第118話 ベルンハルド・ベイロンとの対話①
指定された宙域に到着した。
レーダーを見ると帝国軍の反応があり、そこから動く気配がなかった。ここでずっと待っていたと思われる。
数は戦艦2、巡洋艦4、それと大型の輸送艦らしき艦影も確認できた。それを守る形で駆逐艦が4隻、前後左右と確認できる。
1部隊の戦力からすると少なく感じる。
戦闘を目的としていないのか、それともこちらを誘うつもりでワザと少なくしているのか。
いきなり沈めようという魂胆はなさそうだ。
「こちらが来るまでずっと待っているつもりだったのでしょうか?」
「どうだろうな……少なくとも話がしたい、というのは嘘ではないようだ。わかるか、あの大きなアンテナが付いた大型艦。あれは亜空間通信艦だ。亜空間通信設備を搭載した特殊な船で普段は後方に配置され、司令部や作戦本部と連絡を取るために用いる。数も少なく、こんな場所にあって良いような船ではない。きっとベルンハルド・ベイロンと通信するために用意したのだろう」
軍のトップがこんな場所にのこのこと現れるわけがない。
安全を考慮すれば当然だ。だから亜空間通信艦を用意したのだろう。
対話をしたいというのは本当のようだ。
「グランバーさん。帝国軍から通信が入っています。どうしますか?」
「繋いでくれ」
『戦艦ウリウスにつぐ。そのまま待機を続けろ。追っ手連絡をする。以上だ』
「……これだけ?」
ジャックが呆れている。
呼んでおいて放置とは。ちょっと呆れた。
「向こうの準備ができていないのだろう。こちらも連絡は入れていなかったから、向こうも暇では無いと言うことだ」
「それにしては乱暴な言い方ですね。人を呼んでおいて」
「それが軍というものだ。なめられるわけにはいかないからな」
ダミアンがプンプンと怒っているが、軍人なんていうものは横暴な奴が多い。こんなことで一々目くじらを立てているようでは付き合えない。
この後は何事もなく半時ほど待たされて、ようやくベルンハルド・ベイロンがモニター越しに現れた。
歳は60近いはずだがとても若々しく見える。昔に見た映像とそんなに変わりは無く、鋭い眼光でブリッジ内のクルーを観察していた。若返りの延命治療でも受けているのか、茶髪に白髪が少し増えた程度で大柄な体格からは衰えを感じさせない。今でも前線に立つというから、人とは違う何かがあるのだろう。
トレードマークになっている白い顎髭は健在で、それだけは昔と変わらなかった。
『待たせたな』
「いいえ、それ程待ってはおりません、閣下」
代表して俺が話す。
さすがに他のクルーには荷が重いだろう。全員がガチガチだ。
それもそのはず。普通では会えない雲の上のような人物。
こうして拝見できるだけでも奇跡に近いのだ。
『なに、そんなに緊張せんでも取って食おうとは思わない。ちょっと事情を聞きたいだけだ。それが終わったら直ぐに解放すると約束しよう。言葉使いも気にせず、自由に話すがよい』
こちらを緊張させないように笑顔で話す。
こうやって見ていると好好爺という感じだ。
だが、それがかえって怖いと思うのは俺だけか。
油断してはならないということだ。
「我々に何を?」
『貴艦の目的を知りたい。前に話しを聞いたときはブラトジール男爵を告発したいという旨だったが、どういうことか。こちらでも調べたが、ブラトジール男爵とはニルブルク星系で代官を勤めている人物のはず。そうだな?』
「はい。そのブラトジール男爵が実は増税をし、市民の生活を圧迫し始めたのです。その他にも……」
惑星で起きている現状を細かく説明した。
それをベルンハルド・ベイロンは目を閉じて黙って聞いてた。
『なるほど。それで貴艦は領主であるベルカジーニ伯爵に会うために、新しく開発されたその戦艦を盗んで領都に向かったと、そういうことだな?』
「はい。閣下の言うとおりです」
『しかし、そうなると星系軍は何をやっていたのだ? そんなことは許されないだろ?」
「実は軍にも協力する者がおりまして、トップであるザイラ・バーツも仲間であります」
『星系軍も加担しているということか?」
「はい。亜空間通信が使えないことを理由に、好き勝手にやっています。我々はそれと戦うためにレジスタンスを結成したのです」
『ふむ……』
伸びている顎髭を撫でながら目を閉じて思案している。
何を考えているのかわからず、俺を含めクルー達がちょっと困惑していた。
「閣下、聞かせて下さい。どうして我々と対話を求められたのですか?」
『その様子だと何も知らないようだな。よかろう、今の現状を説明しよう』
ベルンハルド・ベイロンから聞かされたのは我々の惑星、ニルブルク星系第2惑星がドラギニス公国の手に落ちたということだった。
こちらから司令部に連絡を取ろうとしたが繋がらず、惑星を守っていた星系軍も壊滅したという話しだ。
最初は何を言っているのか頭が回らず、周りからの「嘘だ!」という声を聞いてやっと状況が理解できた。
帰る惑星が無くなったということだ。
「……第2惑星は侵略されたのですか?」
『我々が調べた限りではドラギニス軍の手に落ちている。それが現状だ』
「……」
衝撃な事実を聞いてクルー達の表情が青くなった。
中には家族や恋人がいる。友人もいるだろう。
そういった人達がどうなったか。
安否が気になるはずだ。