第113話 ニルブルク星系第2惑星
「かなり不味い状況ですね、クリフト大尉殿。第13都市が占拠されたわ。ドラギニス公国軍によって。そちらはどういう状況かしら?」
今日はいつもの部屋でミチェイエルに定時報告をしていた。
すでにドラギニス軍は衛星軌道上にある空港ステーションを占領下に置き、そこから地上にいる我々地上部隊に攻撃を仕掛けている。
状況は最悪で、空からの攻撃に対応できす撤退を繰り返していた。
「今は第17都市に兵を集めている。かなりの部隊がこちらに付いてくれたことで兵士は増えたが、船と闘う術がない。航宙部隊はほぼ壊滅しているからな」
ザイラ・バーツ大佐が軍を裏切り、ドラギニス軍が惑星に到着すると同時に声明を発表、降伏すると宣言した。それに領主代行も賛同し、そして、その傘下に下ると。
それに反発した一部の航宙部隊はいたが直ぐに鎮圧され、あっという間に壊滅した。
そうなることは予見して部隊を配属していたようで、味方による一方的な蹂躙だったと聞く。ザイラ・バーツの考えに賛同した航宙部隊が協力した感じだ。
そして争うことなく空港ステーションは敵の手に落ち、そこを仮拠点として反発している地上部隊と戦闘になっている。
これが今の状況だ。
「戦闘艦がないと厳しいですか?」
「地上からの攻撃では船のシールドは破れない。戦闘にもならないね。逃げるだけで精一杯だ」
兵士が持っているレーザー銃なんて豆鉄砲みたいな物だ。
勝てるはずがない。
「対空戦車でも駄目ですか?」
「あれは戦闘機用で火力が足りない。巡洋艦クラスの船には効かないね。ミサイルが大量にあれば落とせるがそれだけの物資はない。せめて大型レーザー砲を搭載した対艦砲撃車があれば戦えるが、あれはコストがかかるって話しで配備されなかったんだよね。今思うと、俺たちに対抗手段を与えない方便だったのかもしれない。その時から計画が進んでいたのかもしれんな」
「そうですか……そうなると時間の問題ですね」
「……」
惑星が落ちるのは時間の問題ということだ。
今は地上部隊も反乱軍扱いされ、ザイラ・バーツが率いる星系軍とドラギニス軍から攻撃を受けている。
ただ市民は地上部隊に好意的であり、協力を得られていることだけが救いである。
「市民の被害はどうなっている?」
「市民のほうは我々レジスタンスで守るようにしているので大きな被害はでていないわ。でも、プラントで生産された水や食料を接収された市民からは不満がでているわ。お金も何も払っていないからね。それに一部の都市では略奪があったそうよ。それで怪我をした人も多数でている。それ以外にも……」
「それ以外にも?」
「暴行にあった女性も数名、報告が上がっているわね」
「はぁ、そういうことをする奴がいるとは。ドラギニス軍は規律を守れないのか。占領した市民に対し略奪や暴行をくわえてはいけないと、宇宙法で定めてあるのに」
宇宙法とは世界各国の代表者が集まり制定した法律だ。
簡単にいえば戦争をしても最低限のルールは守りましょう、ということだ。決して戦争をしてはいけないとかそういうことではない。国には色んな事情があるので、そこまでは制限していないのだ。
ただ、人権は守って非人道的な行為は止めましょう、とかそんな事が記載されてる。
それに違反すれば各国から糾弾され、経済的罰則が与えられる。輸出や輸入に高額な制裁金が課せられるということだ。
武力で対抗してもお互いに損をするだけ。だから金で解決しようということになっている。
「彼らはそういうの気にしていないわ。でなければ色んな国に戦争なんて仕掛けないし、元々違反しても金を払う気なんてないわね。他国と交易はしていないのだから」
「確かにそうだな。そんなことを考える連中ではないか」
ドラギニス公国は謎が多い国だ。
貴族制なのは我々と同じだが、ただ誰が王様かわかっていない。表に出てこないのだ。噂では存在しないのでは、と言われているが定かではない。
種族はオーガ族で額に角が生えているのが特徴だ。そして気が短く常に好戦的だ。体は大きく力が強い。そのせいで人族を下に見なす傾向があり対等な関係が結べない。
そんな国だからこそ交易をする国がおらず、人も近寄らない。
完全に孤立しているというわけだ。
それが功を奏したのか、オーガ族のことがよくわからず、未だに侵略目的もわかっていない。噂では闘うことが目的で他に理由が無いのではと言われているが、それも定かではない。
ただ今分かっていることは、侵略された惑星で大きな略奪が起きておらず、ある程度調べたら、その惑星を起点にまた戦争を繰り返しているということだ。
支配下に置いたらその後はどうでも良くて、市民に何かするとか、そういったことは起きていない。その代わりかなりの税金を取っているらしいが生活できないほどではなく、重労働も課していないという。
一体何を考えているのか。
未だに彼らの行動原理がわかっていない。
「でも、それだけで済んでいるのだから良い方なのでは? 酷いと市民を大量虐殺している国もあるらしいからね。大人しい方と言えるだろう」
「そうね。それだけで済んでいるのだから良い方かも。でも、被害にあった人達には関係ない話よね。酷い目に遭っているのだから」
言い訳にはならないと。
まぁ、確かにそうなんだが……。
だからと言って我々に止める手段はないし、どうすることもできない。今の戦力で戦えば市民を巻き込み被害はもっと大きくなる。
被害にあいたくなければ彼らの前に姿を見せないことだ。
逃げることでしか回避できない。
「それで、俺たちはどうすればいい?」
今は第17都市に兵を集めているが、はっきり言って集まったところで何もできない。
今の戦力では闘ったところで勝ち目はないし、こちらが消耗するだけだ。
降伏するしかないが、したところで命の保障はないだろう。見つからないように隠れているしかない。
「そうね……第18都市に我々の基地があるからそこに集まって貰えるかしら。貴方たちが街の中にいると都市を攻撃する大義名分ができてしまうの。それだと市民が巻き添えになるわ。だから何かあるまで大人しくして頂きたいの」
変に動き回るなと言うことか。大人しくしていれば市民の被害は少なくて済むと。
やれやれ、何のための軍隊か。
市民を守れないようでは意味がない。
「わかった。第18都市まで後退させよう。ところで戦艦は無事に領都に着いたのか? 何も音沙汰がないが」
「今は通信回線が使えないから確認中としか言えないわね。でも向こうの通信を傍受している限りでは撃沈したいう話しはないわ。だから健在なのはわかっているけどもどこにいるかまではわからない。ただ、時間的に考えても領都に着いていてもおかしくはないわね。後はベルカジーニ伯爵と面談ができたか、ということかしら。なかなか難しいと思うよのね、伯爵と会うのは。普通に考えれば市民が伯爵に会えるわけがないもの。きっと苦労していると思うわよ。あの子達の困った顔が目に浮かぶわ。フフフ」
楽しそうに話してるが、そういうことが分かっていて作戦を立てているのだから恐ろしく感じる。
上手くいかなかったらどうするのだ?
全て計算されているようで怖い。
「失敗したときの事も考えてあるのか?」
「もちろん考えてあるわ。でも、大丈夫と思うわね。彼らならきっとやってくれる。だって勇者がいるんですもの」
そう言うってニコッと微笑む。
勇者ってあれか、報告にあった魔法とか使う奴のことか?
会ったことがないので分からないが、兵士を魔法で倒したとか。
眉唾と思っていたが、本当にいたようだ。
「その勇者とかいう奴は何者なんだ? 魔法を使うと聞いたが」
「そうね、確かに魔法を使うわ。でも、詳しい事は話せないのよね。彼の承諾がないことには。だって個人情報でしょ? 話したら私の信用問題になるわ。知りたければ彼に直接尋ねることね。別に隠しているようではないので普通に教えてくれると思うわよ」
「……」
なんだ? 悪戯が成功した少女のようにニコニコして。
俺の考え込む姿を見て楽しんでいるのか?
賢い女性は好きだが、賢すぎる女性は嫌いだ。つかみどころがなく、何を考えているわからない。
こんな奴の部下にはなりたくないね。苦労するのが目に見えている。
「その話しは彼が帰ってきたからにするよ。今は関係ないし」
「そうね。その方が良いわ。実際にその目で見ないと分からない事だし。それに貴方となら気が合いそうだわ。何となくだけどね」
「そうか……」
会ったことがない奴のことを言われてもピンとこない。
そういうことは会った後に言ってほしいね。
「作戦が上手くいけば伯爵が率いる軍がくるわ。それに帝国軍も連れてくるでしょう。その時まで戦力を温存しておきましょう。貴方もやられたままでは気が収まらないでしょ?」
「……どういう意味だ?」
「フフフ、反撃する機会は必ず訪れるわ。近いうちに。その時はあなた方にお願いしますね。クリフト大尉殿」
詳しい事は何も説明せず、はぐらかす感じで話しは終わった。
また俺に変な任務を依頼するようだが、今はその時ではないようなのでそれ以上の事は話さなかった。きっと裏で何かやっているのだろう。彼女の部下は優秀な奴が揃っているので何か企んでいるようだ。
前回みたいに無茶な要望をしないことを祈りつつも席を立った。
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