第110話 作戦会議①
城を見てから3日が過ぎた。
情報も集まってきており、一度整理をする必要があるとのことでみんながホテルに集合した。
殆どのメンバーはホテルから出て調べており、部屋に残っているメンバーはローズだけ。
帰ってくる時間もまちまちで、全員が揃う機会がなかった。
「全員揃ったことだし俺から話そう」
最後に帰ってきた諜報部の2人がソファーに座ると、ロズルトが話しを始めた。
「ニルブルク星系についてだが、こちらでは何の騒ぎにもなっていない。情報が完全に遮断されていた。恐らくだが、こちらにも協力している者がいる。誰かまではわからないが、噂にもなっていなかった」
俺はミニバーからビールを持ってきて2人の前に置く。
ビールは日本の物よりこちらの方が美味しく感じた。遺伝子改良されているからなのか、苦味が少なく炭酸も少ない。飲みやすいのが特徴だ。これは好みによるが俺はこっちの方が好きだった。
それと異世界ならではの色。緑色をしている。
緑色のビールが日本に無かったわけではないが、こちらではこれが標準のようだ。
2人はビールを受け取ると美味しそうに飲み始めた。
外はテラフォーミングの影響か30度ぐらいあり、少し動くとすぐに汗をかく。湿度も低く常に乾燥している。そのせいで蒸し暑いということはないが、冷房がない部屋だとちょっと辛いかもしれない。
ちなみにこの世界は飲酒年齢に制限はない。子供でも飲めてしまうところが恐ろしいところだ。
まぁ、だからと言って小さいときから飲ませる親はいないようだが。
「領主は知らないということか?」
「それはわからない。だが、何の動きもないところを見ると知らない可能性が高い。ドラギニス公国と闘っているのに増援の話しもなかった。だが、亜空間通信が使えないことは知れ渡っているようで、それについては怪しんでいる感じはなかった。市民もそれを受け入れている感じだな。騒いでいる様子もない」
ニルブルク星系と通信ができないことに関しては広報で通達されており、混乱は起きていなかった。
亜空間通信が整備されていない星系もあるので、気にしていない、というのが本当のところのようだ。それに一度故障すると復旧までに1年.2年はかかるらしい。
だから余計に気にしていないのだと。
「だが、ニルブルク星系に誰か向かえば嘘だとわかることだと思うが、今まで向かった者はいなかったのか?」
「それに関しては渡航が禁止されていた」
「渡航が禁止されている?」
「ドラギニス公国と紛争中ということで、許可がない者の渡航は禁止されていた。だから誰も行ったことがないので知らないのだ」
「誰も行かないなんてそんなことがあり得るのか?」
「わざわざ紛争宙域に行く旅行者はいないだろう。敵に見つかれば撃墜か拿捕されて捕虜となるかどちらかしかないのだ。危険を冒してまで行くことはない。行くとすれば戦争に参加する傭兵か商人ぐらいだ。それも許可を貰った者だけだ。だから誰も怪しんだりしていなかったのだ」
「許可を貰った者だけね……ということは、ニルブルク星系にある入管ステーションもグルと言うことか?」
「グルかどうかは知らないが、渡航禁止になっていれば入星の許可は下りない。追い返しているはずだ」
星系内に入るには入管ステーションに寄り申請しなければならない。でないと海賊船と間違えられて撃ち落とされるからだ。
そこで渡航禁止がされていれば帰るしか無い。
どうりで誰も騒がないはずだ。そこで追い返しているのだから。
「だが、全部が全部追い返すわけにはいかない。食料の問題や生活雑貨など輸入に頼っている物は多いのだから商人は入れなければならない。それに商品を輸出しなければ星系内の経済が破綻する。完全に入れないようにするのは無理だろう」
自給自足できれば問題ないが、輸入に頼っている部分が大きいのだからそうはいかない。それに外貨を稼がないといけないし、完全に鎖国状態にすることは無理ということだ。
「商人は当然知っているということか……」
「恐らくは代官の息がかかった者だけが許可を貰っているんだろう。でなければ、とっくに噂になっているはずだ。今の現状を知らないとは思えないし」
ニルブルク星系を紛争宙域とし近寄らせないようにする。そして亜空間通信を遮断。外部と連絡が付かないようにする。
定期報告は代官側から人を出し、決して領主側からは出させない。
商人は代官の息がかかった者だけが入れる。
ここまでやってバレないのだから、凄いとしか言いようがない。
代官の思惑が完全にはまったということか。
「ここの星系軍も協力していると思うか?」
「恐らく協力はしていないはずだ。でなければ空港で足止めされただろう」
ローズの宇宙船の出航記録を見れば、ニルブルク星系から来たことがわかる。
領主に知られたくなければ空港で足止めするか、もしくは入管ステーションを出た後で捕まるだろう。そういったことが無かったのでここの星系軍は関わっていないと判断したそうだ。
「それに星系軍といっても仲が良いというわけではないぞ。トップによって方針が違うし、人事や命令系統なども違ってくる。それに艦隊の規模も星系によって違う。領都があるここは同じ星系軍でも格付けでは1つ上で、辺境のニルブルク星系は下と見なされる。明白に記載はされていないが、辺境にいる軍は下に見られる傾向が強いということだ」
「中央と地方の違いというやつか……」
同じ軍でも配属される星系により扱いが違う。
だから仲が良いわけでは無く、常に啀み合っている感じだと言う。
そういう関係だからこそ協力はあり得ないという話しだ。
「面倒臭いな。1つに纏めれば良いものを」
「それだとトップに力が集中するだろ。全星系の軍事力を集めれば謀叛も簡単にできてしまう。そういったことをさせないために分散させてあるのだ。トップも複数に分けてあるのも連携しづらくさせるため。それなりに考えがあってのことだ。上に立つ者として軍を人に預ける以上、謀叛のことは常に頭の隅に置いておく必要がある。優秀な士官であっても人である以上、必要以上の力を与えられると勘違いして馬鹿なことを考える奴はいる。そういったことをさせないためにも分散させる必要があるんだ」
なるほど。
謀叛対策で権力の集中化を避けているということか。
1人で全星系軍を動かせるとなると邪な考えを持つ奴が現れる。
そうなったときに、対抗する手段がないと困ることになる。だから分散する必要があるということか。
そういったことも考えないといけないとは、領主なんかになりたくはないね。
苦労しかないわ。
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