第116話 決行前①
「準備はできたのか?」
ロズルトが心配そうな顔で尋ねてくるが、俺は笑顔で返した。
俺まで不安な顔をしていたら上手くいくものも上手くいかなくなる。余計な気遣いはして欲しくなかったからだ。
「欲しかった物は大体手に入れて貰った。警備情報も手に入れた。後はやってみないことにはわからないな。行き当たりばったりになるのは仕方がないだろう」
今日は全員の前で最終確認をしていた。
情報も集まったが完全とは言えず、時間をかけてもこれ以上は集まらないと判断して決行することにした。
必要な物は諜報部の2人に集めて貰ったし、やれることはやって貰ったつもりだ。
成功するかは俺次第。
侵入するのは俺ひとりだからだ。
「レイ・ジョージ社への侵入経路はどうだった?」
「それについては調べましたが、プラント内に入るには守衛室の前を通らないといけないです。ですが、身分証のチェックもないので簡単に通れそうです。それと外には監視カメラがなかったので敷地内には簡単に入れますね。建物内はさすがに監視カメラがありますが、中に入らないのであれば問題ないかと思います」
ニクスがメモ帳を見ながら報告する
「それと。出発時刻は13時です。他のプラントから集められた食料を一纏めにしているので、いつも午後になるそうです」
今度はジャックが続けて報告した。
さすが諜報部の2人。よく調べてある。
「後は、レイ・ジョージ社の作業着ですが手に入りました。元社員から買った物で、大きさは合うと思います。後で確認して下さい」
私服でプラント内を歩くと目立つはず。なのでレイ・ジョージ社の作業着を入手して貰った。
作業着を着て歩けば不審者とは思われないはず。荷台に乗り込むときも目立たないはずだ。
後は城内に入ってからどうなるか。
そこら辺のことが決まっていない。
「地図を見ると領主殿の執務室は第2城区の2階フロアにあるな。行くとなると通路を歩いて階段を上り、それからまた長い通路を歩かないといけない。監視カメラに見られるな。何か手はあるのか?」
ロズルトが見取図を広げて指で執務室を差す。そこまで行くには他の部屋の前を通り、さらに待機室を通らないといけない。人目を避けて、というのは無理そうだ。
「古典的だが窓から入る。窓下は庭園が広がっているし、下まで行ければ2階ぐらいならジャンプして入れるだろう。後は見つからないようにそこまで行けるかだな」
ロズルトが用意してくれた見取図には監視カメラの位置まで記載されていた。
これを見ると見つからないように歩くのは至難の業だ。
至る所に監視カメラが設置してあった。
「後はどうやってそこまで行くかだが、やはり死角は無いな。兵士の1人でも拉致できれば楽なんだが……」
そいつに化けるという方法があるが、ヘルメットにはカメラが仕込まれている。
着替えている間に気が付かれるだろう。
そういう所がやっかいだ。古典的な方法が使えない。
「少しの間警備室の電源とか落とせないか? 3分ぐらいでいいんだが」
「3分か……電源ではないがシステムなら落とす方法ならあるぞ。ハッキングして貰えばいい」
「ハッキング? そんな事が可能なのか?」
「警備室のサーバーに侵入してシステムをシャットダウンして貰えばよい。再起動にはそのぐらいの時間は掛かるだろう」
監視システムを落とすのか。
悪い手ではない。
「だが、誰がやるのだ? そんなことができる奴なんていないだろ?」
諜報部の2人は専門外だと言っていたし、他のメンバーにもそんな技能を持っている奴はいない。できそうな奴はいないが……。
「そこはハッカーに依頼をする。時間を決めて落として貰えばいい」
「いるのか、ハッカー?」
「この見取図も、ある下請けの建築会社から盗んだ物だ。去年の改修工事で使った物で、サーバーに侵入してコピーして貰った。まあ、それなりに金は掛かったが、城にあるサーバーに入るよりは簡単だと言っていた。慣れている感じだったな」
全てメールでのやり取りだったが、金を払えばどんなところにでも侵入してくれるらしい。
ただし、難易度によって金額も変わるらしいが。
「信用できるのか?」
「金を払えばな」
監視カメラがなくなれば、いくらでもやりようはある。
魔法を使って城内を歩いても見つからないということだ。
後はタイミングしだいだな。
「じゃそれで頼めるか? 時間を決めて落とさせてくれ。それに合わせて移動する」
「向こうと連絡を取ってみる。基本メールでのやり取りになるので直ぐに連絡が付くかわからないが」
早速、携帯端末を取り出しメールを打ちだした。
情報社会だけあってハッカーはどこにでも居るようだ。
そしてそれで商売している奴もいる。世界が変わってもこういう所は変わらないのが面白い。
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