長に待って頂くと嬉しいです。