第105話 降下
何事もなく検査は終わった。
こっちが拍子抜けするほど何もなく、見つかることはなかった。
「相も変わらず魔法は凄いな。近くにいても気付かれないとは。見ているこっちの方がドキドキしたぞ」
ロズルトが面白可笑しく話しているが、実際に見たことがないローズはヒヤヒヤして見ていた。
「検査員が前を歩いても無視するとは思わなかった。あれが魔法というものか。初めて見たよ」
ロースがちょっと興奮しているが、経験したことがある他のメンバーはローズの反応を見て楽しんでいた。
自分も最初はそうだったなと、思い出しているのかもしれない。
「あんなのは魔法に入らないよ。見た目でわかるような物でないと」
俺はそう言って手の平に火の玉を作り出した。
でも、危ないので直ぐに消したが初めて見たローズはギョッとして見ていた。
今回検査に来たのは3人組だった。
お揃いの制服を着て腰にはレーザー銃を装備している。
手には大型の情報端末を持ち、頭にはヘッドセットを付けていた。みなさんベテランのようで、1人は船長のローズにいくつか質問し、もう1人は身分証の確認、もう1人は船内を見て歩いていた。
慣れた感じでテキパキ作業を熟すと、降下許可書を発行し、ハッチに封印テープを貼って帰って行った。
封印テープを貼られると外に出ることはできない。検査が終わった後、密輸品や禁制品などを積めないようにする処置だ。
この後は出航するだけ。
出航許可が下りるまで待つことになった。
「これで領都に降りられるようになったがこの後は?」
「先ずは宿を決めよう。船の中では動きづらいからな」
その後は情報収集で、領主邸の警備状況を調べることになった。
それについては諜報員の2人がやることになり、俺たちは星系軍の動きを調べることにした。ニルブルク星のことがどこまで伝わっているのか、領主は俺たちレジスタンスと闘っていることを知っているのか、など、どこまで情報統制されているか知る必要がある。
領主と話すにはそこら辺のことを知っておく必要があった。
「領都の空港までは?」
「30分ほどだ。真っ直ぐ降りるだけだから」
ステーションの真下に空港があるそうだ。
飛行機と違い真っ直ぐ降りることができるのが宇宙船の強みだな。
最短距離で降りることができるのだから。
「出航許可が下りたわ。12番ゲートから出るみたい」
エミリーが言い終わると直ぐに振動が伝わってきた。
ドックが移動を始め、12番ゲートまで運ばれた。後は入ってきた逆の手順で出るだけ。
ゲート内で事故を起こさないように注意して出航した。
*****
コクピットから下を見るとあまりにも不釣合いな景色に戸惑った。
領都は、白く大きな城を中心に、それを囲むように灰色のビルが建ち並んでいた。
お城とビル。
どう見ても釣り合わない。
まるでそこだけをどこからか切り取って貼り付けたような不自然さを感じる。
城の周りが自然に囲まれていたら、テーマパークみたいに見れたのだが……。
どうしてこんな不恰好な街になっているのか疑問だった。
「あの城が気になるのだろ?」
ローズが、俺が不思議そうな顔で城を眺めていたので声をかけてきた。
「なんで城なんだ?」
「誰もそう思うよな。俺も他の領都に行ったときは城を見て驚いたが、何でも領主は城に住まないといけないらしい。昔からのしきたりで決まっているそうなんだ。だから遷都したときも城を建てたのだろう。まったくおかしな話しだ」
ローズが呆れて首を振っている。
しきたりって今の文明が発達する前の時代のことか?
なんでそんなことを引き継いでいるのかわからないが、時代錯誤も良いところだ。
どう見ても周りから浮いているだろ、あの城。景観とか気にしてないのか?
もう少し考えてから作れと言いたい。
「合わないなぁ……」
みんなが頷いてる。
そう思っているのは俺だけではないようだ。
「エミリーさん、管制塔に着陸許可を」
「了解。こちらコメット3号。着陸許可を」
「コメット3号?」
俺が呟くとローズがニヤッとした。
今更だが、この船の名前を聞いていなかったな。
コメット3号って、どうして3号なんだ?
他に1号.2号とかあるのか?
仮○ライダーではあるまいし。
「格好良いだろ?」
「え?」
返事に困るようなことを聞くなよ。
でも、コメットって確か英語のはず。日本語に訳すと彗星とか、そんな感じだったと思う。
宇宙船の名前としては彗星は良いが、でもコメットと聞くと、昔のドラマの方を連想してしまい笑ってしまう。あれも魔法使いの話しだったっけ?
だからか、格好良くは聞こえないんだよね。悪いけど。
「コメットというのは大昔、未開宙域で新しい恒星を発見した船の名前で、俺たちもそれに肖って同じ名前にしたんだ。億万長者になれるようにな。だが、俺と同じ事を考える奴がいて、コメット2号は使われていたのさ。だから仕方なく3号にした。同じ名前でも後ろに番号が付けば違う船の扱いになるのでな」
ケツに番号が付けばそれで良いって?
なんかいい加減だなあ。
そんな軽いノリで良いのか、名前って。
もっと慎重に考えろと言いたいね。
「ローズ、着陸許可が下りたわ。23番発着場へ。ビーコンを送るそうよ」
「わかった。今回はビーコンを使うので、受信しだい自動操縦へ切り替えて」
「了解」
混雑している場所では接触事故を防ぐためビーコンで誘導する。
特に空港は多くの船が発着するので事故は許されない。
だからビーコンで誘導するそうだが、別にその誘導に従う義務はないと言う。
ビーコンはどうしても安全運転になるので速度は遅くなる。慣れている場所ならビーコンを使わず普通に降りた方が早い。
そういうのがあって、普段は殆ど使っていないそうだ。
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……ストックが無くなりました。
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