第115話 帝国軍からのお誘い②
急いでレーダーを確認すると敵を示す赤い点が近づいてきた。
一直線にこちらに向かっている様子はないので気が付いてる感じはしないが、一応、警戒しておいた方が良いだろう。
第2戦闘配置を取らせた。
「船のタイプは?」
「帝国軍の小型哨戒艦2隻ですね。我々を探しに来たのでしょうか?」
「それはわからない。しばらく様子を見ないことには」
第2戦闘配置を聞いて、続々とクルーがブリッジに集まってくる。
ここに来ての初めての戦闘配置でクルーに緊張が走っていた。
「小型哨戒艦ということは戦闘目的ではないということですかね?」
「沈めるつもりなら巡洋艦クラスを連れてくるだろう。見つけて報告するだけだな。だから足回りは早いはず。逃げられたら追いつけないな」
哨戒艦は索敵を目的としている。
レーダーもそこそこ良いのを付けているはずなので、迂闊に動かない方が良いだろう。簡単に引っ掛かってしまう。
「グランバー、ジェネレーターはどうするのじゃ? 起動するのであれば準備をするが」
余計な燃料を使わないように待機中はジェネレーターを落としていた。
それをどうするか博士が確認してきた。
「見つかっていないのであれば起動しないほうが良いだろう。かえって見つかるかもしれん」
小惑星の影に隠れていればそう簡単には見つかることはないはず。
状況を見てから起動することにした。
「グランバーさん。敵の通信を捕まえました。何か同じような内容の通信を繰り返して送信しているようですが」
「それはおかしいのう。この当たりは通信エリアから外れておるはずじゃ。通信してもどこにも届かんはずじゃが……」
博士が首を傾げている。
確かに通信エリアから外れているのだからいくら送っても届くはずがない。無意味なのだ。
どういうことだ?
何か裏があるように思えた。
「通信内容を解析できるか?」
「ちょっと待って下さい。調べますので」
レーダー・通信関係はエミリーに代わってミディアという女性が入っている。
普段はサブ・ブリッジで情報収集と解析の仕事をしているが、エミリーが抜けた穴を埋めるべく急遽入ってもらった。
歳は若いと聞いているが、落ち着いた感じの服装で長い金髪もポニーテールで纏めてある。
エミリーが推薦していっただけあって仕事は早く、かなり優秀であった。
「メッセージのようです。読みます。『戦艦ウリウス 指定宙域に来られたし 貴艦と対話を求める 帝国軍第11方面司令官 ベルンハルド・ベイロン』とあります」
「ベルンハルド・ベイロンか……」
「これはかなりの大物じゃのう。わしでも知っておるからのう」
ベルンハルド・ベイロンは帝国の英雄の1人で、20年ほど前のビチャクス宙域の戦闘で、圧倒的不利だった状況を1部隊で覆し、戦艦18隻を大破、更に危機的状況にあった艦隊を立て直し、勝利に導いた立役者である。
その時の功績で叙爵され、今は確か名誉子爵だったはず。階級は少将だったと聞くが。
そのような人物が接触してきたとは、とても考えられない事だった。
「我々を捕まえる罠か?」
「それは考えられんのう。ベルンハルド・ベイロンは小細工を嫌うと聞く。先の大戦でも正面から叩いたと聞くぞ。そんな小さい男ではないと思うがのう」
「ふむ……」
この話しに乗った方が良いか悩むところだ。
だが、このままでは埒が明かないのは確かだ。
いつかは帝国軍と話して、誤解を解かないといつまでも逆賊として追われ続けるだろう。
しかし罠だった場合、この艦に乗っているクルー全員の命を危険にさらすことになる。
非常に難しい判断となる。
「俺たちと会話とは何を話すつもりだ? 向こうと話したのは代官のことだけだし、そのときは聞く耳持たずに攻撃された。今更何を話すというのだ?」
「さてのう。向こうさんの考える事はわからん。ただ、何かあったから対談の場を設けようとしておるのかもしれん。状況が変わったのかもしれんのう」
「状況が変わったか……」
俺たちの知らないところで何かあったということか?
通信ができず情報収集ができない今、それを知る術はない
「博士はどうした方が良いと?」
「ふむ、話しに乗ってみるのも悪くはないじゃろ。ベルンハルド・ベイロンほどの男がだまし討ちするとは思えんからのう」
賛成ということか。
罠だったら速攻で逃げれば良いか。
「その指定された宙域はどこに?」
「指定された宙域はニルブルク星系とミグラクス星の中間地点になります」
「指定日時は?」
「メッセージには含まれていません」
「向こうで待機しているということか……よし、指定宙域に移動しよう。リュック、ワープの準備を。ルート設定を頼む」
「ロズルトさん達に連絡は良いのですか?」
それもあるか。
勝手に移動して彼らが戻ってきた時に居ないと困るだろう。
連絡を入れた方が良いな。
「一度ミグラクス星系に入る。それから指定宙域に向かおう。それで頼む」
「了解しました。では、ミグラクス星系に入り、それから指定宙域に向かうようにルートを設定します。予定ですと1週間ほど掛かりますね」
「わかった。他のクルーもそれで動くように通達を」
結局のところ小型哨戒艦はメッセージを送るためだけに、この宙域に来た感じだ。
我々を探すことなく直ぐに他の宙域に向かった。メッセンジャーとして巡回しているのかもしれない。
通信エリア外にいれば連絡を取る方法はない。そういうことであのような事をして回っているのだろう。我々がエリア外に居ることが分かっていてやっているようだ。
この後はミグラクス星系に一度寄ってから目的宙域に向かった。
ロズルトたちからもメールか届いており、無事に到着した旨が書かれていた。こちらの現状をメールし、直ぐにその場を移動した。
そのことを知ってクルーたちは喜んでいたが、この後の事を考えると素直に喜べないのが実情だ。
ベルンハルド・ベイロンは何を話すのか?
そればかりが気になっていた。
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