第10話 小さな食堂②
直ぐにお盆にハンバーグとパンだけを乗せて戻ってきた。
ハンバーグにはデミグラスソースが掛けてあり、野菜らしき物が付け合わせで乗っている。見たことがない野菜だ。
青い人参に赤いポテト?
生サラダは無いとのことなので自動調理器で作った物なんだろう。どんな味がするのか興味が涌いてきた。他の異世界では魔物肉とか食べていたし、これぐらいでは驚かない。
「見た目はハンバーグその物だな。俺が知っている料理でちょっと安心した」
名前が同じでもまったく違う物が出てくる可能性もあったのだ。
後は味だが……うん、ハンバーグだ。
噛めば噛むほど肉汁も出てくるし、肉の味もした。悪くはない。ただ、なんの肉を使っているのか不明なのが怖い。鼠とかではないことを願うね。
パンもロールパンで、フワフワで日本のパンよりも美味しく感じた。使っている麦が違うからか?
これが自動調理器で作られているとは思えないほどの出来映えだった。
青い人参だが……甘い味がする。蜂蜜でも混ぜてあるのか?
独特な味で不味くはないが、慣れ親しんだ味と違っていたので違和感がはんぱない。
最初からこういう味だと知っていれば気にならないと思うが。
「……美味しいね」
結果から言えば普通に美味しい。食べられる料理だった。
ただ、見た目が違ったりしてギャップがあるが、そこさえ気にしなければ自動調理器もありだ。
でも、こんな物が普及すれば料理を作る人もいなくなるだろう。それはそれで寂しくも思えた。
「そりゃそうさ。業務用の自動調理器で調理しているんだから、家庭用のと比べられたら困るね。高い金出して買っているんだよ、こっちは」
おばちゃんが腕を腰に手を当ててドヤ顔で言う。
自動調理器にも家庭用と業務用があり、家庭用はレパートリーが多いが味は今ひとつで、業務用はレパートリーは少ないが味は最高だという。それに一度で大量に作れるので、待たせることも無いらしい。
「へえ、そんなに違うんだ」
「でなきゃ食堂なんてやってられるわけがないだろ。味が同じなら誰も食べに来てはくれないさ」
そう言われるとそうだな。味が同じなら金を出してまで食べる必要はない。
差別化ができているということか。
この味なら納得だ。
「そういえば、今日はお客さんは少ないのかい? 歩いている人も少なかったが」
「この街は基地が近いんでね。いつ戦火に巻き込まれるか分からないからみんな移住してしまったのさ。今、残っているのは軍の関係者や商人ぐらいなものさ。いつここも戦場になるか分からないからね」
そう言って重い溜息を吐く。
やはり廃れているのは戦争が原因か。
「レジスタンスと戦っているんだっけ?」
おばちゃんはゆっくり頷いた。
「この惑星の星系軍と革命軍『赤い牙』が戦っているのさ。自分達の自由と生活を掛けてね」
「自由と生活?」
詳しく話を聞くと、6年前、ここの代官だった人が急死し、その代わりに新しい代官が赴任してきたことから始まる。
当初は普通に善政をしていたそうだが、4年程前から急に税金を上げ、ここで働く人々の生活を圧迫するようになった。
それでも我慢していたそうだが、一昨年出された政策で『低所得者の保護を取りやめる』というとんでもないことを発表したことで惑星全土が混乱した。
簡単に言えば、生活保護を打ち切った、と言った方が早いか。
このままでは生きていけないと思った一部の人たちが、その代官に詰め寄って取り下げるよう迫ったが、警備をしていた軍が危険と感じ、その市民に発砲。死傷者が多数出て大騒動となった。
それが争乱の切っ掛けだった。
殺された一部の遺族が立ち上がり、レジスタンスを結成。今まで圧政に我慢してきた一部の市民もそれに賛同した。
そして今は各地で紛争が続いており、今日も軍の施設を狙った革命軍が戦闘を仕掛けていたそうだ。
「戦争ね……」
こういう話しは異世界ではよく聞く話なので驚きは少なかった。
圧政で暴動が起き、それで滅んだ国も1つや2つではないからだ。
「しかし、なぜ急に税金を上げたのだ? これって誰かの指示なのかい?」
「発行された公布書にはここの伯爵様のサインがあったわね。だから最初は伯爵様の指示だと思ったんだけどそれがどうも違うようで、今では代官の独断ではないかという噂さ。空港を閉鎖したからね」
「封鎖?」
「今は代官の息がかかった商人だけしかこの惑星に来られないのさ。これはおかしな話だろ? 伯爵様の指示ならそんなことをする必要がない。自由に出入りさせるはずさ。人が来てくれたほうがお金になるからね。だから、外に漏れないよう閉鎖したのではとの噂さ」
通信も制限が掛かって他の惑星とは繋がらない。完全に孤立している状態だと言う。
バレることを恐れているから全て封鎖した、というのがみんなの見解らしい。そうなると公布書も偽造したのだろう。今回の政策は独断でやっているということだ。
しかし、バレたらどうするのだろう?
いつまでも隠し通せるとは思えないが。
「なんでそんな人が代官になったのだ?」
「領主のベルカジーニ伯爵様が指名したんだろうが、詳しい経緯は私らには知らないよ。ただ、今の代官は、金に汚い、というのが有名でね。例の政策も、税金を払えないような奴に税金を使う必要は無い、とか言って議会を無視し勝手に決めちまったのさ。代官には強行権があるからね。周りの意見なんて聞きやしないのさ」
どこの世界にも馬鹿な貴族は存在しているようだ。
しかし、なぜそのような人物を代官に指名したのだろうか?
ちょっと調べれば駄目な奴だとわかると思うのだが……。
今日、この世界に来たばかりの俺が詳しい事など分かるはずも無く、ただ、謎に思うだけだった。
「代官の名前は?」
「ブラトジール男爵さ。元はワーグ星系の外れの小さな惑星で、食料の管理をしていたという話だが、よくは知らないさ。ここに赴任してきて初めて聞いた名前だからね」
田舎の男爵か。金欲しさに税金を上げたのだろうか?
困ったものだ。貴族が金に汚いのはどこの世界も一緒ということか。
しかし、ワーグ星系?
聞いたことが無い星系だが……というか星系という言葉が出てきただけで驚きなんだが。
この世界は星間航行ができるのか?
科学が進んでいる、という次元では無いぞ。
地球の文明より遙かに進んでいる。100年? 200年? いや、もっと進んでいると見た方が良いか。
ここと比べると地球なんて初期文明に入るな。
それだけ差を感じる。
ご覧いただきありがとうございます。
ストックがある間は、小まめにアップしたいと思います。




